野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2020年の日本プロ野球での野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する“1.02 FIELDING AWARDS 2020”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。

対象捕手に対する9人のアナリストの採点


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捕手部門はアナリスト9名のうち8名が1位票を投じた木下拓哉(中日)が受賞者となりました。

捕手については、2018年よりDELTA取得の投球データを使ったフレーミング(捕手がより多くのストライクを奪うための捕球)もアナリストによっては評価の対象としています。DELTA取得の投球データは目視により入力されたものであり、機械的に取得したデータと比べた際には精度の部分で課題を抱えています。しかしこれまでのFIELDING AWARDS、またはほかの研究においても一定の成果を得られているため、データ入力におけるルールの厳格化、分析時のデータの扱いにおいて注意を払うことを徹底したうえで、評価を解禁しています。

しかしどのような分析を行いこうした評価に至ったかはアナリストごとに異なります。捕手部門は参考として宮下博志氏の分析を掲載します。2020年捕手の守備評価はこちらから。




捕手参考分析:八代久通



捕手の評価基準


捕手の守備評価は、ほかのポジションと比較して非常に特殊である。フィールディングで直接アウトに関わるプレーが少ない一方、ほかのポジションに存在しない種類のプレーが多く存在している。キャッチングでストライクを増やすフレーミング、ランナーの盗塁阻止、暴投の阻止などは代表的な捕手特有のプレーだ。今回の守備評価では、捕手のプレーとして表1の4項目を評価対象とした。

表1 捕手の評価基準
評価項目 詳細
フレーミング ストライクを増やして防いだ失点
盗塁阻止 盗塁阻止(盗塁をアウトにすること)で防いだ失点
盗塁抑止 盗塁抑止(盗塁を企図させないこと)で防いだ失点
ブロッキング 暴投阻止で防いだ失点

各項目で防いだ失点の合計を、最終的な捕手守備評価とした。フィールディングについてはサンプルが小さいため、今回は対象外としている。


フレーミング ~評価手法の解説~


近年、捕手の守備で失点への影響が大きいと考えられているのが、フレーミングである。フレーミングとは、捕手がキャッチングでストライクを増やす技術の総称を指す。筆者は昨季の本企画においても捕手分析を担当したが、その際は以下の要素を考慮しフレーミング得点を弾き出した。なぜそれらを考慮する必要があるかは下の表2にまとめている。

表2 フレーミング評価
項目 影響
投球コース 投球コースによってストライク率が異なることを考慮するため
ボールカウント ボールカウントが増えるとストライク率が上昇する傾向を加味するため
ストライクカウント ボールカウントが増えるとストライク率が低下する傾向を加味するため
打者の打席左右 アウトコースでストライク率が上昇する傾向を加味するため
ミットの移動距離 ミットが動くとストライク率が低下する傾向を加味するため

具体的な算出方法は以下のとおりである。

1.投球コース、カウント、打者の打席左右、ミットの移動距離に応じた平均ストライクコール率を算出する。
2.ストライクコールされた場合、増加したストライクを以下の式で計算する。
増加したストライク=1-平均ストライクコール率
3.ストライクコールされなかった場合、増加したストライクを以下の式で計算する。
増加したストライク=0-平均ストライクコール率
4.すべての見送り投球について増加したストライクを計算、合計する。
5.増加したストライクに、ボールをストライクに変えることの得点価値を掛け合わせる。この値をフレーミングで防いだ失点とする。

これが昨季行ったフレーミング評価だ。ただ今回は上記の計算に2点の変更を加えた。


① 球審の影響を追加する

試合中、ストライクを判定しコールするのは球審である。(現時点で)球審は人間であるため、100%正確なストライクゾーンの判定は事実上不可能だ。それでもプロレベルの試合が破綻しないのは、球審の判定技術に支えられている面が大きい。しかし、やはり球審も人間であるため、ストライク判定には個人差が存在する。

以下の図1-1、1-2は、2020年に出場したある2人の球審A、Bについて、50%以上ストライクコールされた投球コースを比較した画像である。本記事冒頭でも説明したとおり、ここで使用しているデータは目視入力であるため精度面の課題はある。これをもって正確に判定できている・できていないという話ではない。あくまで審判ごとに傾向があるということを理解するためのものである点に注意して見てほしい。

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図1-1に示した球審Aは打者の左右を問わずアウトコースでストライクゾーンが非常に広くなる傾向が出るようだ。一方の球審Bは打者の左右を問わず右打席側より左打席側でストライクゾーンが広い。両者を比較した場合、右打者の高めや左打者のアウトコースでは、ストライクとコールされる割合は大きく異なる。球審ごとにストライク傾向が異なることがわかるだろう。

また、両者は捕手の構えどおりに投球された場合と、そうでない場合の判定傾向も異なっている。以下の表3では、ミットがはじめの構えからどれだけ横に移動したかを15cmずつに区切った。そしてそれぞれの横移動距離ごとの全体の平均ストライク率に比べ、100球あたりでどれほどストライク判定をしやすかったかを示している。

ほぼ構えどおりの投球(0-15cm)と構えから大きく横にずれた投球(30-45cm)のコール数の差が小さいほど、逆球に左右されにくい判定が行えていると考えることができる。単純なプラス・マイナスの大きさの話をしているわけではない点に注意してほしい。

表3 ミットの横移動距離別の平均比ストライクコール数
球審 平均比のストライクコール増加数(100球あたり)
0-15cm 15-30cm 30-45cm
球審A 6.0 4.7 7.8
球審B -0.4 -2.5 -7.0

これを見ると、球審Bはほぼ構えどおりの投球(0-15cm)では-0.4とNPB平均レベルのストライクコール数だが、構えから大きく外れた投球(30-45cm)では-7.0とストライクをコールしていない様子がわかる。一般的にミットの横移動距離が大きい、いわゆる逆球はストライク判定をしにくい傾向があるが、その平均と比べてもストライク判定をしていないようだ。一方の球審Aは逆球であってもそれほど数字に変化がなく、ミットの動きに左右されずに判定している様子がうかがえる。

ここでは球審の影響の代表的なものとしてこの例を紹介した。ただほかにも球審の判定ついては多様な傾向が見られる。ストライクゾーンに関する話で球審の影響は避けられない。よって今回のフレーミング評価は、算出に使用するストライクコール割合に球審の影響を考慮している。計算は以下のように行った。

1.見送り投球について、打者の左右、投球コース、ボール・ストライクカウント、球審別に細かく区分したストライクコール割合を計算する。
2.対象の見逃し投球を捕球した捕手が1人しかいなかった場合、打者の左右、投球コース、ボール・ストライクカウント別のストライクコール割合を採用する。

今回は球審の要素を含めることで区分が細かくなり、サンプルはかなり小さくなった。よってある種の投球によっては捕球した捕手が1人しかいないケースも生まれている。この場合は平均との比較をしているとはいえないため、球審の影響を考慮せずリーグ全体の平均を計算している。2.はその場合のみの対応だ。

上記の補正を加えた結果、各捕手が増やしたストライク数(CSAA:Called Strike Above Average)は以下のようになった。左に示したものが昨季の計算ロジックで行ったものとなっている。

表4 2020年球審の影響を考慮したフレーミング評価(ストライク増加数)
捕手名 球団 CSAA
(2019年版)
CSAA
(2019年版+球審考慮)
木下 拓哉 D 123.2 106.4
大城 卓三 G 82.2 55.8
梅野 隆太郎 T 19.3 11.7
戸柱 恭孝 DB 5.5 -4.3
田村 龍弘 M -28.1 -18.0
會澤 翼 C -27.2 -18.3
若月 健矢 B -44.9 -28.9
甲斐 拓也 H -61.3 -51.2
森 友哉 L -92.4 -84.9

球審の傾向を考慮した場合としない場合で、変動はあるが順位が入れ替わるほど大きな変化が起こっているわけではない。

捕手別に見ると、フレーミングで増やしたストライクは、木下が圧倒的な大差でトップとなった。次点の大城卓三(読売)も、ほかの捕手と比較して非常に多くストライクを獲得している。今回は評価対象9捕手のうち、前述2人に梅野隆太郎(阪神)を加えた3人がプラスを記録し、残り6人はマイナスを記録した。


② 得点価値

2つめの変更点はボールをストライクに変える得点価値をどのように算出するかである。昨季まで筆者は増加させたストライク数に、ボールをストライクに変える得点価値0.13を掛けることで、フレーミング得点を算出していた。

ただ、すべてのストライク増加に同じ価値があるわけではない。例えば0ボール0ストライクからの投球がボールになるかストライクになるかよりも、3ボール2ストライクからの投球がどうなるかのほうが大きい価値をもっていることは想像できるだろう。後者は四球になるか三振になるかに直接関わるためだ。

今回の評価では、この得点価値について、ボール・ストライクカウント別の値を考慮した。計算は以下のように行った。

1.各カウントを経過した打席の平均wOBAを計算する
2.ボールカウントが増えた場合のwOBAからストライクカウントが増えた場合のwOBAを引いた値を求める
3.この値をwOBA scale(1.24)で割り、得点価値に変換する

以上の手順でフレーミングの得点価値を求めた。これによって、ボールカウントやストライクカウントが増えるほどフレーミングの価値が上昇することを指標の中に組みこむことができる。ちなみにカウント別のストライクの得点価値は以下のようになった。カウントが進むほどにストライクの価値が上がる様子がわかるだろう。

表5 2020年NPBのカウント別フレーミング得点価値
B S wOBA ボール時
wOBA
ストライク時
wOBA
ボール時wOBA
-ストライク時wOBA
ストライクの
得点価値
0 0 .321 .360 .275 .090 0.07
0 1 .275 .304 .202 .100 0.08
0 2 .202 .229 .000 .230 0.18
1 0 .360 .440 .304 .140 0.11
1 1 .304 .366 .229 .140 0.11
1 2 .229 .279 .000 .280 0.22
2 0 .440 .558 .366 .190 0.15
2 1 .366 .501 .279 .220 0.18
2 2 .279 .387 .000 .390 0.31
3 0 .558 .691 .501 .190 0.15
3 1 .501 .691 .387 .300 0.25
3 2 .387 .691 .000 .690 0.56

表4で示したストライク増加数に、表5のカウント別の得点価値を考慮し、フレーミングを得点化した結果(FRAA:Framing Runs Above Average)を表6に示す。

表6 2020年フレーミング得点評価
捕手名 球団 CSAA
(ストライク増加数)
FRAA
(フレーミング得点)
木下 拓哉 D 106.4 15.1
大城 卓三 G 55.8 6.4
梅野 隆太郎 T 11.7 2.1
戸柱 恭孝 DB -4.3 0.8
會澤 翼 C -18.3 -2.4
田村 龍弘 M -18.0 -3.4
若月 健矢 B -28.9 -3.9
甲斐 拓也 H -51.2 -6.1
森 友哉 L -84.9 -8.6

フレーミングを得点化した場合でも、木下が15.1点と圧倒的なプラスを叩き出した。大城、梅野もそれぞれ6.4、2.1と優れた値を記録している。戸柱恭孝(DeNA)は増やしたストライク数(CSAA)の時点では-4.3とマイナス値となったが、カウントを考慮した得点評価では0.8とわずかにプラスへ転じている。打席結果を左右する重要なカウントで効果的なフレーミングが発揮されていたようだ。



フレーミング ~捕手別の傾向~


ここでは、今回対象となった9捕手のフレーミング傾向を1人ずつ取り上げる。プロットが赤くなっているほど、そのコースで多くのストライクを増やしており、青くなっているほどストライクを減らしてしまっていると考えてほしい。


木下拓哉 (中日)

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木下は低めのフレーミングで突出したプラスを記録した(図2-1、表7-1)。高めはややマイナスを記録しているが、それを補って余りある低めのプラス評価である。低めのフレーミングで失点を13点防いだ評価だが、これは低めのフレーミングで2位評価だった西田明央(ヤクルト)が記録した3.2点の4倍の数値である。

    
表7-1 木下拓哉の高さ別フレーミング評価(2020年NPB)
投球コースの高さ CSAA FRAA
高め -7.8 -0.8
真ん中 19.3 2.7
低め 94.9 13.2


大城卓三(読売)

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大城はストライクゾーンの左右で多くのストライクを獲得していた(図2-2、表7-2)。特に左打席側(一塁側)で顕著なプラスを記録している。ストライクゾーン内で確実にストライクコールさせるというよりも、ストライクゾーン枠外の投球をストライクコールさせる傾向があるようだ。

表7-2 大城卓三の左右コース別フレーミング(2020年NPB)
投球コースの左右 CSAA FRAA
右打席側 18.4 3.1
真ん中 -0.7 0.7
左打席側 38.2 2.6
※編集部注:公開時に表7-2の値に誤りがございました。申し訳ございません。12月26日に修正しております。

梅野隆太郎(阪神)

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梅野は右打者よりも、左打者の打席で効果的なフレーミングを発揮していたようだ(図2-3、表7-3)。右打者の打席ではストライクゾーン内でのボール判定がやや多かったが、左打者の打席では全体的にストライクを増やしている。特に三塁側でストライクを獲得していた。

表7-3 梅野隆太郎の打者左右別フレーミング(2020年NPB)
打者の左右 CSAA FRAA
右打者 -7.6 -0.5
左打者 19.3 2.7


戸柱恭孝(DeNA)

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戸柱のフレーミングは独特な傾向を見せている(図2-4)。左打席側のボールゾーンで赤いプロットが多くなっており、このコースの投球をストライクゾーン枠に引き込むフレーミングに長けているようだ。対照的に右打席側のフレーミング得点はマイナスを記録している。この傾向は打者の左右を問わないが、右投手が左打席側に投げることが多い右打者に対して総合して優れたフレーミングを発揮しており、左打席側へ投げることが少ない左打者に対して苦戦していたようだ(表7-4)。

表7-4 戸柱恭孝の打者左右別フレーミング評価(2020年NPB)
打者の左右 CSAA FRAA
右打者 19.6 3.0
左打者 -23.8 -2.2


會澤翼(広島)

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會澤翼(広島)は打者の左右でやや異なる傾向を見せている(図2-5、表7-5)。右打者に対して、アウトコース低めでストライクを獲得できていない一方、高めではより多くストライクコールさせている。一方、左打者に対しては高めで強みを発揮できず、際どいコースでボール判定されていた。

表7-5 會澤翼の打者左右別高めフレーミング(2020年NPB)
投球コース 打者の左右 CSAA FRAA
高め 右打者 4.4 0.2
高め 左打者 -9.6 -1.2


田村龍弘(ロッテ)

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田村龍弘(ロッテ)は戸柱と逆の傾向で、右打席側でストライクを獲得し、左打席側でストライクを失っていた(図2-6、表7-6)。投球は打者のアウトコースが多いため、右打者に対してマイナス、左打者に対してプラスを記録した。また、ストライクゾーン内では低めより高めのフレーミングに強みがあるようだ。

表7-6 田村龍弘の打者左右別フレーミング(2020年NPB)
打者の左右 CSAA FRAA
右打者 -27.2 -3.3
左打者 9.2 -0.1


若月健矢 (オリックス)

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若月健矢(オリックス)のフレーミングは得意なコースと苦手なコースが点在しているため、コース別の傾向をつかみにくい(図2-7)。目立ったポイントでは、対左打者ではアウトローで優位を発揮しているようだ。若月に見られた傾向として、投手の制球への対応が挙げられる。構えたミット付近に投球された場合はボール判定されやすいが、要求から外れた逆球に対して平均前後のストライクを獲得していた(表7-7)。

表7-7 若月健矢の対左打者フレーミング(2020年NPB)
ミットの横移動距離 CSAA FRAA
30cm未満 -31.7 -3.8
30cm以上 2.9 -0.1


甲斐拓也 (ソフトバンク)

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総合的なフレーミング評価は-6.1点と低調だった甲斐拓也(ソフトバンク)だが、高めではプラスの評価を記録した(図2-8)。特に左右どちらの打者もインハイを得意としているようだ。表7-8に示した球種別のフレーミング評価では、カーブが3.5点と際立っている。カーブをはじめ、高めからストライクゾーンに入る球をうまくストライク判定させていた様子がうかがえる。

表7-8 甲斐拓也の球種別フレーミング評価(2020年NPB)
球種 CSAA FRAA
カーブ 22.4 3.5
フォーク -3.7 0.6
チェンジアップ 0.1 0.2
シンカー -1.9 -0.3
2シーム -4.2 -0.4
カットボール -15.6 -2.3
スライダー -14.2 -2.7
ストレート -33.7 -4.6


森友哉(西武)

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2020年の森友哉(西武)はフレーミングで非常に苦戦したシーズンとなってしまった(図2-9、表7-9)。右打席側(三塁側)で一定のプラスを獲得しており、ストライクゾーンの中心付近では確実にストライクとコールさせている。しかし、それを大きく上回るマイナスを低めで献上していた。

表7-9 森友哉の高さ別フレーミング(2020年NPB)
投球コース CSAA FRAA
高め -25.5 -2.9
真ん中 17.5 2.5
低め -76.9 -8.2


盗塁阻止評価


フレーミングの次は盗塁についての捕手評価を見ていく。捕手が盗塁を防ぐ手段は、大きく分けて2つある。1つは盗塁を企図した走者をアウトにすることだ。一般的には盗塁阻止率などの記録で評価されるプレーである。

しかしこの盗塁阻止率=捕手の盗塁阻止能力というわけではない。盗塁にはさまざまな要素が絡み合っている。その中でも非常に重要なのが走者の能力である。周東佑京(ソフトバンク)のような俊足選手を相手にするのは一般的な盗塁阻止よりも難易度が高いはずだ。一般的な盗塁阻止率では、こうした走者の能力は考慮されていない。

ここでは、阻止率について走者の能力を考慮した評価を行う。今回は以下の計算で盗塁阻止を評価した。

1.盗塁を企図した走者について、塁状況別の盗塁成功率を計算する。
2.各捕手について、盗塁を企図された走者の盗塁成功率平均値を計算する。
3.(1-走者の盗塁成功率平均値)を盗塁阻止率の期待値とする。
4.盗塁企図数×(盗塁阻止率-盗塁阻止率の期待値)×得点価値を盗塁阻止で防いだ失点として評価する。

三盗、本盗は企図されていない捕手も多いため、比較可能な二盗に限定して評価を行った(表8)。また、牽制などで捕手が捕球していない盗塁企図は評価対象から除いている。

表8 盗塁阻止評価(2020年NPB)
捕手名 球団 評価対象
二盗企図
二盗阻止率 二盗阻止率の
期待値
盗塁阻止評価
森 友哉 L 91 .308 .250 2.6
戸柱 恭孝 DB 66 .348 .292 1.9
木下 拓哉 D 53 .434 .375 1.6
甲斐 拓也 H 58 .328 .290 1.1
大城 卓三 G 45 .311 .269 0.9
若月 健矢 B 45 .222 .216 0.1
會澤 翼 C 36 .194 .207 -0.2
梅野 隆太郎 T 43 .326 .340 -0.3
田村 龍弘 M 62 .210 .234 -0.7

盗塁阻止評価は森が1位となった。二盗阻止率は.308と特別高くなかったが、これはアウトにするのが難しい走者に盗塁を企図されてのものだったようだ。セ・リーグ内では木下が.434と圧倒的な阻止率を記録していたが、盗塁阻止評価は1.1と伸び悩んだ。森とは逆に、阻止率の期待値が高い中で記録された記録だったようだ。捕手のセ・リーグ1位評価は1.9点を記録した戸柱となっている。


盗塁抑止評価


盗塁を防ぐもう1つの手段は、そもそも走者に盗塁を企図させないことである。例えば周東が塁に出た場合、盗塁を企図された時点で捕手(バッテリー)側に分の悪い勝負が発生する。逆に、盗塁を企図させなければ捕手(バッテリー)側はリスクを回避したと評価できる。目には見えない抑止力についても評価しようという試みだ。

ここでは企図させない抑止力について、以下の手順で評価を行った。

1.見逃しや空振りなど、盗塁可能な投球を盗塁可能機会とする。
2.塁状況別に、走者の盗塁企図数/盗塁可能機会、および盗塁得点価値/盗塁可能機会を計算する。
3.盗塁を企図されなかった場合、(1-盗塁企図数/盗塁可能機会)を盗塁抑止数Aとする。
4.盗塁を企図された場合、(0-盗塁企図数/盗塁可能機会)を盗塁抑止数Bとする。
5.(盗塁抑止数A+B)×(盗塁得点価値/盗塁可能機会)を盗塁抑止得点とする。

盗塁阻止と同様、盗塁抑止についても二盗に限定して評価を行った。以下の表9が、盗塁をさせないことによって防いだ失点数だ。

表9 盗塁抑止評価(2020年NPB)
捕手名 球団 評価対象
二盗企図
二盗抑止数 盗塁抑止評価
梅野 隆太郎 T 43 15.4 1.0
甲斐 拓也 H 58 21.5 0.9
木下 拓哉 D 53 -6.2 0.9
若月 健矢 B 45 6.4 0.2
戸柱 恭孝 DB 66 -7.9 0.1
森 友哉 L 91 -8.7 -0.1
田村 龍弘 M 62 -3.1 -0.3
大城 卓三 G 45 -6.7 -1.1
會澤 翼 C 36 4.7 -1.3

盗塁抑止の評価は梅野が1位となった。抑止数は21.5を記録した甲斐が上回ったが、梅野は盗塁成功率の高い走者を抑止していたことで評価をより高めた。盗塁の企図を抑止している捕手は、盗塁成功率の高い走者だけでなく、盗塁成功率が低い走者のギャンブルスタートも抑止してしまうこともある。そのため、抑止数だけでなく、どのような走者の企図を抑止したかという観点が重要になりそうだ。

盗塁阻止、盗塁抑止評価の合計を総合的な盗塁評価とする(表10)。

表10 盗塁阻止・抑止評価(2020年NPB)
捕手名 球団 盗塁阻止評価 二盗抑止評価 二盗総合評価
森 友哉 L 2.6 -0.1 2.6
木下 拓哉 D 1.6 0.9 2.4
甲斐 拓也 H 1.1 0.9 2.0
戸柱 恭孝 DB 1.9 0.1 2.0
梅野 隆太郎 T -0.3 1.0 0.6
若月 健矢 B 0.1 0.2 0.4
大城 卓三 G 0.9 -1.1 -0.2
田村 龍弘 M -0.7 -0.3 -1.0
會澤 翼 C -0.2 -1.3 -1.5

総合的な盗塁評価では、森が1位となった。抑止評価は-0.1と振るわなかったが、阻止評価の高さが決定的な要因となった。上位4人がほとんどのプラスを寡占しているが、全体的にフレーミングほど大きな差はついていない。


ブロッキング


暴投を阻止するブロッキング評価は、昨季同様投球コースとミットの移動距離を考慮して行った。暴投はベース上から外れた投球で発生しやすく、捕手の構えどおりに投球されなかった場合に発生率が上昇するためだ(図3)。

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以下に計算過程を記載する。ここでの暴投はすべて捕逸を含んでいる点に注意が必要である。

1.ワンバウンド投球を評価対象とする。
2.投球コース、ミットの移動距離別の平均暴投(捕逸)率を計算する。
3.暴投(捕逸)を防いだ場合、(平均-0)を暴投ブロック数とする。
4.暴投(捕逸)を許した場合、(平均暴投率-1)を暴投ブロック数とする。
5.(暴投ブロック数×暴投の得点価値)をブロッキング評価とする。

表11 ブロッキング評価(2020年NPB)
捕手名 球団 暴投 暴投ブロック数 ブロッキング評価
甲斐 拓也 H 10 14.1 2.2
若月 健矢 B 5 11.1 1.8
大城 卓三 G 11 0.5 0.1
會澤 翼 C 13 0.2 0.0
戸柱 恭孝 DB 16 -0.8 -0.1
木下 拓哉 D 18 -1.6 -0.3
梅野 隆太郎 T 29 -3.7 -0.6
田村 龍弘 M 22 -5.3 -0.9
森 友哉 L 34 -5.7 -0.9

ブロッキング評価のトップは2.2点を記録した甲斐(表11)。非常に優れたブロッキングで、パワーピッチャ―の多いソフトバンク投手陣をカバーしていた。2位の若月も1.8点と優れた値を記録している。若月はフレーミングで逆球への対応力を見せていたが、ブロッキングでも予想外の投球に対して高い対応力を発揮していた。森は昨季に続き、ブロッキング評価で最下位となってしまった。

今回は評価に加えなかったが、暴投のブロッキングについては球種によって差がついている(表12)。特にフォークが突出してブロックされやすい傾向が出ていた。要因として、フォークは捕手がワンバウンド前提で構えている可能性や、ブロッキングに優れた捕手がフォークを多く要求している可能性などが考えられる。ブロッキング単体ではフレーミングほど差は出ていないが、今後ブロッキングが投球に与える影響力が測定され、効果が認められた場合、価値は大きく変動するかもしれない。

表12 球種別暴投ブロック数
球種名 暴投ブロック数
フォーク 22.3
2シーム 1.8
カットボール 1.2
ストレート -1.5
チェンジアップ -1.9
シンカー -5.8
カーブ -7.9
スライダー -8.2


総合評価


すべての評価を合計した結果、フレーミングで突出した木下が2位以下にダブルスコアを付けて1位となった(表13)。2位以下もおおむねフレーミング評価が総合順位に直結している。若月や甲斐はフレーミングで低評価だったが、他項目が優れていたため総合評価を底上げした。

表13 総合評価
捕手 球団 フレーミング 盗塁阻止 盗塁抑止 ブロッキング 総合
木下 拓哉 D 15.1 1.6 0.9 -0.3 17.3
大城 卓三 G 6.4 0.9 -1.1 0.1 6.3
戸柱 恭孝 DB 0.8 1.9 0.1 -0.1 2.6
梅野 隆太郎 T 2.1 -0.3 1.0 -0.6 2.2
若月 健矢 B -3.9 0.1 0.2 1.8 -1.7
甲斐 拓也 H -6.1 1.1 0.9 2.2 -1.9
會澤 翼 C -2.4 -0.2 -1.3 0.0 -3.9
田村 龍弘 M -3.4 -0.7 -0.3 -0.9 -5.2
森 友哉 L -8.6 2.6 -0.1 -0.9 -7.0


2020年受賞者一覧


過去のFIELDING AWARDS捕手分析はこちら
2019年(梅野隆太郎)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53587
2018年(小林誠司)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53468
2016年(若月健矢)
https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_09.html

宮下 博志@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。
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