2016年まで遊撃をメインに守っていたロッテ・鈴木大地が昨季は二塁へと守備位置を変え全試合に出場した。加齢の影響が少ない若さで、全試合に出場しているレギュラーが遊撃から二塁に完全にコンバートされるケースは例が少なく、2つのポジションで守備力にどの程度の差があるのかを計る絶好のサンプルといえる。鈴木のコンバートを通して二塁と遊撃の守備がどのように違うかを分析していく。
二塁と遊撃のゴロ処理状況を重ね合わせる
最初に2016年の遊撃と昨季の二塁で、アウト獲得状況にどれだけの差があったのかを確認したいと思います。それぞれの守備は、以下の図1に示すゾーンに分割して記録しています。
この図に示した距離3での各ゾーンへのゴロに対して獲得アウト率を以下の図2に示します。
図の左側の山が2016年の遊撃でのアウト率、右側は昨季の二塁でのアウト率です。これを見ると、鈴木は二塁、遊撃ともに定位置(I・J、Q・R)周辺では平均か平均を上回るアウトを獲得しているものの、左右に動くとNPBの平均を下回っています。こういう図を描くと、真中でパタンと折りたたみ2つの山を比較したくなります。それをやったものが以下の図3になります。
遊撃と対応するゾーンの鈴木の成績を見ると、二塁寄りのL/Oのゾーンは、2016年と比較してアウト率はやや低くなってはいますが、定位置といえるアウト率の高いI/R、J/Qといったゾーンや、一塁寄りのH/S、G/Tといったゾーンでは遊撃手をやっていたころよりも大幅にアウト率が高くなっています。
これらのデータから、二塁手としての鈴木は他の選手と比較すれば劣る成績ではあったが、遊撃を守っていた2016年と比べればアウト率は向上したといえます。NPB平均を見ても遊撃より二塁のアウト率が高くなっています。二塁のほうが遊撃よりも一塁ベースに近いため、アウトになる確率が高くなるのかもしれません。
遊撃と二塁では打球速度が異なる
一般的に二塁のほうがアウトをとりやすい事実は確認できました。それぞれのポジションの一塁ベースへの距離の違いがその要因となっているのではないかという推測でしたが、打球の質という面から違いはないのか見てみたいと思います。これを確認するために図3で、二塁と遊撃でアウト率に大きな差があった、HとS、GとTのゾーンへ飛んだゴロの経過時間分布を図4にまとめました。
青、水色のグラフが三遊間のGとH、赤、橙のグラフが一二塁間のSとTを表しています。2つを比べてみると、赤、橙の一二塁間の山は少し重心が右に寄っており、経過時間が長いゴロが多いことを示しています。当然ながら、経過時間が長いほうが守る側としては打球に追いつくまでの時間が長いため、二塁手のほうが守りやすいといえます。こうした現象が起こる要因はわかりませんが、右投げ左打ちより右投げ右打ちの打者が引っ張った打球のほうが速いのではないかといったことも考えられます。
鈴木のこれらのゾーンへのゴロについて、経過時間ごとの結果をまとめたものが、以下の図5-1から図5-4になります。
一二塁間のゾーンであるS・Tのアウトが三遊間のH・Gより多いことは、すでに図3でも確認しています。さらにさきほどのNPB全体でそうであったように、鈴木の場合においても経過時間が2.0秒以上のゴロは三遊間のH・Gよりも一二塁間のS・Tで多いことも確認できます。遊撃手時代よりもスピードの遅い打球が多く飛んできたため、多くのアウトを奪うことができたようです。
ただ、図5-2を見ると、一二塁間Sのゾーンの1.0秒以上1.5秒未満のゴロ、つまり速いゴロに対しては、それに対応する三遊間のゾーンHと比べてもアウト率は低くなっています。一二塁間、三遊間の違いはあれど定位置からの距離は同じ程度なはずです。原因を特定することは難しいですが、守備力が20代中盤でピークを迎えることを考えると、すでに28歳の鈴木には年齢的な衰えが出始めており、速い打球に対しての処理能力が下がっている可能性も否定できません。
今季三塁にコンバートされる鈴木は貴重なサンプル
今回の原稿で遊撃よりも二塁でアウト率が高くなることがわかりました。、まずこれは二塁のほうが遊撃より一塁ベースに近いことが原因として考えられます。ただそれだけでなく、二塁手から見て定位置から左(S・T)へのゴロは三遊間への打球に比べると経過時間の長いゴロが多く、アウトを獲得することが容易であることも原因としてあることがわかりました。二塁へのコンバートによる鈴木のアウト率の上昇は、こうした二塁と遊撃の特性の違いと考えられます。遊撃から二塁へコンバートした場合、ある程度アウト率の向上は見込めたというのは、他チームを含め今後の参考となるケースではないでしょうか。
ロッテは今季から三塁だった中村奨吾を二塁にまわし、鈴木を三塁にコンバートするようです。今季鈴木が三塁で一定以上の出場ができれば守備位置に関する研究の貴重なサンプルになりそうです。こうした観点からも井口新監督を迎えたロッテのコンバートがどのように機能するかは注目ポイントのひとつになります。
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