野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン
“デルタ・フィールディング・アワード2024”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は二塁手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象二塁手に対する6人のアナリストの採点
二塁手部門では吉川尚輝(読売)が2年連続の受賞となりました。アナリスト6人中3人が1位票を投じ、60ポイント中55ポイントを獲得しています。吉川に1位票を投じたアナリスト宮下は、守備範囲、併殺完成の2部門どちらも高評価とコメント。ただ、アナリスト道作氏は吉川に1位票を投じつつも「選手間の成績差は昨季よりも縮まっている」と指摘しています。過半数以上の1位票を獲得した昨年ほど圧倒的な評価ではなかったようです。
2位に選出されたのは小深田大翔(楽天)。道作氏の予想通り、1位の吉川とはわずか1ポイント差の大接戦。アナリスト2人から1位票、3人から2位票を獲得しています。小深田に1位票を投じたアナリスト市川氏の分析手法では守備範囲と失策回避で他選手に差をつけたよう。特に一二塁間の打球処理で他選手を大きく突き放したようです。
3位には外崎修汰(西武)がランクイン。外崎は2020-22年の二塁受賞者。すでに31歳と守備に衰えが見られる年齢に差し掛かっていますが、依然一定の守備力を維持しています。1位票が吉川、小深田の両者で割れる中、球場ごとの守備難易度を評価に加えたアナリスト二階堂氏は外崎を1位に選出。本拠地ベルーナドームが二塁守備に不利な点を考慮すると、外崎が最も高い評価となったようです。
4位以降には小川龍成(ロッテ)、牧原大成(ソフトバンク)、菊地涼介(広島)と続きます。今季ブレイクを果たした小川はいきなり上位に食い込む結果となりました。アナリスト佐藤氏は小川の速いゴロへの処理能力の高さを指摘しています。日本を代表するユーティリティ・プレイヤーの牧原は今季はじめて二塁に専念。11名中5位とまずまずの評価を得ました。2016-18年と3年連続で本企画を受賞した守備の名手・菊地は昨年と同じ6位に。後述する守備範囲評価では、ゾーンごとに得意・不得意がはっきりとしている様子が見えてきます。
7位は今季一軍デビューを果たした田中幹也(中日)、8位は山田哲人(ヤクルト)と続きます。山田は昨年の5位から順位を落としました。道作氏は山田について「加齢とともに守備成績が悪化しており、来季の成績次第ではコンバートも考える時期に来ている」とコメントしています。
下位グループは藤岡裕大(ロッテ)、中野拓夢(阪神)、牧秀悟(DeNA)。遊撃からコンバートした藤岡は同僚の小川に大きく差をつけられる結果となっています。中野は昨年の3位から大きく順位がダウン。多くのアナリストが下位票を投じている中、二階堂氏は甲子園球場が二塁守備に不利な球場である点を指摘。中野に6位票を投じました。牧も昨年の4位から一気にワーストに。昨季は高評価を得ましたが、入団から4シーズンの守備評価を見ると、二塁手としては平均より劣ると見るのが妥当でしょうか。
各アナリストの評価手法(二塁手編)
- 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
- 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
- 宮下:守備範囲、併殺完成評価を機械学習によって算出
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
UZRでトップとなったのは小深田。1133.2イニングを守り、同ポジションの平均的な選手に比べ6.8点分の失点を防いだという評価です。本企画受賞者の吉川もUZR6.5とトップクラスの守備貢献を記録しています。ワースト評価となった中野は守備範囲評価RngRの大きなマイナスが響く結果となりました。
このように、UZRの評価で最も大きな差がつくのが守備範囲評価です。具体的にどういった打球を得意・不得意としているのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。以降、選手ごとに表示される図はどのゾーンの打球処理を得意・不得意としていたかを表したものです。値は平均的な二塁手と比較してどれだけ失点を防いだかを示します。
小深田大翔(楽天)
小深田の守備範囲評価は3.5。僅差ではありますが、全体でもっとも高い数値を記録しました。一二塁間のゾーンTでは5.3点分、二遊間のゾーンNで2.5点分と、定位置から大きく離れたゾーンで多くの失点を阻止。一方で定位置周辺のゾーンでは平均以下の成績でした。定位置から離れたゾーンで多く処理しているという点で、機動力の高さを感じさせます。
吉川尚輝(読売)
吉川の守備範囲評価は3.2。依然平均以上の処理能力を見せているものの、守備範囲評価9.7を記録した昨季よりは存在感が薄れた印象です。ゾーンごとにはっきりとした傾向は見られません。以降に続く二塁手の多くが、二遊間、一二塁間どちらかに処理傾向が偏っているため、吉川は両方向に満遍なく強いという点が特徴的といえるかもしれません。
外崎修汰(西武)
外崎の守備範囲評価は1.0とほぼ平均クラス。二遊間寄りの打球で優れた処理能力を見せています。一方、一二塁間方向に離れたゾーンでは大きなマイナスを記録。これは昨季とはまったく逆の傾向。もしかしたらポジショニングを二遊間寄りにするなどの調整を行ったのかもしれません。外崎については現在他ポジションへのコンバート報道が出ていますが、二塁手としてのパフォーマンスは決して悪いわけではないようです。
小川龍成(ロッテ)
小川の守備範囲評価は3.4。他球団の二塁手と比べて大幅に少ない出場機会数(533.2イニング)ながら、上位クラスの守備範囲評価を記録しました。ゾーン別に見ると、定位置から二遊間の打球で差を生み出している様子がわかります。一方やや弱いのが一二塁間寄り。ただ同じ一二塁間でも定位置から大きく離れたUやVのゾーンでは強みを作っており、広い守備範囲がうかがえます。
田中幹也(中日)
田中の守備範囲評価は1.5。一軍デビュー年から、ハイレベルな二塁で一定の成果を残しました。ゾーン別に見ると得意・不得意がはっきりしています。定位置から二遊間の打球を得意としている一方、一二塁間のゾーンはやや苦手としているようです。傾向としては前述した外崎に似ているでしょうか。
牧原大成(ソフトバンク)
牧原の守備範囲評価は3.3。二塁に専念した今季も優れた守備力を見せました。広いゾーンで満遍なく打球を処理しており、はっきりとした特徴は見られません。ただ、多くの二塁手が一二塁間の打球を苦手としている中、牧原は平均以上の処理能力を記録しています。ゾーンS〜Uすべてでプラスを記録した二塁手は牧原のみ。すでに32歳と守備に衰えが見られてもおかしくない年齢ですが、広い守備範囲は健在のようです。
菊池涼介(広島)
菊地の守備範囲評価は0.1。もはや言うまでもない守備の名手ですが、意外にもUZRの評価は2017年頃から平均程度に落ち着いています。ここ数年で大幅に落ち込んだというわけではありません。
ゾーン別に見ると優秀なのは二遊間の打球。二塁ベース付近の打球で多くの失点を防いでいます。確かにセンター前ヒットかと思ったら菊池がいたという場面は多くのセ・リーグ対戦球団が経験しているところではないでしょうか。
一方で一二塁間は明確な弱点になっています。意外に思われるかもしれませんが、一二塁間のゴロは他の二塁手に比べても追いつけないケースが非常に多いようです。これは毎年続いている菊池の傾向です。以前アナリスト宮下の記事で菊池の二塁寄りのポジショニングについて指摘を行いましたが、今季もこのポジショニングが継続していた可能性が高そうです。
山田哲人(ヤクルト)
山田の守備範囲評価は-1.1。2021年から3年連続でプラスの守備範囲評価を記録していましたが、今季は平均以下の成績となっています。多くの二塁手と同様、定位置から二遊間の打球で優れた処理能力を発揮した一方、一二塁間の打球で失点を増やしています。特にゾーンTでは4.6点分もの失点を増やしてしまいました。道作氏が指摘しているように、来季以降の成績次第でコンバートを検討する年齢に差し掛かっているかもしれません。
藤岡裕大(ロッテ)
藤岡の守備範囲評価は-2.2。遊撃からのコンバート1年目は平均を下回る結果となりました。藤岡も多くの二塁手と同様に、定位置から二遊間のゾーンを得意としている一方、一二塁間のゾーンを苦手としています。今季二塁手として併用された小川は平均以上の守備範囲評価を記録しており、守備力の観点では小川に一歩後れをとっているでしょうか。
牧秀悟(DeNA)
牧の守備範囲評価は-5.2。昨季の4.9から大きく成績を悪化させる結果となりました。ゾーン別に見ると一二塁間の打球を苦手にしており、特にゾーンTでは6.4点分の失点を増やしてしまいました。昨季優れた処理能力を見せた二遊間の打球は依然多くの失点を防いでいますが、前述した一二塁間のゾーンのマイナスが響く結果となっています。
中野拓夢(阪神)
中野の守備範囲評価はワーストの-10.2。昨季は0.2と平均クラスの処理能力を見せていましたが、1年で大幅に成績を落としています。強みとなるゾーンはほとんど見当たらず、一二塁間、二遊間どちらのゾーンでも失点を増やす結果に。特に多くの二塁手がプラスとなった二遊間の打球で多くの失点を喫してしまいました。二階堂氏が指摘したように、甲子園が二塁手に不利な球場である点もマイナスが大きくなっている要因かもしれません。
来季の展望
吉川が2年連続の受賞となりましたが、現在29歳と守備の衰えが見えてもおかしくない年齢。上位のポイント数にほとんど差はなく、来年も混戦になりそうです。今年名前が挙がらなかった意外な若手選手が一気に上位となる展開もありえそうです。
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