昨オフ、DeNAはかねてから弱点となっていた二遊間の補強としてFAで
大和を獲得しました。今回は大和の獲得によりどれほど遊撃の守備力が改善されたか、また阪神時代と遊撃での守備にどのような違いがでているかを見ていきたいと思います。
相対的に加入効果はあった。しかし昨季の大和と比べると
まずは大和が加入したことでDeNAの遊撃守備にどれだけの変化があったかを見るため、球団別に遊撃のUZRを比較したいと思います。データを表1に示します。
今季はまだシーズンが終了していないので、昨季との比較にはUZRを1000イニングあたりに換算したUZR/1000を使います。今季のDeNA遊撃手の1000イニングあたりのUZRは-7.2。昨季が1000イニングあたり-13.2であったため、改善はされているものの、平均と比べるとまだ劣っている状態です。
次にこれらの数値を記録したのが誰なのか、DeNA遊撃手個人のUZRを見てみようと思います。データを以下の表2に示します。
今季は大和、
柴田竜拓、倉本寿彦倉本寿彦の3選手が遊撃の守りについています。このうち柴田、倉本の2選手の値がマイナスであるのに対し、大和のUZRはほぼ±0でこの中では最も高くなっています。こうした相対関係からみても、遊撃守備面で大和を獲得した成果はあったといえるでしょう。
しかし、昨季と比較すると、今季の大和のUZRは低下しており、期待されていたほどの守備面での貢献がないのも事実です。昨季1000イニングあたりの遊撃UZRが19.0だったのに対し、今季は1.3。なぜこのような変化が起こったかについてもう少し詳しい検証をしたいと思います。
昨季から処理率が低下しているゾーン
図1に示した基準に従い打球を記録したデータを使い、大和の守備範囲を分析していきます。図1の中で距離3で捕球、あるいは距離3を通過したゴロの処理結果を見ていきたいと思います。
各ゾーンに発生したゴロのアウト率と内野安打・失策率を表すと以下の図2になります。
濃い青色が今季の大和のアウト率、左右の水色は三塁手と二塁手がそれぞれアウトにした割合を示しています。斜線で示してあるのが内野安打、失策になった割合で、黒の実線と破線はNPB平均の成績になります。
図を見ると、大和のほぼ±0のUZRの値が示すように、おおむねどのゾーンにおいてもNPB平均と大差ない処理能力を見せています。二塁方向のLのゾーンのみ、NPB平均よりもアウト率が低いというのが特徴といえるでしょうか。
次に、この大和の成績を阪神時代の2017年の成績と比較したものを以下の図3に示します。
黄色の実線と破線が2017年の大和の成績になります。2018年と比較すると、定位置(I・Jのあたり)から両サイド、図中に☆印を付けたHとLのゾーンでのアウト率の低下が顕著です。このゾーンの打球を処理できていないことが指標の低下につながっているようです。
ゴロアウトの予測式を計算。昨季の大和は極端なグラフに
このゾーンでの処理率低下の原因として、どのような可能性が考えられるでしょうか。もちろん加齢の影響は考えられると思います。ただ加齢の影響は1年の成績だけでは判断しきれないところもあります。ですので今回はそれ以外の可能性を探ってみたいと思います。
考えられるのは同じゾーンに飛んだ打球でも処理難易度に大きく差がついている可能性です。DELTA算出のUZRではゴロを処理するまでの時間、あるいは処理するべき位置まで打球が到達した時間(ハングタイム)から打球の強さをA、B、Cに判別し、同じゾーン内の打球でも難易度を区別しています。しかし、細かく見るとそのA、B、Cの中にもハングタイムによるグラデーションがあるはずです。
2017年から処理率が下がっていた2つのゾーンH、Lに飛んだ打球をより細かく分析してみます。打球のハングタイムとアウトになったかならなかったかの関係から、ハングタイム別のアウト率の予測式を求めてみました。この時間帯のゴロでは大体この程度のアウト率が予測されるというものです。これを以下の図4と図5に示します。
まずは青と緑の線が示す2018年の大和とNPBの関係を比較すると、定位置から三遊間寄りのゾーンH(図4)ではハングタイムの短いゴロに対するアウト率は大和のほうがやや高い一方、二塁付近のゾーンL(図5)ではNPBのほうがハングタイムの短いゴロに対するアウト率が高くなっています。
妙な変化をしているのは黄色の線で示した2017年の大和の成績で、ハングタイムに対するアウト率の上昇が非常に極端です。この理由を調べるために、結果ごとにハングタイムをプロットしたものを以下の図6と図7に示します。
2017年の大和に注目すると、プロットとしては、アウトとヒットになったハングタイムがあまり被っていないことが特徴です。特にゾーンHでは、アウトを取るのが難しい1.00~1.50秒のゴロの処理機会がほとんどありません。このようなデータから予測式を求めた場合、図4で示したアウト率が急上昇するような形になります。
また、2017年のほうが全体的にハングタイムの長いゴロが多く、1.50秒以上の時間帯の中でも外野へ抜ける可能性が高い、速い打球が少なかったようです。一部のゾーンでの出来事ではありますが、2017年のこのような状況は、現状のUZRでは掬いきれないものでした。こうした事情と遊撃としての出場が限られていたことをあわせて考えると、2018年のUZRのほうがより大和の実態に近い成績ではないかと思われます。
2017年・阪神の投手陣が緩いゴロを打たせていた可能性は?
ところで、2017年の阪神時代はハングタイムが遅いゴロが多かったわけですが、これは、阪神の投手陣のほうが緩いゴロに打ち取る能力に長けていた可能性も一応考えられます。
この影響を確認するのは容易ではありませんが、仮に2018年のDeNAと2017年の阪神に違いがあれば、チーム全体のゴロのハングタイムに差が出ていると考えられます。そこで、DeNAと阪神の守備時のそれぞれのゴロのハングタイムをまとめたものを以下の図8に示します。
結果としては、2017年の阪神全体のゴロのハングタイムが長いという傾向は確認できませんでした。また、DeNAと阪神ともに2017年と2018年の分布に一貫性はなく、ここからも投手陣の影響というものは確認できません。
したがって、2017年と2018年の大和が守っていたときのゴロのハングタイムの差はたまたまこのような分布になったと考えるのが妥当です。
それでも大和が遊撃のベストチョイス
以上の分析により、一部のゾーンではありますが2017年のゴロが処理しやすかったためUZRにおいて高く評価された可能性が考えられます。また2017年の大和の遊撃での守備イニングは413 1/3イニングと短く、守備能力を判断するには十分なサンプルサイズではなかったといえるかもしれません。ただ今回の分析結果は、後出しジャンケンのようなもので、2017年の終了時に「UZRが高く評価されすぎているかもしれない」と判断するのは難しかったでしょう。
このような結果ではありますが、現在のDeNAの遊撃手の中で大和がベストチョイスであることは変わらないと思います。マイナスを0まで戻すことは、確実な前進です。DeNAにとっては意味のある補強になっているのではないでしょうか。