Part1では企図率、Part2ではバントの結果について、NPB全体の傾向を調べてきた。Part3ではバントの企図率、成功率を球団ごとに具体的に調べていく。それぞれの球団で傾向に違いは見られるだろうか。

球団ごとのバント企図率

まずは球団ごとの投手を除いた打者の無死一塁におけるバント企図率を見ていく(表36)。対象は2019年のレギュラーシーズンである。

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ソフトバンクの26.1%から読売の9.1%まで球団によってバント企図率が大きく異なっていることが分かる。全体的な傾向としては、投手が打席に立たないパ・リーグで企図率が高い傾向がある。

また、比較的打力の高いチームほどバント企図率が低い傾向にあるが、ソフトバンクや広島のように打力はリーグ平均程度の球団の企図率が各リーグでトップになっていたり、DeNAのように打力はリーグ平均をやや下回る程度ながらもバント企図率が低い球団があったりと球団ごと(あるいは監督ごと)の嗜好も見られる。

これらの傾向について、イニングや点差、打者や投手の能力による影響はあるのだろうか。

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まずイニングごとのバント企図率を調べてみた(表37)。ほとんどの球団が序盤から終盤に行くに連れてバント企図率が高まっている。ただオリックスや楽天のように序盤から20%を超える割合でバントを試みており、終盤になってもあまりバント企図率が変わらない球団も存在する。

一方で同じくバント企図率が高い球団でも広島のように、序盤から中盤までは10%台のバント企図率ながら、終盤になると40%近い割合でバントを試みる球団も存在する。

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次に点差別のバント企図率を調べてみた(表38)。どの球団でも2点以上ビハインドの場面ではほとんどバントは試みられておらず、1点差以内の場面でバントが試みられることが多くなっている。

ロッテやヤクルトは比較的ビハインド時にバントを試みることを好まず、リード時にバントを試みることを好む傾向がある。DeNAや読売はバント企図率こそ低いものの、全体的な傾向とは反対にビハインド時にバントを試みる傾向がある。西武も同様にバント企図率が低い球団だが、同点時のみは12球団平均よりも高い企図率、それ以外の場合では平均よりも低い企図率と変わった傾向を見せている。

続いて、打者の wOBA(weighted On-Base Average)別でのバント企図率を見てみる。今回もPart1、Part2につづき、打者をwOBAに応じて3グループに分けたが、球団ごとに各グループに属する打者の数は異なる。例えば、①wOBA.350超の打者の無死一塁時の打席数は西武の175打席から阪神の37打席まで大きな幅がある。ほかのグループについても同様だ。このため、①wOBA.350超の打者であっても、チーム内では中程度の打者であることもあるし、その反対もあるということには注意が必要だ。

また、球団によってはあるグループに属する打者の打席数が極端に少ないケースもある(例えば、西武では②wOBA.310以上.350未満の打者の打席数は4しかない。)。このため、打力の低い打者であっても、たまたまバントに適したイニング、点差で回ってくることが少なかったために、バント企図率が低くなっているということもあると考えられる。全球団を対象とした場合と異なり、サンプルを12球団に細分化したために、このようなことが生じやすくなっているが、打力別に分けた整理では特にこの傾向が顕著であった。

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表39が打力ごとの企図率を見たものだ。楽天やロッテでは①wOBA.350超の打者のバント企図率が10%を超えているが、これは無死一塁時の全打席の半分程度がwOBA.350超の打者であることも影響していると思われる。12球団全体で見ると優秀な打者であっても、球団内での打力の序列が高くない打者に対して、バントの指示がされているということもありそうだ。

全体のバント企図率は高くとも、オリックスのように数少ない優秀な打者に対しては、バントをまったくさせない球団もある。

DeNAと読売は、①打力の高い打者に対してはほとんどバントをさせず、②中程度の打者に対してもあまりバントをさせないが、③打力の低い打者に対しては平均に満たないもののそれなりにバントをさせており、打力に応じてはっきりとした傾向が表れている。この2球団はここまで見てきた範囲では、バントをさせることが少ないケースと多いケースの傾向が似通っている。打力にこそ差があるものの、バントの嗜好については類似しているというのは面白い。

相手投手についても tRA(true Runs Average)によって3グループに分け、それぞれのグループでバント企図率が変化するか調べてみた(表40)。

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多くのチームで相手投手が優秀なほど、バント企図率が高まる傾向にあるが、ソフトバンクやオリックスでは、全体的な傾向とは反対に相手投手の能力が落ちるほどバントを試みることが多くなっている。おそらく、両球団ともに相手投手の能力はそれほど重視しておらず、点差やイニングといった試合展開や打者の能力を重視してバントをする機会を選択していると思われる。ここまで極端でなくとも、楽天や日本ハムも相手投手の能力が下がるほどバント企図率が下がるという傾向になっていない。

これに対して、広島は相手投手のA.tRAが3.50未満のときには30%を超える割合でバントを試みており、相手投手の質をかなり重視していることがうかがえる。広島はバント企図率が高いが、イニングや相手投手の質など積極的にバントを選択する場面とそれほどでもない場面の差がかなりはっきりしている。

中日と阪神もA.相手投手が優秀な場合には30%近い割合でバントを試みており、相手投手の質を重視していることがうかがえる。

ここまで、さまざまな条件で場合分けをして、バント企図率を調べてきたが、単純にバント企図率の高低以外にも、球団ごとの差が見えた。球団の方針あるいは監督の嗜好が影響しているものと思われる。

球団ごとのバント成功率・バントに対する守備

次に、球団ごとのバント成功率及び守備時にバントされた場合の守備について見ていく。結果はPart2と同様に以下のとおりに分類する。

大成功:安打、失策、野選でアウトとならずに出塁した場合
成功:打者走者がアウトになり、一塁走者が進塁した場合
失敗:打者走者か一塁走者のいずれかがアウトになり、走者が二塁以降に進塁しなかった場合
大失敗:打者走者と一塁走者の双方がアウトになった場合

まずは成功率から見ていく(表41)。

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バント企図率が最も低かった読売が成功と大成功を合わせた割合でトップとなっている。大成功となる割合も高く、アウトになることなく走者を進めることが他球団よりも多い。同じくバント企図率が低かったDeNAがこれに続く。

バント企図率が高かった球団ではオリックス、ソフトバンクが90%近い割合で成功をしている。バント企図率が低いからバント成功率が高い、あるいはその逆という傾向は特になさそうだ。

阪神は大成功となる割合が10%を超えているが、これはバントヒットのほかに相手の失策や野選を誘っているためだ。一方で併殺の割合も高くなっている。ヤクルトは失敗の割合が25%を超えており、平均よりも10%以上低い成功率となっている。この成功率からすると、バント企図率が低いのはむしろ適切だったかも知れない。

次に守備時のバント処理についても見ていく。結果の分類はこれまでと同様だ(犠打を決められた場合に「成功」、走者の進塁を許さなかった場合に「失敗」となっている)。

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ソフトバンクがよくバントを処理することができており、これにオリックスが続く。成功または大成功となる割合はいずれも75%を下回っており、走者の進塁を簡単には許していない。併殺(大失敗)となる割合も高く、バント処理が優れていることがわかる。

広島は併殺の割合が高くなっているが、アウトを1つも取れない割合も10%を超えており、両極端な結果となっている。これと対照的なのが中日で、併殺は1つも取れていないが、アウトを1つも取れなかったことも1度もなく、堅実にバントを処理している。ヤクルトは成功、大成功の割合がいずれも高く、バント処理に問題を抱えていることがうかがえる。

バントを効果的に使えていた球団、より効果的に処理できていた球団

最後にこれまでの結果を踏まえて、どの球団が攻撃時にバントを効果的に使えていたか、あるいは守備時に効果的に処理できていたかを検証する。

ここでは WPA(Win Probability Added)という指標を用いる。WPAとはある局面のイニング・点差・走者・アウトカウントに対して平均的にどれくらいの勝率が見込まれるかの数値である 勝利期待値(WE)をどの程度増減させたかを表す指標だ。

この指標を用いた理由は、得点期待値を用いてバントの評価を行うのでは不十分と考えたためだ。得点期待値から考えると、打者の打力が極めて低い場合を除いては、バントは有効な戦術と言いがたい。投手のように打力が極めて低い打者の場合ならばともかく、バントはやればやるだけ得点期待値を下げることになる。このことはもはや論ずるまでもないことだと考える。

バントを試みあるいは指示する側も、(セーフティーバントを除けば)得点期待値を高める目的でバントを試みあるいは指示することはないだろう。そこで勝利期待値の変動、つまりどれだけ勝利に近づきあるいは遠ざかったかという基準で評価をすることが相当と考えた。この場合、単純にバントを多く行うだけでなく、試合終盤や僅差の場面などより重要な局面でバントを選択できているか、バントの成功率は十分に高いか、単に走者を進めるだけでなく単打や失策でアウトとならないことがどの程度あったか、といった要素も結果に影響を与えることになる。

もちろん、WPAのもととなっている勝利期待値は平均的な場合を前提とした理論値であり、バントを試みた打者や後続の打者の能力、相手投手の能力は考慮されていないという問題はあるものの、平均的な場合を想定した検証にはそれなりに意味があるだろう。

今回は無死一塁からバントを試みた場合の、勝利期待値を上昇させたプレーWPA+と勝利期待値を下降させたプレーWPA-、それらを合計したWPAを球団ごとに整理した。WPAが1ならば1勝分の価値ということになる。表43がその結果だ。

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トップの読売を除く11球団でWPAは負の値となった。傾向としては、オリックスを除いてバント企図率の高い球団の方が下位となる傾向があった。得点期待値でなく、WPAを用いても無死一塁からのバントはほぼ有効でないという結果となった。

続いて、守備側に立ったときどれほどの成果を残せていたか、バント処理についても同様に見ていく(表44)。

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攻撃時と異なり、ヤクルトを除く11球団のWPAが正の値となっている。トップはバントで走者の進塁を許さない割合が最も高かったソフトバンク。こちらは攻撃時とは異なり、相手のバントを成功させない割合の高い球団が上位となる傾向だ。ヤクルト、阪神、広島といった下位の球団はWPA-の値が-0.5前後であり、バント処理に失敗しアウトを1つも取れないことが多かったことが響いているようだ。

まとめ

以上のとおり、球団ごとにバント企図率や成功率に差があることがわかった。企図率の高低のみならず、バントを好む局面についても球団ごとの特色が見られた。そうした違いがあるにもかかわらず、WPAを利用した検証では、いずれの球団もバントを効果的に使えているとは言えない結果に終わっている。

では、なぜこのような結果となったのだろうか。Part4ではその理由、そして個々の球団の問題のみならず、NPBにおいてバントという戦術が効果的に使えているかという、別の観点からも検討をしていく。


市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』にも寄稿。
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