• 1.02 Column



歴史的に見ても稀有な出塁率・長打率のダブルクラウン


今季もソフトバンクの柳田悠岐が好調をキープしている。8月2日終了時点の打撃成績は84試合359打席320打数113安打24本塁打で塁打数は211、打点67、四球34、死球1となっている。クラシックな指標では打率は首位、本塁打は2番手。ここまでソフトバンクの攻撃面を支えていたのは柳田だ。

確かに他を圧倒する攻撃力に見えるが、旧来式の指標で見たとき、歴史的に突出した成績とまでは見えないかもしれない。しかし柳田はすでに歴史的な実績を残しており、1つの見方で今季終了時には王貞治に次ぐ歴代No.2の座につく可能性があるのだ。

その見方とは出塁率・長打率のダブルクラウンである。柳田は2015年から3シーズン続けて出塁率・長打率の両部門でトップに立ち続けてきた。



「勝利を得るために攻撃中は得点を挙げるべく努力するしかない」「得点を挙げるためには塁に出て進むしかない」ルール上の大枠がある以上、公式ルールに定めがある指標では、打者の貢献はこの2指標に収れんするしかあるまい(近年はさんざん言われてきたことだが)。打撃3部門・三冠タイトルが昔からのファンの目にはなじんでいるだろうが、結局のところ公式ルールに定まった中でこの2指標以上に攻撃力を如実に示すものはない。

そして柳田の3年連続「二冠」はNPBの歴史上で王貞治(1964~1974)、長嶋茂雄(1959~1961)に続く、わずか3例目の出来事である。打撃三冠のうちの2つを獲るのと異なり、この2つを両立させるのはかなりの難事であるようだ。(以下二冠と記載した場合は最高出塁率と最高長打率のこととする)

1年間を1シーズンにカウントするようになって最初にこの二冠を達成したのは1941年の川上哲治である。しかしその川上も達成は生涯1度きり。2度と記録できずに現役生活を終えた。「ボールが止まって見えた」の逸話で知られるように、川上は戦後に打撃術を完成させたように伝わっているが、指標を子細に見ると全盛期は本来終戦前にあったようである。

二冠王の誕生はその後しばらく途切れ、1951年になってやっと第2号が大下弘によって記録される。この記録が2リーグ制初・戦後初・パ・リーグ初のものとなった。その後二冠王は1957年に山内一弘、1958年に中西太が獲得するものの、セ・リーグの側にはなかなか登場せず、1959年の長嶋茂雄が初の記録となる。この後長嶋は3年連続で二冠王となるが、複数年連続の二冠王もNPB歴史上初の出来事であった。

直後の年代に活躍した王貞治はNPB史上最強打者の定評にたがわず、11年連続14回の二冠王を達成。圧倒的、としか形容しようがない打撃を披露している。NPBはもちろん、メジャーにもこのような記録はない。

その後も出塁率・長打率の独占は難しいことのようで、連続獲得者というのはなかなか出ない。2年連続の記録を列挙すると張本勲(1967~1968)、落合博満とランディ・バース(ともに1985~1986)、松中信彦(2004~2005)、ウラディミール・バレンティン(2013~2014)の5人があげられる。中では落合が通算5回獲得(獲得数は歴代2位)と、流石の実績を残しているほか、松井秀喜が飛び飛びではあるが、20歳代だけで3回獲得しているのが目立つ。


MLBでも少ない連続二冠達成者


連続二冠が難しいのはMLBも同じ。長いMLBの歴史の中でも、連続となると数えるほどである。ずいぶんと多くの超人的スラッガーを輩出したように感じられるが、以下の表が20世紀以後の連続獲得者のすべて。連続することが難しいのではなくそもそも1回でもこの2指標を両立できることが希少で、ウィリー・メイズ、フランク・ロビンソンは1回に留まり、ハンク・アーロンやケン・グリフィーなどは1回も獲得していない。



(注1)

もし柳田が今年も二冠王を達成できるようならば4年連続で歴代単独2位となり、ただ1人王の実績を追うこととなる。過去のレジェンドに劣らない歴史的強打者を今我々はリアルタイムで見られているわけだ。

しかし今年は長打率部門こそ順調であるものの(柳田.659、2位西武・山川穂高.593)、出塁率部門では首位を行く近藤健介(日本ハム)に大きく水をあけられ記録断絶の危機に瀕している。柳田.414に対して近藤が.461。特に近藤は昨年294打席の出場にとどまったが出塁率.568の異常な数値をマーク。昨年と今年の合計でも5割を超える実績を残しており、残り試合ではある程度の高さを維持できる公算が高い。出場試合よりも残り試合の方が少なくなってきた現在、かなり厳しくなってきたようではある。

最後に、柳田がこのまま順調に出場すれば、最高出塁率に届かない場合でも、4年連続の最高長打率をマークすることになる。これは中西、長嶋、王、バースに次ぐ5人目の記録で、このうち5年目以後も継続できたのは王ただ1人。柳田は歴代のレジェンドに比較してやや目立たないように見えるし歴史的な評価が定着したわけではないが、これはクラシックな打撃指標が強い呪縛力を持っているせいだ。今年までの実績ですでに歴代のビッグネームに匹敵する足跡を球史に刻んでいる。


新たに「大三冠」を表彰するならば


さて柳田の「連続二冠王記録」を拝見して思ったのが「何かもうひとつルールブックに載っているようなadvanced系の指標を足して『大三冠』のような表彰項目を作れないか」という夢想。連盟表彰の三冠の向こうを張ってより実質的に強打者を表すキャッチが出せないかというわけだ。だが、最も重要な「塁に出る」ことと「塁を進む」ことの2つがすでに2指標で満たされている以上何か1つ新たに加えるのも無理矢理感がぬぐえない。ある競技において重要な指標が2つになるか3つになるか、はたまた4つになるのかは全く保障の限りではない。「三冠」などと呼んでいるのは単に消費する側の都合であるということに改めて気づかされる。

ただし、出塁率・長打率ともに率系の数字であることから、能力評価の点で問題はないだろうが、休まず出場を続けることに対する評価に若干の問題を残す場合がある。規定ぎりぎりの出場とフルイニング出場とで、前者の数値がわずかに高い場合など(そのためRCAAやwRAAなどが開発されたが、連盟表彰に係数の入ったものはなじまず、この手の指標がタイトルになることはないであろう)がそれにあたる。もしadvanced系の二冠に何かを加えるならばそれはバランス的に累積系の数字でなくてはならないだろう。


長打率が連盟表彰対象とならない理由


面白いことに、長打率はNPBの連盟表彰対象とはなっていない。企業とのタイアップによる特別表彰があるだけで、公式タイトルとは呼ばれない。その訳語自体も後になってつけ加えられたもので、ネーミングがいまひとつのせいもあって誤解されることが多い。大昔、訳語が作られたような時期にはSlugging Average と呼ばれていた。「Sluggingの率」だからせめて強打率とかの方がまだ良かったのだろうが、打率との相違及び「スラッガー→長打」のイメージに引きずられたせいか、長打率としてしまった(注2)。

また、長打率に関して昔からよく言われてきたことであるが、率とは称しているものの、全体に占める何かの部分の割合を表したものではなく、百分率ではない。であるからMAXが1なんてことには当然ならない。そしてよく見るとけっこうクセの強い指標ではある。小数点がついているし、頭はたいてい0で始まっているので確かに率の形に見える。しかしその組成をよく見れば、長打率は総合指標の原型であり、はしりとみなすことができる。4種と数は少ないが、それぞれの事象に係数がついている。たまたま係数が、得られたベースの数と同じ整数になっているだけだ。他の表彰項目とは性格が全く異なっている。

今、打球を放った場合のみに限定した得点生産を探ると称して

0.4×単打+0.8×二塁打+1.2×三塁打+1.6×本塁打

などという式がでてきたら、何となく総合指標の一種として納得してしまいそうになるのではないだろうか。塁打数を求める式の係数を2.5で割っただけのものであるが。通常、総合指標による得点創出を計る場合、アウトがかさめば相応の期待値マイナスが課せられる。長打率においては分母が大きくなることによって凡打のデメリットが計上される。

そして総合指標の数値として流通するためには、得点の数値として相応の大きさになるよう、調整のための倍率が乗せられることが多々ある。これは長打率の計算では省かれているというか成立の時点で意識に上がっていなかった部分である。このスケール調整は一見意味はないように見えるかもしれない。しかし、実際の得点と比較しての方針を立てる際の指針であることや、目にしたファンが感覚的に理解しやすい数字にすることは重い意味を持っている。FIPwOBA(こちらは出塁率のスケールに合わせているが)など、この手の調整を行っているセイバー系スタッツは多い。

この「調整」といったような概念は、近年になって生まれた指標に多く見られることから、クラシックな昔からなじんだスタッツには含まれていないものと思われがちである。しかし定着しているスタッツの中にも、普段目にした際に意識していないというだけで、このような調整がなされているものもある。防御率がそれである。


昔は 自責点×9/投球イニング
現行 自責点×27/(投球イニング×3+イニング端数)

そもそも根幹部分で求められているのはイニング当たり自責点。1歩進んでアウト当たりの自責点である。アウトを1つ奪うために要するコストであり、1イニングを終わらせるために奪われると予想される点。

ここで×9又は×27の部分は数字調整のためのスケール合わせ。要するに1試合当たりの自責点のサイズに合わせるために付け加えられたもので、1アウト当たりの自責点をそのまま使おうが本質に何ら変わりはない。1イニング当たりの数字が欲しければ3倍するだけであるし、1試合当たりならば27倍するだけのことである。結局扱いやすいスケールに合わされるのは自然なことでもある。見慣れれば違和感はなくなる程度の話ではある。

今、完投自体に意味はなくなってきており、見慣れた27倍の調整自体が今後も必要になってくるのか、という問いも浮かぶ。しかし我々は防御率で表されるスケールに慣れ親しんでおり、実際の投手起用とは関連の薄い数字になったとしても、現行のスケールで運用されるであろうことは想像に難くない。やはり見慣れればたいがいのものに違和感はなくなるものだ。

このように調整まで行っている指標がスタンダードな指標として流通しており、長打率がまだ連盟表彰とはなっていないのを見ると、偶然かもしれないが係数つきの指標はたとえ整数であっても連盟表彰とは相性が悪いものだと感じさせられる。なじまない、と言い直してもいい。係数のない出塁率がわりと早くから連盟表彰の対象となっていたのとは好対照である。


セ・リーグは出塁率ではなく出塁数を採用していた


出塁率を連盟表彰としたのは日本においては1962年のパ・リーグが先駆けである。セ・リーグはそれに遅れること5年、1967年に導入された。しかしこの際、率を採用したパに対してセは出塁数を採用。1985年に率に統一されるまで20年近くも跛行的な状況が続いた。往時、表彰規定を作成する連盟の人間でも打撃三冠以外の指標にはあまりなじんでいなかったのであろう。MLB発のルールブックで公式のものとなっているためパは原型どおりに導入している。野球という競技を外から客観的に見れば打率は「出塁率の1パートにすぎない」ことになるが、当時はもちろんその価値には注目など集まっていなかった。

出塁率と長打率はなじみの薄い指標である。ルールについては当然熟知していただろうが、新しい指標がともに率の形になっている。旧来型の三冠のうち本塁打は累積系の数字である。もし将来的に長打率が表彰されることになれば、スラッガー系の打者にとって、「①能力値の高さ・打席に立った時の破壊力」と、「②1年間積み上げた累積結果」の双方が評価方式は違えど揃うことになる(②は「継続」や「勤勉」の評価)。ところが、出塁率の採用によって評価されるものはすべて①の要素となってしまう。出塁系・安打製造機系の例えばイチローのような打者にとって継続や勤勉を評価する指標が存在しないこととなる。最多安打表彰の創設はずっと後のことである。

何年も前から対抗リーグが出塁率で表彰しているのに、あえて率ではなく出塁数を表彰対象としたからには当然それなりに運営者の意思も存在するものだ。


(注1)
テッド・ウィリアムズはちょっと説明が必要だろう。彼は1941年及び42年に連続二冠を達成してそのまま太平洋戦争に従軍。1943~1945年の3年間の軍隊生活を経てMLBに復帰した。復帰年の1946年にも衰えを見せずに二冠を獲得し、この記録を1949年まで伸ばした。なので本人としてはプレーした6年間連続して二冠ということになるが、リーグの記録としては46~49年の4年連続となる。私的には諸般の状況も考慮してMLB史上最強打者と見ている。

(注2)
同じような例として塁打や打点を挙げることができる。「塁打」の方は日本語として誤解を招きやすい。指摘されることは少ないが、問題なしとはいえない。打が後ろにつくと単語として、打ったこと、あるいは打球が主体である言葉になってしまっている。カウントの対象は塁ではなく打球。これだと二塁打も三塁打も1としてカウントしなくてはならない。「打点王」の方はひところ公式レコードブックでも「最多得点打」などと呼ばれていた。そんなに昔のことではない。つい最近のことである。これも同様に本来は打撃により本塁に還った走者数(打者走者含む)をカウントするはずのところ、このネーミングでは打球の数のカウントになってしまう。満塁本塁打も1人を還した内野ゴロも同じ1のカウント。その後「打点」に修正されて現在に至る。長い漢字のネーミングの方が確かに権威はありそうだが言葉はよく見直されるべきである。



  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加
  • LINEにおくる

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る
©2015-2018 Copyrights Allright Reserved DELTA, Inc.