日本ハムの有原航平が4月の5登板を4勝0敗防御率0.51で終え、月間MVPの最有力候補とされています。昨季はシーズンを通して不調で、一時は救援にまわされることもありましたが、そこから何が変わったのでしょうか。
スイングはさせるがバットに当てられていた有原
まず有原の成績にどの程度の変化が起こっているかを確認したいと思います。有原はストレートの平均球速が140km/h後半を記録する、スピードのある投手です。しかしそれだけの速球をもっているにもかかわらず三振を奪う能力に関しては平均的でした。打者あたりの奪三振の割合を表すK%は、2015年から昨季まで17.9%→16.1%→12.1%→18.5%。大体20%弱がそれぞれの年のリーグ平均となる指標ですが、その基準を超えたことは一度もありませんでした。
三振が少ないということは空振りをあまり奪えていないとほぼイコールといえます。どうしてこのようなことが起こってしまうのでしょうか。表1は2017年の規定投球回到達投手を、ボール球をスイングさせる割合が高かった順に並べたものです。これを見ると2017年の有原は規定投球回に到達した25投手の中で最も高い割合でボール球をスイングさせていたようです。則本昂大(楽天)や菅野智之(読売)、菊池雄星(西武)よりも上位にランクインしており、有原の投球が打者にとって思わずスイングしてしまうものだったことがわかります。
ですが、このスイングさせたボール球で空振りをとれていたかどうかまで踏み込むとまた見え方が違ってきます。ボール球コンタクト率を見てみましょう。この指標は数字が小さいほど優れていることになります。これを見ると則本や千賀滉大(ソフトバンク)、菊池など奪三振能力が高い投手が上位にランクインしています。そんな中、さきほどボール球を振らせる割合が最も高かった有原は20位。平均よりもかなりボール球をコンタクトされていたようです。
つまり有原はボール球を振らせることには成功しているにもかかわらず、空振りはあまりとれていない投手だったということです。投手が空振りをとる工程を
①スイングさせる
②バットに当てさせない
の2つに分けるならば、有原は①をハイレベルでクリアしているにもかかわらず、②に課題があるため空振り、また三振が奪えていなかったという状態です。
だが今季はそのK%が28.5%で千賀に次ぐ12球団2位(4月終了時点)。突如として三振を量産しはじめました。この裏側にはなにがあるのでしょうか。
日本ハム移籍の金子直伝チェンジアップが増加
昨季からの特徴的な変化として挙げられるものとしてチェンジアップの増加があります。図1は有原のチェンジアップの投球割合の変化を示したものです。これを見ると2017年から9.4%→10.5%と推移していたチェンジアップが今季は18.7%まで増加しています。
報道によると、有原は今季、オリックスから移籍してきた金子弌大からチェンジアップの投げ方について助言を受けたそうです。これほど投球割合を増加させるということは本人としても自信や球種の効果を感じているはずです。チェンジアップにどのような変化が現れているか調べてみます。
有原はチェンジアップを右打者にはほとんど投げません。2017年の239球のうち右打者に対するものは13球、昨季は179球中2球、今季は4月終了時点で0球といった具合です。ということで今回は分析の対象を左打者へのチェンジアップにしぼります。
まず有原が左投手に対してどのようなカウントでチェンジアップを投じているかを表3に示します。これを見るとカウントにかかわらず、今季はチェンジアップをより高い割合で投じていることが確認できます。特に2ストライクに追い込んでからのチェンジアップの投球割合は47.4%とかなりのものです。昨季から比べると倍以上の割合で投げられており、左打者への決め球となっていることがわかります。
次に、実際に有原がどのようなコースにチェンジアップを投じていたかを具体的にチェックしてみます(図2)。これを見ると、まず2017-18年によく投げられていた左打者の内角低めボール球が今季はほとんど投げられていないことがわかります。黒枠で囲んだ部分がそれにあたります。
その分今季のチェンジアップは全体的に高めに浮いているようです。一般的に変化球は低めに投げるべきとされますが、今季の有原のチェンジアップはそのセオリーから外れています。そしてそれにもかかわらずチェンジアップで空振りを多くとっています。
ストライクゾーンの下辺より上の高さのチェンジアップをスイングされた場合の、空振り割合を比べてみます。これを見ると、低めのボール球にならなかった場合でも、昨季の23.3%の倍近い45.2%の割合で空振りを奪っているようです。
ですがこれは高めに浮かせることが功を奏したというわけではなさそうです。どちらかというとチェンジアップの質が向上した結果、高めに浮いたとしても問題ないと有原が感じて投げ込んでいるという解釈のほうが妥当なのではないかと思います。図2で内角低めのボール球が減っていたのも、無理にチェンジアップを低めに投げなくても空振りを奪えるという意識のあらわれではないでしょうか。
チェンジアップの変化は全体的な成長のごく一部
今回は有原のチェンジアップにしぼり、その変化を確認しました。金子から助言を受けたと報道された記事の中で、「落差だけでなくブレーキも利かせ」という表現がされていましたが、このブレーキというところに大きな意味があるのかもしれません。次回の登板ではチェンジアップがどういった高さに投げられているかに注目して観戦してはいかがでしょうか。
ただ有原の今季の変化はチェンジアップだけではなさそうです。チェンジアップを1球も投じていない右打者に対しても奪三振のペースが大幅に上がっているためです。今回のチェンジアップの変化は有原の成長のごく一部と考えるのが自然ではないでしょうか。今後登板が増える中で、チェンジアップ以外の部分に関しても分析を進めていけたらと思います。