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ゲームに参加する以上必ず目的はある



ゼロサムゲームの場合、対戦している2チームの間で話が完結している間は何も問題は生じない。相手に勝つことを目的とするだけ。参加プレーヤーが2人もしくは2チームの場合は相手の損失は必ず自分の利益となるので問題になりようがないのだ。ところが、ゲームの参加者が3組以上となった場合には必ずしもこの鉄則は成立しないことになる。当該の局面においては自分にとって最も有利な選択であったとしても、その選択が2組以上の対戦相手のうち、直接対戦していない方に利益を与えてしまう場合。又は警戒すべきではない方にダメージを与え、結局自分が損失を被るような場合が生じてくる。「囚人のジレンマ」などもこれに類する話である。具体例を挙げる。


珍事!関学大が“敗戦選択”のノーサイド 異例の幕引きに場内ざわつく(スポーツニッポン2016年11月21日)

ラグビー関西大学リーグにおいて、リードされている側が、ロスタイムにボールを蹴り出してわざわざ自分の負けを確定させるというプレーが発生した。このリーグ戦は8チーム構成で7位と8位は下部リーグとの入れ替え戦に出場しなくてはならない。この時は6位の関学大が敗北を選択した時点で6位~8位のチームが勝敗で並んだ上に直接対決でも1勝1敗の横並び。結局、3チームの得失点差で順位が決定づけられることとなった。この結果、珍事を起こした関学大が得失点差+4で6位。この試合に勝った摂南大が+3で7位。関西大が-7で8位。試合終了時点では3校とも残り試合があったが上位校との対戦ばかりで、最終的に勝敗は並ぶと関学大は読んだのであろう(元々番狂わせの少ないスポーツだ)。結果は実を結び、首尾良く関学大は6位、入れ替え戦への出場を回避して残留することができた。


ボールを持った時点でこの試合の逆転を狙い攻撃をつづければ、相手にはリーグ戦順位の逆転のチャンスを与えてしまう。プレーが続いていれば、ボールを奪われ得点を許す場合もあり得る。そうなった場合に入れ替え戦に出なくてはならないのは自分自身である。関学大は故意の敗戦選択により相手にリーグ戦逆転のチャンスを与えなかったのだ。


以前からWBCの失点によるタイブレーカーを見て、いつかはこのような事態が起きると思っていたが、その場面は思いのほか早く現れた(野球以外の種目のことは頭から抜けていてこのニュースは予想外だった)。


野球ではこのような例は未だ顕在化していない。しかし、潜在的に進行して大事件発生の一歩手前まで来たことがある。



2007年北京五輪予選で起こり得た矛盾


2007年、シーズン終了後の12月、台湾において開催されたアジア野球選手権大会。2008年北京五輪のアジア地区予選を兼ねた大会の最終戦での出来事であった。対戦チームは日本代表VS台湾代表で、ともに優勝の可能性を残していた。試合は1回表、死球をファウルと判定されて怒った新井貴浩がタイムリーを放ち日本代表が先制。台湾代表打線の前にはダルビッシュが立ちはだかり5回まで1安打のみの零封。対する日本打線もその後は決め手を欠き、試合は1-0のまま回を重ねて不気味な緊張感を保ったまま6回の裏を迎えた。


この回、2死一塁からダルビッシュは相手の中軸打者の陳金鋒(注1)に中堅右に逆転の2ランを浴びてしまう(注2)。TVアナウンサーによれば「日本中が悲鳴につつまれた一撃」と評されたが、私は別の意味で凍りついていた。試合前に奇妙な事態が発生する条件として想定した状況そのままに目の前の試合が展開してしまったからだ。この大会、3チーム以上が全勝敗及び直接対決の勝敗で並んだ場合のタイブレーカー(順位付けをするための条件)として失点率が採用されていた。そして、6回表裏を終了した時点での暫定的な勝敗表(このまま試合が終了した場合)は以下のとおり。



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この時点では日本の失点が5、台湾と韓国が共に6となっている。つまり前の5イニングを零封できたように残りの2イニングを封じることができれば(日本は先攻なので3イニングではないことに注意)、この試合を落としてもめでたく日本は五輪出場権獲得である。そしてそれはこの大会に臨んだ日本代表の最終的な目標だったはずである。実質的に逆転されたわけではない。別に悲鳴につつまれるほどの状況ではなかったのだ。


恐ろしい状況を招いてしまうのはこのままの点差を保ったまま9回表の日本の攻撃を迎えたとき。日本は先攻であった。さらに、五輪を運営する立場の者は「延長戦」や「エックス勝ち」といった従来の野球の枠組みをそのままにした上で失点率をタイブレーカーに採用する、といったポカをやった。この結果、日本代表は得点を得られないとして、7回8回に失点しなければ負けても1点差で優勝。エックス勝ちルールをそのままにしたところがミソで、日本が7~9回を無得点なら、台湾は9回裏の攻撃を許してもらえない。つまり、まかりまちがって2-1台湾リードのまま9回表を迎えてしまった場合、日本が故意に三者凡退をしてしまえば、日本の優勝・五輪出場が決まるところだったのだ。


さらにこの状況で日本が9回表、得点を取ってしまった場合(特に1点だけの場合)は日本にとっての悪夢となる。この場合は台湾に9回裏の攻撃が発生してしまい、優勝も五輪も確定していない身分になり下がってしまうのだ。そこで台湾にさっき打たれたのと同じ2ランホームランなどをくらえば日本は失点率の関係で予選敗退となる。これらはすべて9回に2-1で負けている場合に発生する事態で、試合展開が勝手にその状況に近づくという偶然に驚いたものである。9回表を迎えて実質的に優勝を確定させていたチームがさらに頑張って1点を加えてみれば予選落ちの危機に直面するという笑えない珍場面。


同様の状況の他に、コールド勝ちをしてしまったばかりに失点率の関係で敗退するチームの存在なども考えられ、失点率によるタイブレーカーの採用には熟慮が必要である。


ともあれすんでのところで日本代表は、故意に敗北を確定させた関西学院大と全く同じ状況におかれるところだったのだ。



第3回に続く


(注1)王建民などを輩出した台湾における初のメジャーリーガー。この年は台湾で活躍した。 88試合で26本塁打 0.382を記録して首位打者 長打率0.704もOPS 1.195もトップで文字通り代表の中心打者であった。
(注2)ダルビッシュはこの打席、陳に対して完璧な組み立てとコントロールから、自信のウィニングショットをアウトローに決めた。どう見ても見逃し三振だったが何故か球審の手は上がらず、投げる球種がなくなったダルビッシュの次投が綺麗に捉えられてしまった。ファイターズファンとしては許し難いアウェイ判定であったと共に初回の新井の件もあって、普段提供されているNPBのプロ審判の仕事がいかに上質なものか思い知らされた一日だった。
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