読売が新外国人投手としてテイラー・ヤングマンを獲得した。MLB通算30試合登板で9勝と大きな実績はないように見えるかもしれないが、ある点から要注目の1人である。それはヤングマンが2011年MLBドラフトの1巡目指名(全体12番目)の選手ということだ。過去にも数人のMLBドラフト1巡目投手が日本球界に挑戦してきた。彼らと比較しながらヤングマンの活躍を予想する。

NPBで活躍したMLBドラフト1巡目の選手たち


ヤングマンはドラフト1巡目でブリュワーズに入団後、マイナーリーグで2012〜2014年まで3年連続2桁勝利をあげ、2015年にメジャーデビュー。同年に新人ながら9勝を挙げた。しかしその後2年はMLBで白星をあげることができず、日本に活躍の場所を求めることになった。

MLBのドラフトはNPBのそれとは異なり指名選手1000人超、要する期間は3日間という大規模なものであり、ドラフト1巡目指名選手といっても30球団あるので毎年最低30人もの、日本で言うところの「ドラフト1位」選手が誕生することになる。そのドラフト1巡目の中のトップ指名選手が「全米No.1指名選手」と呼ばれ、大きな名誉となる。有名なところでは、ケン・グリフィー・Jr、アレックス・ロドリゲス、チッパー・ジョーンズ、近年ではブライス・ハーパーや昨季のワールド・シリーズでも活躍したカルロス・コレアなどがそれにあたる。

実は2001年以降MLBでドラフト1巡目指名を受けた中で、6人もの投手がNPBでプレーをしている。2005年のボグセビックはMLB入団後野手に転向したため除くと、ヤングマンが6人目となる。広島、西武、読売の3球団がそれぞれ2人ずつ獲得していることも興味深い。


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各選手の大学時代の成績を見ていく。ボウデンは高卒、ボグセビックは野手としてMLBでプレーしたため、5名の成績を見てみよう。


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ドラフトにかかるのは大学3年次以降になるので5人とも3年間の成績になるが、ドラフト1巡目の投手が大学時代に圧倒的成績を残したか…と言えばそうでもなかったことがわかる。アメリカの大学野球のシーズンは50試合強で、その程度の試合数を対象としたセイバーメトリクスの指標がどこまで有効かわからないが、K/9、K/BBなどから投手としての特徴はつかむことはできるだろう。

成績を見ると、大学時代に奪三振能力に長けていたバリントンやヤングマンが比較的高順位で指名されており、各球団が欲していた投手だということがわかる。例外はレイノルズで、2006年の全体2番目でロッキーズから指名されたが、7番目に高卒左腕のクレイトン・カーショー(ドジャース)、10番目にティム・リンスカム(ジャイアンツ)、11番目にマックス・シャーザー(Dバックス)が指名されており、彼らを見過ごしてまでレイノルズを指名したロッキーズのフロント陣は結果的に大失敗を犯したことになる。ちなみにこの年の39番目には今年からヤクルトでプレーするデービッド・ハフもインディアンスから1巡目指名されているが、韓国プロ野球での実績が評価されての来日のケースなので割愛したい。

彼らのその後、マイナー(AAA級)、MLB、NPBでのスタッツを比較してみたいと思う。


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多少のばらつきはあるものの、大学時代からMLBにかけて成績が下がっている傾向がある。これはリーグの打者のレベルが上がれば三振は奪いにくく、四球は出しやすくなる傾向だろうと容易に想像できる。その中で、広島のジョンソンはNPBで大学時代の数値をも上回るスタッツを残しているようだ。


NPBで活躍を見せるカーブを武器とする外国人投手たち


次に彼らがアメリカで使用していた球種に注目してみる。


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アメリカでのシンカーは日本における2シームに近いものと見てほしい。彼らの球種でMLB時代に高評価だったのが、スライダーであった。100球あたりのPitch Valueはジョンソンが2.18、バリントンが1.98、ポレダが1.37と打者に対して効果的だった。

ジョンソンの曲がりの小さい135キロ前後のスライダーはDELTAではカットボールとして入力されており、2015、2016年には100球あたりのPitch Valueが2.47、1.13と大きな武器となっていた。


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しかし2015年に活躍したポレダは、MLB時代と同様に多投したスライダーの100球あたりのPitch Valueが0.23とあまり威力がなく、全投球の2%弱でしかなかったカーブが1.48と一定の効果を発揮していたようだ。しかし翌年はスライダー、カーブともに効果的ではなく、結果的に2年で日本を去ることになってしまった。

最も期待はずれだったのはレイノルズだった。来日前年にAAA級インターナショナル・リーグで防御率2位の実績を残し、NPBでもMLB時代同様にカットボール、チェンジアップ、カーブで勝負したが軒並み威力不足だった。

では、ヤングマンはどのような活躍が見込めるのだろうか。まず、これらの球種情報を見ると、MLBとNPBでずいぶんと球速が異なることがわかる。日本での球速はMLB時代に比べると5km/h減といった印象だ。これは球速を記録するトラッキング機器やスピードガンの違いなのだろうか。そして、ヤングマンの球種割合をみると、スライダーを用いずにチェンジアップやカーブを武器に勝負しており、レイノルズに似ている。

ヤングマンがNPBで活躍するためには、MLBでも高評価だったカーブを武器にできるかどうかが鍵になるだろう。奇しくも昨季、日本で活躍したランディ・メッセンジャー、マイルズ・マイコラス、ブランドン・ディクソン、ブライアン・ウルフ、デービッド・ブキャナン、ジョー・ウィーランドら多くの外国人投手はカーブを武器にしていた。


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球速が遅いわりにPitch Valueの高いメッセンジャー、速いわりに効果的でないウルフなど例外はあるものの、やはり一般的にはカーブもスピードがある方が威力も高いと言えるだろう。昨季来日1年目としてプレーしたウィーランドやブキャナンはカーブの球速がそれぞれMLB通算125.2km/hと126.5km/hであった。Pitch Valueで見ると、球速を維持できたブキャナンは数値が平均以上を記録しており、-10km/hと球速を落としたウィーランドの数値がマイナスとなっているのは興味深い。

ヤングマンもMLB時代と同等のカーブのスピードが出ればよいが、上記の通り-5km/hと見積もると、110km/h後半のカーブとなってしまう。制球力にも課題があり、NPBで活躍するには、もう1種類武器となる変化球が欲しいところだ。

投球スタイルはゴロ投手だ。昨季はAAA級パシフィック・コースト・リーグのコロラドスプリングスを本拠地とする球団に所属し、打球が飛びやすい高地のホームで43イニングを投げ、被本塁打はわずかに3とゴロを打たせる能力を発揮した。カーブのほかにもう1種類有効な球種を見つけ、多くのゴロを打たせることができれば、熾烈になるであろう読売の外国人選手枠争いに勝ち、活躍すると考えられる。

水島 仁
医師。首都圏の民間病院の救急病棟に勤務する傍らセイバーメトリクスを活用した分析に取り組む。 メジャーリーグのほか、マイナーリーグや海外のリーグにも精通。アメリカ野球学会(SABR)会員。

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