広島は鈴木誠也の故障などで独走態勢に暗雲がたちこめてきた。一方のパ・リーグは楽天と西武が失速し、ソフトバンクと2位楽天のゲーム差は9.5に。個人成績では読売の新人・畠が投手
WAR(Wins Above Replacement)でトップに立つなど大健闘を見せた。前回は
こちらから。(データはすべて8月27日時点)
セ・パ両リーグの順位おさらい
8月22日からのDeNA3連戦は首位を走る広島にとって今後に不安が残る戦いとなりました。3試合連続でサヨナラ負けを喫し、うち2試合はリードした9回に追いつかれ、ひっくり返されたもの。さらに、守備の際に右足を痛めた鈴木誠也が今季ほぼ絶望というアクシデントも発生するなど悪いニュースが続きました。そうした中、緒方孝市監督は3連戦の最中に守護神を今村猛から中崎翔太に戻し、失点が続くブルペン陣に改善策を打ちました。ペナントレースの先にあるポストシーズンを勝ち抜くには、ブルペン陣のコンディション維持は欠かすことはできません。反対に、広島を追いかけるチームはポストシーズンまでにブルペンの疲労を誘い、クライマックスシリーズで起死回生の逆転劇を狙う戦法を取ることも可能です。
広島を追いかけるのは阪神とDeNA、そして読売。この2週間では勝敗が拮抗し合い、一気に抜け出すまでの状況には至っていませんが、読売は新人の畠世周が8月27日の阪神戦で7回11奪三振無失点の快投。菅野智之、マイルズ・マイコラス、田口麗斗の三本柱に続き、ライバル球団にとっては厄介な投手がまた1人増えました。阪神戦での先発を回避した菅野の状態は気になるところですが、今週のDeNA3連戦で復帰するとの報道もあり、差し当たって問題はなさそうです。DeNAは広島を3タテするなど勢いに乗っていますが、リーグ打率トップを走る宮﨑敏郎がこの2週間で打率.159と調子が下降気味です。攻撃陣は決して層の厚いチームではないだけに、主力選手のコンディションはファンも気がかりでしょう。阪神は、ランディ・メッセンジャーの故障離脱で一時はどうなるかと思われましたが、8月18日の中日戦から秋山拓巳が復帰、8月27日の巨人戦では藤浪晋太郎が復活の手応えを感じさせる投球を見せ、2位をキープしています。
中日とヤクルトは、どちらも期間内負け越しと情勢を覆せず。先発陣がゲームを作る役目を果たせなかったため、あっさりと決着がついてしまう試合も少なくありませんでした。中日には福田永将、ヤクルトにはウラディミール・バレンティンと好調な大砲こそいましたが、一発のある打者が少ないと得点機はどうしても減ってしまい、点の奪い合いでは後れを取ってしまいがち。これはそのまま来季への課題にもなるでしょう。
3強での優勝争いが期待されたパ・リーグでしたが、楽天と西武が失速。期間中9勝3敗と大きく勝ち越したソフトバンクが独走態勢を固める展開となりました。8月18日からの楽天3連戦でスイープを果たしたソフトバンクは、続く西武との3連戦にも全勝し、ここで一気にゲーム差が開くことに。ソフトバンクは8月27日に和田毅が復帰登板で好投し、チームの弱点も埋まってきた感があります。
楽天は8月18日からの西武、ソフトバンク戦6試合に全敗したあとも、ロッテと日本ハムを相手に1勝5敗で、期間内1勝11敗と大きく後退してしまいました。8月19日に松井裕樹が戻ってくるまでの間には、救援失敗が原因となる敗戦は2度しかありませんでしたが、8月の先発防御率3.98に対し救援防御率は5.01、対する攻撃力は平均3.09得点と投打のバランスを失っています。チームは、2年目のオコエ瑠偉を1番に起用するなどカンフル剤を投入してきましたが、それでも連敗は止まっていません。西武もソフトバンクを相手に3連敗を喫し、その後のオリックス戦も負け越しと勢いが止まった様子。8月24日に先発した菊池雄星が不正投球を取られたショックは大きく、球団と審判団の間で意見の食い違いも生じていることから今後も尾を引きそうな案件です。
Bクラスの3球団に目をやると、日本ハムがこの2週間で9勝2敗と息を吹き返し、オリックスとロッテも上位球団を相手に互角の戦いを演じています。日本ハムは、期間内での打率.429を記録した大谷翔平に打線が引っ張られる形で得点力はやや上昇。先発陣は短いイニングながらもリードを保ち、強力なブルペンが勝利に導いています。オリックスは対戦カードによって得点力のムラがあるものの、12試合で16本塁打を記録した長打力で
試合を有利に運びました。ロッテも打線が好調。前半戦は不振に苦しんだ荻野貴司と角中勝也が、8月に入ってから調子を取り戻し、荻野は今月だけで4本塁打、角中は月間打率.364を記録しています。
一・二軍デプスチャート
※8月29日に予告先発が発表されている投手は一軍のデプスチャートに置いています。
画像にマウスをのせる(スマートフォンの場合タップする)と一・二軍が切り替わります。
ソフトバンクは先週、プロ3年目の笠谷俊介と2年目の小澤怜史を一軍に昇格させ、勝ちながら来季への準備を着々と進めています。笠谷は昨季、左肘痛のためファームでも登板がなく、今季もウエスタンリーグの公式戦に登板したのは6月9日と出遅れましたが、13 1/3回を投げ21奪三振と結果を残し、一軍のブルペンに食い込めそうな力をつけてきました。小澤は恵まれた体格を持ったパワーアームで、ファームでは先発と救援の両方で起用。今回の昇格は顔見世程度で終わりましたが故障者が出た場合はポストシーズンでの起用も考えられ、経験を積ませたのは大きな意味があります。
楽天は、8月22日のロッテ戦でプロ初勝利を挙げた藤平尚真の一軍定着に期待がかかるところですが、イニング制限が敷かれる可能性もなくはありません。現時点での藤平の公式戦登板イニングは、一軍(16イニング)と二軍(73イニング)合わせて89イニングですが、今週以降も先発として登板を続けるなら100イニングを突破することは間違いありません。今季高卒新人投手の中では、京山将弥(DeNA)が61、梅野雄吾(ヤクルト)の55とイニングが多くなっていますが、藤平は彼らを優に超える断トツのイニング数です。育成を優先させ、秋季リーグでも登板機会を設けることになるとイニング数はさらに増えることになるため、球団の対応が注目されます。
西武は8月17日付で腰痛に苦しんでいた中村剛也を一軍登録から外しました。代わりに山川穂高を4番、外崎修汰を三塁で起用する新オーダーで臨みましたが、ソフトバンクとの対戦では中村不在が響きました。一軍復帰以来、快音を聞かせている森友哉もフル出場という訳にはいかない様子で、打順が日々変わっていることが気がかりな点。経験の少ない選手がラインアップに多く入っているため、対策を講じきれない試合も出てきそうですが、1つでも上の順位を目指すには乗り越えなければならない山です。ベテランの栗山巧、復調気味のエルネスト・メヒアらのサポートもかなり重要になってくるでしょう。
オリックスは、8月22日の日本ハム戦で西勇輝が左手首に打球を受け、今季中の復帰がほぼ絶望となりました。今後は8月31日に先発が噂されている山本由伸や吉田凌ら若い力を試しながらの戦いが予想されます。野手の方でも、小谷野栄一が8月25日の西武戦で体調不良のためゲーム途中で退くなど、ベテラン達にも疲れが見えはじめています。実績、成績優先で起用している感のある福良淳一監督ですが、今のうちから来季に向けた起用法を取っていかなければチームの方向性が見えてこないのも確かです。
正遊撃手の中島卓也が右内腹斜筋筋挫傷により一軍登録を外れた日本ハムは、数年来の課題をクリアする時期がやってきました。8月28日の時点で、一軍で遊撃を守れる選手は太田賢吾のみ。本日中にも石井一成か平沼翔太の昇格も予想されますが、中島不在の間は経験不足が大きなネックになる可能性は少なくありません。反対に、ここで若手を試しておけば今秋のドラフトで即戦力の遊撃手を指名するか否かの判断材料にもなり、球団の展望としては決して損な取引に終始するわけでもないでしょう。また、8月27日の楽天戦では、前日までの2日間で3イニングを投げていた増井浩俊に代わって白村明弘を終盤に起用。将来の守護神候補選びも念頭に置いているようです。
ロッテは、今季限りで引退を表明している井口資仁が、自身の申し出により9月24日に予定されている引退試合まで一軍を離れることになりました。チームが来季を見据えた戦いをしていることは、井口本人もじゅうぶん感じていたようで、8月に入ってから打撃好調なチームを見て、一軍の座を若手に譲る決心がついたようです。残りシーズンで井口の最後の雄姿を見ようとしていたファンはがっかりしたかもしれませんが、世代交代をしない限りチームはいつまで経っても前進することはないでしょう。この決断は、後に大きな財産にもなるかもしれません。
広島で注目したい点は、5年目の辻空が今月途中からファームの守護神を任されるようになったことです。すでに3セーブを稼いでおり、最速153kmの速球はファームの選手ではなかなか打ち込むことが難しいようです。育成出身の辻は、かつては秘密兵器と期待された時期もありましたが、制球難がなかなか克服できずに二軍でも登板機会を失いかけていました。ここにきての抜擢は、一軍のブルペンが困窮しだしたのと無関係ではなさそうです。今週以降特に注目する必要がある若手投手の1人です。
阪神では、8月18日に一軍登録を抹消された高山俊がファームで好調。ファームでは打率.359、3本塁打と別格の存在感を見せつけています。現状外野レギュラーの座は、ベテランの福留孝介と糸井嘉男の調子が非常に良く、8月5本塁打の中谷将大が中堅に定着している様子から簡単には奪えそうもありませんが、どんな状況でも結果を残すことは大切です。仮にこのままシーズンを終えたとしても、ドラフトやFA、外国人選手の補強の必要がないことを球団にアピールしないことには、来季以降ライバルが増えてしまうからです。
DeNAは、8月18日にブルペンの一角だった三上朋也をファームに落とし、その分ブルペンがやや手薄になっています。代わって昇格を果たしたのは新人の尾仲祐哉で、8月26日のヤクルト戦では同点の場面でマウンドに上りましたが2点を失い敗戦投手に。ファームでは大勢の投手が待機している状況ではありますが、アレックス・ラミレス監督はブルペンの入れ替えをなかなか実行しようとしません。守護神を務める山﨑康晃は現在リーグ2番目の55試合に登板、砂田毅樹も49試合と登板過多が気になりますが、そこは広島や阪神と同じ条件でもあり、今週以降はさらに我慢比べの様相にもなってきそうです。
読売は2年目の宇佐見真吾が8月18日のDeNA戦でサヨナラ本塁打、さらに25日の阪神戦でも青柳晃洋から同点2ランを放ち勝利の立役者となりました。ここまでわずか17打席しか立っていないものの、チームの大先輩でもある阿部慎之助の打撃を思わせるような飛距離で、小林誠司の正捕手の座を脅かしています。キャッチングやリードの面では経験不足と見られていますが、相手先発投手の左右によっての使い分けや、打撃戦を想定した上での起用オプションが選択できるようになればチームはさらに幅広い戦いができそうです。
8月22日の読売戦に敗れたあと、中日の森繁和監督は若手以外にもベテランを起用することを示唆しました。チーム再建の視点から見れば逆行しているようにも見えますが、来季の戦力として残すべきかの判断を指揮官自身が確認したいということでしょう。そうした意味では、森監督はGM的な立場も兼任しているといえそうです。その言葉通り、今週から山井大介が一軍に合流、8月31日のDeNA戦での先発が予想されています。ほかにも浅尾拓也、八木智哉といったベテランたちが近々一軍でテストされることになりそうです。
ヤクルトは、ドラフト1位入団の寺島成輝が8月24日のイースタン読売戦で今季2度目の公式戦先発。19日にはリリーフとして一足先に復帰したものの、先発での登板は117日ぶりのことでした。プロ1年目の今季はキャンプでつまずき、実戦ではほとんど投げる機会がありませんでしたが、この日一軍の試合がなかった読売が一軍メンバーを並べてきたのに対し、寺島は持ち前の制球力と精度の高い変化球で3回を1安打無失点に抑える好投を見せました。ファンとしては、1日も早く一軍での登板を見たいところですが、故障の不安を取り除くにはどんな方法がベストか選択肢を誤ってほしくはありません。
2週間の個人成績ランキング
OffenceはwRAA(weighted Runs Above Average)+走塁評価、DefenseはUZR(Ultimate Zone Rating)+守備位置補正
セ・リーグ出塁率トップの坂口智隆(ヤクルト)は、期間内だけでもマルチ安打試合が9回、現在も7試合連続でマルチ安打が続いています。バットコントロールには定評のある選手ですが、この期間での空振り率は3.0%しかなく相手投手陣にとっては相当厄介な打者に見えていたはずです。Defenseでは高橋周平(中日)が全体のトップ。三塁手としての数字は、守備範囲(RngR)と失策抑止(ErrR)ともに良く、今季守備イニングは113と少ないながらUZR+5.7は両リーグでも4番目に位置しています。ここからサンプル数が増えるにつれ、数字がどのように変化していくかも注目すべきポイントの1つでしょう。
パ・リーグ野手では、ウィリー・モー・ペーニャ(ロッテ)にようやく大きな当たりが出はじめたことと、西川遥輝(日本ハム)の安定感が目を引きます。今月から4番に座っているペーニャは、ソフトバンクとの対戦でも東浜巨、千賀滉大といった好投手から一発を放ってチームの勝利に貢献。来季残留を賭けて完全にエンジンがかかったようです。西川は不動のリードオフとして打線を引っ張り、8月17日のロッテ戦では日本シリーズ第5戦以来となる満塁弾を記録。盗塁数でも源田壮亮(西武)と並びリーグトップに立っています。
セ・リーグ投手に目をやると、阪神戦でも好投した畠世周(読売)が奪三振数と失点率でトップ。シーズンでのK%(奪三振/打者)は30.3%、BB%(与四球/打者)も6.3%と素晴らしい数字が残っており、カットボール、スライダーとフォーク、チェンジアップを使ってのピッチングは、打者から見て球種が読みにくいという声もあるようです。救援投手では、石崎剛(阪神)が最多の7試合に登板。こちらもK%は29.2%と力のあるとこを見せ、いつでも勝ちパターンでの継投に組み込めるような内容です。
パ・リーグ投手では、山岡泰輔(オリックス)が8月26日の西武戦でプロ初完封勝利を記録。リーグの規定投球回にも到達しました。もちろん新人投手の中ではトップのイニング数です。開幕から0勝4敗となかなか勝てなかった山岡でしたが、現在は6勝8敗と持ち直しています。この調子で行けば新人王争いで重要な要素となる10勝にも届く可能性もありますが、プロ1年目ということでくれぐれもコンディションには注意を払ってほしいもの。このランキングの中でも、夏場に疲れが溜まり7月はわずか13イニングしか投げていなかった石川柊太(ソフトバンク)がここにきて盛り返していることは、コンディション維持の重要さを物語っています。
高多 薪吾 @hausmlb
個人サイトにて独自で考案したスタッツなどを紹介するほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。
投手の運用に関する考察を積極的に行っている。ファンタジーベースボールフリーク。