このシリーズではFA市場に出た選手の移籍先として、どの球団が適しているのかを多角的に分析し探っていきたい。


FA選手の最適球団を探るシリーズ、今回は2013年オフに結んだ複数年契約が終わり、2014年に取得していた国内FA権を行使することとなった西武・岸孝之、また同じ先発投手の目玉ということでDeNA・山口俊についても同時に分析を行っていきたい。一体どの球団に入ることが効果的といえるだろうか。




レポート



岸孝之

岸の強みは奪三振能力、与四球の少なさである。守備の影響から独立した部分で多くアウトを獲り、走者を出すことも少ない。また入団から10年連続で100イニング以上をこなしており、小さな故障はあるもののシーズンを棒に振るような長期離脱は一度もない。編成からすると非常に計算が立ちやすい投手である。



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強いて弱点を挙げるとすれば、フライが多い点くらいだろう。12球団どのチームに移籍してもエースクラスとして扱われる投手だといえる。


守備から独立したところでアウトを多くとることができるため、相対的に守備力の低いチームでも一定の活躍が期待できる。そういった球団にとってはさらに価値が高い選手となるだろう。


来季33歳を迎える岸とすれば当然、一年でも長い大型契約を狙いたい。逆に球団からすれば長期契約はリスキーとなるが、現在のところ球速低下など衰えの傾向は見られない。故障歴の少なさから考えても33歳を迎える投手としては比較的リスクが小さいのではないだろか。





山口俊

かねてよりその素材を高く評価されてきた投手だった。不安定な投球が続いたクローザーから先発に転向した2014年に大きく成長を遂げた。


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山口を評価する際に注意しなければならないのが2015年の投球についてである。防御率4.49はいい数字には見えないが、守備の影響から独立した三大要素である奪三振(K%)、与四球(BB%)、ゴロ率(GB%)は14年や今季とくらべても非常に優れた数字を記録している。フィールドに飛んだ打球がアウトになった確率を表すDER(Defensive Efficiency Ratio)は.634で、この年100イニング以上を投げた投手の中で最も悪い数字だった。つまり投球内容自体は優れているにも関わらず、投手としてコントロール出来ない部分で失点が増えてしまった可能性もある。これらの要素を考えると、山口は過去三年間、非常に安定した成績を残しているといえる。バットに当てられた際、ゴロにする能力が高いため、内野守備力の高いチームに入団することができれば、チームの失点をより防ぐことができるだろう。


不安要素を挙げるとするならば、今季終盤からプレーオフにかけて右肩の状態が悪く、登板を回避することになった点だ。獲得する球団はこのあたりを慎重に判断しなければならない。29歳と年齢も若いため、状態がよければ長期間エースクラスの働きができる可能性も十分にありうる。この点を評価すれば。山口の市場価値がさらに上がる可能性もある。





獲得に適した球団は?



各論に入る前に先発投手を補強する意味合いを確認しておきたい。先発の弱いチームは当然、補強が有効になるが、救援の弱いチームに対しても先発投手の補強は有効になる。救援投手の投げるイニングを減らし、またローテーション下位の投手を救援に配置転換することができるからだ。各球団の先発・救援のイニング配分状況を見てみよう。


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下が救援投手の投球回が多かったチームとなる。ヤクルト、西武と先発の弱い球団が救援のイニングが多くなっているが、広島、日本ハムと優勝チームも上位にきている。広島と日本ハムはブルペンに信頼を置ける人材を多く確保した面もあり、決して先発が弱いわけではない。しかし、ローテーションの上位と下位でレベル差があり、それがこのような状況を生んでいると思われる。ローテーション下位の選手に代わりFA選手を補強すれば大きな上積みが可能となるわけだ。


さて、各論に入っていくが、おそらく12球団で自チームの先発ローテーションに満足しているチームはないと思われる。今回は、以前のコラムFA選手の最適球団はどこか ~ペイロール・ニーズ確認編~において先発投手にニーズがあるとされた日本ハム、ロッテ、西武、広島、阪神、ヤクルト、中日に加え、比較的ニーズの少ないと思われるその他の球団からも適した球団を探っていくこととする。






日本ハムの場合



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戦力的には外国人投手を残留させることができれば十分な「質」を伴った先発陣といえるだろう。だが、球団はオフシーズンに入り、吉川光夫をトレードで放出した。これにより一軍での実績がある先発投手が「量」の面でやや不足している感は否めず、先発投手が故障などで離脱した際のリスクは大きい。リスク回避の意味では先発投手の補強は有効だが、吉川の放出も年俸9500万円をコストカットする意味合いが強いと思われ、現実的にはかなり可能性が低いだろう。






ロッテの場合



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先発の層は薄い。毎年一定の働きを続ける涌井秀章、石川歩、ジェイソン・スタンリッジに加え、今季は唐川侑己、二木康太、関谷亮太らが活躍した。しかし後ろで挙げた3人は安定した活躍だったとはいえない。唐川は故障で登板数が少なく、二木、関谷はシーズン終盤に打ち込まれた。


補強は効果的といえるが、予算的には難しいと言わざるをえない。現状のペイロールを考えると、3年前涌井獲得に用意した金額を捻出するのはかなり難しい。またそれだけの資金を用意できるならば外野手の獲得を目指したほうが効果的となるだろう。






西武の場合



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菊池雄星に加え、高橋光成、多和田真三郎など、近年ドラフト上位で獲得してきた投手が着実にチームの力となってきている。だがそれでも先発投球回はパ・リーグで最も少ない801 2/3回で、岸が退団となるとローテーション当落上の投手の登板機会が増え、これ以下の数字に落ち込むことも考えられる。無理を強いている救援陣の負担を減らすためにも、流出は避けたい。他のパ・リーグ球団に比べても緊急性は高い。


だが、現実的には牧田、秋山翔吾、浅村栄斗らのFAも迫ってきており、現状のペイロールでは全員を残すのは難しそうである。球団としては最もダメージの小さい選択をしなければならない。岸を過大に評価し、大きな契約を用意すれば他の選手の退団可能性が増す、難しい状況を迎えている。






広島の場合



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黒田博樹引退で先発に穴が空くが、ペイロールにも大きな空きができた。先発投手陣の状況は明るくはないが、大瀬良大地の先発復帰で戦力の現状維持を狙いたいところだろう。


先発投手の投球回はリーグ5位の848 1/3回。救援陣の負荷を下げるためにも補強は効果的といえる。ローテーション後半の投手に代わり、FA投手を補強できれば他球団に対してのアドバンテージは埋められないものになりうる。特に山口を獲得することができればバックの守備力も相まって高い失点抑止が期待できそうだ。


ペイロールに空きがあることも含め、獲得に動いてもいい状況は揃っているが、FAに対する過去の動きを考えても可能性は高くなさそうだ。






阪神の場合



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先発投手陣の質はリーグでも最高クラスといっていい。ただメッセンジャー、能見篤史だけでなく、救援を含む投手陣全体の高齢化が進んでおり、加齢による衰えのリスクは大きくなっている。他球団に比べ緊急性は高くないものの、来季FA権の取得が予想される有力先発投手が市場に出る可能性も不明なため、先手を打って獲得に動くのも悪くないのではないだろうか。


球団は糸井嘉男獲得を最優先としているようだが、2012年並のペイロールを許容できるなら、糸井獲得のうえ投手の獲得に乗り出すのも十分可能だろう。






ヤクルトの場合



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先発投手の補強が最も効果的になるといえるチームだろう。2016年の先発投球回は12球団で最も少ない792 1/3回。先発投手に優れたソフトバンクやDeNAに比べると救援陣の投球回が100イニング近く多く、負担が非常に大きくなっている。特に救援の柱、秋吉亮は3年連続で60登板以上をこなしており、もしこの秋吉が離脱すれば、投手陣全体が崩壊の危機を迎えるような状況だ。チームとしてはとにかくイニングを多く投げる投手が欲しい。岸、山口どちらの投手が加入してもエースクラスの立ち位置になるのは間違いなさそうだ。


球団は平田良介の獲得を目指していたもののFA宣言とはならなかった。もしその予算を先発投手の補強に割くことができるならぜひとも参戦を検討したいところだ。特に山口の打球管理能力は狭い神宮球場において非常に高い失点抑止効果を発揮するはずだ。


ただチームの予算は14年から右肩上がりになっており、資金を捻出できるかは微妙なところだ。






中日の場合



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上位進出に先発投手の建て直しは必須となる。来季の先発候補を見ても去就不明な外国人選手が多くを占めており、計算できる選手が非常に少ない。また大野雄大や吉見一起もエースクラスの活躍にまでは至っていない。ナゴヤドームという非常に得点が入りにくい特殊な環境が判断を狂わせるが、投手陣の質はリーグでも下位クラスで、上積みの余地は十分にある。岸、山口を獲得し、ローテーション当落上の投手の投球回を減らしたい。


球団はすでにFA権を取得していた大島洋平、平田の両選手の残留を決めた。報道されている両選手の契約規模、ここ数年、抑えてきたペイロールを考えると、新たなFA選手獲得に動くことも十分可能だろう。






ソフトバンクの場合



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おそらく12球団最高の先発投手陣といっていいだろう。獲得となれば6番手クラスの中田賢一、岩嵜翔との入れ替えとなるが、上積みは非常に小さくなると思われる。また救援陣も充実しているため、ローテーションから漏れた投手がリリーフに回っても大きなメリットは生まれない。先発投手の獲得がもっとも効果が薄い球団だ。


だが、今季もバンデンハークがコンディション不良でシーズン途中に離脱しており、来季も全員がフル回転できるとは考えづらい。そういったリスク回避も考えると、単純な戦力計算以上の価値がある補強となるかもしれない。


わずかの差で優勝を逃した現状を考えると、費用対効果を無視して獲得に乗り出さないとも考えられない。だが、もちろん優先するのは野手、長打力の補充となるだろう。






楽天の場合



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先発投手陣はチームの数少ない強みとなっている。枚数にやや不安を抱えているものの、それぞれ質は十分にあり先発が多くのイニングをこなすことに成功している。岸の獲得に乗り出しているとの報道がでているが、一見上積みは小さいように思える。


だが、おそらく球団は先発の枚数強化と同時に、ローテーション下位の選手を後ろに回すことで弱点となっている救援陣強化を狙っていると思われる。そういった意味で他球団より先発自体の緊急性は低いものの、投手陣全体をとってみれば効果的になることも考えられる。


岸の獲得を狙っているのは奪三振能力の高さを買ってのことだろう。本拠地コボスタが比較的本塁打の出にくい球場であることも岸の獲得に熱心な一つの理由かもしれない。


16年は14年に比べ4億円近くペイロールを抑えており、来季14年並の予算を組むことができるなら獲得は十分に可能だ。






オリックスの場合



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オリックスは三塁、中堅などに大きな弱点を抱えており、それらと比べると相対的に先発補強のニーズは小さい。だが強化の余地は十分に残されている。


金子千尋の影響力が小さくなっている現状、岸、山口のどちらが加入してもエースクラスの扱いを受けることになるだろう。6番手のイニング消化に問題を抱えているため、1人先発を加えることができればローテーションの隙はほぼなくなるといっていい。


だがチームは糸井嘉男の残留、あるいは陽岱鋼の獲得を優先しているため、どうしても優先度は低くなるだろう。チームの現状を考えると、仕方ないことといえる。






巨人の場合



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山口獲得に乗り出しているとの報道が出ているが、これ以上先発で上積みをつくるのは効果的ではない。オフに入り日本ハムから吉川光夫を獲得したうえ、来季には杉内俊哉の復帰も予想され、先発は余剰気味となっている。もちろん上積みはできるが、費用対効果は悪いと言わざるをえない。獲得となっても広島との差を大きく詰める力にはならなそうだ。






DeNAの場合



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山口が抜けたとしても先発投手陣は一定のクオリティを保つことができそうだ。だがローテーション下位と山口との実力差は大きい。このリストに名前が載っていない選手の台頭がなければ山口のイニング数を補うことはできないだろう。狭い横浜スタジアムを本拠地としているため、被弾リスクの小さく多くのイニングをこなすことができる山口の存在は貴重だ。


外野手に有力選手が出ている今オフの市場とDeNAの補強ポイントにはズレがあるため、この残留を最優先とするのは最もだといえる。





最適球団は・・・



先発が不足しているヤクルト、中日はまず間違いなく適した球団といえる。特に報道に出ている中日の山口獲得は、再建をはかるチームの長期的なビジョンにも最適だ。また、ローテーション下位が弱い広島、救援の投球回が増えている西武も適している球団といえるのではないだろうか。現実的にはペイロールに空きのある楽天、阪神、中日や、さらなる資金投入の可能性が高い巨人の可能性が高そうだ。

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