前回までの分析では、無死二塁からのバントが、どの程度試みられているかどの程度成功しているかに注目して分析を行った。今回は勝利期待値をどれだけ増減させたかを表すWPA(Win Probability Added)を使って、バントが効果的に使われているか、その有効性を検証していく。

バントを試みなかった場合とWPAで比較する


バントの有効性を検証する上では、バントを試みた場合と試みなかった場合とを、打者の打力や投手の能力などのそれ以外の条件を揃えて比較を行う必要があるだろう。まずは、その前提としてバントを試みた場合と試みなかった場合でWPAを求め、それをそれぞれの打席数で割ることで、1打席当たりのWPA(WPA/PA)を求めた(表25)。

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このように、無死二塁からバントを試みた場合にはWPAの平均が負の値を取るのに対し、バントを試みなかった場合では正の値を取っている。つまりこれだけを見れば、無死二塁からはバントをしないほうが勝利に近づく選択ということになる。

しかし、これだけを見て、無死二塁からのバントが勝利期待値を低下させる愚策という判断をするのは早計だ。

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同じ無死二塁でも打者のwOBA(weighted On-Base Average)が高いときはWPAも高く、打者のwOBAが低いときはWPAも低い(表26)。そして、これまでにも見てきたとおり、打者のwOBAが高いときにはバント企図率は低く、打者のwOBAが低いときにはバント企図率が高い。このため、バントを試みなかったときというのは、打者のwOBAが高い場合が多い。バントの効果を検討する場合には、このような点も考慮に入れなければならない。wOBAの高い打者に対してバントをさせることは効果的でないとしても、打たせても良い結果が期待しづらいwOBAの低い打者に対してバントをさせることは効果的ということもあるかもしれない。

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表27では、wOBAに基づいて打者を3つのグループに分けて、それぞれバントを試みた場合とバントを試みなかった場合とでWPAを比較した。すると、wOBAが.310以下のグループ③を除くとバントを試みた場合の方が、WPAが悪化している。また、打者の打力が高いほどバントをした場合のWPAの低下が大きい。

では、投手の能力に着目して場合分けを行うとどうなるか(表28)。

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投手の能力も打者の能力と同様にWPAに影響を与えていることがわかる。投手の能力に着目した場合分けでは、バントの効果が見えるだろうか。

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投手をtRA(true run average)に基づいて3グループに分けて検討した結果では、tRAが3.50未満のグループAを除くとWPAの差は負の値となっている(表29)。また、必ずしも投手の能力が低い場合ほどバントを試みた場合のWPAの差が大きくなるという傾向は見られないようだ。

さらに、打者と投手双方を考慮して場合分けを行った結果についても見てみる(表30)。

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打者と投手双方の能力を考慮した結果からすると、打者の能力が高い場合にはいかなる場合にもバントを試みない方がよいようだ。これに対して、打者の打力が低く、投手の能力が高い場合にはバントを試みた場合の方が、WPAが上昇する傾向が高いという結果になった。無死一塁の場合は、こうした場合分けを行ってもバントが有効な場面が全くといっていいほど見つからなかったが、無死二塁の場合には、打者と投手の能力(及び点差とイニング)次第で、バントを試みた方が良い場合もあるようだ。




バントを試みなかった場合の得点確率との比較


次に1点をとれるかどうかを表す得点確率の違いについても見ていく(表31)。

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このようにバントを試みた場合の得点確率は64.0%なのに対し、バントを試みない場合の得点確率は59.0%だ。無死一塁の場合には、バントをした場合の方が、むしろ得点確率が下がっていたが、無死二塁の場合は得点期待値はともかくとして得点確率は上昇する。

続いて、打者のwOBA別に得点確率を見ていく(表32)。

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意外なことに、最も得点確率が高いのは打力が最も優秀なグループ①ではなく、中位のグループ②であった。もっとも、その差はわずか1.4%。基本的には打力が高い方が得点確率も高くなっている。

続いて、これまでと同様に打者をwOBAによって3グループに分け、それぞれのグループでバントを試みた場合とそうでない場合とで得点確率がどのように変化するかを調べてみた(表33)。

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wOBAが.350超のグループ①を除くと、バントを試みた場合の方が得点確率は高くなっている。これは無死または1死で走者が三塁にいるという状況の得点確率が高いこと、無死二塁からのバントの成功率が高いことが原因と考えられる。また、打者の打力が低いほどバントをしなかった場合の得点確率が下がるため、バントをした場合との差が大きくなっている。

打者の能力が平均程度かそれ以上の場合には、無死二塁の場合にバントを試みるケース自体が少ないため、どこまでこの結果を信用してよいかは気になるところだが、9回以降に同点で後攻の場合のような1点勝負の場合にはバントは有力な選択肢になるだろう(もっとも、そのような場合には敬遠で塁を埋められる可能性も高い。無死一二塁の場合のバント成功率等の詳細については今後扱っていくが、無死一二塁からのバント成功率は投手以外に限定しても75%程度まで下がる。)。

次に、投手の能力ごとに分けた結果についても見ていく(表34)。

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投手をtRAに基づいて3グループに分けてみたが、優秀な投手の方が得点確率が低くなっている。さらに、打者のときと比べてもグループ間の確率の差は大きくなっている。では、それぞれのグループでバントをした場合とそうでない場合とで得点確率を比べていく。

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いずれのグループでもバントを試みた場合の方が、得点確率が高い結果となった。ただし、優秀な投手ほどバントをした場合とそうでない場合との得点確率の差が大きいということはないようだ。優秀な投手の場合はバントをしてもしなくても得点確率は低く、能力の低い投手の場合はバントをしてもしなくても得点確率は高い。得点確率の差は、バントをしたかしないかよりも投手の能力に大きく影響を受けている。

こうして打者と投手を能力ごとにグループ分けした結果からすると、バントをするかしないかを判断する上では、投手の能力よりも打者の能力を重視すべきといえそうだ(もちろん、得点期待値を下げてでも得点確率を上げた方が良い場面かという検討はその前提として行う必要がある。)。




無死一塁に比べ、無死二塁ではバントが有効な場面が多い理由


ここで、無死一塁の場合との比較をしてみる。無死一塁の場合に、打者のwOBAと投手のtRAによってバントした場合とそうでない場合との得点確率を比較してみた結果は次のとおりだ(表36、表37)。

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なお、以前の記事では2019年のデータのみを使用していたが、今回は2016年から2019年までのデータを使用しているため、細かな数値には変化が生じている。このように、無死一塁の場合は、打者の打力が低いグループ③などの一部の場合を除いてバントをした場合の方が得点確率が低くなっている(当然、得点期待値やWPAはいずれの場合もバントする方が下がる。)。

このような結果となったのは、そもそも無死一塁から1死二塁にしたところで得点確率は上がらないということが大きい。これに対して、無死二塁から1死三塁にすると得点確率は上がる。

それに加えて、バントが有効な場面、具体的には打者の打力が低い場面や投手の能力が高い場面ほど、成功率が下がることが関係していると考えられる。無死一塁の場合、打者の打力が低い場合、投手の能力が高い場合、試合の終盤、僅差といったバントが比較的有効な場面ほど成功率が低くなるため、バントが有効な戦術となるのはごくごく限られた場面になってしまっていた。

無死二塁の場合には、前回の記事でも述べたようにバントが有効な場面ほど成功率が低くなるという傾向がほとんど見られなかった。こうしたことが無死一塁の場面でのバントとの差を生んでいると考えられる。




まとめ


以上の結果からすると、無死二塁からのバントは無死一塁からのバントと比較すると、それなりに有効な場面があるといえる。こうした結果は、無死二塁から1死三塁とすることで得点期待値は下がるものの、得点確率は上がること、成功率が比較的高いことが大きな原因と考えられる。また、無死一塁からのバントが、有効な場面ほど成功率が低くなるのに対し、無死二塁からのバントにはそのような傾向が見られなかったことも一因だろう。

もっとも、WPAでの比較で見ると、打者の打力にかかわらずバントを試みた方が得点確率が上がっているのに対し、打力が高いか中程度の場合にはバントを試みない方が良い結果となっている。これは、得点確率を高めても得点期待値を下げることが基本的にあまり得策ではない、つまり1点だけを取りにいくという意思決定が有効な場面がさほど多くないということを意味する。

したがって、無死二塁からのバントが比較的有効に機能しやすいといっても、得点差、イニングといった要素を考慮し、得点期待値を下げてでも、得点確率を上げるべき場面なのか、吟味が必要であることに変わりはないといえる。

27日(水)公開の記事では、今回行った無死二塁の条件を、無死一二塁に変えて、検証を行っていく


市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

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