この2週間、最下位の中日が追い上げを見せたセ・リーグは混戦模様に、パ・リーグは逆に上位と下位の差が開きはじめた。近藤健介が王貞治のシーズン158四球に迫るペースで出塁し続けるなど、個人成績にも注目が集まっている。前回は こちらから。(データはすべて5月21日時点)

セ・パ両リーグの順位おさらい


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セ・リーグは順位変動こそ激しくありませんでしたが、6日に首位へ立った阪神が好調を維持。ローテーションに定着した秋山拓巳が期間内で2勝、16日の中日戦ではプロ入り2度目の完投を記録するなど、エースのランディ・メッセンジャーに引けを取らない成績を残しています。ただ、糸井嘉男や福留孝介ら中軸打者のバットがやや湿りがちになり、チームの得点力も低下気味。ファンからは休養などの調整をさせるべきという声が出ているようですが、経験豊富なベテランだけにスランプ脱出は一任すべきとの考えも否定できません。

広島は2位をキープしましたが、この2週間は5勝6敗と負け越し。対戦相手によって得点力に大きな開きが出たことと、期間内だけで13失策と守備の乱れが出たことがチームの勢いを止めてしまった格好です。17日のDeNA戦では、3点リードで9回に突入したものの、安部友裕の悪送球をきっかけに逆転負け。21日の中日戦でも一塁に入った安部が併殺を完成させることができず、今季2度目のカード3連敗を招いてしまいました。リーグ連覇を狙うには、試合巧者であることも重要なポイントだけに、例え若い選手であっても集中力を切らさない戦い方を身につける必要はあるでしょう。

読売は期間内平均得点(9イニングあたりの得点、以下平均得点)3.20と得点力不足に苦しみ、5勝6敗と上位進出のチャンスを逃しました。しかし、開幕から不調だった長野久義にようやくヒットが出てくるようになり、20日のDeNA戦から打順を1番に変更。ここまで読売は1、2番の出塁率が.283、.273と低調なため、1番長野がうまくはまれば、得点力の改善も期待できそうです。19日に4位へと浮上したヤクルトは、打線が機能しはじめ、平均得点は5.00と本来の攻撃力が戻ってきました。この間の打率は山田哲人が.310、雄平が.327、ウラディミール・バレンティンは.400、4本塁打と主軸の復活がチームの勢いを生んでいます。期間内失点率も2.94とディフェンス面でも好調で、これに乗じて上位進出へのきっかけをつかみたいところでしょう。

5位に転落したDeNAは、4番の筒香嘉智が風邪、股関節の痛みで欠場し、平均得点も2.73と低調なままです。またディフェンス面でも期間内失点率と5.14と苦戦中で、得失点差は-37とリーグで最もかさんでしまいました。運用重視といわれるアレックス・ラミレス監督の采配ですが、12日の阪神戦では1点をリードされた6回の得点機に、先発の井納翔一に代打を送らず無得点。続投させた結果、8回に2本塁打を浴び、采配が裏目に出てしまいました。アレックス・ラミレス監督によれば、代打策よりも井納が投げ続けた方が勝つ見込みが高いとの考えだったようですが、勝負事に徹した監督なら迷わず交代を告げていたでしょう。

中日も巻き返しの兆しを見せており、19日からの広島戦で今季初の同一カード3連勝を記録。平均得点は3.18と高くないものの、期間内打率.372の京田陽太の出塁から、ダヤン・ビシエドの長打で得点するシーンも増えてきました。一方、先発投手陣はシーズンを通じてリーグトップの平均6.17投球回とゲームをつくっているものの、リードした展開でのリリーフ不足が続いています。18日からの阪神、広島戦で4連勝はしましたが、田島慎二、岩瀬仁紀、三ツ間卓也がそろって4連投することになり、ブルペン整備に関しては依然課題を残しています。


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パ・リーグは、首位楽天の牙城は揺るがず。19日からのロッテ3連戦で今季初のカード負け越しを喫しましたが、これまで連敗は1度しかなく、3連敗以上は記録していません。カルロス・ペゲーロの調子がやや落ちはじめたにもかかわらず、平均得点は5.20と高いレベルを維持しています。投手陣では、新人の菅原秀が19日のロッテ戦で自己最速の155km/hをマーク。ストレート平均球速147.8km/hは、則本昂大に次ぐチーム2位のスピードで、今後は重要な場面での起用も増えそうです。

2位浮上後も安定して貯金を増やしているソフトバンクは、GWから1軍に合流した川﨑宗則がチームにしっかりと貢献している一方で、16日オリックス戦に先発した千賀滉大が、左背部の張りを訴えわずか9球で降板。予定されていた今週火曜の登板も回避しました。また、デニス・サファテも離れて暮らす家族の見舞いのため一時帰国することとなり、今週22日には一軍登録を抹消。再来日は交流戦開始以降で、それまでの間は苦しい戦いを強いられるかもしれません。

西武はこの2週間で9勝2敗と大きく勝ち越し、シーズンを通してのチーム得失点差57はパ・リーグのトップ。チームUZR(Ultimate Zone Rating)、チームWAR(Wins Above Replacement)は両リーグを通じても1位と、戦力が充実しています。リードしているのは新人の源田壮亮。入団前から評判だった守備は競争の激しい遊撃手でありながらトップのUZR 9.2を記録。課題とされていた打撃も、プロ入団後に強いスイングを体得し打率は3割を超え、盗塁数でも11とリーグトップを走っています。21日にオリックスと並び4位に浮上した日本ハムも、読売から移籍の大田泰示が期間内4本塁打と大暴れ。今週予定されている西武、ソフトバンクとの対戦でチームの真価が問われることになるでしょう。

オリックスとロッテは、それぞれ期間内1勝11敗、3勝9敗と大幅の負け越し。両チームのゲーム差は7.0と開いていますが、状態の悪さは同じくらい深刻な状況といって良いかもしれません。4月までに19本塁打のオリックスは、5月以降8本塁打と長打力が減少。チーム打率が依然として1割台のロッテは、シーズンを通じて両リーグワーストの平均2.55得点では勝つチャンスもなかなか見えてきません。巻き返しの材料として、故障者の戦列復帰に賭けたいところですが、オリックスはステフェン・ロメロと吉田正尚の回復状況に良い知らせは入らず、ロッテも今週から合流する石川歩と、現在ファームで実戦調整中の角中勝也の調子を見ないことには何とも言いようがありません。


一・二軍デプスチャート(5月23日時点)



画像にマウスをのせる(スマートフォンの場合タップする)と一・二軍が切り替わります。

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日本ハムの先発陣は、右肩インピンジメント症候群から復帰した浦野博司が、5日のロッテ戦での復帰してから3連勝を飾り、ローテーションの穴を埋めることに成功。中島卓也の代役として遊撃を守る石井一成も、急なコンバートにもかかわらず1失策とまずまずの守備を見せています。大谷翔平の復帰は依然として不透明で、現在も治療と軽いキャッチボール、室内打撃練習のメニューを消化しているようです。ソフトバンクは、左肘手術に踏み切った和田毅のシーズン中の復帰が難しくなり、投手陣の不安が膨らんでいます。今週に入ってから笠原大芽が再昇格、千賀滉大は週末での登板に見込みを残していますが、ここ数年間で高勝率の維持に貢献してきた先発陣のレベルが、若干下がることは覚悟しないといけないでしょう。ブルペンに入っている石川柊太の先発再転向も検討する余地はありそうです。


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ロッテは、2000安打まであと55本に迫っていた福浦和也が右太もも裏を痛めたため登録を抹消。代わりに、イースタン打率2位と好調な三家和真が、プロ入り初の一軍昇格を果たしています。2012年から2013年にかけて広島の育成選手としてプレーした三家は、支配下に登録されることなく退団。昨年までの3年間は、BCリーグでプレーしていました。ファームでは、.325の高打率に加え四球率(BB%)は14.5%。.425の高出塁率を記録しています。一軍でも粘り強い打撃を見せることができますでしょうか。西武は、打線の穴とされていた両翼が改善されてきました。左翼では外崎修汰がここまで打率.222ながら3本塁打、6盗塁と長打力、機動力を発揮。右翼の木村文紀も、期間内打率.311とスランプを脱出。より隙のないチームへと前進しています。


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比較的戦力の安定している楽天は、16日に新人の田中和基がプロ入り初の一軍昇格。19日のロッテ戦で9回代走として出場し、同点のきっかけとなる二盗に成功。20日には延長12回に試合を決めるプロ初本塁打を放ちました。打撃は粗削りな面も多いですが、近いうちにチームの中心となるポテンシャルを感じさせる選手です。オリックスは、ファームで調整していた宮崎祐樹を一軍に呼び戻したほか、育成枠のダリル・ジョージに三塁を挑戦させています。2年目の吉田凌も、ファームで4試合に先発して防御率0.92と、台頭しそうな戦力が少しずつ出はじめています。


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広島は、20日のウエスタンでクリス・ジョンソンが50日ぶりに実戦マウンドへと復帰し、早ければ交流戦中にも一軍に戻ってきそうです。また、育成枠でプレーするサビエル・バティスタは現在打率.360、14本塁打、37打点と三部門でウエスタンのトップを走り、このままフル出場を続ければ本塁打は40本に届こうかという驚異的なペースです。読売は山口俊、田原誠次、西村健太朗らが二軍に合流し、田原は一足先に一軍へ昇格。故障者が戻ってきたことで、チームのデプスは急激に厚くなりはじめました。


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筒香の復帰により打線に大きな穴が空くことを回避できたDeNAは、攻撃力に一枚も二枚も厚みが欲しいところですが、期間内で野手の入れ替えは1度しかなく、ラミレス監督は我慢の起用を続けています。20日にフィル・クラインを昇格させ、エリアン・エレラをファームに落としたことも得点力にどう影響するのか、難しい判断です。また、23日になってベテランの下園辰哉が今シーズン初の一軍昇格。代打成功率を少しでも高めたいとの狙いが見えてきます。阪神は、藤浪晋太郎が20日のヤクルト戦で再び乱調。不振の岩貞祐太をファームに落とし、新人の小野泰己をプロ初登板させましたが、ローテーション4番手以降の不安が以前より大きなものとなっています。反対に、今シーズンからブルペンに転向した岩崎優が好調で、リードした展開での継投に加わる見込みが出てきたため、今後は先発陣をカバーするイニングが増えてきそうです。


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ヤクルトは先発陣確保のため、ファームで高橋奎二や梅野雄吾といった若手を試していますが、安定して100球以上を計算できるようになるまでは一軍の戦力として見ることはできないでしょう。一軍のブルペンでは、近藤一樹が勝利継投の一員に加わるようになり、チームにはかなりのプラスとなりそうです。中日は過密日程の交流戦に向け、先発6枚体制を敷きたいところ。今週火曜日に先発するラウル・バルデスが日曜に登板しなければ、一応の形ができあがりそうです。


2週間の個人成績ランキング


今回はパークファクターを考慮した成績集計の影響でWAR関連の指標を差し替えております。何卒ご了承下さい。



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出塁率で目を引くのは糸原健斗(阪神)。今季の打率は.204と低いものの、12日のDeNA戦から19日のヤクルト戦第1打席まで10打席連続出塁を記録。四死球による出塁が7つ、シーズンを通じての四球率も18.9%と非常に高く、選球眼でチームに貢献しています。5月のセ・リーグは外国人選手が好調で、現在本塁打トップのブラッド・エルドレッド(広島)、4本塁打がいずれも勝利につながっているビシエド、打率トップに立ったケーシー・マギー(読売)らは、月間MVPの候補選手にもあがっています。


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パ・リーグでは、近藤健介(日本ハム)が依然として好調。なかでも四球率は27.4%に及び、王貞治が残した年間158四球の日本記録(1974年)を更新しそうなペースです。これにブランドン・レアード、中田翔、大田らが長打力を発揮し、チームを勢いづかせています。空振り率(空振り/投球)は高い選手と低い選手に分けていますが、これはシーズンを通じての数字とほぼ一致しています。


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セ・リーグ投手成績では、21日のDeNA戦で今季初完投勝利を記録した田口麗斗(読売)が、多くの部門でランクイン。年間での防御率もリーグトップに立ち、今後も安定した数字を残せばタイトル獲得も夢ではないでしょう。最多登板のジョシュ・ルーキ(ヤクルト)は、21日の阪神戦で敬遠指示からの暴投で決勝点を許してしまい、不安定な投球と同時に登板過多も心配されます。空振り率では、今月からブルペンの一角を担っているプレストン・ギルメット(ヤクルト)がトップ。チームメイトの近藤も高い数字を残し、球団としてはこの調子が続くことを祈っていることでしょう。


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パ・リーグは毎回同じ顔触れになってきましたが、リック・バンデンハーク(ソフトバンク)は5月に入ってから3連勝中。WBC参加後の不安も、現在はほぼ解消されたといって良いでしょう。ゴンザレス・ヘルメン(オリックス)は、敗戦処理役を引き受けながら、17日のソフトバンク戦から4日連続してマウンドに上がりました。チームでは吉田一将も4連投を記録しており、このあたりは連敗中のブルペン運用の難しさを物語っています。空振り率はソフトバンク勢が強く、チーム全体としてもリーグトップの10.2%、両リーグでは阪神の10.4%に次ぐ2番目の数字を残しています。



高多 薪吾 @hausmlb
個人サイトにて独自で考案したスタッツなどを紹介するほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 投手の運用に関する考察を積極的に行っている。ファンタジーベースボールフリーク。
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