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ドラフト候補を紹介する雑誌で「長打力A、走力B」といった表記で選手を評価するのを見たことがあるだろう。だがアメリカではこのかわりに「20-80スケール」と呼ばれる手法が普及している。実はこの「20-80スケール」、統計学的根拠に基づいた手法なのだ。

『マネー・ボール』が犯した最大のミス


2002年に発表されたマイケル・ルイスの『マネー・ボール』。映画化もされた同書はセイバーメトリクスの歴史を語るうえでは欠かすことができない不朽の名作だ、というのは今更言うまでもない。

そんな野球文学史上に燦然と輝くマネー・ボールだが、その中でルイスが犯した最大のミスはスカウティング vs 統計的分析という対立的な構図を作ってしまったことだろう。もちろん、新たな概念を読者に植え付けるためには仕方のないことだったのかもしれない。だが、同書が最初に発表されてから15年たった現在、MLBではスカウティングも統計的分析と同じかそれ以上にチームの運営において重要な要素とされている。

アメリカには若手有望株がどの程度の能力、将来性を持っているかを評価し、格付けを行うスカウティング文化がある。この若手有望株は「プロスペクト」と呼ばれる。アメリカではBaseball America誌、データサイトFangraphs、MLB公式サイトMLB.comまで複数の機関がプロスペクトを対象に格付けを行っている。

例えばMLB.comではルーキー・オブ・ザ・イヤー(NPBの新人王にあたるもの)資格者を対象としたもの、ドラフト候補を対象としたもの、インターナショナルアマチュアFAという国外のアマチュア選手を格付けしたものと、複数のカテゴリでランキングを発表している。ちなみにベースボール・アメリカが発表したルーキー・オブ・ザ・イヤー資格者のカテゴリにおける2011、2012年の1位はブライス・ハーパー(ナショナルズ)、2015年はクリス・ブライアント(カブス)と、今をときめくスター選手も上位にランクインしていた。ブライス・ハーパーが1位となった2012年の4位はダルビッシュ有(レンジャーズ)である。


MLBのスカウトに愛用される「20-80スケール」とは何か


こうしたスカウティングでは選手の能力ごとに評価を行う。日本のドラフト候補を取り扱う雑誌でも「長打力A、走力B」といった評価を見たことがある人もいるだろう。だがアメリカでは「長打力A、走力B」といった形で評価を表さない。20-80の数字で評価されるのだ。その名もずばり「20-80スケール」と呼ばれ、半世紀以上にわたってスカウティングの基礎となっている。すべてのMLBのスカウトは例外なくこのスケールを使っているといっていいだろう。

このスケールでは50をMLBの平均、20を最低、80を最高とし10ごとに区切った7段階に、ハーフグレードと呼ばれる45と55を加えた9段階で評価する。例えば走力が70なら、MLBの中に入れても非常に優れた走塁能力の持ち主という評価だ。

アルファベットを数字に置き換えただけではないかと考える人がいるかもしれないが、この数字にも根拠はある。統計学の正規分布に基づいているのだ。正規分布とは何かを簡単に説明すると、平均に近づくほどに頻度が高くなる確率分布のことだ。身長の分布を例にするとわかりやすいだろうか。平均よりもはるかに大きい、あるいは小さい人間は少なく、平均に近づくにつれ人数が多くなる。これは図1のように、真ん中の0.0を中央値とした左右対称な山型のグラフで表される。


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そして、野球の各能力もこういった分布に基づいていると考えられているのだ。MLBの平均よりも図抜けて速い、あるいは遅い走者が、平均的なスピードの走者に比べると少なくなっていくことは想像できるだろう。

この図は中央値から1標準偏差以内に全体の68.2%、1から2標準偏差内に27.2%、2から3標準偏差以内に4.5%のサンプルが存在する。3標準偏差以上離れた稀有な存在は0.1-0.2%といった具合だ。図1をスカウティングスケールの数字に変換したものが図2である。


pict

こうしたスケールを前提とすることで「長打力A、走力B」といった手法よりも、平均にどれだけ差をつけられるかという、相対的な視点で選手を評価することができる。

また、スカウトは「長打力」、「走塁」、「速球」といった各能力と同時に選手の総合力も評価することとなる。この選手は総合的にどの程度の貢献ができる選手になるのかを予測するのだ。20-80スケールを選手の総合的な貢献を計るWAR(Wins Above Replacementの数字に変換すると以下のようになる。


pict (※1)

将来の殿堂入りが約束されたレベルの才能の持ち主はプロ野球という世界においても1人、もしくは2人しか存在しない。スカウトによっては、絶対に80を付けない人もいるほどだ。スケールの反対側、20グレードに関しても同じことがいえる。平均よりもそこまで能力が劣る選手はプロでは生き残れない。

こうした総合的な評価が前述したプロスペクトの格付けにつながっているのだ。スカウティングとはある選手が平均よりも何標準偏差優れているか、あるいは劣っているかを見極める作業といえる。そういう意味では統計分析の一種とも言え、決してセイバーメトリクスと対立するようなものではない。


時代、リーグの変化にも対応する万能なツール


ちなみにこのスケールを最初に提唱したのはジャッキー・ロビンソンと契約し、人種の壁を破ったことでも知られる名GM、ブランチ・リッキーといわれている。それ以来、70年近くにわたって数々のスカウトたちに愛用されてきた。

リッキーの時代から約半世紀後に同じドジャーズのGMを務め、現在はブルージェイズの環太平洋クロスチェッカーのダン・エヴァンスはこう語る。「このスケールのいいところは、世界のどのリーグでも使える点だ。例えば、日本には日本の、ドミニカ共和国にはドミニカ共和国の、MLBにはMLBの50グレード、80グレードがそれぞれ存在する。」

20-80スケールはリーグだけではなく、時代の変化にも対応する。例えば、ある年は非常に投手有利で、リーグの平均打率が.250、また別の年は打者有利でリーグの平均打率が.290だったとしよう。純粋な数値にして40ポイントもの差があるが、どちらの年もそれぞれ.250、.290 の打率を残した打者は、50グレードの打力があるといえる(※2)。これは、wRC+(weighted runs created plus)FIP-(FIP minus)といった指標に通じるものがある。

また、この考え方は野球以外、例えば食べログやAmazonのレビューといったものにも応用できる。平均的な満足度を星3つとし、そこから比較して最高に満足したのであれば5つ、といった具合だ。

話がそれてしまったが、今後野球を見るときは、この20-80スケールを頭に入れながらご覧になってはいかがだろうか。この手法を使うだけでゲームをより相対的な視点で見ることができるはずだ。


山崎 和音@Kazuto_Yamazaki

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