各球団、現在は来季に向けて補強を具体的に検討している最中だろう。数ある補強チャンネルの中でも今年はFA市場に注目が集まる。権利行使可能な選手の陣容が例年以上に豪華であるためだ。先日は、それら選手たちにどの程度の価値があるのかを客観的に測る
“FA選手ランキング”を作成した。
ただこれはあくまでフラットな視点での評価。当然ながら球団によって状況は異なる。本企画では各球団が置かれている状況を踏まえて、どの選手の獲得に動くべきか検討を行っていく。そしてその検討も2パターンを用意した。1つは無制限に資金があることを前提とした「理想的なシナリオ」、もう1つは各球団の予算を踏まえた「現実的なシナリオ」である。今回は中日編をお送りする。
- 【このFA選手を狙え!】他球団編はこちらから
- ヤクルト、DeNA、阪神、読売、広島、中日
オリックス、ソフトバンク、西武、楽天、ロッテ、日本ハム
野手のニーズを確認
まず総合指標WAR(Wins Above Replacement)をポジション別に見ることで、野手の現状戦力を確認しよう。WARは2.0がリーグ平均という目安で見てほしい。0.0がリプレイスメント・レベル(代替可能選手)だ。
得点力不足のため野手が弱いと考えられがちな中日だが、WARの評価で野手を見ると劣っているポジションはそれほど多くない。これは得点が入りにくいバンテリンドームでプレーしているため、打者の成績が能力以上に低く出やすいことに起因している。普通の球場でプレーすることを想定すると、中日の野手はそれほど劣っていない。
その中でも弱点となっているのは遊撃、そして左翼だ。
順番に見ていこう。遊撃は今季レギュラーの京田陽太が不振に陥ったことで、貢献度を落としたポジションだ。ただ後半戦には土田龍空が台頭。わずか62試合でWAR1.3を記録した。このまま定着すれば遊撃は弱点となる見込みは小さい[1]。また今季WAR-0.9に終わった京田についても、D-CASTによると来季はWAR0.7と成績の回復が予想されている。こうしたことから考えると、遊撃について重大な補強ポイントという認識を持つ必要はないだろう。
左翼はこの1ポジションだけでなく、外野3ポジション全体の問題として捉えるべきだ。今季中日の外野手でWARが最も高かったのは岡林勇希(WAR6.8)。これに大島洋平(0.9)、三好大倫(0.6)、アリエル・マルティネス(0.5)と続く。さきほどのWARの表で見ると弱点は左翼のみで、中堅と右翼は問題なさそうに見えた。しかしこれは両ポジションで岡林が素晴らしい貢献を見せたためだ[2]。岡林と2番手以下の選手との差は大きい。さらに2番手大島については、今後加齢により成績を落としていく見込みが高い。外野は2ポジション分弱点があると捉えるのが適切だ。複数人獲得しても補強効果は大きいのではないだろうか。
野手まとめ:外野手は複数人の補強も効果的に
[1][2]ただし土田、岡林もその貢献の大半は守備によってもたらされたものだ。守備力が成績に反映されるには打撃以上のサンプルサイズを必要とする。今季の守備成績が彼らの能力を適切に反映したものかについて、信頼度が高いわけではない。守備力を適切に評価するには引き続き注視が必要だ。
投手はどうだろうか。投手についても今季の中日は健闘していた。投手全体のWARは21.9でリーグ2位。野手とあわせて、リーグ最下位に沈むのが不思議なほどの成績を収めている。
2022年セ・リーグ投手WAR
球団 |
先発 |
救援 |
投手全体 |
阪神 |
21.7 |
9.0 |
30.8 |
中日 |
16.1 |
5.8 |
21.9 |
DeNA |
15.8 |
5.1 |
20.9 |
読売 |
16.3 |
4.0 |
20.3 |
ヤクルト |
12.2 |
7.6 |
19.7 |
広島 |
13.1 |
4.5 |
17.7 |
しかし投手、特に先発投手についての補強の余地は、WARのみで状況を判断すべきではない。補強効果はどれだけチームに上積みを作れるかで測られるべきだ。例えば先発1番手から5番手までエース級を揃えた投手力に秀でたチームでも、6番手が貧弱であれば先発の補強効果は大きい。
それを把握するため、具体的に来季の予測をベースにした以下の表で、先発の陣容を確認しよう。これを見ると、中日は予測WAR3.0以上の先発で4番手まで埋めることができている。ちなみに12球団で予測WAR3.0以上の先発が4人以上いたのは中日だけ。4人どころか3人の球団すら1つもなかった。上位ローテーションにおいて、中日は他球団に大きな差をつけられそうだ。
だからといって下位ローテーションが弱いわけでもない。予測を見ると、ローテーション当落線上の投手でも予測WAR2.0弱と、一定の質を備えた先発を用意できている。来季WAR1.5が予測される松葉貴大の残留にも成功した。下位にもかなりの充実度があるため、先発補強がチームに大きな上積みをもたらす可能性は低そうだ。
またこれほど先発に多くの人材を抱えている状況だけに、救援に対する不安も小さい。先発の余剰戦力を救援に回すこともできるため、あえて補強を行う必要はないだろう。
投手まとめ:投手陣全体で補強の必要性は低い
ここまでチームのニーズを確認してきたが、それに当てはまる選手が市場にいるかどうかはまた別だ。今オフ市場に出る可能性がある選手で、中日のニーズに応えられる選手はいるだろうか。まずは予算を気にせず考えてみよう。
抜群の補強効果をもたらしそうなのが、近藤健介(日本ハム)の獲得だ。前述したとおり、中日は岡林を除く外野戦力に大きな課題を抱えている。リーグ平均の選手が加わるだけでも大きな上積みがありそうな状況だけに、近藤獲得となると補強効果は凄まじいレベルになる。
また贅沢を言えば、近藤に加え西川遥輝(楽天)も獲得できるのが望ましい。外野手2名の獲得には抵抗感があるかもしれないが、ともに大きな効果を上げる可能性が高い。
2022年オフにおける中日のFA補強(理想)
- 1.近藤健介
- 2.西川遥輝
現実的なシナリオ
ただこれまで述べたのはあくまでも理想的なシナリオ。予算の都合から全選手の獲得は難しい。今オフの中日にはどれほど予算の余裕があるだろうか。DELTA独自の年俸予測システムから、中日の2023年総年俸がどれほどになるかを推定してみよう。
これで見ると中日の総年俸予想は27.1億円。過去9年で最も総年俸が大きかった2014年の総年俸27.0億円を既に超えてしまっている。予算アップが見込めない限り補強は難しいかもしれない。例年の予算からはみ出ることを許容できたとして、西川には手を出せるかといったところだろうか。少なくとも目玉選手獲得に動けるほどの余裕はなさそうだ。
2022年オフにおける中日の現実的なFA補強
- 1.西川遥輝
- 【このFA選手を狙え!】他球団編はこちらから
- ヤクルト、DeNA、阪神、読売、広島、中日
オリックス、ソフトバンク、西武、楽天、ロッテ、日本ハム