野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2021年の日本プロ野球での野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する“DELTA FIELDING AWARDS 2021”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。

対象一塁手に対する9人のアナリストの採点


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一塁手部門は中村晃(ソフトバンク)が受賞者となりました。しかしどのような分析を行いこうした評価に至ったかはアナリストごとに異なります。一塁手をどのように分析したか、佐藤文彦氏の分析を参考として掲載します。2021年一塁手のUZRこちらから。




一塁手参考分析 分析担当者:佐藤文彦(Student)



一塁守備をどう考えるか


一塁手はどちらかというと守備より打撃を重視して起用されるポジションです。強力な打者が集まる一塁手で突き抜けた打撃成績を残すことは大変です。打撃成績が高いレベルの打者が集まっているとき、付加価値として意味を持ってくるのが守備力だと思います。こうした観点から見れば、一塁手の守備は主役とはならないかもしれませんが、決して無視できる要因ではありません。


順位の評価


一塁手のランキング作成にあたり、今回は各選手のUZRの値をベースにしながら、値が近い選手についてより詳細なデータを確認・比較するという方法で順位を付けました。まず前提となるUZRを表1に示します。

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このUZR順をベースにしながら、具体的には表の上から2人ずつ、以下のような組み合わせで比較していきます。

・中村晃(ソフトバンク)&髙濱祐仁(日本ハム)
T-岡田(オリックス)&鈴木大地(楽天)
山川穂高(西武)&ジェフリー・マルテ(阪神)
ネフタリ・ソト(DeNA)&ダヤン・ビシエド(中日)
ホセ・オスナ(ヤクルト)&ブランドン・レアード(ロッテ)

分析にあたって


選手間のデータの比較ですが、最初にUZRの算出で用いるゾーン区分から以下の図1に示す一塁手の守備範囲を決めました。

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図で色付けしているように、ゾーンUからXまでを対象としています。Uのゾーンを超えて一塁手が守備をする場合もありますが、そうしたケースは稀なので範囲を絞ったかたちです。

そして、今回の選手のデータを比較していく上でのコンセプトですが、守備機会の多いゴロに絞った成績を見たいと考えました。例えばUZRの計算では、図1に示したUよりも二塁寄りのゾーンでゴロを処理する場合があります。このようなゾーンのゴロに追い付いてアウトを取ることは難しいので、仮にアウトを取れた場合は高い得点がつくことになります。しかし、こうしたプレーは稀で、そもそも処理する機会のない選手も多くなってしまいます。選手の守備力を比較して順位をつけるという目的からしてみれば、できれば同じような条件で選手を比較したいので、守備範囲を絞っているわけです。

今回はさらにデータを左打者に限定し、ゴロの経過時間(打球が発生してから内野手が捕球するまでの時間。捕球できなかった場合内野を抜けるまでの時間)の範囲も絞ることにしました。左打者のゴロに絞ったのは、右打者のゴロを一塁手が処理する機会が少ないためです。ゴロの経過時間は、処理する機会の少ない1.00秒未満のゴロと、2.50秒以上のゴロを除き、1.00から2.50秒までのゴロを、1.00-1.50秒、1.50-2.00秒、2.00-2.50秒の3段階に分けて集計しました。


データの比較


中村晃&髙濱祐仁

最初に、UZRが上位の2人である中村と髙濱のデータを比較します。

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図1に示した一二塁間の各ゾーンでの一塁手と二塁手の処理した結果を棒グラフで表しています。青の太い線は各ゾーンでの一塁手のアウト率、細い線はNPB全体のアウト率を表しており、全体と比較してどのくらい守ることができているかを確認できます。

中村と髙濱のデータを比較すると、1.50-2.00秒のゴロを示した図2-1-2、図2-2-2で、中村は一塁線寄り、髙濱は一二塁間寄りのゾーンでアウト率が高いという違いがあります。これは能力差というよりは、どこに重点を置いているかという差ではないでしょうか。

また経過時間が最も短い1.00-1.50秒では、髙濱はNPBのアウト率と比較して穴がありません(図2-2-1)。一方の中村はWのゾーンのアウト率が低くなっています(図2-1-1)。この経過時間の短い、つまりは速いゴロに対する対応の差から、中村と髙濱の2人では、髙濱をより上位に逆転させました。

T-岡田&鈴木大地

次に、T-岡田と鈴木のデータを比較します。

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経過時間が1.00-1.50秒、2.00-2.50秒での成績に大きな違いはありません。ただ真ん中の1.50-2.00秒のアウト率(図2-3-2、図2-4-2)を比較すると、全体的にT-岡田の成績が優れています。よって順位は入れ替えず、T―岡田が3位、鈴木が4位としています。

山川穂高&ジェフリー・マルテ

続いて、山川とマルテのデータを比較します。

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この2人については、経過時間が1.00-1.50秒の図2-5-1、図2-6-1で山川に若干の分があるといったところです。ただこれだけでは決められないため、補助的に守備時の打球プロットを用意しました(図3-1、3-2)。

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この図は、内野手がどれくらいゴロのフィルターになっているかを確認するためのものです。一塁手と二塁手が捕球した場合は●でプロットし、外野に抜けて安打になった打球は線で表しています。プロットの色は以下の表2を参照してください。

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一塁手がアウトにしたゴロは緑の●で示しています。安打はピンクの線となっており、ゴロが抜けて安打になりやすい所は、●と線が重なっています。一塁手がゴロをストップすれば、安打の線が放射状に広がるところに穴ができます。これを一塁手の仕事と考えると、山川のほうがゴロをストップできていると見ることができます。

あくまで視覚的な印象なので補助的な材料にしかなりませんが、ゾーンで区分したデータ以外の視点からの確認という意味で使用しました。

順位はUZR順と変わらず、山川を上位としています。

ネフタリ・ソト&ダヤン・ビシエド

次は、ソトとビシエドを比較します。

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2人の処理状況をそれぞれの経過時間で比較していくと、1.00-1.50秒の図2-7-1、2-8-1の比較でソトに若干の分があります。それほど大きな差ではないので、この2人についても打球のプロットを確認します。

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一塁手がゴロをアウトにすることによってできる安打の隙間が、真ん中の1.50-2.00秒の図でソトのほうが若干広いでしょうか。いまひとつ決定打には欠けますが、ビシエドをソトの上にする積極的な材料もないので、UZR順どおり、ソトを7位、ビシエドを8位とします。

ホセ・オスナ&ブランドン・レアード

最後に、オスナとレアードのデータを比較します。

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レアードは、経過時間1.00-1.50秒、1.50-2.00秒の図において、限られた狭いゾーンでしかアウト率が高くなく、守備範囲が狭いことを確認できます。UZR順から変わらず、オスナを9位、レアードを10位としました。




スクープ処理


最後に、一塁手のスクープ処理のデータを以下の表3に示します。

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スクープ処理とは、他の内野手から一塁手へ捕ればアウトとなる送球がショートバウンド、ハーフバウンドしたケースをいいます。表3はそれぞれの内野手からのスクープとなった送球とその結果の内訳を示しています。

これを見ると、スクープ自体のサンプルが少なく、そこから出塁になったケースはさらに少ないので、今回の評価には含めませんでした。

しかし、スクープ以外にも捕球関係のプレーは今後研究の余地が残っていそうです。一塁手が目一杯身体を伸ばして悪送球を防いだり、少しでも早く送球を捕球することは、トラッキングデータが導入された現在であれば検証可能なテーマでもあります。こうした捕球については、どの程度の価値を持っているかは今のところはわかりませんが、今後一塁手の評価に組み込まれる可能性もある要素と見ると面白いかもしれません。


おわりに


以上の分析を踏まえ、以下のように一塁手をランキングしました(表4)。

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外国人選手が多い関係で、メンバーの入れ替えが多くなるポジションですが、今回のランキングにある選手がどの程度残り、どのように成績が変わるか、2022年のシーズンにも注目してもらえればと思います。




2021年受賞者一覧

過去のFIELDING AWARDS一塁手分析はこちら
2020年(ダヤン・ビシエド)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53670
2019年(内川聖一)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53586
2018年(井上晴哉)
http://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53467
2017年(ホセ・ロペス)
http://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53339
2016年(中田翔)
https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_08.html

佐藤 文彦(Student) @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。

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