近年では打球方向が引っ張り方向に偏る打者に対して極端なシフトが敷かれることが増えている。こうした変化もあって、打者ごとの打球方向の傾向にも注目が集まっている。ただ打球方向の傾向が打撃結果とどのように関係しているか、どのような影響を与えているかについては言及されることがあまりない。今回はこうした打者の特性が打撃結果にどのように反映されているのかを調べてみた。



分析の対象となる打者の分類と打球方向の傾向


今回の検証では、2016年から2020年までの間で、1シーズン中にバント、邪飛、邪直を除く打球が200以上あった打者を、プル(引っ張り)方向に飛んだ打球の割合(Pull%)ごとに3グループに分けた。同じ打者でも、シーズンが異なれば異なる打者としてカウントしている。延べ人数は430名となった。

この430名をそれぞれ「①強プル打者(Pull%が42%以上)」、「②中プル打者(Pull%が42%未満33%以上)」、「③弱プル打者(Pull%が33%未満)」の3グループに分けている。基準となるPull%の値は、概ね各グループの人数が全体の上位25%、下位25%とそれらの中間層になるように定めた。

なお、打球がプル方向(Pull)、センター方向(Cent)、逆方向(Oppo)のいずれに分類されるかは、捕球した野手の守備位置とは無関係に、フェアゾーンを30度ずつ区分していずれのゾーンに打球が飛んだかを基準としている(1.02のデータと概ね一致するが、一部区分が異なる打球も存在する)。各グループの人数の内訳は表1のとおり。

表1

まずは、細かな検証に入る前に、それぞれのグループでの打球方向の平均を確認しておく(表2)。

表2

総計の欄から全体の打者の傾向を確認しておこう。全体的には、プル方向とセンター方向の打球が35%強と同じくらいで、残りの25%ほどの打球が逆方向に飛んでいる。

次にグループ別に見ると、①強プル打者では、打球の半数近くがプル方向に飛んでおり、逆方向は2割に満たない。③弱プル打者では、プル打球は3割ほどであり、センター打球は4割ほど。全体的には、プル傾向が弱い打者であっても、逆方向に打球が飛ぶことはそう多くないことがわかる。


打者の打球傾向と打球方向別の打撃成績の関係


プル傾向の強さで打球方向別の打撃成績は変わるだろうか。プル傾向の強い打者は、引っ張った方が成績が良くなるためにプル打球が増えている可能性もあるし、そうではなく打球方向によって成績は特に変わらないが、プル方向の打球が多くなっているという可能性もある。

そこで、打球傾向と打球方向別に打撃成績を比べてみた。


打率での比較


まずは打率から比べていく(表3)。なお、この打率は、バント、邪飛、邪直を除いた打球数を分母としている。当然、三振は分母に含まれていないため、通常目にするような打率と比べても高めの値になっているので注意が必要だ。また、犠飛は凡打として扱っている。

表3

すべての打球方向の打球を合わせた総計の打率で比べると、①強プル打者と②中プル打者の打率が.354と、③弱プル打者と比べてやや高い数字となっている。少なくとも打球に限定した打率では、プル傾向の強い打者の方が、弱い打者よりも優れた成績を残している。

また、①強プル打者ではプル打球の打率は4割を超えているのに対して、逆方向打球の打率は、グループ②③と異なり3割を下回っている。プル傾向の強い打者の場合は、明確に逆方向よりもプル打球の方が打率が高くなっている。

また②③のグループでもプル打球の打率は1番目か2番目には高くなっている。意外なことにセンター打球の打率が低い傾向があるが、これは真正面から両側に15°の範囲では、野手の守備範囲に重なる部分が大きいのかもしれない。


総合打撃指標wOBAでの比較


続いて、打率ではなく、総合的な打撃貢献指標であるwOBA(weighted On Base Average)でも比べていく。ここでも対象となっている打球が打率と同じであることに注意してほしい。

表4

表4右端の総計欄を見ると、wOBAの観点ではプル傾向が強い打者ほど全体的に優れた成績となっている。また表下部の総計に注目すると、表3の打率以上にプル打球の優位性が明確になっている。これはプル打球がほかの方向の打球と比べて長打になりやすいという性質が影響している。

グループ別に見ていくと、①強プル打者は、プル打球のwOBAが最も高くなっている一方で、逆方向の打球は3つのグループで最も低い。また、②中プル打者と③弱プル打者を比べると、いずれの方向の打球でも③弱プル打者の方がwOBAが低い。プル傾向の弱い打者は、打撃力が弱い打者が多い傾向があるようだ。

ここまでの結果からすると、プル傾向の強い打者ほどプル打球で好成績を残す傾向が見られる。打者自身がどこまで打球方向をコントロールできるかは明らかでないものの、仮にある程度打者自身が打球方向をコントロールできるとすれば、引っ張った方が高い成績を残せるからこそ、プル中心の打撃をしているという可能性が高いといえる。




打球傾向と打球方向別の打球強さ、打球性質の差異


では、このような打撃成績の差はどうして生まれるのか。打球の強さ、打球性質(ゴロ、フライなど)を調べることでその原因が探れるかもしれない。


打球傾向と打球強さとの関係


まずは、打者の打球傾向と打球方向別の打球の強さを調べてみた(表5)。

表5

打球強さはAが最も強く、Cが最も弱い打球であることを表している。表5を見ると、基本的にはプル打球が飛んだ場合の方が、強い打球が多く、弱い打球が少ないことがわかる。また、打球の強さを比べてみても、プル傾向が強い打者の方が、プル打球がより強くなりやすい傾向がわかる。

そして、逆方向の打球を見てみるとこれとは反対の傾向が見られる。逆方向の打球では、①強プル打者で強い打球の割合が最も小さく、弱い打球の割合が最も大きい。プル傾向の強い打者の場合、プル方向には強い打球を飛ばせているが、逆方向にはあまり強い打球を飛ばせていない。

また、プル傾向の弱い打者でも、プル打球の方が強い打球を飛ばせる傾向にあるが、逆方向の打球でも弱くなりにくい傾向が見られる。

打球方向別の打球の強さを比べてみても、打者は自分が良い結果を出しやすい方向に打球を打つようにしているか、あるいは意識していないまでも良い結果を出しやすい方向に打球が飛びやすいといえる。


打球傾向と打球性質との関係


次に、打球性質についても比べてみる。まずは、打球の方向を区別しない場合の打球の性質を見てみる(表6)。

表6

打球の区分はゴロ、フライ、ライナー、フライナー(フライとライナーの中間の打球)の4つとしている。プル傾向の強い打者ほどゴロが少なく、フライが多い。また、わずかながらライナーの割合も他のグループと比べると少ない。

これまでの先行研究によれば、表7に示すように、引っ張った場合ほど打球はゴロになりやすいことが分かっている。

表7

ゴロ割合はプル打球が60%ほどになっているのに対して、逆方向の打球は30%ほどになっている。こうした傾向からすると、プル傾向の強い打者ほどゴロの割合が増えそうだが、表6で示したように実際にはそうなっていない。この理由を明らかにするために、打球方向別の打球の種類の割合を調べてみた(表8)。

表8

プル打球は他の方向の打球と比べてゴロになりやすいのは確かだが、①強プル打者はその他のグループと比べると、同じ方向でもフライになる割合が高くなっている。①強プル打者は、確かにゴロになりやすいプル打球が多いが、いずれの方向でも他のグループと比べてゴロになる割合が低いために、打球全体に占めるゴロ打球の割合が低くなっているということのようだ。①強プル打者がプル打球で高い成績を残しているのは、ゴロになりやすいプル方向でもフライやライナーを多く打っていることが理由の一つと考えられる。

これとは反対に③弱プル打者では、すべての方向で他のグループと比べてゴロの割合が高くなっている。

プル傾向の強い打者にはフライボールヒッターが多く、弱い打者にはグラウンドボールヒッターが多いようだ。

打球方向の傾向とゴロ割合(GB%)で打者を分類した場合の各区分の打者数は表9のとおりだ。

表9

①強プル打者はその60%近くがゴロの少ない打者で、ゴロが多い打者はほとんどいないことがわかる。




極端なシフトを敷くべきか考える材料


ここまでの結果からすると、プル傾向の強い打者は、打撃成績、打球の強さ、打球の種類のいずれの点からも、プル打球を多く打つ方が良い結果を残しやすいということがいえる。こうした結果からすると、プル傾向の強い打者が、あえて逆方向に打球を打つことはあまり良い結果につながらないように思われる。

かつて広島が王貞治に対してフェアゾーンの右側に野手を集中させる「王シフト」を採用したときに、真の狙いは王に逆方向を意識させることだったなどという説も聞かれる。真偽は定かではなく、王に対してそのような狙いが上手くいったかも明らかでないが、少なくともプル傾向の強い打者に対して、逆方向の打球を打たせることで打撃成績を落とさせるという一般論についていえば、あながち間違っていなかったかもしれない。

極端なシフトを敷くことに対しては、がら空きの逆方向を狙われるという反論がなされることが多いが、仮に打者が自身の本来の打撃を崩して逆方向を狙うことで、成績を落とすということが示唆されるのであれば、そのリスクを負ってまでシフトを破ろうとするメリットは少ないかもしれない。

なお、ゴロ打球に限定した場合の打球方向は表10のとおりになる。

表10

ゴロに限定すると、①強プル打者では、逆方向に打球が飛ぶ割合は10%に満たない。こうした結果からすると、フェアゾーンの逆方向30°を捨てて、残りの部分に内野手を配置するという方法も悪い選択ではないように思う。

話が本題からやや逸れたが、打者の打球方向の傾向と打撃成績の関係については、ここまで示したとおりだ。これらの結果を見ると、プル傾向の強い打者の方が弱い打者と比べて成績が良い傾向にある。しかし、これらの結果は、あくまで打球のみを対象としたものであるため、これだけでプル傾向の強い打者の方が高い成績を残しやすいと判断するのは早計だ。

次回は、プル傾向の強さによって、投球へのアプローチがどのように異なっているのか、投球に対する打者のアプローチを示すPlate disciplineデータを使って検証していく。

続編「どの方向に打球が飛びやすいかが、打撃アプローチとどのように関係しているか」



市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

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