はじめに
キャンプの日程も進み、間近に迫るWBCの向こうにはぼちぼち開幕も見えてくる時期になりました。さて、NPBの各チームは昨年の反省を踏まえて、チームにテコ入れをしてきたわけですが、中でもロッテは新しい遊撃手を抜擢し、鈴木大地選手をセカンドにコンバート。内野守備の根幹となる二遊間にメスを入れました。
今回の目的は、コンバートに至った鈴木選手のショートでの守備力の確認とコンバート先であるセカンドでの展望、鈴木選手の強みである打撃成績についても他の選手と比較します。
鈴木選手のショートでの守備
最初に確認するのは鈴木選手のショート守備の評価です。2014年以降の鈴木選手の遊撃でのUZRは-13.8→-16.3→-11.6と毎年-10.0を下回り、ロッテ守備陣の中でも大きなマイナス要素となっていました。しかし、数値を見るだけでは、守備のどこが悪かったのかがもう1つはっきりしないのも事実です。そこで、二三塁間を以下の図1-1に示すゾーンに区分し、距離3へのゴロについてゾーンごとに守備の結果をまとめました。2016年の成績を以下の図1-2に、2015年の成績を図2-2に示します。
この図の見方ですが、各ゾーンへのゴロの内、アウトとなった割合を実線のアウト%で示しています。破線で示した内安・失策・野選%はその名の通り、内野安打と失策、野選を合わせた割合になります。この値の表示は少し特殊で、図2-3に示すように各ゾーンのアウト%から上積みした部分がこの割合になります
プロのレベルになると、ゴロをトンネルするというのは非常に稀なプレーなので、内安・失策・野選はアウトこそ取れなかったものの、打球には追い付いたケースといえます。アウトを取ったケースに、この追いついたケースを上積みしたことで、この破線より上の部分が内野を通過したゴロの割合となります。
説明が長くなりましたが、図1-2と図1-3に示した鈴木選手のデータを見ていきたいと思います。ピンクの線が鈴木選手、黒の線がNPBの平均になります。鈴木選手の特徴は、アウト%の高いI・J・Kのゾーン、ここはショートの定位置といって良いと思いますが、ここの守備はNPB平均と比較しても遜色のない内容となっています。一方で、その左右のゾーン、二塁と三塁寄りの定位置から遠いところの成績は良くありません。
特に、図1-2の2016年はその傾向が顕著で、図1-3の2015年はG・Hといった三塁寄りのゾーンのアウト%こそNPB平均と変わりませんが、内安・失策・野選%が低く内野を通過するゴロはNPB平均よりも多いことがわかります。
UZRは難易度の高い打球を処理したほうが高評価につながりますが、定位置周辺の打球には強いけれども、左右に遠いゾーンでアウトが少ない鈴木選手の場合、UZRの評価が低くなるのも仕方がないといえます。
セカンドでの守備の展望
このようなショートの守備もあって、セカンドにコンバートすることになったと考えるのが妥当ですが、気になるのは、伊東監督がセカンドなら守備の負担も軽くなるとコメントしているところです。セカンドもショートと同じく高い守備力が要求されるポジションですが、コンバートで守備の改善は期待できるものなのでしょうか?
この問題に対する明確な答えを出すことは非常に難しいのですが、一例として、シーズン内にセカンドとショートを両方守った選手のポジションごとのUZRを比較してみたいと思います。データを以下の図2に示します。
分析対象は2015年と2016年でシーズン内に30イニング以上セカンドとショートで守備の記録のある選手です。横軸にショート(SS)でのUZRを、縦軸にセカンド(2B)の値をとっています。UZRは1000イニング分の成績に換算したUZR_1000を用いています。
この図2を見ると、どちらか一方のポジションのUZRがマイナスの選手がもう1つのポジションで急にUZRが高くなるというのはほとんどないことがわかります。ショートからセカンドへのコンバートによって劇的な守備の改善が期待できるような結果ではないといえます。
ただし、鈴木選手の場合、2016セカンドでの守備は27イニングしかないものの、UZRは0.8とマイナスではありませんでした。これがシーズン通して守ることでどのような成績となるかは予測が難しいですが、もともとショートに大きな穴があったという状況を考えれば、ロッテとしてはこのコンバートに賭けたというのは理解できます。
打撃成績の比較
ところで、守備位置をコンバートするということは、守備位置を変えてまで起用したい何かがあるということでもあります。鈴木選手の場合、それは打撃面での貢献かと思います。そこで2015年から2016年のデータを用い、図3-1では鈴木選手の打撃成績(打席数とwOBA)をコンバート前のショートの選手、図3-2ではコンバート後のセカンドの選手と比較しました。
いずれのポジションでも平均以上のwOBAであることが確認できます。2016年並みの成績を残せば、セカンドにポジションを変えても、打撃面で埋もれてしまうということは無いといって良いでしょう。
ここで、余計なお世話にはなりますが、同様のデータを三塁手と比較したものを以下の図3-3に示します。守備面で問題があるのなら、コンバート先は三塁のほうが良いのでは?と思ったからです。
鈴木選手の成績を三塁手と比較しても、トップというわけにはいきませんが、平均以上のwOBAであることを確認できます。
また、鈴木選手の強みは平均以上のwOBAだけではありません。ショートという替えのきかないポジションについていたこともありますが、出場機会の多さを示す打席数が多いのも強みといえます。コンバート先のセカンドで、2016年並みの出場機会を確保できれば、wOBAでしめされる打撃成績以上の貢献を期待できます。
新・遊撃手候補としての中村奨吾選手の2016年の守備
最後に、新遊撃手候補の1人として2016年の中村選手のセカンドの守備成績を見ておきます。平沢大河選手のデータも載せたかったのですが、守備イニングが少ないため控えます。以下の図4-1に示すように一二塁間を区分し、鈴木選手と同様にデータをまとめたものを以下の図4-2に示します。
二塁方向のアウト%が少し低めですが、その分一塁方向へのアウト%はプラスです。UZRに換算すると277イニングで3.8は悪くない成績です。
もう1つ、中村選手の三塁での守備を以下の図4-3に示します。こちらのゾーン区分は図1-1と同じです。
NPB平均と比較するとアウト%がかなり高いことを確認でき、守備範囲の広さがわかります。UZRに換算すると495 1/3イニング守ってUZRは7.3で三塁手の中ではトップクラスの成績です。
この二塁と三塁での守備成績を見れば、新遊撃手候補としては十分な成績ではないかと思います。
おわりに
以上、既に賽は投げられた後のことではありますが、鈴木選手のコンバートに至った守備成績と、セカンドでの展望、打撃成績と見てきました。守備による貢献は、少し長い目で見ないことには結果が見えてきませんが、2017年ロッテの内野守備がどうなるか、このデータを参考にしつつ楽しみにしていただければと思います。