その代走はどれだけ確率を上げる? 走塁能力は得点にどの程度影響を与えるのか

市川 博久

2024.10.21


走塁は「数字に表れない」とされがちなプレーだ。ただかつては解明されなかった走塁の価値についても、先行研究によって定量化されて明確になってきた。平均的な選手と比較して、走塁によってどれだけの得点を増やしあるいは減らしたかを表すUBRがその代表だ。しかし、シーズンを通じた選手の走塁による得点は知られている一方で、ミクロでみた場合、走塁能力の差異がどの程度の影響を与えるのかについては、あまり知られているとは言い難い。例えば、代走を出すか否かについても、試合終盤僅差の状況で足の遅い選手を速い選手に代えることで、得点確率がどの程度上がるか、打力の高い打者を交代させてまで代走を出すべきかといったことが、ある程度具体性を持った数字をもとに議論されることは少ない。そこでこのような疑問に答えるべく、走塁能力の差異が得点に与える影響を調べてみた。

分析の下準備

今回の分析では2021年~2023年までのNPBでのデータを使用した。この分析にあたって走塁能力をどのように定量化して選手を分類するかが問題となるが、今回は以下のような方法によった。

    1.走者一塁(一二塁、一三塁、満塁を含まない)から打者が単打を打ったときに三塁まで進塁できた割合を求め、40%を超えた選手を3点、0%を超えて40%以下の選手を2点、0%または該当する機会がなかった選手を1点とする。
    2.走者二塁または一二塁から打者が単打を打ったときに二塁走者が本塁まで進塁できた割合を求め、66.6%を超えた選手を3点、25.0%を超えて66.6%以下の選手を2点、25.0%以下または該当する機会がなかった選手を1点とする。
    3.①と②の数値を合計した数字をその選手の走塁レベルとし、2点から6点まで5つのグループに分類した。

これらによって数字が大きいほど走塁のレベルが高い選手と判断することができる。なお、年度が異なる場合は同じ選手でも別の選手と扱い、①、②ともに、概ね3点の選手が上位25%、1点の選手が機会がなかった選手を除いて下位25%となるように調整した[1]

この方法で走者を分類した結果、各塁のレベル別ののべ走者数は以下のとおりとなった。

走者能力によって進塁結果にどの程度の違いがあるか

ここからは走者の能力によって、進塁結果にどの程度の違いがあるのかを見ていく。単打が出れば、走者は最低1つの塁を進むことができるが、場合によっては2つ以上進むこともできる。また、内野ゴロの際の併殺回避や走者三塁からの外野フライで本塁生還できるかといったケースなども走者の能力が影響していると考えられる。その差異がどの程度であるのかを具体的に調べていった。

単打発生時における一塁走者の三塁進塁(走者一塁時のみを対象)

まずは単打時に一塁走者が三塁進塁を企図した割合を見ていく(表2-1)。なお、先行する走者の能力に影響される可能性を排除するために、一二塁、一三塁、満塁の場合は除いている。

走者のレベルによって三塁進塁を企図した割合は異なるが、最もレベルが高いレベル6では50%を超える割合で三塁進塁を企図している。また、アウトカウントによっても進塁企図割合には変化が見られ、無死または1死と比べると2死では10%ほど割合が増えている。この傾向は走塁能力がレベル3-5の走者で顕著であった一方で、レベル6とレベル2、すなわち最もレベルが高い・低いグループではアウトカウントによる進塁企図率の差異は見られなかった。

次に単打時に三塁進塁を企図した場合に三塁でセーフとなった割合を見ていく(表2-2)。

ほとんど三塁に進塁を企図しないレベル2を除くとセーフとなった割合には大きな差は見られず、いずれのグループも95%以上の割合でセーフとなっている。また、アウトカウントによる割合の変化も見られない。こうした結果からすると、単打時に一塁走者が三塁に進むか否かについては、かなり慎重な判断をしており、ある程度アウトになる危険性を冒してでも進塁を目指すことは少ないといえる。さらに、三塁進塁を企図した割合は走者のレベルによって大きな差があったものの、セーフとなった割合については大差がなかった。これからすると、一塁走者が進塁するか否かの判断はその走者の能力に応じてほぼ正確に行えているということもうかがえる。

二塁打発生時における一塁走者の本塁生還(走者一塁時のみを対象)

続いて、同じく走者一塁で二塁打が出た場合に一塁走者が本塁への進塁を企図した割合を見ていく(表3-1)。

単打の場合と比較すると二塁打の場合の方が、先の塁に進むことを企図する割合は高くなっている。走者のレベルによって本塁への進塁を企図する割合は異なるが、単打の場合と比較するとその差は大きくない。また、無死と1死の間には本塁への進塁を企図する割合にさほど差は見られないが、2死となると進塁を企図する割合は大きく上昇しており、ほとんどのグループで50%を超えている。

では、本塁でセーフとなった割合はどのようになっているか(表3-2)。

単打の場合と比較すると、走者のレベルによって、本塁でセーフとなった割合にも変化が見られる。無死ではいずれのグループでも、かなり慎重に進塁を企図するか否かを判断しているようで、セーフとなった割合は100%に近い。1死の場合には90%を下回っており、アウトカウントによってどの程度のリスクを冒すかを選択している様子がうかがわれる。2死の場合にも無死と比べるとセーフになった割合は低くなっているが、1死に比べると高いという少々意外な結果となった。無死や1死と異なり、2死では走者が打った瞬間にスタートできることが影響しているのかもしれない。無死の場合は、一塁走者の能力によって本塁でセーフとなった割合に差はなかったが、1死と2死では走者のレベルが高いほどセーフとなった割合も高くなっている。単打の場合と異なり、走者のレベルが低いほどアウトとなってしまう可能性が上がっていることからすると、二塁打の場合には単打と比較して守備側が打球を処理して目的の塁に送球するまでの時間が不確定であることから、判断が難しいのかもしれない。

単打発生時における二塁走者の本塁生還(走者二塁&一二塁を対象)

次に走者が二塁または一二塁で単打が出た場合について、二塁走者のレベル別に本塁への進塁を企図した割合がどのように変化しているかを見ていく(表4-1)。

アウトカウントによらず、走者のレベルが高いほど本塁への進塁を企図する割合が増えている。特に無死や1死で走者のレベルによる割合の差が大きくなっており、レベル2の走者は無死や1死での企図割合は3%前後に過ぎないのに対して、レベル5、6の走者は、いずれも50%以上の割合で本塁への進塁を企図している。

では、本塁でセーフとなった割合はどのようになっているか(表4-2)。

傾向としては、走者のレベルが高いほどセーフとなる割合も高くなっているが、特にレベル4を下回るとセーフとなる割合が大きく低下していることが分かる。レベル6と5と4の差はあまり大きくないが、レベル4と3と2の差はかなり大きくなっている。単打で本塁への進塁を企図する割合も二塁走者の能力に応じて低くなっているが、それでも走者の能力が低い場合には本塁でアウトとなる割合がかなり高い。

また、意外なことにアウトカウントによって本塁でセーフとなる割合はあまり変わっておらず、いずれも全体の平均では90%前後に収まっている。理論的にはアウトカウントが多いほど、高いリスクを冒すことが望ましいといえるが、実際には走者(及び走塁コーチ)は自身の能力を踏まえて、ある程度確実にセーフが見込まれる場合を選んで本塁を目指すケースが多いようだ。

内野ゴロ発生時における三塁走者の本塁生還(走者三塁のみを対象)

続いて、無死または1死で走者が三塁にいる場合(一三塁、二三塁、満塁は含まない)に内野ゴロが出た場合(ヒットや失策となった場合は含まない)に三塁走者が本塁への進塁を企図した割合を見ていく(表5-1)。

最もレベルの高いレベル6が他と比較して、5%ほど本塁進塁を企図する割合が高くなっているが、それ以外の中ではあまり差がない。ただし、無死の場合には三塁走者のレベルと本塁進塁を企図する割合に関連性が見られない。

次に本塁進塁を企図した場合に、本塁でセーフとなる割合も見ていく(表5-2)。

走者のレベルが高いほど本塁でセーフとなる割合も高い傾向は見られたが、最もセーフとなる割合が高いのはレベル5であった。レベル6は、本塁進塁を企図する割合が他のグループより高かったが、ややリスクを冒す傾向が見られるようだ。ただ、他の場合と比べると内野ゴロで本塁セーフとなった割合は走者の能力ごとの差が小さい。能力の高い走者であっても、内野ゴロ時に極短時間の限られた情報で、本塁に進塁した場合にセーフとなるか否かを判断することは非常に難しいことがうかがえる。

外野フライ発生時における三塁走者の本塁生還(走者三塁、一三塁、二三塁、満塁を対象)

では、同じく走者が無死または1死で三塁にいる場合(一三塁、二三塁、満塁を含む)に外野フライが上がったときに犠牲フライとなる割合は変わってくるだろうか。犠牲フライとなる割合は、打球の飛距離によって変わってくるため、外野フライがヒットにならなかった場合で、飛距離ごとに犠牲フライとなった割合を調べた(表6)。なお打球の距離は以下の図1を示す。数字が大きくなるほどより遠くに飛んだと考えてほしい。

この場合も走者のレベルが高いほど犠牲フライとなる割合も高くなっているが、フライの飛距離ごとに見ていくと、距離が4または5、つまり外野の定位置よりも前方のフライの場合は走者のレベルと犠牲フライとなった割合に関係がなく、距離が7または8、つまり外野の定位置よりも後方のフライの場合は、いずれのグループでも90%以上の割合で犠牲フライとなっている。走者のレベルが犠牲フライとなった割合に大きく影響しているのは、外野定位置付近の飛距離が6の場合となっている。内野ゴロと比較すると、走者のレベルが重要ではあるものの、打球の飛距離の方がより影響が大きい。

内野ゴロ発生時における一塁走者の併殺阻止(無死または1死一塁を対象)

最後に一塁走者の能力が併殺を阻止することにどれだけ影響しているかを見ていく(表7)。

無死または1死一塁(一二塁、一三塁、満塁を含まない)時に内野ゴロが出た場合に、併殺となるか否かだけ見ると、必ずしも一塁走者のレベルが高いほど併殺割合が下がるわけではない。しかし併殺割合と一塁走者のみアウトとなる割合の合計を比べると、一塁走者のレベルが高いほど一塁走者がアウトになる割合が下がっていることがわかる。併殺となるか否かは、打球の速さや打者走者の能力も影響するが、一塁走者がアウトとなる割合は走者のレベルに応じて下がっていることからすれば、一塁走者の能力によって併殺を阻止することに繋がる傾向はあるといえる。ただし、レベル6でも43.5%は併殺、一塁走者がアウトとなる割合は67.9%とかなり高いので、走者一塁時に内野ゴロを打つことの弊害をカバーできているとは言い難い。走者二塁ならばともかく、走者一塁で進塁打を目的としてゴロを打つような打撃はヒットの可能性を下げることに目をつぶっても得策とはいえない。

走者能力によって得点確率にどの程度の違いがあるか

これまでは打撃結果ごとの進塁結果の差異を見ていたが、こうした差異が最終的に得点確率にどの程度の差異を生み出しているかを見ていく。

走者一塁時

まずは走者一塁時の得点確率を見ていく(表8)。

いずれも走者のレベルが高いほど得点確率が高くなっている。

レベル6では無死のときには、41.8%と平均よりも3%ほど得点確率が高くなっている。これに対して、レベル2では31.8%と平均よりも7%ほど得点確率が低くなっている。走者の能力の差によっては、無視できないレベルの差が生じており、代走を有効に起用しやすい局面といえる。

ただ能力の影響がどの状況でも一定というわけではない。アウトカウントによらず、走者の能力が高いほど得点確率は高くなっているものの、アウトカウントが増えるほどそれぞれのグループの差も小さくなっていく傾向がある。走者一塁時はアウトカウントが少ないほど走者の能力の差によって生まれる得点確率の差が大きいといえる。

走者二塁、一二塁時

次に走者二塁及び一二塁時の得点確率を見ていく(表9)。

無死の場合は、レベル6は平均より8%ほど得点確率が高く、レベル2は5%ほど得点確率が低くなっているものの、その他のグループでは得点確率に大きな差は見られない。1死や2死でも、レベル6、2は平均にあたるレベル4との大きな差が見られたが、レベル5と4の間には差が見られなかった。

走者一塁の場合と比べてサンプルサイズが小さくなったためか、はっきりとした傾向は見えづらくなっているが、走者の能力が高いほど得点確率が高くなる傾向は走者一塁の場合と同様だ。

走者三塁、一三塁、二三塁、満塁時

最後に走者三塁、一三塁、二三塁、満塁時の得点確率を見ていく(表10)。

走者一塁や二塁、一二塁と異なり、三塁走者の能力と得点確率の関連性はほとんど見られない。とりわけ無死はサンプルサイズが小さくなった影響が大きいだろうが、得点確率は平均でも83.8%と極めて高いことも影響しているだろう。既に述べたように、内野ゴロや外野フライで三塁走者が本塁に生還できるか否かに、走者一塁や二塁での単打や二塁打ほど走者の能力が影響していないこともその一因だろう。2死の場合も、結局は打者がヒットを打てるか(満塁の場合は出塁できるか)否かに依存しているため、走者の能力が影響しないというのも当然と思われる。

唯一、1死の場合にはレベル6と5でわずかに得点確率が高くなっているが、その差は1%から2%に過ぎない。

三塁走者が内野ゴロを好判断で本塁突入し、得点というシーンの印象からか、無死や1死ならば三塁走者の能力が重要と思われるかもしれないが、そのようなシーンはごく一部に過ぎず、三塁まで進んでしまえば、もはや走者の能力はほとんど関係がないというのが実情のようだ。

以上の結果からすると、仮に代走を送る場合は、走者一塁または二塁にいるときで、アウトカウントが少ないときほど有効になりやすいといえ、三塁走者に代走を出す意味はあまりないといえる。

鈍足選手に俊足選手を代走に出すことの現実性とデメリット

走者の能力別の得点確率を見ると、平均にあたるレベル4の走者に最も高いレベル6の走者を代走に出せば3%ほど、最も低いレベル2の走者にレベル6の走者を出すことができれば、場面次第で10%ほども得点確率を高めることができるように思える。レベル4の選手との交代では大きな差は生まれないものの、レベル2の走者に対する代走は極めて価値が高いように思える。

ただ、このような好条件が実際の試合で揃う局面はそう多くないように思われる。

次の表は、走者のレベルとwOBA(weighted On Base Average)との対応関係を整理したものだ(表11)。

このように選手数ベースで考えると、レベル6の走者は非常に少ない。レベル6や5の走者がベンチにどれだけ控えているかという問題が生じる。

また、代走として起用される選手は一般的に打力が低いという問題がある。表を見ても分かるように、打力が高く走塁能力も高いという選手は極めて少ない。仮にそのように、打力も高く走塁能力も高いという選手ならば、ほぼ間違いなくスターティングメンバーとして起用されているだろうから、走塁能力が高くスターティングメンバーとなっていない選手は必然的にその大半が打力に課題のある選手ということになるだろう。

そのような選手であったとしても、代走として出場した後は打席が回ってこないような状況であれば問題はない。しかし、以後も打席が回ってくるような状況では、代走を出すか否かは慎重に考えるべきだ。

これは打者をwOBAで分類し、1打席当たりの得点確率の変化を整理した表だ(表12)。仮に代走に出した選手が控え選手レベルの打力であるwOBAが.280未満だった場合には、1打席当たりで得点確率が2.5%下がっている。これは全ての状況を平均した数値であるため、2死や走者なしのような場面ならば、得点確率の変化はより小さく、無死や走者ありのような場面であれば、得点確率の変化はより大きくなる。例えば、3・ 4・5番打者のように打力が高いことが多く、チャンスで回ってくる可能性が高い打順に代走を出すケースでは得点確率の変化はより大きくなると考えられる。

8回や9回で同点や1点ビハインドあるいは僅差でリードしている状況ならば、さほど気にすることではないが、7回以前や2点以上のビハインドでの代走起用は、代走によって上昇させた得点確率以上に後々得点確率を下げる結果となる危険性も考えなければならない。

まとめ

以上のように、これまであまり分析されることがなかった走者の能力と進塁結果、得点確率との関係を整理してみた。しかし結果的には一般的に流布している見解と大きくは異ならない結果となった。ただ、その差を定量化することで、他の能力や作戦との比較が可能となった点に価値があったと思われる。

[1] UBRを利用する方法も検討したが、出場機会の差が大きく影響を与えてしまうため、比較的機会が多いと思われる状況での進塁結果を利用して分類することとした。

市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート7』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

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