野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“デルタ・フィールディング・アワード2024”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は一塁手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象一塁手に対する6人のアナリストの採点

一塁手部門では山川穂高(ソフトバンク)が満票を獲得。本企画では初めての受賞となりました。他ポジションで受賞した選手と比較して圧倒的な守備成績を残したわけではないものの、守備範囲、失策回避、併殺完成といった各項目で平均以上の評価を得ていたようです。また、アナリスト佐藤氏からは「左打者の速いゴロに対する高いアウト率が特徴的」というコメントが上がっています。

2位以降には4人のアナリストから2位票を獲得した鈴木大地(楽天)、2位票を2票獲得したタイラー・オースティン(DeNA)が続きます。鈴木は昨年の8位(10名中)から大幅にランクアップ。すでに35歳とベテランの域に差し掛かっていますが、元二遊間の選手としての面目を保っています。オースティンは打撃のはたらきが注目されがちですが、一塁守備においても一定の評価を得ました。

4位は岡本和真(読売)。岡本は2020年に三塁手として受賞した選手ですが、一塁手としては受賞に至らず。アナリスト二階堂氏は、一塁手特有のプレーとして「スクーピング(ショートバウンド送球をうまく捕球することができたか)」にも注目。岡本はこの項目で優秀な成績を収めていたようです。5位はアリエル・マルティネス(日本ハム)。岡本同様他ポジションの経験も豊富な選手ですが、今季は一塁に専念。初めて一塁をフルシーズン守りましたが、まずまずの評価といったところでしょうか。

昨年受賞者の大山悠輔(阪神)はまさかの6位。今季は打撃の不調が目立ちましたが、守備においても苦戦していたようです。昨季セ・リーグ優勝の阪神は大山をはじめ主力野手が軒並み守備成績を落としており、アナリスト道作氏からは「この守備成績の悪化が優勝を逃した大きな原因」とのコメントも上がっています。

下位票の多くは ホセ・オスナ(ヤクルト)ネフタリ・ソト(ロッテ)ら外国人選手に集中。ソトは2022年の受賞者ですが、今季は大きく評価を落としてしまいました。アナリストからは全体の傾向として「例年に比べて評価に大きな差が生まれなかった」という声が多く上がっています。ただ、結果的には満票を獲得した山川や下位票を集めた外国人選手らをはじめとして採点のばらつきはほとんど見られませんでした。

    各アナリストの評価手法(一塁手編)
  • 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析。スクープ評価も取り入れた
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手は一塁送球の処理(キャッチミス、スクープなど)を考慮し順位付け
  • 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
  • 宮下:守備範囲、併殺完成評価を機械学習によって算出
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施。一塁特有の事情としてスクープ評価も盛り込んだ

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

UZRトップは山川。2位以下に鈴木、オースティンと続いており、アナリストの評価と大きな違いは見られません。昨季トップのUZR11.1を記録した大山は、今季UZR-6.0と大きく成績を落としました。

一般的に一塁手の守備範囲に注目が集まることは少ないですが、やはりここでも守備範囲評価RngRが選手間の差を生んでいます。具体的にどういった打球を得意・不得意としているのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。以降、選手ごとに表示される図はどのゾーンの打球処理を得意・不得意としていたかを表したものです。値は平均的な一塁手と比較してどれだけ失点を防いだかを示します。

山川穂高(ソフトバンク)

山川の守備範囲評価は全体トップの4.0。満遍なくアウトを増やしており、弱点がほとんど見あたりません。特に一二塁間のゾーンVで2.9点と多くの失点を防いでいます。移籍1年目の今季は打撃での活躍が目立ちましたが、一塁守備でもチームに貢献していたようです。

鈴木大地(楽天)

鈴木の守備範囲評価は0.7とほぼ平均クラス。本企画では昨年より大きく順位を上げたものの、極端に守備範囲が広くなったというわけではないようです(昨季守備範囲評価-1.5)。はっきりとした傾向は表れておらず、どのエリアでも満遍なく打球を処理しているのが特徴でしょうか。昨季は一二塁間の打球を苦手としていましたが、今季はまずまずの処理能力を見せています。

タイラー・オースティン(DeNA)

オースティンの守備範囲評価は2.8。一二塁間の打球を得意としており、定位置から離れたゾーン、具体的にはゾーンS、Tでもプラスを記録しています。一塁線の打球で少し失点を増やしていますが、致命的と言える数字ではありません。圧倒的な打力に注目が集まりがちですが、一塁守備での貢献も見逃せない選手です。

岡本和真(読売)

岡本の守備範囲評価は0.8。全体的に見ると平均クラスの評価ですが、ゾーン別に見ると得意・不得意がはっきりしているのが特徴です。定位置すぐ横のゾーンV、Xでは優れた処理能力を見せている一方、定位置にあたるゾーンWでは-2.3とマイナスを記録しています。定位置から離れたエリア、具体的にはゾーンU、Sなどでも失点を増やしており、守備範囲が広い選手とは言えなさそうです。

アリエル・マルティネス(日本ハム)

マルティネスの守備範囲評価は-0.8。過去には捕手、左翼なども守っていた選手ですが、今季は一塁に専念。平均クラスの守備範囲評価を記録しました。定位置では一定の処理能力を見せましたが、一塁線のゾーンXでは-1.5と大きくマイナスに。守備範囲はあまり広くありませんが、最低限の処理能力は備えているようです。

大山悠輔(阪神)

大山の守備範囲評価は-3.1。昨季はトップの守備範囲評価9.5を記録しましたが、この1年で守備成績が大幅に悪化しています。これに関してアナリスト道作氏からは、守備には意外に好不調がつきまとうこと、1年では安定しにくい点が指摘されました。ゾーン別に見ると、昨季は広い範囲で満遍なくアウトを増やしていたものの、今季はほぼすべてのゾーンでマイナスという結果に。特に一塁線の打球で大きく失点を増やしてしまいました。

ネフタリ・ソト(ロッテ)

ソトの守備範囲評価はワーストの-6.7。2022年には一塁手として本企画を受賞した選手ですが、今季は成績を大きく落としています。致命的な弱点となったのが一二塁間の打球。特に定位置真横のゾーンVでは-4.2と多くの失点を喫しています。すでに35歳とベテランの域に差し掛かっており、これ以上の改善も期待しづらいかもしれません。

ホセ・オスナ(ヤクルト)

オスナの守備範囲評価は-5.5。毎年マイナスの守備範囲評価を記録しており、特に一塁線の打球を苦手としていた選手です。ただ今季はその傾向に変化があり、一塁線にあたるゾーンXで平均クラスの処理能力を見せています。一方、例年得意としていた一二塁間の打球では大きくマイナスに。もしかしたらポジショニングを一塁側に変更するなどの調整を行ったのかもしれません。

来季の展望

今年は山川が満票での受賞となりましたが、他ポジションに比べると選手間の評価は僅差。来年も激戦が予想されるのではないでしょうか。新外国人選手の加入やコンバート状況によっては、今年名前が挙がらなかった選手が上位になるかもしれません。



データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2024”受賞選手発表
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