野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データ視点の守備のベストナイン
“DELTA FIELDING AWARDS 2022”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は中堅手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象中堅手に対する9人のアナリストの採点・コメント
中堅手部門は塩見泰隆(ヤクルト)が受賞者となりました。アナリスト9人のうち5人が1位票を投じ、90点満点中80点を獲得しています。ただ4位票、5位票もあり、他ポジションに比べると、図抜けたトップではなかったようです。
塩見と3点差で2位になったのは髙部瑛斗(ロッテ)。2名から1位票を獲得するなど、77点を獲得しています。本格的なレギュラー獲得初年度となった今季、いきなり大躍進を遂げました。今季はゴールデン・グラブ賞を獲得しましたが、こちらの企画でもパ・リーグに限定すると最高評価を得ています。
塩見、髙部、それ以降の選手も、上位にはずらりと20代の選手が並びます。8名のうち30代は、福田周平(オリックス)丸佳浩(読売)、大島洋平(中日)の3名だけ。そしてその3名がそのまま下位に沈んでいます。このうち、丸、大島はともに数年前までは名手として鳴らした選手です。世代交代を象徴するランキングになりました。アナリスト岡田友輔からは「運動能力が高い若いメンバーが台頭したことで、レベルの高い争いになった」というコメントが出ています。
各アナリストの評価手法(中堅手編)
- 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策抑止)をやや改良。守備範囲については、ゾーン、打球の滞空時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- Jon:UZRを独自で補正。打球の強さにマイナーチェンジを行うなど改良
- 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手は打球処理を細かく分析。タッチアップの評価も補助的に活用した
- 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策抑止の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置からの距離と滞空時間で区分し分析
- 宮下:守備範囲、進塁抑止による評価
- 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
- 大南:出場機会の多寡による有利・不利を均すため、出場機会換算UZRで順位付け。ただ換算は一般的に使われるイニングではなく、飛んできた打球数で行った
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
これを見ると塩見のUZRは9.0。特別図抜けた数字というわけではなく、2位以下と大差はありません。アナリストの投票では髙部が2位、桑原が3位でしたが、UZRでは逆になっています。桑原は守備範囲に限定するとトップ評価でした。
下位に沈んだ丸や大島は守備範囲で莫大な損失。そもそも打球に追いつけないケースが非常に多かったようです。
この最も大きな差がついている守備範囲評価RngR(range runs)について、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。
以下表内のアルファベット、数字は打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な中堅手に比べどれだけ失点を防いだかです。
塩見泰隆(ヤクルト)
塩見は全般的に多くのゾーンで平均を上回る失点抑止能力を発揮。特に右中間のエリアで他選手に大きな差をつくっていたようです。
桑原は塩見と対照的に、左中間で抜群の守備範囲を発揮。また後方の打球は全般的に強かったようです。一方、右中間にはややマイナスも目立っています。
髙部瑛斗(ロッテ)
髙部は左中間、右中間ともに定位置から左右に離れた遠くのエリアで多くの失点を防いでいます。一方後方の打球に対しては処理に問題を抱えているようです。
近本も全体的に広い守備範囲を発揮しています。前方の打球はほぼマイナスなく、広いエリアをカバーしていたようです。
また近本についてはアナリスト佐藤文彦氏が進塁抑止能力についてコメント。進塁期待値がそれほど高くない場面でも多くタッチアップを許していた点を指摘されています。肩がそれほど強くないことを見抜かれたのか、進塁を多く許していたようです。ちなみにUZRの構成要素である進塁抑止評価ARM(arm ratings)でも、-2.3。こちらの評価でも低迷していました。
辰己ははっきりと定位置から後方の打球に弱点が。定位置から真後ろの打球を苦手としているのが興味深いポイントです。一方、前方の打球に対しては広い守備範囲を見せています。
福田周平(オリックス)
今季ゴールデン・グラブ賞を獲得した福田。ただ守備範囲データを見ると課題も大きかったようです。右中間に強みはありますが、定位置付近での取り逃しも多く、まだ外野に慣れていない部分もあるのかもしれません。
丸佳浩(読売)
2016年、2017年の本企画受賞者である丸。データを見ると、マイナスが広範囲に広がっており、全般的に打球処理に問題を抱えている様子がわかります。年齢を考えても他の中堅手と対等に渡り合うのは限界に近いのかもしれません。
ちなみに丸について原辰徳監督は、右翼にコンバートする構想も持っているようです。アナリスト宮下博志や竹下弘道氏からもコンバートを推奨するコメントが出ており、中堅に据えられる選手がいるならまさに今がそのタイミングかもしれません。
大島洋平(中日)
長年、名手として活躍してきた大島。しかし今季は守備範囲評価RngRで-13.4と、非常に大きなマイナスを記録してしまいました。具体的に見ると、後方の打球処理に問題を抱えているようです。今回の対象選手では最年長の37歳。さすがに中堅を守るのは限界でしょうか。
来季以降の展望
今季のランキングは20代の選手が席巻し、世代交代を象徴するかたちとなりました。しかし彼らも20代後半が多く、特別若い選手というわけではありません。アナリスト道作氏は、世代交代は今季に限らず、来季以降も起こる可能性を示唆しています。
道作氏が注目選手として挙げたのが岡林勇希(中日)。右翼手部門を圧倒的な成績で制した弱冠20歳の選手ですが、今季は中堅も447.1イニング守りました。対象となる500イニングには達しませんでしたが、そこで残したUZRは5.9。かなりのハイペースでスコアを積み重ねています。本格的に中堅手転向となるなら、来季の有力候補になるかもしれません。世代交代がさらに進行するのか、注目したいポイントです。
- 過去の受賞者(中堅)
2016年 丸佳浩(広島)
2017年 丸佳浩(広島)
2018年 桑原将志(DeNA)
2019年 神里和毅(DeNA)
2020年 近本光司(阪神)
2021年 辰己涼介(楽天)
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2022”受賞選手発表