• 1.02 Column


シーズンオフに入り、各球団は今後契約更改や具体的な補強策に力を入れることになります。同時に、フリーエージェントの申請期間が締め切られ、今回は岸孝之投手と栗山巧選手(ともに西武、栗山選手はFA残留が決定)、森福允彦投手(ソフトバンク)、糸井嘉男選手(オリックス)、陽岱鋼選手(日本ハム)、山口俊投手(DeNA)らが権利を行使しました。


決断までの流れがスムーズだった選手もいれば、そうでなかった選手もいます。陽岱鋼選手は、球団との交渉の場で「自分が戦力構想に入ってないと感じた」といい、山口投手は「残留したい気持ちも強かった」と語っていたようです。どちらも記者会見では涙を浮かべ、退団も辞さない覚悟でFAを行使したのだと思われます。プロ野球の世界では、このような光景が毎年繰り返され、せっかくの権利を使わないままキャリアを終える選手の人数が圧倒的に勝っています。


FA資格を持つ選手が権利を行使しない理由は様々ですが、オフの移籍市場が活性化しないのはある意味残念なことです。FA宣言は、厳しい競争の中で勝ち取った権利をその後のキャリアに活かすためのステップで、仮に在籍球団が世代交代を進めていたとしても、他の11球団に自身の存在をアピールするチャンスです。ところが、数年前からいくつかの球団で「FA残留を認めない」方針がメディアによって伝えられ、FA宣言後の交渉を継続しないケースが出てきました。選手がFAになる前に、交渉目的で他球団と接触することは禁止されており、不安を覚えた選手たちは権利を行使することなく、チームに留まるような光景も見られました。


この報道を見て、一部から「自動FA」を推奨する意見が出てきました。いわゆる、FA宣言が自動的に発動するもので、メジャーリーグ(MLB)で権利と行使が連動していることからこう呼ぶようになったのでしょう。MLBのFA市場では、元の在籍球団に残留交渉の優先権が与えられているものの、代理人を立てることが常識となっている現在では、シーズン中に契約延長しない限り他球団からの引き合いを止めるのはほぼ不可能です。有力選手たちは、複数球団による争奪戦となり、選手たちは契約を勝ち取っていくのです。


そんな姿を見ているからこそ、日本でもFA選手が堂々と交渉に臨んでほしいと考えるファンも少なくはないと思います。しかし、NPBがいきなり自動FAを採用するのは不可能と断言します。これは、選手の権利を軽んじているのではなく、ストーブリーグの仕組みが選手の大量異動に向いていないからです。


MLBのFA制度が、日本球界で自動FAを提言する根底となっているのは明らかですが、両組織の選手に対する保有の仕組みは似ている点もあれば、かなり違うところもあります。まずは、それをおさらいしてみましょう。



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MLBのドラフトは完全ウェイバー制。選手は球団を選ぶことが出来ません。その代わり、FA権利を取得するには6年と、NPBの現行制度よりも短くなっています。ところが、入団から経過した年数は2016年度のFA選手を調査した結果、平均10.9年掛かっており、メジャーデビューを果たすまで6年近くの歳月が経過していることはあまり知られていません。その間、球団からの戦力外放出(解雇)に始まり、メジャーに昇格した後も解雇と隣り合わせの野球人生となります。


そして、メジャー登録年数6年をクリアすれば晴れてFAとなりますが、200名近くに上るFA選手が全てメジャー契約を結べるわけではありません。下記URLを参照すると、2015年度のオフにメジャー契約を結んだ選手は93名、53名はマイナー契約もしくは契約先が見つかりませんでした。また、FAといっても大幅昇給が見込まれるとは限らず、前年度より遥かに低い年俸で契約する選手も珍しくありません。



2015 MLB Free Agent Tracker
http://www.espn.com/mlb/freeagents/_/type/dollars



続けて、NPBの流れも見てみましょう。



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まず、入団からFA権取得までの期間は11.2年とMLBと大差がありません。メジャー登録年数6年でFAになるMLBに対し、NPBは現行制度で7~10年(入団年度により格差あり)も掛かるのですから、これはファームでの育成及び待機期間の短さを示しています。よって、「日本のFAは米国より長い」という指摘は正しくありません。


また、NPBではFA権利を手にするまでの過程であまり動きは無く、選手がドラフト指名された球団に在籍し続けるのが一般的です。トレードも活発でないため、今オフに公示されたFA有資格選手のリストを覗いても、全88名中62名が移籍を経験したことが無い選手たちです。



【NPB公式】フリーエージェント有資格選手
http://npb.jp/announcement/2016/fa_qualified.html



そのせいか、移籍に対し抵抗を覚える選手が多くなるのも頷けます。元の市場が活発でないため、FAにしてもトレードにしても成功例が多くありません。生え抜き選手を大事にしたいというファンの気持ちも、FA宣言に踏み切れない理由の一つかもしれません。選手にとってFAは、移籍先が見つからず不遇を味わう可能性がある事。球団も選手がFA宣言することに対して神経質になります。このような環境が続いてきたことも、選手たちがFA宣言を躊躇する一因かと思われます。


MLBとNPBで大きく異なる点は、むしろファームでプレーする選手たちの扱いです。日本では、メジャー選手たちのFAばかりが話題になりますが、MLBではメジャー未登録年数6年以上でマイナーリーグ内でのFA権を行使するルールも存在します。これにより、球団と選手はより適したチームを選ぶことが可能で、完全ウェイバーを採用するドラフトの補填が完璧に近い状態で担保されています。


それに対しNPBは、1軍での登録日数が規定を超えない限り、FA権を手に入れることが出来ず、大半の選手たちが指名球団から移籍することなく引退していきます。中には、得意なポジションにライバルが多く、実力を発揮する環境がないまま評価を落としてしまう選手もいるかと思います。MLBではもう一つ、入団から4年を経過(18歳以下で入団の場合は5年)した選手を対象に「ルール5ドラフト」が開かれます。12月に行われるウィンター・ミーティングの間に行うこのドラフトは、埋もれた原石を発掘する貴重な機会と、選手自身の活躍の場を広げる意味で注目を集めています。


FA選手の流出に対する補填の仕組みは、MLBとNPBは似たような施策を取っています。MLBはFA選手に対しクオリファイング・オファーを提示し、これを破棄した場合に限り翌年のドラフト会議で上位指名権が追加されます。NPBは、獲得先球団がプロテクトした28名の選手以外を補填することが可能。どちらが優れているかは計りかねますが、元の在籍球団にレガシーを残す点をFA選手がポジティブに受け止めるか、それともネガティブに感じるかで退団への決心も変わって来そうです。




クオリファイング・オファーって何?ちょっとややこしいメジャーのFAの流れ
http://baseballking.jp/ns/53394



今度は、球団視点から見た選手獲得の流れを見て行きましょう。



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MLBの補強策がNPBと決定的に違う点は、ドラフト会議が6月に開かれることです。チームの編成部門を統括するゼネラルマネジャー(GM)は、新人選手の入団交渉とFA選手の獲得はビジョンが異なり、時期的に離れているためこの二つを天秤に掛ける必要がありません。ドラフトは長期的視点、FAは即戦力と分けて考えることが出来るわけです。


一方で、シーズン中からオフに掛け選手を補強しないで済む時期は殆どありません。ドラフト指名選手は、入団手続き後すぐに傘下マイナーリーグに派遣し、大半の選手は6月下旬から開幕する短期A級(Lo-A)もしくはルーキー級へ送られます。シーズン中に解雇される選手は少なくありませんが、マイナー組織といえども選手が足りなくなればメキシカンリーグ、米独立リーグといった他組織から補充することも可能です。この二つのリーグには、過去にMLB球団でプレーした選手が数多く在籍し、再契約のチャンスを伺っています。MLBには、こうした受け皿もあるのです。


このように、球団とGMが年中契約と解雇を繰り返し、MLBがメジャーと7つのマイナー組織(AAA、AA、Hi-A、A、Lo-A、Rk、FRk)を正常に稼働させているのは、さらに下から支える組織とそこでプレーする選手たちが存在するからでもあります。裾野は広ければ広いほど良く、MLB機構が国際ドラフトを標榜しているのもこのせいでしょう。こうした仕組みは、MLBと選手会が労使協定適宜見直し、球団と選手がより良い環境で契約が結べるよう最善を尽くしている点も見逃せません。



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一流選手のFAは、こうした土台から成り立っています。職業として野球をプレーするための環境が整い、供給先が多いのは日本も同じ条件ですが、アマチュア選手の獲得はドラフト会議に限定され(ドラフト外入団制度は1990年をもって廃止)、NPB経験者のシーズン途中採用も殆ど見られません。下部組織の人材が流動しなければ、トップレベルの選手たちもそう簡単には動こうとしないでしょう。


MLBのFA制度がじゅうぶん機能している点について、下記にて要点をまとめました。



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さて、NPBにおけるFA制度の欠点について改めて考えてみましょう。要点をMLBと比較すれば、問題点が良く見えてきます。



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MLBのFA市場は、メジャー契約を勝ち取る者とマイナー契約を余儀なくされる者とに分類されますが、NPBでこれを受け入れる土壌は選手、ファン共に出来上がっていないと思われます。メンタル的な理由も大きいですが、NPBのFA宣言はドラフト会議の直後となるため、獲得側の球団から見ると補強ポイントが重なってしまいます。例えば、外野手を必要としていた球団がドラフトで即戦力の指名に成功した場合、想定していたFAでの補強を取り止める可能性も出てきます。仮にグレードアップを優先させ、FA選手の獲得に乗り出したとしても戦力のダブつきは解消されず、保有選手のバランスを欠いてしまい兼ねません。


外国人選手の補強が戦力アップの大きなウェートを占める点も、MLBには存在しない事情です。1軍登録人数で支障はあるものの、金銭面で問題が無ければ外国人選手の獲得は入れ替えに制限はなく、かつチームの中心的レベルの選手を補強出来ます。国内選手のFA宣言が活発にならない理由は、外国人選手ほど融通が利かないことが大きいかもしれません。


FA市場に対する最も大きな障害は、「FA選手の加入による支配下選手の調整が非現実的」であることです。これまたMLBの話になりますが、ストーブリーグ間でも各球団40人枠は満杯に近い状態となっています。ところかマイナー組織、特に中堅選手が多く在籍するAAA級はストーブリーグの開幕と同時に保有選手の大半が退団します(マイナーリーグFA適用により)。空っぽになってしまったチームに入って来るのは、現役続行を決断したマイナー選手と、メジャー契約を勝ち取れなかった選手が中心。リーグ全体が、一度白紙に戻るといって良いかもしれません。


ここが自動FAを支える大きなポイントです。AAA級は一応、マイナー組織でも最上位といわれていますが、傘下球団では最も流動的な位置づけです。ここでプレーする選手は、若手有望株もいますが、大半はマイナー契約を結んだベテラン、中堅選手が中心。まさにここがメジャーリーグの待機場所で、メジャー契約を勝ち取れなかった選手たちの受け皿となっているのです。反対に、メジャー昇格を果たせなかった選手たちのキャリア終着点でもあり、マイナーFAが発動された後は毎年球団を転々とするようになります。


NPBが自動FAを取り入れるには、こうした受け皿を用意しない限り実現させることは先ず不可能です。「FAは選手が勝ち取った権利。だからこそ行使すべき」というのは危険な考え方で、FA宣言の先に何が見えて来るかを理解して意見しなければ、球界の混乱を引き起こすだけです。FA導入により選手の移籍が活発になれば、プロ野球は毎年違った姿を見せファンを楽しませる可能性はあります。しかし、自動FAは選手の意に反して発動するものになります。階層的に言えば、1軍半クラスの選手たちを野に放ったとしてもチーム強化にはそれほど変化をもたらさないでしょう。


話を現状のFA制度に戻しましょう。戦力外通告、ドラフトとの兼ね合いも、今のFAを難しい問題にしています。戦力外通告は2008年オフから二段階に分かれ、ドラフト会議は2004年まで11月中旬に開かれていました。どちらも然るべき変更をした意味で問題はありませんが、いつの間にかFA宣言がこの中で最も遅いタイミングとなっています。


戦力外通告は、ドラフト後も一定の猶予期間が設けられていますが、FA宣言の公示及び交渉解禁日の時点でとうに締め切られています。これにより、FA選手の獲得を想定した戦力外通告が不可能となっているのです。これが、前述した「FA選手の加入による支配下選手の調整が非現実的」な理由です。


そのため、各球団はFAで選手を獲得出来なくても戦力を維持する必要に駆られ、ドラフト後はどのポジションも一定数の選手を揃えてしまい支配下枠が埋まってしまいます。仮に、選手のバックに強力な代理人が就いたとしても、(一定期間の間も含め)ポジションに空きがあり、かつ納得の行く条件提示をする球団を外部から探し出すのは容易ではありません。MLBのように、FA選手の獲得後に支配下枠を空けるルールを設けない限り、球団としても身動きが取れないケースが多々あるわけです。


最後に、プロ野球選手会の動きについても指摘しておきましょう。2004年の球界再編騒動時には活躍した選手会ですが、その後はWBC関連の権利面で主張したのが目立つ程度で、昨オフはFA残留を認めない球団方針に対して要望をだすのみでした。同選手会の公式HPは、以前は球界の構造改革について、積極的にアイデアを出していましたが、これも長い間更新が途絶えているようです。


FA市場の活性化は、選手自身への見返りを増やすことに意義があるわけですが、それを実行に移していない点、実現させるために何が優先事項なのかが見えていない点が気に掛かります。組合として選手に大きな影響力を及ぼしているのなら、FA資格を持つ選手に対し「涙はご法度」と指導しても不思議ではありませんが、最近ではそうした力も失われているようにも見えます。


NPBのFA制度が機能していない理由については、以下のようにまとめました。



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日本球界でFA宣言が活発になるには、移籍に対する不安を取り除くことが優先課題かもしれません。生え抜き選手を大事にする余り、FAを含む移籍選手に風当たりが強いのは、良い環境とはいえません。球団も、トレードの損得勘定を気にし過ぎて決断に踏み切れなければ、チームのデプスを上手く整えることは難しくなります。


アマチュア球界、独立リーグとの連携も球界内の人材が流動化するための大きなポイントです。特に、独立リーグがシーズン中の補強に協力出来るような体制になれば、一度戦力外となった選手たちがNPB復帰を目指すための待機所として機能し、より多くの選手たちがプロのユニフォームを着られる機会に発展する可能性もあります。今後、3軍制を設ける球団が増えるに連れ、選手獲得ルートが柔軟になってからようやく移籍市場が出来上がるものと考えて良さそうです。


FA宣言を促すには、何よりも市場の形成が重要。選手個人ではなく、現在の環境に問題があると理解した上で、数年後に市場の流動性が高まる球界になるよう、球界関係者に良い選択をしてもらいたいところです。

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