10月23日、NPBは2023年終了時点での
FA権有資格者を発表した。この中には有力選手もおり、彼らの戦力移動があれば来季以降の戦いに大きな影響を及ぼしそうだ。DELTAでは今オフもFA選手を格付けするFAランキングを公開することになった。FA選手の中で誰が最も価値があるのか、
成績予測システム“D-CAST”を使い格付けを行っていく。
1.FA権有資格者一覧
17日に発表されたFA権有資格者は106名。このうち既に退団を表明している選手、あるいは複数年契約により今オフの宣言が不可能な選手を除いたリストが以下の61名だ。契約状況や年俸、FAランクについては公式情報ではないため、誤っている可能性がある点に注意してほしい。今回はこの選手たちを格付けしていく。
格付けは成績予測システム“D-CAST”により行う。MLBで活用される機械的な成績予測をNPBに対応させたDELTA独自のシステムだ。FA市場において、球団が買うのは過去の実績ではない。これからの活躍だ。過去の実績を見ているだけでは選手の価値を見誤ることになる。そういった点で選手の未来を推定する成績予測システムは、FA選手の価値を見極めるのにうってつけのツールと言える。もちろんどの選手が求められるかはチーム事情によるが、その前段階のフラットな選手評価として見てほしい。
今回は今後5シーズンで、総合指標WAR(Wins Above Replacement)をどれだけ積み上げられるか、その合計値でランキングを作成した[1]。簡単に言うと、今後5シーズンでどれだけ活躍するかだ。今回は注目選手に絞って紹介していく。それでは早速見ていこう。
2.FA選手ランキング2023
2023年FAランキング1位は今永昇太となった。ポスティングシステムを利用してのMLB挑戦も噂される投手だが、国内FA市場でも最高の選手だ。今季WAR4.5を記録した今永だが来季は3.4、今後5シーズンで11.6WARを記録することが予測されている。
今永レベルの選手になると獲得して上積みにならない球団はない。当然全球団からニーズがあり、特に先発が弱いチームほど上積みが大きくなるだろう。なかでも特におすすめしたいのは先発の数をある程度揃えられているものの、突き抜けたエース投手がいない球団だ。今オフFA市場に出る可能性がある投手は、ある程度イニングを投げられる平均クラスの先発はいるものの、質で違いを生み出すレベルの先発は少ない。そんな中で今永は明確に質で違いを生み出す能力をもっている。違いを生み出せる投手がほしい球団にもうってつけだ。
まず投手陣が弱い球団でいうと、楽天やヤクルトが獲得できれば補強効果は大きいはずだ。ほかにはソフトバンクのように先発投手の質、特にエース級投手の不在に悩む球団にとっても特に狙いたい投手である。
FAランキング2位は加藤貴之となった。今季はキャリアハイとなる163.1イニングを投げ、WAR3.0と好成績を残している。今季だけでなく2021年、2022年もWAR3.5、4.1と安定して好成績を収めていたため、今後も手堅い活躍が期待できると評価されたようである。来季の予測WARは3.1、今後5シーズンで合計11.1WARを記録することが予測されている。
加藤獲得が大きな効果を生みそうなのは先発投手が不足している球団だ。加藤は今永ほどの質はないものの、とにかく多くのイニングを投げることができる投手だ。特にローテーション下位に不安を抱える球団が獲得すれば大きな効果を挙げることになるだろう。
一方で圧倒的な違いを作り出すエース級投手ではないため、ローテーション下位まで平均クラスの先発を揃えられている球団では、それほど大きな上積みはもたらせないかもしれない。やはり先発の弱い楽天やヤクルトが最適球団になるだろうか。
3位は大野雄大となった。今季は開幕早々の故障によりわずか1試合の登板に終わったが、来季は復調見込みで上位にランクされている。来季の予測WARは2.7、今後5シーズンで9.4WARを記録する見込みだ。ただすでに35歳と衰えにかかる年齢に入っているため、沢村賞を獲得したかつてのような姿は期待しづらいだろう。加藤と同じように質で圧倒的なレベルを示すのは難しそうだ。
大野については今永や加藤以上に、加齢により今後は大きく貢献を落としていくことが見込まれる。より直近の成功を目指す球団であるほうが大野獲得の恩恵を得られるだろう。優勝を狙える戦力が十分揃っているが投手陣が弱い球団として、ヤクルトは大野獲得の効果を最大化できるかもしれない。
田口麗斗は先日28歳を迎えたばかりと、市場に出る投手の中では非常に若い選手だ。来季の予測WARは2.3、今後5シーズンで8.8WARを記録すると予測されている。今回のランキングでは5位の高順位だ。
しかしこの予測は起用法によって変わってくるだろう。この予測値は田口が先発、救援をともにこなすと見込んだうえでの数字だ。基本的に田口のような先発も救援もこなせる投手は先発で起用すべきである。チームの失点をより多く防ぐことができるからだ。より先発の比重が高ければより高いWARを記録できるかもしれない。一方救援でしか起用できなければ予測を下回る見込みが大きい。
田口の最適球団はどこだろうか。基本的に投手陣に弱点のある球団であればどんな球団でも獲得効果が大きくなるだろう。ただなかでも楽天は最も大きな効果を生むだろう。今季の先発WARは12球団で最も低い11.2。さらにこの11.2も高齢化した先発陣によりもたらされたものであるため、来季はさらに低下する見込みだ。先発陣の中長期的な再建が求められる球団のニーズによくフィットするのではないだろうか。価値を最大化するためにも先発起用予定の球団が最大のオファーを出すべきだ。
35歳を迎えた田中将大はランキング6位となっている。今季のWARは1.3。NPB復帰後は明確に奪三振能力を示すK%(奪三振/打者)が以前の姿ではなくなっており、特に今季は13.5%とリーグ平均(19.3%)を大きく下回るレベルになるまで低下した。NPB復帰後の田中をかつての姿でないと感じる人は多いだろう。これは奪三振能力の低下に起因している。
ただ一方でNPB復帰後の田中がかなりの不運に見舞われているのも確かだ。特に被本塁打については、想定される以上に打たれているというデータが出ている。これが回帰することで、ある程度成績は回復する見込みだ。
田中についても大野同様、今後はさらに急激に衰えていくことが予想されるため、投手力が弱いとしても中長期的な強化を目指すにはフィットしない。大野同様優勝を狙える位置にあるヤクルトが優勝を狙う補強を行うのであればフィットしそうだ。また楽天残留も先発・田中の価値を最大化できる選択の一つだ。
野手最高位は坂本勇人となった。坂本は今後5シーズンで7.9WARを記録する見込みで、7位にランクインしている。来季は2.6WARを記録するが、その後は大きく成績を落としていく見込みだ。
ただこれらの成績低下は坂本自身の能力の衰えというよりは、出場機会の減少による部分も大きい。来季の2.6WARの予測もわずか315打席の中で残すと想定されている数字だ。つまり質は高い。もし出場機会が予測を大幅に上回るようなら、WARもかなりの数字が期待できる。
移籍はそれほど現実的ではないかもしれないが、坂本がフィットする球団を考えてみよう。戦力的に最もフィットするのは遊撃が弱いDeNAではないだろうか。坂本はこれから本格的な衰えに入っていくが、その衰えた状態でもDeNAでは上積みをもたらせる可能性が高い。逆に内野戦力が非常に豊富な読売は、現状の坂本のポテンシャルをフルで発揮するのは難しい環境なのかもしれない。
8位は山﨑福也となった。来季は2.0WAR、今後5シーズンで7.6WARを記録するとの見込みが出ている。
8位ではあるが実は山﨑は今FA市場の隠れた目玉選手である。その理由がFAランクだ。山﨑は公開された情報からすると、移籍時の補償が不要となるCランクの選手である見込みとなっている。獲得球団はリスクなく年俸だけを払えばよいため、獲得に動きやすい。にもかかわらず今後数年は着実な貢献が見込めるのだ。
獲得が大きな効果を生む球団としてはやはり楽天やヤクルトなど先発に弱点を抱える球団となるだろう。今後数シーズンにわたり平均前後の質をもって一定のイニングを消化できる存在であるため、契約が高騰しても驚かない。市場に出ることで大きな契約を勝ち取ることができるのではないだろうか。
9位は石田健大となった。来季は2.2WAR、今後5シーズンで7.3WARを記録することが予想されている。
石田も山﨑同様、チーム内の年俸から補償不要のCランクであることが見込まれる投手だ。低コストで安定した貢献が見込めるため、大きな契約となってもおかしくないはずだ。また石田については救援起用の経験も少なくない投手だが、石田の価値が最大化するのはやはり先発。山﨑同様、先発の弱い球団からすれば効果的な補強になるはずだ。
昨年時点でFA権を取得していたものの、単年契約を結びチームに残留。今年あらためて市場に出る可能性があるのが西川龍馬(広島)だ。西川はランキング10位となった。来季がWAR2.0の予測、今後5シーズンで7.2のWARを得るとの結果だ。
西川は打力が高く評価される選手ではあるが、セイバーメトリクスの観点から見ると、打力は平均をやや上回る程度の評価にとどまる。2022年こそwRC+151と素晴らしい成績を残したが、これはBABIP.367とかなり上振れした結果と捉えられる。D-CASTもそうした平均への回帰を見込み、それほど高いWARを予測していない。もちろんこれには守備の問題も絡んでいる。
一方で西川は今回有力となる野手の候補では最も若い選手だ。この12月でようやく29歳を迎える。この若さのためあと数年はレギュラークラスを維持できそうだ。来季勝負するというわけでなくとも、外野のポジションを数年間埋めたい球団にとっては狙い目となる。今季外野が大きな弱点となった西武に入団すれば、西川の加入効果は最大化されそうだ。
こちらも今ドラフトの隠れ目玉選手といってもいいかもしれない。茂木栄五郎はランキング13位となった。来季の予測WARは2.0、今後5シーズンでのWARは6.4と予測されている。30歳を迎える前に市場に出る珍しい遊撃手だ。
茂木は今季の出場がわずか8試合と少ないことで大きく予測を落としている。ただ今季出場が減少したのは特段大きな故障があったわけではなさそうだ。ファームでは72試合に出場し素晴らしい成績を収めている。故障により出られなかったというわけではないのだ。球団内での評価が高くないのかもしれない。こうした事情を考えると、今後D-CASTの予測を上回る可能性も高い。12位ではあるがトップ10に入る選手と想定すべきだ。
獲得にふさわしいのは三塁手や遊撃手に弱点を抱えている球団になる。ただ遊撃については長期的に問題を解決できるわけではないことは抑えておくべきだ。すでに守備力のピークは過ぎている。茂木獲得で最も大きな効果を上げそうなのは、やはり遊撃に弱点を抱えるDeNAではないだろうか。DeNAは遊撃の弱点を長年埋めることができておらず、今季はその穴がさらに拡大した。茂木は故障が多く、通年での出場は難しいかもしれないが、予測の2.0を下回る活躍でもDeNAなら大きな上積みになる。獲得となれば、FAランキング12位の選手がFAの目玉選手補強級の影響力を持つことになるかもしれない。
開幕前の時点で今オフFAの目玉とされていた山川穂高は15位にとどまっている。今季は17試合62打席と出場機会が激減。さらにその少ない出場の中でも振るわなかったことで、D-CASTは予測を下方修正している。来季の予測WARは2.2、今後5シーズンで見ても5.3にとどまっている。2025年以降は急激に衰える予測だ。
ただ山川の場合状況は複雑だ。今季の出場機会減少は、自身の不調や故障によるわけではない。体調が万全であればD-CASTの予測を上回る見込みも大きいと見てよいのではないだろうか。
獲得を狙う球団としてはソフトバンクの名前がすでに挙がっている。実際、今季の一塁手のWARを見るとソフトバンクは-1.3。これは12球団で最も低かった。もし獲得となれば極めて大きな戦力向上が見込めそうだ。
松井裕樹は今オフ、海外FAを利用してのMLB挑戦が噂されている。MLBでの人気が高い松井だが、意外にも成績予測システムを利用してのFAランキングでは20位にとどまった。
低迷した理由はまず救援投手である点においてだ。救援投手は先発に比べ投げられるイニングが少なく貢献を伸ばしにくい。またそれだけでなく、K%やBB%など投球内容についても例年より下がる予測が出ている。
ただ松井の場合、救援でキャリアを送ってきたが先発として活躍できるポテンシャルがあることはルーキーイヤーや2018年、2020年にも証明している。もし先発起用を想定するのであれば、このランキングの中で最高レベルの選手になるだろう。
先発起用を想定するならば今永同様、他のFA投手と違って質で明確な違いをつくれる見込みが高い。ソフトバンクのような質の違いをもたらす先発を欲する球団にとっても良いターゲットになるかもしれない。ただ先発・松井が最も必要なのは現在所属している楽天であるようにも思える。
[1]今回はWAR0を割ったタイミングで引退する想定で、合計WARを算出している