球界屈指の守備力を持つ西武の源田壮亮が夏場にかけて凄まじい勢いで守備指標を伸ばしてきた。春先とはどういった違いがあるのだろうか。
7、8月にUZRで安達、坂本を突き放す
まず源田の守備成績が夏場にどの程度上昇したのか、月別のUZR(Ultimate Zone Rating)の推移を見てみます。
6月終了時点の遊撃UZRは7.2。安達了一(オリックス)が8.0、坂本勇人(読売)が6.6であったため、トップクラスではあるものの、その中で傑出しているわけではありませんでした。しかし7月、8月とペースが急上昇。安達や坂本を置き去りにし、8月終了時点では25.1とものすごいペースで失点を防いでいます。「夏場になれば体が動くようになる」という言説をよく聞きますが、源田も夏を迎え調子を上げてきたのでしょうか?それとも何か別の要因が働いたのでしょうか?
夏場の源田は二塁寄りのゴロのアウト率が上昇
まずは、源田の守備の変化を見るために、開幕から6月終了までと、7月から8月28日までに分けてゴロ処理成績を見てみたいと思います。以下の図1に示す距離3で捕球された、あるいは通過したゴロのアウト率をゾーン別に求めました。
源田のアウト率を6月までと7月以降で比較したものを以下の図2に示します。6月までを水色、7月以降を紺色で表しました。実線がアウト率、各ゾーンにおける破線と実線の差は内野安打・失策・野選になった割合を表しています。
6月までと7月以降を比較すると、守備範囲が広がったというよりは、処理率が高いゾーンの重心が二塁寄りにスライドしたような形となっています。具体的には、7月以降は二塁方向L・Mのゾーンでのアウト率が高くなる一方で、ゾーンIでのアウト率は低下しています。またIのアウト率低下は打球が外野に抜けているわけではなく、内野安打・失策・野選の増加によるものです。
ゾーンLはアウト率上昇だけでなく、打球自体増加
次に図2においてアウト率が大きく上昇していたゾーンの打球数を月別に見てみたいと思います。7月以降に大きくアウト率が上昇していた二塁ベース付近・Lのゾーンの成績を図3に示します。
ゾーンLでは6~8月にかけて3・4~5月に比べて棒グラフが高くなっており、打球自体が増えていたことがわかります。その増えた打球に対し7月~8月は高い確率で処理に成功しているため、UZRが大きく上昇したのだと思われます。ちなみにほぼ二塁ベース上にあたるMのゾーンは7月にほとんど守備機会がありませんでしたが、8月に打球が増えアウトも増えていました。
つまり7~8月は源田が遊撃を守っているときに二塁付近の打球が増え、源田はその打球に対し開幕当初より高い確率で処理することができていたためにUZRを大きく伸ばしていたようです。
7~8月はイージーな打球が多かったのか?
以上のような結果が出ましたが、短い期間での成績なので特定の時期にアウトを取りやすいゴロが偏った可能性も考えられます。そこで二塁寄りのLのゾーンについて、結果ごとにゴロのハングタイム(バットに当たってから打球を捕球するまで、通過した場合は捕球するべき位置を通過した時間)のプロットを以下の図4に示します。
7~8月はハングタイムが長く、追いつきやすい打球が多かったためアウト率が高いのではないかと予想していましたが、ハングタイムの短い、速い打球はむしろ7~8月のほうが多く、簡単な打球が多いため高い処理率を記録していたわけではなかったことがわかります。
二遊間を多く抜かれた6月の反省から守備の重心に変化?
以上の分析から、源田のUZR急上昇の要因は二塁方向へ守備の重心をスライドさせたことと二塁付近へのゴロの増加が重なった結果ではないかと推測できます。もしかするとLのゾーンで6月にヒットが多く記録されていたため(図3)、その打球を抑えようという意識がこのような結果へとつながったのかもしれません。ただあくまでも短い期間のデータを使っての分析なので、偶然このような結果になっているという可能性も十分考えられます。少なくとも夏場になって動きが良くなったため、というだけでは説明できなさそうです。