DeNAは11月30日にFAとなっていた大和の獲得を発表した。守備力は内外野ともに球界トップクラスと非常に評価が高いユーティリティプレイヤーだ。しかし大和にはDeNA以外にも獲得に動いた球団も多かった。大和を獲得し最も効果をあげる球団はDeNAだったのだろうか。
内外野で球界トップクラスの守備力。対左投手に強さも
FA選手の移籍先としてどの球団が適しているかを分析するこのシリーズ。第1回はDeNAへの移籍が決まった大和である。契約は年俸1億円の3年契約で、4年目は球団に選択権があるオプションという報道も出ている。
リポート
最大の長所は球界最高レベルの守備力である。今季は主に二塁、遊撃手としての出場が多かった。二塁手としてはわずか145 1/3回しか守備についていないにもかかわらずUZRは6.8。これは12球団の二塁手で最高の値である。遊撃手としても431 1/3回を守り、UZRは8.2。フルシーズン内野を守った際にこれだけのペースで貢献を保てるかはわからないが、平均を上回る能力があるのは間違いなさそうだ。過去数年を見ても一定以上のイニングをこなしたシーズンは守備でチームに大きな貢献をもたらしている。
また大和は外野守備も一流である。ゴールデングラブ賞を獲得した2014年は中堅でUZR 21.4を記録。これほど高いレベルで複数のポジションを守ることができる選手は球界全体を見回しても見当たらない。守備の汎用性においては球界最高といってもいいだろう。
一方で打撃の能力は低く、wRC+(weighted Runs Created plus)が100に届かない、リーグ平均より劣る打者だ。プロ2272打席で本塁打はわずか3と長打はほとんど期待できない。
今季は苦手としていた右投手への対策としてスイッチヒッターに転向。左打席で打率.276を残したものの、154打席40安打のうち長打はわずか二塁打1本だけと長打は減少した。左打席ではわずか154打席と機会が少なかっただけにどの程度の実力かを見るにはもう少し時間が必要だが、少なくとも右投手より左投手が得意であるという点は変わっていなさそうだ。左投手が先発のときに大和を起用するという作戦も有効になってくるかもしれない。
ほかに考慮しなければいけないのが年齢の問題だ。打撃に比べ守備は若い年齢で衰えが現れはじめる傾向が強い。大和はすでに30歳を迎えており、徐々に衰えが出始めてもおかしくない。今後2~3年で大和が平均以下の守備力になるとは考えづらいが、年齢とともに衰える可能性があるということは頭に入れておかなければならない。
最適球団はDeNAだったのか
ここからは大和に最適な球団が本当にDeNAであったのかを検証していく。検討するのは各球団のニーズ、ペイロールを確認した以前の記事(セ・リーグ編、パ・リーグ編)において大和の守る二塁、遊撃、中堅に弱点があった球団だ。
ソフトバンク ニーズ:二塁
二塁はここ数年チームの数少ない補強ポイントとなっている。今季はシーズン途中に川崎宗則を補強したものの、レギュラー定着とはならず二塁手を固定することができなかった。また全体的な年齢層の高さも問題となっており、できれば長期的に活躍できる二塁手を確保したい状況だ。大和が加入していたとしたらレギュラーを獲得する可能性もあったが、現状の二塁手の成績がそこまで悪くはない点、また年齢構成を考えてもなるべく若い選手を確保したい点で適した球団ではなかった。
オリックス ニーズ:二塁、中堅
今季は三塁手の成績が振るわず、秋のキャンプでは正二塁手・西野真弘の三塁コンバートをテストするなど、首脳陣は内野の再編に取り掛かっている。このコンバートが実現すれば二塁が穴になってしまうため補強ポイントとは合致する。大和が加入となった場合二塁のレギュラーに定着した可能性は高そうだ。また遊撃も安達の体調が万全とは言えない状況であるため、運用に幅ができる意味でも加入の効果は高かっただろう。
チームは中堅にも適任がいない。外野手にはT-岡田、吉田正尚、ステフェン・ロメロとレギュラークラスの選手が3人いるものの、いずれも両翼の選手で、また吉田正は故障が多いためフルシーズンを外野手で守ることはできないと思われる。二塁手として出場しながら中堅手もハイレベルにこなすことができる大和はオリックスに適していた可能性が高い。
日本ハム ニーズ:二塁、遊撃
二遊間が大きな弱点となっており、戦力的に大和がフィットする可能性は非常に高かった。しかし日本ハムは長期的な成功を目指しコストを大幅に削減する再建期に入っていると見られる。現在30歳の大和が加入してもチームが成功を目指すであろう3年後以降にはすでに衰えがきている可能性がある。年齢構成的にも若手選手を多く揃えており、これらの選手の成長に賭ける選択は間違いではないだろう。
ロッテ ニーズ:遊撃、中堅
鈴木大地を遊撃から二塁にコンバートして迎えた今季、多くの若手選手に遊撃での出場機会を与えたが実を結ばず大きな弱点となった。期待の若手である平沢大河も一軍レベルには届いておらず、大和を獲得した場合最も戦力の上昇が見込める球団といえるかもしれない。また中堅手も今季は荻野貴司が活躍したものの、外野の3ポジションは角中勝也以外の選手が毎年不安定な成績となっており計算しづらい状態が続いている。外野の戦力にもなり得たかもしれない。ただチームは今季最下位と、大和の補強を行ったとしてもAクラス争いが見込めるほどの戦力になったかは微妙だ。
阪神 ニーズ:遊撃
レギュラー定着が期待された北條史也が伸び悩み、後半戦は大和が遊撃手として出場することが多くなった。北條はシーズン中に復調の兆しも見えず、来季以降も計算しづらい状態だ。大山悠輔を遊撃として起用するコンバート案もあるようだが、これもほかの若手選手と同じく未知数である。近い将来、現在三塁を守る鳥谷敬が一塁や代打にまわり、内野にもう1ポジション穴が空くことも予想される。そうした内野の状況を考えると球団は大和の残留にもう少し力を入れても良かったのではないだろうか。
DeNA ニーズ:二塁、遊撃
見事大和を獲得したDeNA。弱点となっているのは二遊間と大和が得意とするポジションと一致していた。二塁は昨季オフに田中浩康を獲得し穴埋めを模索したが、思うような活躍はできなかった。終盤は柴田竜拓の台頭でやや持ち直したもののいまだ弱点であることは違いない。遊撃は倉本寿彦がフル出場を果たしたが、攻守ともに物足りない。高田GMが言及したように、シーズン序盤に不振だった倉本の代わりに出場できる選手の選択肢が極めて少ない点もチームとして大きな問題だった。どちらのポジションに大和が入ったとしても大きな戦力上昇になりそうだ。仮にどちらかのポジションで新たに急成長を見せる選手が出てきたとしてももう一方も変わらず弱点であるため、補強が成功する可能性は非常に高い。また現在レギュラーとして出場している柴田、倉本はともに左打ちだ。対左投手に強い大和と相手先発投手によって使い分けるという選択肢もでてくる。
DeNAは今季3位に入り、さらに上の順位を狙うために資金を使うべき時期を迎えている。ポジションのニーズ、資金を使うタイミングとしても申し分なく、限りなくベストに近い状況で最高の人材を手に入れた。
中日 ニーズ:二塁
京田陽太の台頭で遊撃に長期的な目途がついた一方、二塁はいまだにベテランの荒木雅博が最も出場が多い状態が続いている。亀澤恭平と堂上直倫にある程度二塁手としての実績があるため、リプレイスメントレベル以下の成績になることはなさそうだが、リーグ平均には及びそうもないポジションだ。球団は大和獲得に動かなかったが、DeNAとの契約規模を考えると資金の捻出は可能だったはずだ。もう少し積極的に動いても良かったのではないだろうか。
ヤクルト ニーズ:遊撃、中堅
遊撃は大引啓次に衰えが見られるうえ若手の西浦直亨も戦力化に向けて我慢の時期にあり、大きな弱点となっている。内野は一塁、三塁も弱みとなっており手当てが必要なポジションが多い。戦力となる選手が1人でも多く必要な状況だったが、大和の獲得には乗り出さなかった。ヤクルトはここ2年下位に低迷しているが、ペイロールは30億円前後にまで膨れ上がっており、補強に動きづらい状況となっている。大和の獲得に参戦したいものの資金面で身動きがとれなかった可能性はありそうだ。
最適球団は…
検討の結果、獲得が効果的でなおかつ資金面で獲得可能だった球団としてオリックス、阪神、そしてDeNAの3球団が残った。この中で最も大和の加入が効果的といえるのはやはり獲得に成功したDeNAではないだろうか。阪神はDeNAに比べると大和が守ることができるポジションが1つしか空いていないため、大和加入の効果はDeNAほど大きくないだろう。
オリックスは西野の三塁コンバートが決まれば大城滉二が二塁レギュラーの最右翼となるだろうか。大城が守る二塁、ロメロが守る中堅が大和の入るポジションとなるが、これもDeNAの二遊間ほどの弱点ではない。やはりDeNAが最適球団といっていいのではないだろうか。
二遊間が大きな弱点となっているDeNAの現状を考えると、報道にある3年3億は良い契約になるかもしれない。唯一不安な点があるとれば、今季転向した両打ちの実力が未知数である点だ。一軍の試合で左打席に立ったのはわずか154打席。打席を重ねていけば今季の成績よりも大きく数字を下げる可能性も十分考えられる。その場合貢献が目減りすることは頭に入れておく必要がある。そうなれば今季出場機会を得ていた二遊間の選手にもチャンスがまわってくるかもしれない。
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