野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データ視点の守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2022”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は遊撃手編です。受賞選手一覧はこちらから。


対象遊撃手に対する9人のアナリストの採点・コメント

遊撃手は源田壮亮(西武)が受賞者となりました。アナリスト9人のうち8人が1位票を投じ、90点満点中89点を獲得しています。源田の受賞はこれで6年連続。ルーキーイヤーの2017年以降、遊撃守備の争いは完全に源田を中心に回っています。アナリスト道作氏からは、「イニングが短かったにもかかわらず流石」とのコメントがありました。

ただ昨季とは異なり、今季の源田は1位満票というわけにはいきませんでした。満票にストップをかけたのは長岡秀樹(ヤクルト)。高卒プロ入り3年目、弱冠21歳の遊撃手が2位に入りました。アナリスト二階堂智志氏が1位票を与えています。アナリスト宮下博志の分析でも、源田との差はわずかだったようです。3位に高卒2年目の土田龍空(中日)、4位に新人の上川畑大悟(日本ハム)が入るなど、全体的に世代交代を感じさせる結果となりました。

その影響を受け、かつての名手は中位~下位に順位を下げています。今宮健太(ソフトバンク)は5位、坂本勇人(読売)は6位、大和(DeNA)は8位という結果に終わりました。

    各アナリストの評価手法(遊撃手編)
  • 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • Jon:UZRを独自で補正。打球の強さにマイナーチェンジを行うなど改良
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
  • 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
  • 宮下:守備範囲は捕球、送球に分けて評価。これに加え、米国のトラッキング分析をフィードバック。打球が野手に到達するまでの時間データを利用し、ポジショニング評価を行った
  • 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
  • 大南:出場機会の多寡による有利・不利を均すため、出場機会換算UZRで順位付け。ただ換算は一般的に使われるイニングではなく、飛んできた打球数で行った

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

これを見ると、源田の数値が14.4とやはり高くなっています。しかし例年に比べると出場機会が少なかったこともあり、20を超えるほどにはなっていません。長岡との差はUZRで見てもそれほど大きくなかったようです。

この最も大きな差がついている守備範囲評価RngR(range runs)について、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。

以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な遊撃手に比べどれだけ失点を防いだか。右端の「RngR守備範囲」欄が合計値です。

これを見ると、各遊撃手がどういったゾーンの打球に対し強みを発揮していたかがわかってきます。

1位の源田は、全般的に打球処理に優れているというわけではなく、三遊間の打球については平均を下回っていました。一方で二塁ベース寄りの打球では抜群の処理能力を発揮。このゾーンの打球処理が源田の守備貢献を支えています。これは今宮も同様の傾向でした。そもそもの守備位置がやや二塁寄りにあるのかもしれません。

一方重心がやや三遊間寄りにあるのが長岡。二塁ベース周辺では平均を下回っていますが、三遊間で大きなプラス。特に三遊間ゾーンHでは+6.8と、12球団トップの値を記録しました。三遊間の打球といえば、一塁までロングスローが求められます。実際、アナリスト宮下が行った送球評価においても、長岡は+5.7と12球団トップの値を記録したようです。守備スキルの中でも、送球能力が長岡最大の強みと言えるかもしれません。なお、三遊間に強いのは中野拓夢(阪神)や、紅林弘太郎(オリックス)も同様でした。

源田時代も終盤へ突入か

前述したとおり、源田はデビューとなった2017年以降、NPBで支配的な守備力を見せ続けています。歴史的な守備力をもつ遊撃手であることは間違いありません。ただその源田も来季は30歳のシーズン。守備力に大きな低下があってもおかしくない年齢は迎えています。アナリスト岡田友輔、竹下弘道氏からは、源田時代の終了も遠くないとの指摘がありました。今季は世代交代の波を唯一堪えた源田でしたが、来季はどうなるでしょうか。

また今季出場が少なかった選手にも注目です。土田はわずか500イニング強ながら素晴らしい守備力を発揮しました。来季、出場が増える中でどれだけ守備力を維持できるでしょうか。DeNAは若手の森敬斗が同じく少ない出場で高い守備力を発揮。また移籍した京田陽太もかつて本企画で上位に入った選手です。上位に食い込んでくる可能性は十分あるのではないでしょうか。

過去の受賞者(遊撃)
2016年 安達了一(オリックス)
2017年 源田壮亮(西武)
2018年 源田壮亮(西武)
2019年 源田壮亮(西武)
2020年 源田壮亮(西武)
2021年 源田壮亮(西武)

データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2022”受賞選手発表
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