• 1.02 Column



超変革を掲げ若手起用に力を入れる阪神。キャンプからオープン戦にかけては高山俊選手や横田慎太郎選手、北條史也選手らを売り出し、シーズンに突入すると陽川尚将選手や板山祐太郎選手たちを続々と1軍に引き上げ、ファンを驚かせました。金本知憲監督は「公約」を果たしつつ、チームも健闘しているといっていいでしょう。そうした中でも、開幕後に育成枠から支配下登録された原口文仁選手は、正捕手不在のチーム事情の中から一気にスタメン機会を獲得し、今やクリーンアップを任されるほどの打撃力を見せています。


球界内でもシンデレラストーリーに相応しい原口選手の活躍は、プロ野球選手の持つ可能性が想像よりも遥かに豊かで、かつ原石が埋まったままの状態で放置されている事実を明らかにしました。昨シーズンまではファームでも捕手としての出場が殆ど見込まれていなかった原口選手が、今や阪神の正妻候補の一番手。パワフルな打撃だけでなく、リードも素晴らしいという声まで聞かれます。


原口選手は2009年のドラフト6位で阪神に入団。強打の捕手として期待されましたが、プロ3年目の2012年に腰痛を患い、その年のオフに育成契約を提示され翌年からの背番号は3ケタの「124」になりました。さらに2013年4月での打撃練習中、今後は左手首にボールを受け骨折してしまうアクシデントもありました。そのため、原口選手は本来なら出場機会を伸ばすべきタイミングでこれを逃し、2014年と2015年は捕手としてファームでのスタメン起用すらありませんでした。



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ファームでの出場機会を見てもわかるように、原口選手が捕手として起用されたのは今シーズンも含めて76試合。6年間でこの数字ですから、球団はこの選手を正捕手として育てる考えは薄かったものと思われます。原口選手の入団以降、阪神は(育成も含めて)ドラフトで捕手を5人も指名しましたが、FAなど外部補強も同時に行ってしまったため、チームは1軍2軍ともに捕手で溢れかえってしまい、原口選手の捕手としての出場機会は閉ざされたも同然でした。特にファームでは、年間110試合前後の日程に対し半数以上でスタメン出場した選手は存在せず、昨シーズンまでの6年間で13人もの捕手が起用されていました。



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今シーズンの阪神は、就任以来金本監督が高く評価していた岡崎太一選手が開幕スタメンに名を連ね、その後は梅野隆太郎選手を中心に起用しましたが、4/27に梅野選手が1軍登録を抹消されると、その後2日間で捕手を3人も登録。その中の一人が原口選手でした。


プロ初出場となった27日の巨人戦は、0-6と大量ビハインドの展開で代打として登場した後にマスクを被り、サイン交換に投手が戸惑いを見せるなど不安の残る船出でしたが、翌28日の同カードでも代打として登場。チームの敗戦危機を救う貴重な犠飛を放ちました。その後、原口選手は先発でも起用されるようになり、5/4の中日戦でプロ初本塁打。5/19の中日戦ではサヨナラ安打も放ち、とても1か月前までは育成選手だったとは思えないような活躍です。


彗星の如く飛び出した原口選手の働き振りは、金本監督の思い切った抜擢に尽きることはいうまでもありませんが、1軍マスクの座がぽっかりと空いてしまった状況など、これまでの不運を一気に取り戻すかのような巡り合わせも見逃すことは出来ません。しかし、原口選手の出場機会は支えているのはバットでの貢献、つまり打撃面の信頼から来ているものと見て良いでしょう。


原口選手の打撃成績は、5/24時点で打率/OPSが.403/1.042、3本塁打に15打点と捕手としては十分過ぎるほどの数字を残しており、冒頭で名前を挙げた阪神の若手の中では高山選手と並んで、最も結果を残している打者です。そこで、1.02 ESSENCE of BASEBALLにある指標を使い、原口選手と高山選手の打撃傾向を捉えながら、今後の活躍を予想してみましょう。


※数字と順位は全て5/24迄


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まず、二人がどんなタイプの打者かを確認するため、50打席以上立った野手の指標から両選手のランクを出してみました。統計の時点で50打席以上の選手は両リーグで138おり、ランクが高ければ長所、低ければ短所と見ていきます。





【スイング率、コンタクト率と打球種別】



原口選手のZ-Swing%(ストライクゾーンを振る確率)は全体19位、高山選手は17位とどちらもストライクに対してかなり積極的なのがわかります。ただ、純粋なSwing%(スイング率)では両者ともやや順位を落とし、かつ原口選手の方に下がり幅が大きいのはO-Swing%(ボールゾーンを振る確率)に開きがあるからです。こちらは、原口選手が全体70位なのに対し高山選手は103位。原口選手は及第点ですが、高山選手はボール球を追いかける割合がやや高いようです。


一方、O-Contact%(ボール球をバットに当てる確率)は、原口選手103位、高山選手101位と苦戦しています。これは、実績1年目の選手には慣れが必要な部分もあるところで、対戦投手のデータや実際に対決した回数が増えるにつれ、打者によっては大きく改善されることがあります。O-Contact%の上位30選手の中でプロ1年目の選手はおらず、2年目でも西野真弘選手(オリックス)が3位に食い込んでいるだけ。何よりも経験が重要です。


BABIPは原口選手が全体2位と、現在の高打率を裏付ける理由にもなっていますが、合わせて見ておきたいのが打球の強さです。原口選手の高打率が単純に運として片付けられないのは、Hard%(強い打球の割合)の傾向においても高い位置にいて、さらにGB/FB(ゴロ/フライの比、フライ寄りを高位とする)も11位と、ヒットに繋がる打球を多く放っています。その反面、芯で捉えられないことも多いのか、Soft%(弱い打球の割合)も少なくはないようです。打球が弱くても野手と野手の間にボールが飛び、ゴロでも内野安打を稼げる可能性が高いのは高山選手の方。原口選手は、フライ寄りの打球を多く放ち、外野手の頭を超すような長打を期待したいところです。






【三振、四球に対するアプローチ】



原口選手のBB/K(四球と三振の比)は全体33位で、四球を選ぶ能力もありますが、それ以上にK%が30位と三振をあまりしないことも、今後の打撃状態を良いものと予測出来る理由の一つです。一方の高山選手は、BB%が全体124位、K%は101位と「三振が多く四球の少ない打者」の部類に入ります。これは前述したように、O-Swing%の悪さからきているのは明らかで、今後はボール球に手を出さないようにする改善が必要になるかもしれません。その点については、O-Contact%の推移も注意深く見ておきたいところです。


F-Strike%(初球ストライク割合)は、原口選手、高山選手どちらも高く、相手投手は明らかに勝負を避けているわけではないようです。初球ボールから入りやすいシチュエーションは、「長打力のある打者を迎えたとき」、「得点圏に走者がいるとき」、「次打者に投手もしくは打撃の弱い選手が控えているとき」と、敬遠四球が選択される状況と似ています。高山選手は、春先に1番打者として出場していたため、先頭打者を歩かせたくない 場面がこうした結果を生んだ可能性も考えられます。打順下位に座ることが多い原口選手は、歩かされることも想定しながら打席に立つ必要があります。その点、最近の試合では5番を打つ試合が増え、後続打者の調子次第では相手投手も勝負をしてくれる場面に期待が持てそうです。






【球種、投手左右への対応】



サンプル数的に不安な部分もありますが、各球種への対応も見ておきましょう。順位が高いほど各球種に対して多く得点をあげているというものです。高山選手は4シーム、カッターといった速球系やカーブに強く、原口選手はスライダー、カッターに強いほか速球にもまずまずの対応を示しています。どちらもやや苦手としているのはチェンジアップ、スプリッター(フォーク)系の落ちるボール。これが、サンプル数が増えるごとにどう変化していくのかも注目したいところです。


左右別での成績は以下のようになっています。



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高山選手の対左投手成績は、多くの選手がそうであるように対右投手よりも打率が低く、三振率と四球率も悪化しています。今後、左対左にどれだけ対処していけるかは、スライダーなど逃げるボールへの対応、打率以上に四球率、(長打力を含んだ)OPSが上昇するかどうかがカギとなるでしょう。


原口選手は、スライダーに対する結果が良いことから右投手への苦手意識は今のところありません。右対右での三振率、四球率が同等なのは非常に優秀で、この結果が続くようであれば例え打率が下がっても出塁率はある程度確保し、長打も継続して期待することが出来ます。


現在の原口選手の打撃成績は、打率が4割を超えていることもあり、全ての数字が優れているのは当然の結果です。今後、出場数が増えれば打率は必ず下がり、それだけを見ていると急に打てなくなったと思い込むときが来るかもしれません。今の時点でわかってきた原口選手の打撃の特徴は、


・強い打球を放つ力があり、積極性も併せ持っている。


・四球の数と三振の数がほぼ同数で、ボール球を無理に追いかけたりはしていない。


・右投手のスライダーに強い要素がある。


といった点です。


公式戦はまだ2/3近くも残っており、100打席にも満たない原口選手が最後まで好成績を残す保証はありません。結果が落ち込むことでベンチに下げられるのは当然という考えと、我慢強く起用すれば結果はついてくるという考えは、原口選手の打撃が本物であれば当然後者に入るでしょう。それを見極めるのは他でもない、金本監督自身です。



敢えて弱点を探すなら、81打席で3つと比較的死球が多いことです。右投手に強いのは、外角球に対して踏み込んでスイングすることが出来ているからかもしれませんが、一転してインコース攻めが多くなると死球による怪我が心配されます。それらを克服し、守りの面でも多くの経験を積むことが出来れば、阪神にとって待望の正捕手誕生の日も近くなるでしょう。

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