9/10に行われた巨人との試合に6-4で勝利した広島が、1991年以来25年ぶりのセ・リーグ優勝に輝きました。広島は8/20にマジック「20」が点灯して以来、チームは12勝2敗と猛チャージを掛け、その間2位巨人は5勝9敗と苦戦。先週は、巨人が4連勝と粘りを見せたため、地元広島での優勝達成はなりませんでしたが、直接対決で堂々と巨人を破り悲願を達成しました。
<セ、パ両リーグの順位おさらい>
※編集上の都合により9/11までの成績となっています。
広島の勢いは、後半戦の勝敗チャートを見てもわかるようにマジック点灯後に加速。巨人は8/20に後半戦の貯金を11とした時点がピークで、その後は大きく後退。3位争いをするDeNA、ヤクルトもゲーム差は埋まらず、DeNAが残り11試合を5勝6敗だった場合、ヤクルトは8勝2敗以上のペースが必要になります。阪神は徐々に後退し、最下位中日とは現在1.0ゲーム差リードしているのみ。こちらは順位の確定は先になりそうです。
パ・リーグは、9/9に日本ハムが今シーズン2度目の首位浮上。この日の楽天戦で5日ぶりの勝利を挙げ、ソフトバンクはオリックスとの4連戦で1勝3敗と負け越し、首位の座が転がり込んできました。また、日本ハムがこの2週間で2つの引き分けを記録したことでマイナスゲーム差は一時消滅。ただし、この時点でも引き分けが1つ多いソフトバンクは、貯金数が同じなら僅かな差で勝率は上回ります。今のところ日本ハムが0.5差をつけていますが、実質的に互角ということになります。3位争いは、楽天と西武がロッテとの差を詰めきれず、ロッテのCSマジックは残り14試合で「9」となっています。
<セ・リーグ戦力値データ>
広島の優勝決定日は、1990年の巨人に次ぐ史上2番目のスピード記録で、また12試合を残しての優勝も歴代7番目タイのようです。
~2リーグ制以降における優勝決定時点での試合数及び残り試合数~
1990巨人 114/130(16)
2015ソフトバンク 127/143(16)
2002西武 126/140(14)
1967巨人 121/134(13)
1972阪急 117/130(13)
1990西武 117/130(13)
1970ロッテ 118/130(12)
2003阪神 128/140(12)
2016広島 131/143(12)
歴史的な快進撃となった今シーズンの広島は、リーグ内の戦力値を示すあらゆるデータで他球団を圧倒。得失点差でも現在2位巨人を174点も引き離しており、このままいけば1951年の巨人(得失点差2位と241点差)、1983年の西武(同219点差)、1955年の巨人(同202点差)に次ぐ史上4番目の戦力格差となります。
ここまでの独走を許した他球団に対し、不思議と激しい批判は起きていません。今シーズンのセ・リーグは、どちらかといえば端境期にあり、その中で広島が最も脂の乗ったチームだったのは言うまでもありません。戦力値で圧倒的な大差がついた以上、10月のポストシーズンでも広島の優勢は変わりませんが、来シーズンはこの差が少しでも埋まるよう、セ5球団には強いチーム作りをお願いしたいところです。
<パ・リーグ戦力値データ>
日本ハムが首位に立ったことで、戦力値の高い球団が上の順位に立つ構図が出来上がり、パ・リーグは実質2強といっても良い状況です。ソフトバンクも優勝するに相応しい戦力を備えていることに変わりはありません。ただ、後半戦に入ってからのソフトバンクは21勝25敗と負けが込み、リーグでは辛うじてロッテを上回る勝率。後半戦最下位のロッテとともに、ポストシーズンでの不安材料は少なくありません。
他球団で目を引くのはオリックスの戦力値が上昇していること。得点力はそう変わりませんが、前半戦で苦戦していたブルペンが後半戦に入ってからは見違えるようになりました。7/18以降、オリックスの救援陣は防御率2.22。守護神平野佳寿投手は後半戦20.1回で防御率0.00、海田智行投手は防御率2.00ですが、現在はチームの勝ちパターンに加わりセットアップ的な役割を果たしています。また、ブルペン全体の救援失敗は8/27を最後に無く、残り試合では日本ハム、ソフトバンクへの強烈なプレッシャーとなりそうです。
<クライマックスシリーズの是々非々>
広島がリーグ優勝を果たしたことで、クライマックスシリーズ(CS)の存在価値について議論が再燃しているようです。CSは2004年から2006年までに行われたパ・リーグのプレーオフを原型とし、2007年からセ・リーグも採用するようになりました。ところが、リーグ優勝チームが日本シリーズに進出出来ないケースが発生し、ペナントレースの意義が薄れるといった理由でCSを批判する声が挙がりました。戦う前に勝つべきチームと負けるべきチームに分かれ、下位球団が勝ち越すようなことがある度にCSの是々非々論のようなものが起きています。
10月はNPBだけでなくメジャーリーグなど海外のリーグもポストシーズンを迎え、野球シーズンの集大成といえる時期です。それなのに、CSは施行されてから今シーズンで10年目を迎えるというのに、未だファンの信頼を獲得しているとはいえません。そこで、原因と対策を検証し、今後に向けての提案を行ってみようと思います。
~理想と現実~
CSに違和感を抱いているのはファンだけでなく、球界OBやメディア関係者の中にも批判的な声が挙がっています。理由は前述した通り、ペナントレースの価値が下がってしまうからです。ただ、ペナントレースは今シーズンの広島のように大差で優勝する球団もあれば、混戦模様から僅かに抜け出した球団もあります。以前のプレーオフのように、ゲーム差に応じてアドバンテージをつけるべきという声も一部から出ているようです。
一方、CSは球団にとってのドル箱という意見もあります。ポストシーズンに進出する権利は、両リーグで3球団ずつありますので、この椅子を掛けての争いはペナントレースぎりぎりまで決着がつかないケースが多く、その結果消化試合を減らすことが可能となりました。ただ、CSの試合そのものは対戦上位球団の主催ゲームとなるため、観客動員などの収入は一部の球団に限定されてしまいます。
また、これまでのCSはファーストステージ(CS1st)とファイナルステージ(CS2nd)との間でいわゆる下剋上(公式戦下位球団が勝ち越すこと)の起こり方が極端になっています。2007年から2015年までの両リーグにおける9度の対戦では、CS1stで2位球団が勝ち越したのは半分にも満たないのですが、これがCS2ndになるとリーグ優勝球団が圧倒的な確率で勝ち越しを決めています。
CS1stでは、勝率がそのまま進出率へと繋がっているのですが、CS2ndになると1位球団の日本シリーズ進出率は勝率を大幅に上回っています。これは、1位球団に与えられたアドバンテージが影響を与えているからです。CS2ndに臨む際、1位球団が有利な条件となるのは、
1 シリーズ開始の段階で既に1勝分が与えられている
2 全試合1位球団の主催ゲームで行う
3 引き分けも1位球団の勝利として計算される
4 対戦球団が初戦にエースを投入出来ない
と、数多くの点で1位球団が勝ち越すような「仕組み」になっています。この中で、「2」と「3」はCS1stも同じ条件なので、極端なアドバンテージにはならないと思われますが、「1」の要素が入ると1位球団の勝率は.678へと跳ね上がります。また、「4」は対戦球団がCS1stから日程が空くことなくCS2ndに突入するので、エース格の投手がCS2ndでなかなか機能しない点が問題です。
昨シーズンのパ・リーグは、CS1stで3位ロッテが2位日本ハムに勝ち越したものの、10/10に先発した石川歩投手をCS2ndの初戦に持って来ることが不可能となり、3連敗(1位球団のアドバンテージ込)で後がなくなった10/16の第3戦に先発させるしか手立てはありませんでした。また、公式戦で15勝を挙げ最多勝のタイトルに輝いた涌井秀章投手は、10/6の公式戦最終戦に先発し137球を投げていたため、CS1stでも10/12の第3戦に登板するのが精一杯で、CS2ndでは先発機会が無いままチームは敗退しました。
~ポストシーズンは思考の転換が必要~
それでも、CS2ndにおける公式戦下位球団の下剋上は3度あり、逆転現象が全くないわけではありません。しかし、戦う前から有利不利がハッキリしたカードを心行くまで楽しんでいるファンはどれだけいるのでしょうか?
「CSはスタジアムが満杯になるから興行的にも必要」という声もあります。恐らく、2004年に起きた球界再編成問題でクローズアップされた球団の赤字体質を心配するファンの思いやりのようなものでしょう。しかし、興行的な理由は飽くまでも球団側の都合で、試合そのものの価値があるかどうかが重要です。現状の仕組みでは、日本シリーズの前に余興を増やしているに過ぎず、CS出場チーム以外のファンはそれほど盛り上がらないのではないでしょうか。
NPBに提案したいのは、権利の行使方法と興行に対する見直しです。CSに出場する権利があるのは、両リーグ12球団のうち何球団が適性なのかということを再考し、場合によっては出場チーム数を絞ることも必要かもしれません。興行的には、CS出場チームの利潤追求が行き過ぎると他球団のファン、そして野球ファン以外の人が白けてしまう恐れがあり、球界全体の盛り上がりを優先して考えるべきなのではないかと思うことがあります。
具体的な考えを一つ出すとすれば、CS出場を球団としてではなくチームの権利と捉え、興行収入は日本シリーズと同じようにNPBの管轄とすること。さらに、出場選手への分配金や経費などを除いた収益を全ての球団に分配すること。そうすることで、CSの利権化を防ぎ、さらには戦力均衡のサポートを行うことが可能となります。これが実現すれば、CSの一部試合を地方開催に持って行くことも不可能では無く、新球団を誘致したい自治体は収容人員の大きな球場を建設する動きが出て来るかもしれません。それによって球団増設、リーグの拡大化も開けてきます。
ポストシーズンは、長いペナントレースを勝ち上がってきた球団同士による最終決戦でもありますが、重要なのはそのシーズンにおけるプロ野球の集大成だということ。五輪の盛り上がりによる他競技の人気上昇により、近年は野球人気が押されがちです。従来の格式を保つことも大事ですが、ポストシーズンにはイベント性の高い要素を取り込んでも良いのではないかと思います。