• 1.02 Column


6月22日のオリックス対ソフトバンク戦、10回表同点の場面でソフトバンクの中村晃が放った打球はライトポール際に飛んだ。当初はファウルとされた判定だが、リプレイ検証の結果本塁打に変更。試合はそのままソフトバンクの勝利で終わった。しかし、オリックスの福良淳一監督は試合後に審判とビデオを再検証。審判団は誤審だったことを認めた。オリックスは後日、コミッショナーに対し提訴を行ったが、7月27日にコミッショナーが受理しなかったことでこの問題は終結。これにより、当初の審判の裁定が覆ることなく、確定することとなった。今回はこの問題について、オリックス側の主張とコミッショナーの判断を整理し、その妥当性を考えた。

オリックスの要望


このような事実関係を前提にオリックスは「誤審を認めるような杜撰な検証によって裁定を覆したことは、NPBリプレイ検証制度『リクエスト』の第3項に反しており、あきらかなアグリーメント違反である」として、10回表2死一塁、打者中村晃選手、カウント2-2の9球目をファウルとし、10球目からの続行試合の要望を行った。

しかし、機構側は、リプレイ検証による最終裁定は適正に行われており、アグリーメント及び公認野球規則に違反しない、野球規則7.04には「審判員の判断に基づく裁定については、どのような提訴も許されない」と明記されており、「パシフィック・リーグ アグリーメント」の「NPBリプレイ検証制度『リクエスト』」の「8.リクエスト行使における注意事項」(6)リプレイ検証によって出た全ての決定に対して異議を唱えることは許されない」ともされていることから、続行試合の要望には応じられないと回答した。


オリックスの主張の概要


この回答を受け、オリックスは、7月6日にコミッショナーに提訴を行った。オリックスの主張は、同球団のホームページに掲載されており、概要は以下のとおりである。


⑴ 社会通念から大きく逸脱すること

本件は、審判団が自ら誤審であることを認めているにもかかわらず、何らの救済措置が執られないものであり、社会通念から大きく逸脱する。

野球協約第3条に謳われている「わが国の野球を不朽の国技として社会の文化的公共財とするよう努め、野球の権威及び技術に対する信頼を確保する」との精神に鑑み、フェアプレイの精神で国民から広く支持を集めるプロ野球に関わるものとして、フェアな対応が執られないことは、遺憾である。

⑵ パシフィック・リーグアグリーメント違反であること

後に誤審であることを認めざるをえないような映像によって判定を覆すことは、パシフィック・リーグアグリーメント違反である。

パシフィック・リーグアグリーメント「NPBリプレイ検証制度」第3項に「確証のある映像がない場合は審判団の判断とする」と規定されている。映像により当初の裁定を覆す確証が得られない場合は、審判団の当初の判断を採用することになっている。試合終了後すぐに誤審を認めざるをえないような映像しかないにもかかわらず、審判団の当初の判断を覆したことは、同項に反しており、明らかなアグリーメント違反である。

⑶ 野球規則7.04により排除される異議ではない

野球規則7.04(提訴試合)には、「審判員の判断に基づく裁定については、どのような提訴も許されない」と明記されており、「パシフィック・リーグアグリーメント」の「NPBリプレイ検証制度『リクエスト』」の「8.リクエスト行使における注意事項」(6)リプレイ検証によって出た全ての決定に対して異議を唱えることは許されない」ともされている。

しかしながら、本件申立は、「審判員の判断」そのものへの異議ではなく、「NPBリプレイ検証制度」の適用についての異議であり、野球規則7.04により排除される異議ではない。


コミッショナーの提訴不受理


コミッショナーは、裁定を求めていたオリックスからの提訴を不受理とした。

その理由として、野球協約第188条に基づいてコミッショナーに裁定を求めることができる紛争は、コミッショナーの権限と責務に鑑み自ずから限定され、野球規則やリーグアグリーメントで異議を許さないと規定している案件まで裁定を求めることはできないことをあげた。そして、今回の事案が、野球規則やリーグアグリーメントで異議を許さないと規定していることから、提訴を不受理と判断した。


関係する公認野球規則


さて、それでは、コミッショナー今回の問題で双方が引用している公認野球規則の条文を見てみる。


7.04 プロテステイングゲーム(提訴試合)

審判員の裁定が本規則に違反するものとして、監督が審議を請求するときは、各リーグは試合提訴の手続きに関する規則を適用しなければならない。審判員の判断に基づく裁定については、どのような提訴も許されない。提訴試合では、リーグ会長の裁定が最終のものとなる。

審判員の裁定が本規則に違反するとの結論が出た場合であっても、リーグ会長に、その違反のために提訴チームが勝つ機会を失ったものと判断しない限り、試合のやり直しが命ぜられることはない。


このように、公認野球規則7.04によれば、「審判員の判断に基づく裁定については、どのような提訴も許されない。」とされている。つまり、提訴が許されるのは、審判員の裁定の中でも「審判員の判断に基づく裁定」以外の裁定ということになる。

では、「審判員の判断に基づく裁定」とはどのような裁定だろうか。公認野球規則には次のような条文が存在する。


8.02 審判員の裁定
(a) 打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレーヤー、監督、コーチ、または控えのプレーヤーが、その裁定に対して、異議を唱えることは許されない。

このように、公認野球規則8.02(a)には、「審判員の判断に基づく裁定」の例として、打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、走者がアウトかセーフかといった裁定をあげている。

また、8.02(b)では、


(b) 審判員の裁定が規則の適用を誤って下された疑いがあるときには、監督だけがその裁定を規則に基づく正しい裁定に訂正するように要請することができる。しかし、監督はこのような裁定を下した審判員に対してだけアピールする(規則適用の訂正を申し出る)ことが許される。

としている。

これらの公認野球規則の条文からすると、審判の裁定に異議を唱えることができるのは、審判の裁定が規則の適用を誤って下された疑いがあるときであり、審判の判断に基づく裁定には異議を唱えることができないことがわかる。

今回は打球がフェアかファウルか、という公認野球規則8.02(a)に示されている例にまさしく該当するため、中村の打球をホームランとした裁定は「審判員の判断に基づく裁定」である。このため、公認野球規則上は、提訴が許されない裁定といえる。

当初の機構側のオリックスに対する回答もこのような理解を前提にされていると考えられる。オリックス側もこのようなことを意識してか、「本件申立は、「審判員の判断」そのものへの異議ではなく、「NPBリプレイ検証制度」の適用についての異議であ」るとしており、今回はあくまで裁定が規則の適用を誤ってくだされた場合である、言い方を変えれば、審判がファールと判定すべき打球をホームランと判定したことそのものに対する提訴ではなく、その判断に至ったリプレイ検証制度の適用に違反があるとの主張をしている。


オリックスの主張の当否


オリックスは、パシフィック・リーグアグリーメント「NPBリプレイ検証制度」第3項に「確証のある映像がない場合は審判団の判断とする」と規定されているのであるから、映像により当初の裁定を覆す確証が得られない場合は、審判団の当初の判断を採用することになっている、と主張している。しかし、このような解釈は無理があるように思う。

「確証のある映像がない場合は審判団の判断とする」との規定を文字通り読めば、審判団の判断により当初の判断を採用することもできれば、当初の判断と異なる判断を採用することもできるように読める。さらに確証のある映像があるかないかについても、結局はその判断をするのは審判団であるため、全面的に審判団に判断が委ねられている。この点からもオリックスの主張は苦しい。

もっとも、オリックスとしては、このような規則違反の主張よりも前に、社会通念を大きく逸脱するとの主張をしていることや「もとより当球団は、野球規則、アグリーメントの条項云々の解釈、審判員の裁定について争うことを本意としていない。野球協約第3条に記載の通り、プロ野球を発展させるためには、本件のようなケースは続行試合とすることが、世間一般的に見て、真剣勝負をしている監督、コーチ、選手や応援してくれているファンに対してフェアなことではないかと信じ、コミッショナーに提訴するものである。不幸にして起こってしまった過渡期にある運用のミスについて、今後の然るべき改善策はもちろんのこと、当事者である当球団への救済を望むものである。」と主張していることからも、一番に述べたかったのはこれらの部分であると思われる。アグリーメント違反の主張は、規則上「審判員の判断」に対しては異議を唱えることができないため、なんとかして異議を適法なものとするために考え出した理屈ではないかと思われる。

結果的に、提訴は不受理とされてしまったが、オリックス側も提訴が許される場合ではないことは半ば認識しつつ、運用のミスについて今後の然るべき改善策が出されるなどの機構側の適切な対応がなされること、そしてあわよくばコミッショナーが公認野球規則に違反してでも「超法規的措置」により救済を行うとの裁定がされることを期待していたのではないだろうか。

提訴を不受理とすることを伝えられるとともに、コミッショナーから謝罪と再発防止に努めるとの回答を受けるや、理解を示して矛を収めたことからも、オリックス側も主張が無理筋であることを認識しつつ、適当な落としどころを探っていたのではないだろうか。


野球協約第188条の解釈


誤審やリプレイ検証制度の問題からは離れるが、今回の件で野球協約第188条の解釈に触れた点も注目に値する。

野球協約第188条以下はコミッショナーに対する提訴に関する規定となっている。

野球協約第188条は、「関係団体等は、コミッショナーに、あらゆる紛争につき裁定を求める提訴をすることができる。」とあり、「関係団体等」とは「①球団、②機構と契約関係にある個人、及び③この組織に属する団体と契約関係にある個人」(野球協約第8条第2項)であるから、「①球団」であるオリックスは提訴をする権利が協約上認められている。そして、「あらゆる紛争につき」という規定の文言を読む限りは、裁定を求める提訴ができる紛争には特段の限定が無いように読める。

しかし、コミッショナーは、野球協約第188条に基づいてコミッショナーに裁定を求めることができる紛争について、コミッショナーの権限と責務に鑑み自ずから限定され、野球規則やリーグアグリーメントで異議を許さないと規定している案件まで裁定を求めることはできないとして、提訴の対象を限定する判断をした[1] 。

このような解釈に対しては、規定の文言に反するとの批判やコミッショナーの権限を限定することで関係団体等の紛争を調停するコミッショナーの責務を果たすことができなくなるとの批判があるだろう。

しかし、コミッショナーといえど野球協約及びリーグアグリーメント等の諸規定や公認野球規則に反する裁定をすることはできないだろう。

コミッショナーの権限は野球協約により認められているのだから、その権限は野球協約に認められた範囲内で行使が許されると考えるのが相当である。野球協約等の規定の解釈に疑義が生じている場合ならばともかく、今回の件は明確に審判の裁定に異議を唱えることが許されていない場合に該当するのであるから、規定の通りに処理し、コミッショナーの裁定の対象としないことは合理的であろう。過去にコミッショナーの裁定が行われた件は、いずれも規定の解釈に疑義が生じた場合や規定が想定していなかった事態で、まさしくコミッショナーの判断が求められた事例であり、今回の事件とは事情が異なる。

また、審判との権限分配の関係でもコミッショナーが裁定を行うことには問題がある。公認野球規則は、「打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものである」としており、事実の判断については審判の専権とし、規則の適用についてのみ訂正を申し出ることを例外的に認めている。そのような判断は、実際に球場でプレイを見ていた審判に委ねることが望ましく、実際には球場でプレイを見ていないコミッショナーに判断させることは望ましくない。これはリプレイ検証を行った場合であるとそうでない場合とで変わりはない。このように公認野球規則上も専ら審判の判断に委ねられている事項について、コミッショナーが裁定を行うことは問題がある。

以上のように、文言上はあらゆる紛争について、コミッショナーに裁定を求めることができるように読めたとしても、その範囲はコミッショナーの権限と責務に鑑み自ずから限定されるとし、今回のオリックスの提訴を不受理としたコミッショナーの判断は妥当と考える。

今回の事件では、野球協約第188条の解釈について、コミッショナーの判断が明らかとなったが、このことは今後のNPBにおける紛争の処理に関しての重要な先例となると思われる。


[1]提訴自体が不受理となっており、提訴を受理した上で、オリックスの主張に対する裁定を行ったわけではない。このため、野球協約第190条、191条に定められた提訴に関する手続きも行われていない。


参考文献等
日本プロフェッショナル野球組織ほか編『公認野球規則2018』(日本プロフェッショナル野球組織コミッショナー斉藤惇ほか)、2018年
「6月22日に発生した「誤審問題」に関する記者会見のお知らせ」<https://www.buffaloes.co.jp/news/detail/00001542.html>(参照2018-9-24)
「日本プロフェッショナル野球協約2017」<http://jpbpa.net/up_pdf/1523253145-022870.pdf>(参照2018-9-24)
「NPB 誤審問題で提訴は受理せず オリックスに謝罪、再発防止を徹底」<https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2018/07/27/kiji/20180727s00001173284000c.html>(参照2018-9-24)

市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート2』にも寄稿。

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