今季、来日した新外国人選手には例年以上に大物が多かった。特に過去にMLBでゴールドグラブ賞を獲得した選手が3人も含まれている点には注目したいところだ。アダム・ジョーンズ(2009、2012-2014年ア・リーグ中堅手)、ヘラルド・パーラ(2011年ナ・リーグ左翼手、2013年ナ・リーグ右翼手)、 アルシデス・エスコバー (2015年ア・リーグ遊撃手)の3選手である。


NPBで活躍したゴールドグラバーたち


過去にMLBでゴールドグラブ賞を受賞し、来日した選手は今季新入団の3人を加えると17人になる。実は1970年代に来日した外国人選手はMLBゴールドグラブ経験者が多く、特に1972年からは79年までは毎シーズンゴールドグラブ賞経験者がNPBに在籍していた。その時代のゴールドグラバーであるクリート・ボイヤー(大洋)、ウェス・パーカー(南海)、デーヴィー・ジョンソン(読売)といった選手はNPBでもゴールデングラブ賞を獲得している。

しかし、時代とともに外国人選手枠が少しずつ拡大していったにもかかわらず、90年代にはゴールドグラバーは2人、2000年代は先日逝去したトニー・フェルナンデス(西武)のみ。2010年代には楽天のアンドリュー・ジョーンズケビン・ユーキリスのみとなっており、「守備の名人」がNPBでプレーすることは極端に少なくなっていた。

今季の3選手の守備の実力はどうだろうか。セイバーメトリクスの中でも守備に関しては長らく未開の分野だったが、近年は新しい守備指標をもとに、より実態に近いかたちで守備力を測定できるようになった。

MLBではゴールドグラブ賞のほかに、セイバーメトリシャンたちがデータ分析から選んだ優秀守備賞 「Fielding Bible Award」を2006年から発表している。その結果、従来の「印象」と「データ」とでは評価が解離するような選手も出てきている。来日した3人のゴールドグラバーはこの観点から見た場合、どのような結果を残していたのだろうか。



アルシデス・エスコバーは二遊間の打球処理に不安?


エスコバーは3選手の中で唯一、昨季MLBでプレーできなかった選手だ。2015年に所属していたロイヤルズが優勝を果たした際にゴールドグラブ賞を受賞している。この年はアメリカン・リーグの遊撃手で1300イニング以上を守った選手が7人いた。その中でクラシックなスタッツを見てみると、守備率は2位となる.980、失策は最少2位タイとなる13だった。

しかし、細かく見てみると従来のスタッツでも、補殺は7人の中でワースト2位、併殺参加数もワースト3位。セイバー指標のDRS(Defensive Runs Saved)では+2とプラスであったものの、同じアメリカン・リーグのカルロス・コレアフランシスコ・リンドーアはエスコバーより400イニング以上守備イニングが少ないにもかかわらず+4を記録。彼らに比べると、やや見劣りするスタッツだった。

ゴールドグラブ賞は以前から前述のように「印象で判断される」、「守備よりも打撃が良い選手が評価される」といった批判があり、2013年からセイバーメトリクスをひとつの評価基準として採用しはじめた。2015年ア・リーグ遊撃のゴールドグラブファイナリストには、エスコバーとともにザンダー・ボガーツ(DRS -3)、 ディディ・グレゴリウス(DRS +3)が挙がった。クラシックなスタッツだとボガーツが守備率1位の.984、失策数も11とエスコバーよりも優秀だが、DRSは-3とエスコバーに比べると低く、優勝補正もあったのかエスコバーが受賞している。

Fielding Bibleによる評価を引用すると、エスコバーは、特に右方向への動き(To His Right=つまり三塁方向)への動きに長けていたようだ(図1)。しかし一方、二塁方向(To His Left)への動きはそれほど評価されていない。

pict

もし、ヤクルトで遊撃に定着するならば二遊間のコンビを組むのは 山田哲人で間違いない。1.02 FIELDING AWARDSによると、山田は昨季二塁方向への打球処理を苦手としていたようだ。同じく二塁方向への動きを元々苦手としているエスコバーとのコンビになってしまうと二遊間の打球処理に大きな穴ができてしまうかもしれない。さらに、メジャーではほぼ絶滅しつつある人工芝球場がNPBでは多い点もどう作用するか気になるところだ。

また三塁方向への動きも2015年をピークに年々悪化し、メジャー最終年となった2018年にはそれもマイナス評価となった。これがDRSにも響き、-4→-11→-16と悪化に歯止めがきかず、とうとう昨季はMLBでプレーができなかった。そういう意味では2015年は、ア・リーグ遊撃手の世代交代の年だったとも言えるかもしれない。

pict


ゴールドグラブ4度のアダム・ジョーンズをデータで評価すると?


ジョーンズが記録したMLB4度のゴールドグラブ賞は、過去に来日した外国人選手の中では4位タイとなる。2017年WBCで、オリオールズの当時チームメイトだったマニー・マチャドの大飛球をフェンス際でキャッチしたりスーパープレーが目立つジョーンズだが、守備指標は芳しくない。

pict

まず、クラシックスタッツから見ていく(表2-1)。レギュラーに定着した08年以降、ほぼすべての年で1つのポジションだけで1000イニング以上に出場できており、身体が非常に強いことがわかる。肩が強いためか補殺が多い。また派手なプレーが多い印象の一方失策も多い。こんな評価になる。しかし、○内に示したリーグ内の順位とゴールドグラブを受賞できたかどうかを見比べると、ゴールドグラブ賞を受賞したときに必ずしも好成績を収めていたわけではないことがわかる。

2010年のように刺殺・補殺がリーグ1位のときには受賞できていない。これは失策数最多がマイナスにはたらいたと推測できるが、リーグ最多失策の2012年には受賞。そして失策も多く、補殺数、刺殺数ともにやや低調な2014年には受賞。失策が少なく、補殺数リーグ2位の2015年は受賞できず……という具合だ。クラシックスタッツから評価するとリーグ最多補殺でエラーも2、守備率リーグ3位の.995を記録した2013年のみが妥当な印象を受ける。

これをDRSで評価すると以下のようになる(表2-2)。なんとゴールドグラブ賞を受賞した2012年はDRS-13。さきほどクラシックスタッツから妥当だと考えられた2013年もマイナス評価であることがわかった。

pict

さらにFIELDING BIBLEからの引用で詳しくジョーンズの守備傾向を見ていこう(表2-3)。ジョーンズは浅い打球への対処はプラスだが、深い打球への評価が低かった。これらのマイナス分を送球評価で補うことが多かったようだ。しかし、2016年以降は持ち味の送球評価が今ひとつとなったほかStatcastによる評価指標”Jump”においても打球反応の評価が低迷。結果的にセンターのレギュラーとしてプレーした最終年となった2018年にはDRS-16と散々なスタッツに終わっている。

pict

昨季は新天地ダイヤモンドバックスでライトとしてプレーするも、Kills(ダイレクト送球でアウトを奪ったプレー)をシーズンを通じて1度も記録できず、送球評価もマイナスでDRSは-6となっている。オリックスが本拠地とする京セラドーム大阪はセンターの最深部は慣れ親しんだカムデンヤーズと比較するとやや距離が短いが、左右中間は逆に広い。一度慣れてしまえばメジャーの球場のように非対称の球場もなく、守りやすいかもしれないが、人工芝であることも含めて不安材料もあるだろう。


2013年には右翼でイチローをも上回る守備を見せたヘラルド・パーラ


3人の中のパーラは最もポリバレントな選手である。メジャー通算で1466試合プレー歴がある中で、経験したことのないポジションは捕手と遊撃手だけ。右翼手と左翼手と2つのポジションでゴールドグラブ賞も獲得している。

pict

この10年それぞれのシーズンで最多イニングを守った守備位置は表3のとおりだ。主に右翼と左翼を同程度守っている。守備率が.980以下の年もあるなど失策が多いが、DRSで見ると優秀だ。ダイヤモンドバックスに所属し、ゴールドグラブ賞を獲得した2013年は、MLBの右翼手最高となる+29を記録。見事Fielding Bible Awardを受賞している。このシーズンには同じく右翼手としてイチローが+11、青木宣親が+7とどちらも高水準の守備記録を残しているが、パーラはそれ以上の右翼手であった。

また、前述の通り、2019年にはジョーンズもダイヤモンドバックスの右翼手としてプレーしているが、こちらはDRS-6。もちろん年度や選手の年齢は違うものの、同じくチェイス・フィールドを本拠地としてプレーした者同士だがかなりの差がある。

この最高のシーズンを境にマイナス評価となるが2017年から復調し、再びプラス評価を得ている。外野手は3ポジションによって動きが異なるが、図2のように、昨季は外野手3ポジションでバランス良くプレー機会があり、Plays Savedという、打球の飛距離別で平均より難しい打球を処理したプレーの評価やKillsなどで大きなマイナス要素はなくまとまっていたようだ。

pict

以上、従来の守備指標と、セイバー指標を用いて3選手の守備に関して見てみた。ゴールドグラブ賞受賞者の評判通りの好守備を見せてくれるのか。人工芝球場が多いNPBに順応できるのか。3人ものゴールドグラブ賞経験者が揃い踏みすることは、長いNPBの歴史の中で初めてのことである。その雄姿をしっかりと目に焼き付けたい。



水島 仁
医師。首都圏の民間病院の救急病棟に勤務する傍らセイバーメトリクスを活用した分析に取り組む。 メジャーリーグのほか、マイナーリーグや海外のリーグにも精通。アメリカ野球学会(SABR)会員。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る