CS出場を決めたDeNAだが9月に入ってからは得点力不足に苦しむ試合が多かった。特に多く打席がまわる1番・桑原将志の調子が上がらないことが得点力低下につながっていたようだ。桑原の打撃に何が起こっていたのだろうか。
桑原の調子とともに9月のDeNA打線は低調に
DeNAと読売の間のセ・リーグCS出場権争いはDeNAに軍配が上がりました。ただDeNAのCS出場権獲得への戦いは順調だったわけではありません。下のグラフは今季DeNAの前後2試合を含む5試合を対象とした1試合平均得点の推移です。9月に入ったあたりに大きな溝があり、CS出場権争いの佳境で大きく得点力を落としていた様子がわかります。
この得点力低下の要因の1つと考えられるのがトップバッター・桑原将志の不調です。打席が回る回数が最も多い1番打者の成績が伸び悩むというのはチームの攻撃力にとって大きなマイナスになります。またDeNA打線は8番に投手、9番に倉本寿彦を配置し、1番の桑原がチャンスで打席を迎えやすいよう工夫されています。こうした打線も桑原の成績が下降したことで機能しづらい状況になりました。桑原の今季8月までの成績と9月の成績を比較すると、9月に大きく調子を落とした様子がわかります。
打率も低いのですが、それ以上に大きく低下しているのが長打力を示すISO(長打率-打率)で、開幕から8月まで.169を記録していた値が9月は.042と落ち込みました。長打が出ないことが成績低下に大きく響いたようです。今回は桑原の打撃、特になぜ長打が出なかったのかを探っていきたいと思います。
まずボールがバットに当たったとき安打になった、フライになったなどを集計したBatted Ballデータを見てみます。
フィールドに飛んだ打球がアウトになった割合を表すBABIPは8月までと大きく変わっていません。こういった不調のときにありがちなのが、不運が重なりフィールドに飛んだ打球が多くアウトとなり、結果として成績が下がり調子が悪くなったように見えるというものです。しかし桑原に関してはフィールドに飛んだ打球がいつもどおりの割合で安打になっており、特別不運が重なったということはなさそうです。
また、8月までに38.7%だったゴロ割合(GB%)が9月には53.6%と大きく上がり、その分52.4%だったフライ割合(FB%)が40.6%に低下しています。ゴロはフライよりも長打になる確率が低いため、ゴロの増加、フライの減少が長打の減少につながっていることは間違いなさそうです。
8月まで長打となっていたコースで打球が上がらない
さて、次に桑原がどういったコースを長打にしているのかを確認してみます。下図は桑原のコース別のISOになります。ストライクゾーンでは全体的に長打を放っていますが、その中でも内角の真ん中、また真ん中の高め、低めで多く長打がでています。ストライクゾーンの内角、または真ん中は投手にとって非常に危険度が高そうです。
桑原が安打を放った投球のプロットを見てみます。8月まではストライクゾーン内ならばまんべんなく長打を放っている様子がわかります。しかし9月に入り真ん中から内角にかけてのコースで長打が激減しています。ただ真ん中から内角でも単打は出ているようで、ヒット自体が出なくなったわけではないようです。
青い長方形で囲んだ内角あるいは真ん中のコースへの投球でのゴロ割合を比較してみると、8月まで38.4%だった数字が50.0%に上がっており、長打にするチャンスだったコースで打球を上げられていない様子がわかります。
桑原の不調は長打の問題だけにとどまらない可能性も
分析の結果、桑原が陥った不調には長打の減少が大いに関わっていること、8月まで長打にしていた内角や真ん中のコースへの投球を長打にできておらず、またそういったコースではゴロの割合が増加しており、打球を上げられていないことがわかりました。
この分析はあくまで長打に焦点を当てたもので桑原の不調のほんの一部を取り出したものに過ぎず、不調の原因としてはもっと大きなものがあるのかもしれません。実際、8月まで16.2%だった桑原の三振割合は9月に26.0%まで上昇しています。今回の分析はそれには踏み込めていません。それでも長打に焦点を絞ることで、不調の一部を分解することができたのではないでしょうか。今後CSの戦いでも桑原が長打を打てているか、内角や真ん中のコースでフライやライナーを打てているかに注目するとさらに楽しめるかもしれません。
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