2011年オフコラムアーカイブ

2011年シーズンは、得点環境が劇的に変化し両リーグで大きく得点が落ち込んだ。そのような環境で大苦戦を強いられた打者、そして飛ばないボールで恩恵を受けた投手について構造的にどの様な影響があったのかを前回確認した。今回は選手の実力が大きく変動してしまう状況で、現場を預かる監督にも作戦の選択などで影響があったのかを確認していく。さらに、環境・投打・作戦の選択を踏まえたうえで、統一球がこの先なにをもたらすのか検証していく。

NPB監督が選択した犠打と盗塁企図の変化


監督はチームを勝利に導くために、打順・ローテーション・投手交代・代打代走・作戦企図など試合中はもちろん試合以外でも数々の選択を迫られる。2011年シーズン序盤から多くの得点が望めないことを各監督は把握しただろう。統一球によってもたらされた環境の変化が、監督の作戦選択でも影響を与えたようだ。


チーム  犠打企図  盗塁企図
2010CL  9.2%   8.2%
2010PL  8.7%   8.9%
2011CL  12.2%   6.8%
2011PL  11.1%   10.9%
【犠打企図】犠打/(単打+四球-敬遠+死球)
【盗塁企図】(盗塁+盗塁死)/(単打+四球-敬遠+四球)

犠打企図および盗塁企図は一塁に走者がいたケースをデータから推察したものである。二死のケースも混在しているため、正確な数字とは言えないが監督がどの様な選択をしたのか見る上で十分参考になるだろう。この値を見ると、犠打の選択が大幅に増えていることが分かる。第2回で確認したように、2011年シーズンは出塁そのものが少なくなっていることを踏まえると、監督は一つでも先の塁に走者を進めようと躍起になっていたようだ。


今季セ・リーグの総犠打911は前年の750から大幅に増加し、2リーグ制以降リーグ最多記録を更新している。パ・リーグの863犠打も前年から100以上増加している。パ・リーグで最も多く犠打が記録されたのは1956年だが、この年はリーグに8チームが存在したシーズンで、犠打の割合で見ると2011年が上回っている。犠打の増加は、前年まで打撃が持ち味だった球団も多く、監督にとって統一球は打撃の選択肢を狭めたのは間違いなさそうだ。


打撃での出塁・進塁が見込めなければ走者を動かすことも有力な選択肢だろう。盗塁に関しては両リーグで増減が分かれている。セ・リーグはほぼすべての球団が盗塁企図を減らすなど、走者がアウトになることを恐れた。パ・リーグは各球団とも出塁の割合を考えると、横ばいか増加し一つ先に走者を進める選択を好んだようだ。前年にわずか50回しか盗塁を試みなかったオリックスが、今季は79回と何とか得点を絞りだそうとしているのが伺える。もちろん盗塁は所属選手の技量や、相手バッテリーの盗塁阻止能力が作戦選択の要素になる。そういった意味でもセ・リーグの監督にとっては、とりうる作戦の選択肢が少ないシーズンだったのではないだろうか。



コミッショナーは日本野球をどこに導くのか


ここまで見てきたように、統一球の導入はプロ野球の姿を大きく変えるものになった。当初、統一球の導入を決めた加藤コミッショナーは、国際試合でも打てるようMLB使用球に近いボールを使用して選手の技術を伸ばすことを考えていただろう。しかし、今回の統一球は一部の例外を除いて、日本人選手の手に余るものだったことは否めない。日本人選手がここまで苦戦することは、コミッショナーにとっても想定外だっただろうか。しかし、コミッショナーの国際球を遠くに飛ばすことの出来る選手を育成するという目標は、海外勢との争いを勝ち抜く上で不可欠で、方針そのものは間違っていない。しかし、目標に到達するアプローチは再考する必要があるかもしれない。


統一球の導入により、チームは勝利を追求しなければならず、より確実性の高い選手を使う傾向になるだろう。監督の作戦で見た様に、選手起用を決めるにあたって犠打・盗塁(あるいは守備力)など打つこと以外の比重が相対的に高くなるのは避けられない。さらに、現場からの要望がこれに拍車をかける可能性もあり、語弊はあるが、スケールの小さい選手を編成も好んで集める傾向に陥るかもしれない。現に12球団の多くの監督が、守備を中心にした守りの野球を標榜している。これはかなり危険な傾向で、シーズンを重ねれば重ねるほど、打力を持ち味にした選手が球界に占める割合が小さくなる可能性がある。


加藤コミッショナーが目標に掲げ、それを実現しようと取り入れた統一球が、逆に日本人打者の能力低下を招きかねないのだ。さらに、国際野球で日本の大きな強みとなった投手陣にも統一球は悪影響をもたらすかもしれない。やや飛びすぎるボールが採用され続けた厳しい環境で、投手はその能力を伸ばしてきた。しかし、今季の様な一方的な守備側有利の環境では、これまで培ってきた投手力のマージンを失う可能性が高い事を認識した方が良い。特にフライを多く打たれる投手などは、パワーのある選手を相手にしたときにその差を実感するだろう。国際野球の現場でその選択を後悔するのは避けたいところだ。


統一球が今シーズン多くの影響をもたらしたのは間違いない。さらに、今後の選択次第では日本の野球が進む方向を決定づける可能性もある。ボールの変更は、相対的にどの様な野球を行うのかという事と同時に、未来にむけてどの様な選手を育てていくのかという選択(決断)でもある。NPB内だけでなく、国際的に日本がどのようなスタイルで戦っていくのかを検討したうえで、戦略的にボールの選択をすることを切に願いたい。


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