2011年オフコラムアーカイブ

2011年のシーズン前から話題となったのは、やはり統一球導入についてだろう。実際にシーズンが始まってみたら、打者は大苦戦、投手有利な状況が最後まで変わることはなかった。大きくプロ野球を変えた統一球。今回から3回(「得点環境と勝敗」「投打への成績」「監督の作戦や球界の選択」)に渡り、統一球の影響とそれがもたらした変化について考えていこう。

得点環境の変化


最初に統一球が試合に与えた影響と、それによってどれだけ勝敗に影響したのか、という視点で見たのが下の図になる。


pict

統一球の導入の影響を測る上では、まず、「得点にどれだけ影響を与えたのか」を考えるのが基本となるだろう。得点は試合の勝敗を決める基準であり、この変化を把握することが統一球の影響を測るのには欠かせない。グラフは2リーグ制以降のセ・パ両リーグの平均得点を表している。


ここ数十年は、平均で4得点以上のシーズンが多く、さらにパ・リーグは、平均4.5以上の得点を挙げるなど、打者にとって有利なシーズンが多かったのが分かる。しかし、今シーズンは統一球の導入で得点環境が一変してしまった。2011年はNPB史上最も得点が入りにくかった1950年代半ばから1960年代並みで、2リーグ制以降62度のペナントレース(両リーグ合わせて124シーズン)で、両リーグともに3番目に得点が入らなかったシーズンとなったのである。つまり2011年シーズンは、攻撃側にとって大変厳しく、守備側にとってはここ数十年でもっとも有利な環境に変わったのだ。年度毎の得点環境の変化は、チーム、選手、その他統一球の影響を考える上で基礎となる。


加えて、前年から平均得点がセ・リーグは1.16、パ・リーグは1.06も減少している。これ以前に平均得点が1.00以上変化したのは、2003年のパ・リーグで前年から1.03増えたのが最大だった。今季は前年との差分が2リーグ制以降最大で、環境が激変したという意味でもNPB史上稀なシーズンだったと言えるのだ。


この変化はプレーする選手はもちろん、チーム運用の責任者である監督や、予算と相談してチームを作り上げる編成にとって想定外の事態だったはず。この環境に適応するのは並大抵のことでなく、野球関係者だけでなくファン自身も、これまでの野球観を改めなければならないシーズンだったと言えるかもしれない。



4得点で試合はかなり有利に運べる


NPBの歴史を振り返っても2011年シーズンは得点が入らない環境だった、ということは確認できた。さらに勝敗にとってどの様な影響があったのだろうか。


2010年は勝敗に関わらず、試合終了までに3得点をあげる割合が最も高く、5得点以上をあげる割合も40%を超えていた。対して2011年は、セ・リーグが2得点、パ・リーグは1得点で試合を終える割合が最も多く、5得点以上をあげる割合は25%程度にまで低下してしまったのだ。両リーグともに無得点の試合が10%を超えるなど、攻撃側が得点をあげるのに四苦八苦しているのがデータの上からも伺える。とにかく点が取れない、ベンチそして観客もそんな思いが充満したシーズンだったわけだ。


シーズン中に個人やチームの連続無失点記録(無得点記録)などが話題になるなど、統一球導入という環境の変化によって、昨年まで通用していた勝利する戦略や戦術が変わってしまった可能性がある。



pict

この変化は得点別の勝率によく表れている。野球は試合終了までに相手よりも1点でも多く得点をとれば良いスポーツだ。得点を多く取れば自然と勝率は上昇するが、2010年と2011年の得点別の勝率にはかなりの差が出ている。2010年の得点数で見込める勝率に比べ、2011年は同じ得点でもより多くの勝利を見込めるのだ。


これは1得点の価値が相対的に上がっていると言い換えても良い。前年と大きな差があったのは2.4得点で、勝率が大幅に上昇している。この変化は今シーズンを象徴している。前年までなら2得点で見込める勝利は僅かだったが、今シーズンに限っては(もちろん不利にはなるが)勝負にならないほどの得点ではなくなっている。2010年は、明確にチームが有利になるのには5得点以上が必要だったのに対して、2011年は4点取れればかなりの確率で勝利を望める環境に変化したのだ。


これは統一球が来シーズン以降も使用され、相対的に得点を取りにくいシーズンがこのまま続くと仮定すると、攻撃側にとって4得点目というのはシーズンを戦う上で一つの目標になる数字だ。もちろんこれはリーグ全体の話で、勝敗は得点と失点双方の関係で成り立つものなのは言うまでもない。しかし、2010年シーズン以前に比べ1得点の価値を相対的に引き上げたということは確認できただろう。


ここまで、得点という視点から統一球導入の影響を考えてきた。統一球は昨年に比べ得点を大幅に減少させ、NPB史上でも得点をあげることを非常に難しくしている。さらに、1得点の価値を相対的に上昇させ、昨年よりも少ない得点で勝敗を決する割合を高めた。

次回はこの様な環境変化を前提に、攻守で何が起こったのか確認していく。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る