• 1.02 Column

昨季、柳田悠岐(ソフトバンク)が積極的にフライを狙うと宣言したことは野球界で大きな話題となった。巷で話題の「フライボール革命」である。この取り組みはテレビ番組などでも特集され、柳田が日本における「フライボール革命」の寵児と扱われる事もしばしばだ。今季も柳田は7月終了時点357打席で24本塁打とキャリアハイを更新するペースで本塁打を量産している。しかし、実は今季の柳田は昨季とは異なるスタイルで本塁打を量産している。昨季からフライを減らしているのだ。これは「フライボール革命」の逆を行く傾向である。今回は打球の観点から柳田の変化を探ってみよう。


ゴロ、逆方向への打球が増加


さて、前述の通り今季の柳田はゴロ割合が増加している(表1)。



(注1)

2016年以前の柳田はゴロ割合が50%を超えるなど非常にゴロの多い打者だった。だがフライ増加を公言した2017年、ゴロ割合は40.7%にまで大きく減少。2016年29.0%だったフライ割合を41.0%にまで増加させ、フライボールヒッターにモデルチェンジした。しかし、今季はそのフライ割合が34.1%にまで減少している。ゴロヒッターとフライヒッターの中間といった打球割合だ。今季の柳田はやみくもにフライを狙っている訳ではないようである。

次にこれらの打球が安打になったかどうかを見てみたい。本塁打とファウルを除く打球(ファウルフライは含む)のうち安打となった割合を表すBABIPを打球種類別に確認すると、2016年はゴロの、2017年はフライのBABIPが大きく低下していることが判る(表2)。



2015年、柳田はトリプルスリーを達成するなど圧倒的な攻撃力を発揮した。2016年、パ・リーグの各球団はゴロが右方向に飛ぶ割合が非常に高い柳田対策として、グラウンドの右側に内野手を多く配置する「柳田シフト」を採用。2016年のゴロBABIPの低下はこの「柳田シフト」を攻略できなかったことが主な要因だ。2017年のフライBABIP低下はポップフライの増加が主な要因と考えられる。2018年はこれら2つの課題をクリアし、BABIPを2015年の水準まで上昇させている。同時にフライに占める本塁打の割合(HR/FB)も増加した(表1)。

次に、打球方向を確認してみよう。この打球方向はフェアゾーン上の打球を対象としているため、ファウルフライは含まれていない。



2016年以降、センターから逆方向(柳田は左打者なのでレフト方向)への打球が増加している(表3)。2016年といえばさきほども説明した「柳田シフト」が話題になったシーズンだ。柳田の逆方向への打球の増加はシフトを避けて打とうとした結果かもしれない。2018年は逆方向への打球が更に増加し、より広角に打ち分けるスプレーヒッターに変化しつつある。


センター方向への打球の滞空時間が低下し、飛距離が増加


さてここから柳田の変化にさらに深く切り込んでいく。一般的に放たれた打球は逆方向に飛ぶとゴロになりにくく、引っ張り方向に向かうほどにゴロになりやすくなる(表4)。



単純に逆方向への打球を増やした場合ゴロは減少し、フライが増加するのが一般的だ。しかし前述のとおり今季の柳田は逆方向への打球を増やしているにもかかわらず、ゴロも増やしている。この変化は、単純な流し打ちやゴロヒッティングの意識を強めたというだけでは説明が難しい。そこで、打球性質と打球方向を組み合わせて考えてみよう。



図1は打者視点でフェアゾーンを見た図だ。一番左の「Oppo1」が三塁線、一番→の「Pull2」が一塁線の打球を表している。

2018年は2017年と比較して、おおむね全方向でゴロ割合が増加している。特に逆方向へのゴロ割合は2016年以前と比較しても増加しており、例年よりも打球が上がっていない様子がうかがえる。また、中央部分が少しへこんでおり、逆方向からセンター方向へ向かってゴロ割合が低下=打球角度が上昇していることもわかる。他のシーズンよりサンプルが少ないものの、2017年以前には見られなかった傾向だ。こうしたセンター方向への打球の質の変化は、フライの飛距離や滞空時間にも表れている。




注目すべきは、2018年にセンター方向にフライの飛距離を大きく伸ばしているにも関わらず、滞空時間が減少している点だ(図2、図3)。打球速度や打球角度の上昇によって飛距離が伸びた場合、むしろ滞空時間は伸びるはずである。そうならないのは、柳田がフライの打球速度を上昇させた上で、打球角度を下げている可能性が考えられる。つまり、高々と打ち上がる放物線が減少し、鋭く強い弾丸ライナーが増えたのではないか、という推測だ。この傾向はセンター方向で特に顕著に表れており、打球方向別のwOBAにも反映されている(表5)。



フライの飛距離が大きく伸びた事もあり、センター方向のwOBAが急激に上昇している。以前は逆方向の打球に強みを持っていた柳田だが、年々強みがセンター方向へシフトしつつあるようだ。打球割合の大きいセンター方向でwOBAが上昇した結果、全ての打球を合計したwOBA (wOBA_con) も例年より高水準となっている。

ここまでの結果から、2018年の柳田は打球角度の上昇を抑えて、センター方向へ鋭く強い打球を放っているようだ。これは打球角度の上昇を喧伝するステレオタイプな「フライボール革命」とは一線を画す、いわば「センターライナー革命」とでも呼ぶべきスタイルへの変貌である。


ストレートにめっぽう強い2018年の柳田


柳田の『センターライナー革命』は、ある球種への対応に裏打ちされている。

まず2018年の柳田はストレートに圧倒的な強さを見せている。2015年から.546→.513→.434と推移してきたストレートに対するwOBAは2018年.606まで急上昇。一方で、スライダーやカーブなどの曲がる変化球に対しては例年並か、やや下回る成績となっている(表6)。よりストレートに特化したスタイルへ変化したようだ。そのストレートに対しての打球方向を見てみると、2018年の柳田は強引に引っ張らず、センターから逆方向を中心に打ち返しているようだ(表7)。




対ストレートについてもフライの飛距離と滞空時間を確認すると、やはりセンター方向への飛距離が飛びぬけている(図4)。滞空時間も減少しており、打球速度の上昇と打球角度の下降が伺える(図5)。




逆方向へのフライは飛距離が落ちているが、滞空時間も減少(表8)。ここでも打球角度低下の可能性を類推できる。滞空時間が5秒を超えるフライはほとんどアウトになるため効果的とはいえない。2018年は平均4.6秒のアウトになりにくいフライを放ち、飛距離の低下を補っている。逆に、2017年は逆方向の飛距離が大きかったが、滞空時間も長かったためアウトになりやすかったようだ。



全体の場合と同様に、ストレートに対してもセンターから逆方向のwOBAは異次元の数値を記録している(表9)。つまり、柳田はストレートで差し込まれても苦にならないという事だ。



差し込まれても対応できるため、今季の柳田は速いストレートを問題としていない。145km/h以上のストレートに対しては昨季.396だったwOBAが.613に上昇(表10)。柳田の変化は、昨季苦戦したスピードボールへの対応をも実現している。



なお、本拠地のヤフオクドームが2018年よりトラックマン準拠の球速表示となったため、他球場のスピードガンと比べて1~2km/hほど速く表示される点には注意が必要である。


ストレートへ特化したスタイルの副作用? スライダーへの対応


スライダーについてもストレートと同様に、打球方向別の傾向を確認しよう(表11、表12)。




スライダーに対してもセンターから逆方向への打球が多いが、逆方向のwOBAが大きく低下しているため、思ったようにwOBAは伸びてない。引っ張る打球が大きく減少している事から、引きつけ過ぎてタイミングを崩されている可能性や、前で捉えようとして失敗している可能性等が考えられる。

三振にも目を向けると、今季はスライダーやカーブでの三振が増加している(表13)。この傾向は、ストレートに特化したスタイルの副作用なのかもしれない。



対戦投手も柳田がストレートに照準を合わせている事を察知している様子で、開幕からオールスターまでの間にストレートの投球割合が急激に低下している(表14、図6)。危険すぎるストレートを選択せず、相対的に安全なスライダーやカーブの割合を増やしているようだ。




ストレートを投げるリスクが高すぎる以上、ストレートの割合を減らすのは妥当な対策と言える。象徴的な試合が2018年6月8日にナゴヤドームで行われた中日とソフトバンクの交流戦だ。ストレートを投げずカットボールやスライダーを多用する松坂大輔に対して、柳田は1四球2三振、しっかりと捉える事ができなかった。DELTAの判定では、この日の松坂は柳田に対して1球もストレートを投げていない(図7)。松坂の配球に新スタイルの柳田を攻略するヒントが隠されているかもしれない。



革命的な目新しい理論ではなく、基本技術を極限まで高めた原点回帰のスタイル


今回分析した柳田の変化は以下の3つのポイントに要約できる。


① ストレートを狙い打つ
② 打球角度を上げ過ぎない
③ センターから逆方向に打球を飛ばす

そこにあるのは革命的な目新しい理論ではなく、極めてオーソドックスな打撃スタイルである。言い換えれば、「センターライナー革命」は基本技術を極限まで高めた原点回帰の打撃スタイルと表現できる。この温故知新なスタイルに対峙する投手たちは、すでに新たな対策を講じて変化球を増やしはじめた。柳田も更なる変化を迫られるだろう。変化と対応のループがスポーツを進化させる。今後も柳田がもたらす変化のダイナミズムに注目していきたい。


文中のデータはすべて7月16日終了時点

(注1)
今回の分析で取り扱った打球種類のライナー ( LD )は、DELTAがフライナーとして計測した打球を含めている。フライナーとはライナーとフライの中間の打球で、1.02ではフライに含まれる打球である。そのため、1.02で確認できる打球割合とは若干異なる点に注意が必要である。

八代 久通@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。


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