今月14日から一週間以上に渡って熊本地方を襲った大地震により、多くの人々の命が失われ、今なお日常生活に支障を来す日々が続いています。地震により亡くなられた方々、被災生活を強いられている方々に対し、心よりお悔やみ、お見舞い申し上げます。プロ野球も、この大地震の影響を受け、16日のソフトバンク-楽天戦(ヤフオクドーム)と19日の巨人-中日戦(熊本)、20日の同カード(鹿児島)の3試合が中止となりました。


セ、パ12球団の選手と関係者は、募金を始めとする支援活動に精力的で、試合の合間にファンに呼び掛けをする姿が各地で見られました。選手の中にも家族や友人が被災を経験し、野球どころではない心境なのかもしれませんが、プロ野球があるからこそ多くの義援金が集まっている事実も見逃すことは出来ません。一日も早い復旧、復興をお祈り致します。

さて、前回のレビューから2週間が経ち、両リーグの順位や戦いがどのように変化しているのか、ここで振り返って見ましょう。



<セ、パ両リーグの順位おさらい>



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セ・リーグの首位巨人は、2試合が中止になったものの本拠地東京ドームでの試合に手堅く勝ち越し、24日時点での貯金は今季最多タイの5と調子を維持しています。2位から4位までは混戦模様でしたが、15日からの阪神戦に3連勝した中日が僅差ながら2位に浮上。こちらも、地元ナゴヤドームでの試合が有利に働きました。阪神と広島は、連勝の後に連敗と今ひとつ波に乗れず、豊富な戦力を生かし切れませんでした。


ヤクルトとDeNAは対照的な期間を過ごし、12日に順位が入れ替わると、その後16日からの直接対決でもヤクルトが連勝し、差が広がっています。両球団とも今季はアウェイでの試合に苦戦していますが、不利な条件を跳ね返す試合を一つでも多く増やさない限り、上位浮上は難しいものになりそうです。





パ・リーグは、開幕から10試合経過した時点で3勝5敗2分と負け越していたソフトバンクが、9日のオリックス戦から20日のロッテ戦に掛けて8連勝し、ロッテを抜き首位に立ちました。連勝中は、平均失点が1.63と完璧なディフェンスで、13日の西武戦で千賀滉大投手がプロ初完投を、20日のロッテ戦では和田毅投手が日本球界復帰後初完封をマークするなど、役者が揃ってきました。これに対しロッテは打線がやや低調になり、12日以降先発投手がQSをマークしながら敗戦投手になったのが3試合と、援護不足が響いてしまったのが首位を明け渡してしまった原因といえそうです。23日のオリックス戦から、謹慎処分の解けたナバーロ選手が1軍に合流し、得点力アップに繋がるかが注目されます。


西武と楽天は荒れ模様の試合が続き、両リーグワーストの25失策を記録中の西武は、22日の楽天戦の最終回に2つの悪送球が重なり逆転負け。楽天は、依然として救援陣に難があり、24日の西武戦は7回に一挙5点を取り逆転したものの、その裏メヒア選手に3打席連続となる逆転満塁弾を浴びてしまい、星を落としました。


日本ハムは調子がやや上向きになり、勝率5割まであと一歩、オリックスも13日の日本ハム戦で連敗に終止符を打った後は3連勝と窮地を脱し、開幕から13試合続けて0アーチだった打線も、糸井嘉男選手の3本をはじめ息を吹き返してきました。


両リーグとも故障者が多く、右肘関節遊離体摘出とクリーニングの手術を受けた館山昌平投手(ヤクルト)や、右足内転筋違和感で出場選手登録を抹消された岸孝之投手(西武)ら、長期離脱が避けられない選手も出ています。ただ、各球団は選手の体調に対して年々慎重になり、早い段階で主力を休ませるチームがでてきました。ペナント争いが過熱するまでは、コンディションの維持に努めるのは悪いことではありません。





<各球団の戦力値>



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セ・リーグ各球団の戦力値は2週間前とほぼ変わらず、阪神と広島が得失点差で優位を保っています。変化が起きているのは巨人の犠打で、期間中8試合で13個も増えています。僅差の試合が多かったことと、故障によりベンチを温めた坂本勇人選手に代わり、バントの名手といわれる片岡治大選手が4つの犠打を決めており、チームの攻撃スタイルが若干変わったのも理由の一つでしょう。巨人は他にも、 チームUZR が急激に悪化している状態で、これも坂本選手の不在が響いているものと思われます。


攻撃力で大きく出遅れているDeNAは、救援防御率が前回の5.20から3.65へと急激に改善。22日の巨人戦は、7回でマウンドを降りた今永昇太投手からバトンを受けた5投手が12回までノーヒットピッチングを演じ、ブルペン陣の整備が進んでいることを伺わせました。昨シーズンはチーム全体で UZR-49.6 を記録し、両リーグ最低の数字に終わった守備陣も、今シーズンはかなり健闘し、投手陣を助けているのも好材料です。



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パ・リーグは、ソフトバンクが平均得点、失点ともにリーグトップに立ち、連勝の勢いがそのまま感じられる戦力値となっています。楽天の平均得失点差は、前回の1.46から0.09へと大きくダウン。先発防御率3.43も少し悪くなりましたが、救援防御率は6.46から6.92とさらに悪化。チームとして、そろそろ改善策を検討しなければならない状況に差し掛かって来ました。

リーグ全体の平均得点4.33はセ・リーグの3.99に対して非常に高く、従って投手陣及び守備陣の整備を進めた球団が今後は優位に立ちそうな展開。現在5位に甘んじているものの、平均失点ではソフトバンクに次ぐリーグ2位、 チームUZR が急激に改善されてきた日本ハムは、上位進出の準備を着々と進めている状態です。





<各球団の戦力値を比較 パ・リーグ>



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パ・リーグの戦力値は、明暗が大きく分かれています。リーグ成績が上位の球団は、得失点差もプラスに転換しているだけでなく、大方の数字もリーグ平均を上回っています。一方で、下位2球団は主要な数字のほとんどが平均を下回り、特にオリックスはこの時点から最下位を抜け出せるかどうかわからないほど、深刻な状態です。





<柳田悠岐の連続四球日本記録>



4月19日のロッテ戦で、決勝点となる押し出し四球を選んだ柳田悠岐選手(ソフトバンク)は、このゲームで18試合連続四球となり、1970年に王貞治(現ソフトバンク球団会長)が作ったプロ野球新記録に並びました。今シーズンは、開幕から思うような結果をバットで残せず、決して好調では無かった柳田選手でしたが、昨シーズン「3割30本塁打30盗塁」を達成してMVPに輝いた実力が、ある意味証明されたような記録でもありました。


パ・リーグ各球団の投手陣は柳田選手を執拗に警戒し、年間177個(4/24現在)のハイペースで四球を与えてきたわけですが、これに対し柳田選手は我慢の打席を続けました。記録達成当日まで、相手投手が柳田選手にストライクを投げたのはわずか51%。一方、柳田選手がボール球をスイングしたのは全投球の21.1%で、これを球数に換算すると約90球。全体にしてストライクゾーンに来た球は31%程度しかありませんでした。


こうした攻めに遭いながら、柳田選手は初球に打てそうなボールが来た時は積極的にスイングするも、3球目以内では中々勝負に持ち込めず、1打席で4球以上待った打席は全体の74%、打席あたりの球数(P/PA)は4.38と、四球が多くなるのも当然でした。




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しかし、柳田選手もただボールを見ていただけではありません。「1.02ESSENCE of BASEBALL」にて紹介されている Plate Discipline を参考にすると、柳田選手の待ちの姿勢が進化していることに気がつきます。2014年からの統計で、ボールゾーンに対する反応は、手を出してはいけない球に手を出さなくなり、仮にバットを出しても捉える確率が上昇。ストライクゾーンの反応も、コンタクト率が高くなっています。結果として、全投球に対する空振り率は2014年から向上し、打つべきボールにアプローチする傾向が強くなっています。




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同じデータを、共にトリプルスリーを達成し、球界を代表する打者へと成長した山田哲人選手(ヤクルト)と比較してみましょう。ボールゾーンのスイング率(O-Swing%)は、山田選手の方がやや優れています。実績を積むごとに両者とも、打てる球が中々来ない状況です。ボールゾーンの投球をバットに当てる確率(O-Contact%)も山田選手に軍配があがりますが、柳田選手もこの点を改善し、今シーズンは差がほぼ無くなっています。


ストライクゾーンの対処は、今シーズンの柳田選手が慎重になっているのに対し、山田選手は積極的にバットを出しています。両者の違いが最も大きかったのはストライクゾーンでのコンタクト率でしたが、柳田選手はこの点で着実に成長しているといって良いでしょう。どちらも日本球界を代表する優れた打者で、相手投手の警戒から逃れることは出来ませんが、来た球を確実に捉えるという点では、現在もアプローチを改善させています。





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ちなみに、柳田選手にはもう一つ難題があり、打球傾向に対する極端なシフトを敷かれる機会が増えつつあります。既にロッテが対策を講じている「柳田シフト(柳田悠岐の鋭いゴロをアウトに ロッテが採用した「柳田シフト」に迫るを参照)」に続いて、日本ハムも極端なシフトを組んで来ました。投手の脇を抜ける打球が簡単に処理されるようだと、この先ヒットを何本損してしまうかわかりません。

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