筆者はこれまでに無死一塁二塁一・二塁でのバントについて、さまざまな検証を行ってきた。それらの検証で多くのことがわかったが、対象としたのはいずれもバントを試みた結果、打球が発生するか、3バント失敗の場合だった。このため、バントの構えをしたが、投球を見送った、空振りをした、(3バント以外の場面で)ファウルになったケースは検証の対象としていなかった。DELTAでは2019年度以降、結果球以外のケースでもバントの構えをしたか否かを記録するようになった。そこで、2019年、2020年のデータをもとに、結果球以外でもバントの構えをした場合の結果を整理してみた。そしてそれらから、バントの構えが本当に相手を揺さぶることができるのかについて迫っていきたい。

結果球以外の結果も踏まえたバントの成功率


今回対象としたのは2019年と2020年に無死一塁で打者が投手以外の場合だ。バントの構えをして投球を見送った場合、バントをしたが空振りをしたり、ファウルにしたりした場合も含まれるが、バントの構えからヒッティングに切り替えたバスターの場合は含まれない。

まずは全体像をつかむために、バントの構えをしたときにどのような結果になるかから見ていく(表1)。

pict

犠打となるのは35%程度で、打者が出塁しオールセーフとなった場合やバントが失敗した場合を足しても、50%に満たない。ファウルとなった場合が20%程度、ボールとなった場合が25%程度で、バントの構えをしたとしても、打球が発生するのはそれほど多くないことがわかる。

バントの構えをしたものの、どんな投球が来ようとも見送る場合もわずかながら結果に含まれているかもしれないので、念のため、バントの構えをした場合で、バントをしにいった場合に限定した結果についても見ていく(表2)。

pict

バントを試行した場合に限定しても、3回に1回は空振りまたはファウルになっており、意外にバントがすんなり決まることは多くない。あまり意味のある数値でないかもしれないが、打者が出塁するかしないかにかかわらず、塁上の走者を進めることができた場合を成功、走者が進めなかった場合だけでなく、ファウルや空振りの場合も失敗とすると、成功率は約55%に過ぎない。結果球に限定した(ファウルや空振りの場合を除いた)無死一塁からのバント成功率は約85%だったが、こうしてみるとバントは成功率の高い確実な作戦という前提に疑問符がつく。

次に仮にバントをしたがファウルになった場合に、再度バントを試みる割合をまとめてみた(表3)。

pict

まず全体をまとめた総計の欄から見ていきたい。前の投球がバントファウルだった場合、1ストライクでは約80%、2ストライクでは約20%がバントを継続している。一度失敗した程度では作戦を変えることはあまり多くないが、3バントを敢行させることは少ないようだ。

次に、打者の能力によってどのように変化するかを見ていく。ここでは打者をシーズンwOBA(weighted On-Base Average)で、①.350超(打力が高い打者)、②.310超.350以下(打力が中程度の打者)、③.310以下(打力が低い打者)の3グループに分けた。

グループ分けをした結果で見ると、当然ながら打者のwOBAが高いほど、バントをしてファウルだった場合に、ヒッティングに切り替える割合が高くなっている。ただし、その差はそれほど大きなものではなく、①wOBAが.350超のグループでも3バントをさせることが20%もある。3バントをした場合は、50%以上の確率で走者を進めることができない(その大半が3バント失敗での三振)が、打力の高さは打席途中で作戦を変えるか否かの判断にさほど影響を与えていないようだ。


バントからヒッティングに切り替えた場合の結果


続いて、打席の途中でバントを中止してヒッティングに切り替えた場合の結果についても見ていく。

打者が投手以外で無死一塁のとき、バントを試みており、打席の最後の投球でもバントを試みた打席数と、打席の途中でバントを中止してヒッティングに切り替えた打席数は次のようになっている(表4)。

pict

バントを試みた場合の20%程度が途中でバントを中止してヒッティングに切り替えている。では、どのようなボールカウントでバントを中止することが多いのだろうか(表5)。

pict

2ボールや3ボールになってバントを中止することは少なく、80%以上は0ボールか1ボールでバントを中止している。バントに失敗するなどしてカウントを悪化させて切り替えることが多い。1ボール0ストライクのように打者が有利なカウントで切り替えることも多少はあるようだが、多くは打者が不利なカウントでヒッティングに切り替えている。

このように、打者が不利なカウントでヒッティングに切り替えることが多いことからすると、バントからヒッティングに切り替えた場合には打撃成績が低下することが見込まれる。そこで、バントを打席中で1回も試みなかった場合と1回以上バントを試みてからヒッティングに切り替えた場合でwOBAを比較してみる(表6)。

pict

バントを1回も試みなかった場合と比べると、バントからヒッティングに切り替えた場合にはwOBAが1割程度低下している。この原因はすでに述べたとおり、打者に不利なカウントになってからヒッティングに切り替えられることが多いことだと考えられる。

バントを中止したカウント別にwOBAを比べてみた(表7)。

pict

総計の欄を見てほしい。0ストライクでヒッティングに切り替えた場合のwOBAは.400を超えているが、1ストライクでは.250を下回り、2ストライクでは.173まで低下している。リーグの平均wOBAは.330前後なので1ストライクでも取られてしまうと打力のかなり低い水準の打者程度の打力まで落ちてしまうことになる。

このように、バントを試みたもののカウントを悪化させてからヒッティングに切り替えた場合の損失は大きい。このようなプレイは以前のバントについての検証の対象からは除かれていたが、今回の結果をも加味するとバントが有効な場面はさらに限定されるように思われる。


バントの構えで守備は揺さぶられるのか


以前にバントについての検証を行った際には、ほとんどの場合にバントは有効になり得ないと結論づけた。しかし、バント自体が有効ではなくとも、守備を揺さぶる効果があるという主張も根強い。そこで、これらの主張にどれほどの妥当性があるのか調べてみた。

仮にバントの構えをすることで守備が揺さぶられるのであれば、それはバントを試みた場合の結果にも反映されているはずだ。例えば、バントが守備に対する揺さぶりになっているのならば、打者がバントをした場合に、うまく処理ができずに失策、野選、バントヒットがとなることもそれなりにあるはずだ。しかし、以前検証したところによるとそのような結果は稀だった[1]。したがって、バントに守備を揺さぶる効果というのはあるとしても、さほどのものではないとも予想される。

もっとも、以前の検証では対象としたプレイが限定されていたのも確かだ。そこで、対象とするプレイを広げてみる。まずは、無死一塁で、打者がバントの構えをした場合に、投球がストライクゾーンにくる割合が変わるかを調べてみた(表8)。

pict

2ストライクの場合を除くと、バントの構えをした方がストライクゾーンに投球される割合が増えていることがわかる。ここからすると、バントの構えをしたとしても、投手が投球を乱している様子はうかがわれない。むしろ、バントの構えをすることで、ヒットを打たれることをおそれずに、ストライクゾーンに投げる割合が増えているとすら考えられる。

しかし、バントが試みられる場合というのは、打者の打力が低い場合が多いことはこれまでの検証でも確認したとおりだ。単純にバントの構えをしない場合は、打者の打力が高く警戒をされているだけという可能性もある。そこで、打者をwOBAごとにグループ分けした結果についても見てみる(表9)。

pict

打者の打力にかかわらず、2ストライクを除いては、バントの構えをした方がストライクゾーンに投球される割合が高いことがわかる。また、バントの構えをしない場合では、打力が高いほどZone%が低くなる傾向にあるが、バントの構えをした場合には打力がZone%に影響を与えていないことがわかる。

こうした結果からも、バントの構えをすることで、より積極的にストライクゾーンに投球する傾向が見られる。

また、同様にして、捕手がミットを構えた位置がストライクゾーンにあった割合についてもまとめてみた(表10)。

pict

捕手の構えた位置については、バントの構えをした方がストライクゾーンに構える割合がより明確に高くなっている。バントの構えをすると、捕手は投手に対してストライクゾーンに投げさせようとする割合が増えているようだ。

これらの結果からすると、バントの構えをしても守備が揺さぶられている様子はやはり見られない。バントされることを嫌がっている様子は見られず、むしろこれを確実にアウトが取れると歓迎しているようにすら見える。

続いて、無死一塁でバントの構えをした場合とそうでない場合とで、球種がどのように変わるかも調べてみた(表11)。

pict

バントの構えをした場合では、ストレートの割合が増え、その他の球種の割合が減っている。その中でもフォークやチェンジアップの投球割合は顕著に減少している。ただこれについては、これらの球種が、打者を2ストライクと追い込んでから使われることが多いことも影響しているだろう。

表11から、バントの構えをするとストレートの投球割合は増えていることがわかった。これはストレートの方が他の球種よりもバントをすることが難しいからだろうか。これを確かめるために、ストレートとそれ以外の球種で分けた結果について見てみる(表12)。

pict

まずは、バントをしたか否かにかかわらず、バントの構えをした場合で比べると、ストレートとそれ以外の球種ではストレートの方が、打者が出塁する場合も犠打となることも多いことがわかる。ただし、走者が進塁できない、あるいは併殺打になることもわずかながら多くなっている。これは、ストレート以外の方が、ファウルや空振り、ボールとなることが多いためだ。

そこで、バントの構えをして実際にバントをした場合で比べてみる(表13)。

pict

この場合でも、ファウルや空振りはストレート以外で多く、打者が出塁する、犠打となる、走者が進塁できない、併殺打となることはストレートの方が多くなった。これらの結果からすると、ストレートとそれ以外、どちらが守備にとってよい結果となっているか一概にはいえないが、少なくともストレートの方がバントを成功させることが難しいとはいえない。また、ファウルや空振りでストライクカウントを稼ぐことを考えれば、ストレート以外の方が向いているといえる。

では、最後に結果球に限定した結果についても見てみる(表14)。

pict

併殺打になることこそストレートの方が多いものの、打者が出塁した場合と犠打となった場合とを足し合わせた割合は、ストレートの方が高い。結果球に限定しても、ストレートの方がバントを失敗させやすいとはいえない。

バントを失敗させるためにストレートの割合を増やしているとすれば、この結果はあまりにも不自然だ。では、どうしてバントの構えをするとストレートの投球割合が増えるのだろうか。

守備側としては、バントの構えに対して、バントを積極的に防ごうとせず、積極的にバントをさせようとしている場合が多いからだという仮説が考えられる。これまで見てきたように、バントの構えをするとストライクゾーンに投球する割合、捕手がストライクゾーンに構える割合も増えており、バントをさせないようにするどころか、反対にバントを「成功」させようとしているように見える。ストレート以外の球種を投げるとファウルや見逃し、空振りになる割合が増える。そうすると、打者がバントをやめてヒッティングに切り替えることにつながる。

また、ストレート以外の球種はボールになってしまう可能性もストレートより高い。守備側にとって最悪なのは、カウントを悪化させて打者有利なカウントでヒッティングに切り替えられることだ。同じくヒッティングに切り替えられるにしても、1ストライクでも取っていれば有利に勝負できるが、1ボール0ストライクや2ボール0ストライクでヒッティングに切り替えられると不利な勝負を強いられる。

守備側としては、バントの構えをされた場合、ヒッティングに切り替えることを避け、確実にアウトが取れるバントをさせようとすることが多いのではないか。このように考えると、これまでの結果はすべて説明がつく。

また、2ストライクになると、バントの構えをしたほうがストライクゾーンに投球する割合が低くなっている。ただ、これも2ストライクとなったことで守備側が方針を変更することが多いと考えれば説明ができる。まず、2ストライクになるとバントをすることが20%程度にまで減るため、バントの構えをしていてもバスターをしてくることを警戒しているということが考えられる。また、2ストライクとなったことで0ストライクや1ストライクと異なり、空振りやファウルでもアウトが取れることから、バントをさせにいく必要がなくなり、積極的に空振りやファウルを狙いにいっているということも考えられる。これはストライクカウントごとにストレートの投球割合を比べてみた結果からもうかがわれる(表15)。

pict

バント構えの列に注目してほしい。打力にかかわらず、0ストライクと1ストライクの場面でバントの構えをすると、ストレートの投球割合は、ほぼ60%を超えている。バントの構えをしなかった場合のストレートの投球割合が約40%から50%であることと比較すると高い割合だ。しかし、2ストライクになるとバントの構えをした場合のストレートの投球割合は顕著に低下する。1ストライクまではヒッティングをさせずにバントをさせようとし、2ストライクになるとバントをファウルまたは空振りさせることを狙いにいっていることが多いという仮説と整合する結果になっている。


攻撃側と守備側が同じ結果を望む奇妙な現象


以上の結果からすると、やはりバントは守備に対する揺さぶりになっているとは考えがたい。攻撃側がバントを試みているとき、守備側もまたバントをさせようとしていることが多いようだ。なかには有効に守備を揺さぶれているバントもあるのかもしれないが、大多数はそうでないようだ。

しかし、このような結果は奇妙だ。野球というゲームの性質を考えれば、攻撃側にとって有利な結果は守備側にとって不利な結果になる。ある時点での攻撃側の勝利期待値(Win Expectancy)と守備側の勝利期待値の和は必ず1になる。守備側は攻撃側にとって有利な結果を避けようとすることで、勝利を近づけることになる。したがって、攻撃側が望んだ結果というのは、守備側が望んでいない結果ということになるのが通常のはずだ。このため、攻撃側と守備側が同じ結果を望んでいるかのように見える現象が頻発するというのは合理的に考えると理解しがたい。

バントという戦術に対する評価が高い球団と低い球団とが混在しているからだという原因も考えられる。バントを高く評価している球団がバントを多く試みて、バントを低く評価している球団は、バントを無理に防ごうとせずに積極的にさせようとしている可能性だ。そうしたこともあるかもしれないが、以前に調べた結果からすると、バントに積極的な球団がバントをさせないようにし、バントに消極的な球団がバントをさせようとしているとは、必ずしもいえないようだ。同じ球団においても攻撃時と守備時とで、バント戦術に対する評価が変わっているようにすら見える。

本当にバントを高く評価しているのならば、こんなに簡単にバントはさせないだろうし、バントされてもたいしたことはないと思っているのであれば、こんなにバントを試みることはないだろう。この結果は非常に奇妙だが、いずれにしろバントをされることを、それほど嫌がっている様子が見られないことからも、「バントの構えで相手を揺さぶることができる」という説は大概の場合で正しくないといえる。

[1] なお、MLBでの先行研究によれば、バントをした場合に打者も出塁する結果となることがNPBと比べても多く、バント自体が少なく守備がバントをさほど警戒していない場合には、バントが揺さぶりとなることがあるとは考えられる。ただし、繰り返しになるが、NPBでは事情が異なる。

市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • ピックアップ

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る