本シリーズではバントについて多角的な視点で分析を行っている。Part3において、WPA(Win Probability Added)を基準にして各球団がバントを効果的に使っているか検証したところ、ほとんどの球団でバントはむしろ 勝利期待値(WE)を下げているという結果になった。しかし、それらの結果をもとにして、無死一塁からのバントはほぼすべての局面で有効な戦術とはなり得ないと断定してしまうことには抵抗がある。バントの効果については、別の観点からの検証もあると考えられるため、今回はそうした検証を行ったあと、バントが効果的になりづらい事情についても考察していきたい。

バントを試みなかった場合のWPAとの比較

Part3では、球団ごとにバントを試みた場合のWPAを求めた。では、バントを試みた場合のWPAはどうなっているか。バントを試みた場合と試みなかった場合でWPAを求め、それをそれぞれの打席数で割ることで、1打席当たりのWPA(WPA/PA)を求めた。

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このように、無死一塁からバントを試みた場合にはWPAの平均が負の値を取るのに対し、バントを試みなかった場合では正の値を取っている。つまり平均的にはバントを行うほうが勝利期待値を低下させるということだ。

しかし、無死一塁からのバントは勝利期待値を低下させる愚策という判断をするのは早計だ。打者の成績をwOBA(weighted On-Base Average)で3つのグループに分けた表46を見てほしい。これはバント関係なくすべての打席の結果を総合した1打席あたりのWPAだ。

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同じ無死一塁でも①打者のwOBAが高いときはWPAも高く、打者の③wOBAが低いときはWPAも低い。そして、Part1~3でも見てきたとおり、①打者のwOBAが高いときにはバント企図率は低く、③打者のwOBAが低いときにはバント企図率が高い。

これらから、バントを試みなかったときというのは、打者のwOBAが高い場合が多い。バントの効果を検討する場合には、このような点も考慮に入れなければならない。wOBAの高い打者に対してバントをさせることは効果的でないとしても、打たせても良い結果が期待しづらいwOBAの低い打者に対してバントをさせることは効果的ということもあるかもしれない。

wOBAで3つのグループに分けて、バントをした場合、しなかった場合での1打席あたりのWPAを見たものが表47だ。

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wOBAに基づいて打者を3つのグループに分けて、それぞれバントを試みた場合とバントを試みなかった場合とでWPAを比較したが、いずれのグループでもバントを試みた場合の方が、WPAが悪化している。③打力の低い打者の場合には、バントをさせることが効果的ということはできない。

では、投手の能力に着目して場合分けを行うとどうなるか。まずはバントとは関係なく、一般的に投手の能力が1打席あたりのWPAにどのように影響を与えているかを確認する(表48)。Part3までと同様に投手のグループ分けには、tRA(true Runs Average)を使っている。

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投手の能力も打者の能力と同様にWPAに影響を与えていることがわかる。打者の能力に着目した場合分けでは、バントの効果が見えなくとも、投手の能力に着目した場合分けでは、バントの効果が見えるかもしれない。

投手の能力別にバントする・しないで1打席あたりのWPAの違いを見たものが表49だ。

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投手をtRAに基づいて3グループに分けて検討した結果でも、バントを行った場合のWPAはいずれの場合も、負の値となっている。そして、tRAが低い、つまりは相手投手が優秀な場合の方が、WPAの差が大きくなっている。一見、相手の投手が優秀で、打たせても良い結果が期待しづらいときにバントが効果的になるように思えるが、結果はこうした理論とは正反対なものとなっている。さきほど表47で打者についてグループ分けした際も、打力が低くなるほどバントの効果が上がるということは必ずしもいえなかった(この理由については、後ほど検討する)。

さらに、打者と投手双方を考慮して場合分けを行った結果についても見てみる(表50)。

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打者と投手双方の能力を考慮しても、バントを試みた場合の方が、1打席当たりのWPAが低いという結果となった。WPAで見る限りは、打者の能力や投手の能力を考慮しても、無死一塁からのバントは好ましい結果となりづらいといえる。

バントを試みなかった場合の得点確率との比較

ここまでの検証の結果、得点期待値のみならず勝利期待値からしても、バントは有効ではないということになった。ただ、バントが有効な場面がかなり限定的であるとしても、もしかしたらバントが有効な場面はあるかもしれない。もう少し検証を続けたい。

バントの有効性を検証する際に、同じ条件(この場合では無死一塁)でバントを試みた場合とそうでない場合とで、いずれが得点確率(その回に少なくとも1点以上得点できる確率)が高いか比べる方法がある[1]。

この方法によると、無死一塁からバントを試みた場合とそうでない場合とで、その回に1点以上入る確率は次のような結果となった。

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このようにバントを試みた場合の得点確率は39.1%なのに対し、バントを試みない場合の得点確率は44.2%だ。ただし、この結果から、無死一塁からのバントは得点期待値のみならず、得点確率も低下させるという判断をするのは早計だということはWPAを用いた検証の箇所で述べたことと同様だ。

バント関係なく、打者の能力別に一般的な得点確率を見たものが表52だ。

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wOBAにもとづいて打者を3グループに分けた場合、当然ながら同じ無死一塁でも、打者のwOBAが高い方がその回の得点確率は高くなる。

そこでこのように打者の打力を近い条件にそろえて、バントを試みた場合、そうでなかった場合で得点確率を比較してみる(表53)。

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バントを試みたときとそうでないときでの得点確率の差こそ小さくなっているものの、いずれのグループでもバントを試みたときの方が得点確率が低くなっている。打力の高い打者ならばともかく、打力の低い打者であれば、バントをさせた方が得点確率が高まりそうなものだが、そのような結果にはなっていない。

こうした結果からすると、得点確率を基準に考えても、無死一塁からの送りバントが効果的に使われているか、疑問がわいてくる。

ただし、投手が優秀な場合にはバントが有効となる局面が多いと言うこともあり得るだろう。表54は投手の能力別にバント関係なく一般的な得点確率を見たものだ。

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投手をtRAに基づいて3グループに分けてみたが、当然優秀な投手の方が得点確率が低くなっている。さらに、打者のときと比べてもグループ間の確率の差は大きくなっている。これほど差があるのならば、打者をグループ分けした場合とは異なる結果が出るかもしれない。

表55は投手の能力をグループ分けしたうえで、バントを試みた場合と、そうでなかった場合の得点確率を見たものだ。

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調べてはみたものの、いずれのグループでもバントを試みた場合の方が得点確率が低い結果となった。しかも、優秀な投手ほどバントを試みた場合とそうでない場合の得点確率の差が大きくなっている。WPAを基準とした検証でも同じような結果となっていたが、優秀な投手に対して、バントを試みる方がかえって下策というのは、奇妙な結果とも思える。

さらに、打者の能力、投手の能力双方を考慮した場合の結果についても調べてみた(表56)。

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9つの場合分けの内、バントを試みた場合がそうでない場合よりも得点確率が高くなったのは3つのみだ。B.投手の能力が中程度で③打者の能力が低い場合、C.投手の能力が低く、①打者の能力が高いまたは②中程度の場合にはバントをした場合の方が得点確率が高くなっている。

確かに、バントをすることで得点確率が上昇する場合は見つかった(もっとも、サンプルサイズが気になるところであり、翌年以降もこのような傾向が続くかは不透明だ。)。ただし、得点確率が上昇したのは、いずれもセオリーがいうところのバントが有効な場合ではないように思われる。

以上のように、WPAや得点確率に基づいた検証の結果からすると、無死一塁からのバントは一般に想定されるよりも有効な場面がかなり限られているといえそうだ。

バントの効果が限定されてしまう理由についての考察

このように無死一塁からのバントの有効性が限られており、しかも一般に効果的といわれる場面での効果がむしろ低いとすらいえる結果になった理由について考察していく。

第一にあげられるのは、無死一塁から、1死二塁にすることが有効な局面というのがほぼないということがあげられる。

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表57は9回1点差以内での無死一塁と1死二塁での勝利期待値をまとめたものだ。いずれの場合も無死一塁よりも1死二塁の方が勝利期待値は低くなっている。試合の最終回で得点も僅差、一般的に1点の価値がより重くなっているにもかかわらず、このような結果となっている。なお、無死一塁と1死二塁を比較すると、いかなるイニング、表裏、点差でも、1死二塁の方が勝利期待値が高いということはない。

また、得点確率についても無死一塁では40.6%だったものが、1死二塁では39.2%まで低下する。

勝利期待値や得点確率はあくまで平均的な状況をもとに計算されているから、すべての場合に当てはまるものではないことは確かだ。しかし、平均というものは軽視したり無視したりしていいものではない。平均から大きく外れてしまう場合というのは、それほど多いものではない。現にPart3では各球団のバントによるWPAがほぼ負の値をとったことや、今回の記事で見てきたとおり得点確率においてもバントが有効な場面が見出しづらかったことは、現実に発生した結果がそうした理論値・平均から逃れられないということの証左といえる。

このように、無死一塁からの送りバント自体、そもそも勝利期待値や得点確率を上昇させることが難しいということが理由の一つと考えられる。

第二にあげられるのは、バントが一般的に有効とされる場面ほど、バント成功率が下がる傾向が見られることだ。

Part2の記事であげたバント成功率に関する表を再掲する。

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これらから分かることは、試合の終盤ほど、打者の能力が低いほど、投手の能力が高いほど、バント成功率は低くなるということだ。そして、そのような場面というのは、一般にバントが効果的とされる場面だ。

投手をtRAに基づいて3グループに分けた結果、優秀な投手ほどバントを試みた場合のWPAや得点確率がより低くなったのは、このような傾向がよく表れたものだろう。バントが強く予想される場面では守備側が警戒する、あるいは攻撃側も2ストライクのような不利な条件でもバントを試みる、その結果として、成功率が下がり、バントが有効なはずの場面ほどかえってバントの効果が薄れてしまうということだろう。一見すると不可思議な結果も、これまでの検証結果からすると説明が付く。

つまり、バントの成功率が高い場面はバントが成功してもあまり意味がなく(むしろアウトカウントが増える分だけ損をする)、バントが(比較的)効果的な場面ではバントの成功率が低くなる。その結果として、いかなる場合であっても無死一塁からのバントが効果的になり得なくなってしまう。

まとめ

以上のように、無死一塁からのバントの効果を検証してみたが、やはり効果は極めて限定的だということがわかった。NPBにおいては、無死一塁からのバントが効果的に使われているとは言いがたい[2]。

なお、戦術的には無意味であっても、バントがあるかもしれないと守備側を警戒させることで、バントをしなかった場合の打席でより良い結果につながりやすいということはあるのではないかという見解も存在する。確かに、バント企図率が高い場面ではバント成功率が低く、バント企図率が低い場面では成功率が高い上にバントヒットや失策も起こりやすいという結果は、一連の記事でも見られる。このため、そうした見解を完全に否定することはできない。

しかし、このことをあまりに強調することは相当でないと考える。守備側を警戒させることができるから、戦術的には無意味なバントも戦略的には意味があるとの見解は、あくまで完全には否定できないというに過ぎず、何ら積極的に立証されているものではない。バント企図率が低い場面でバントをすると成功率が高くバントヒットや失策も起こりやすいというのは、バントが予測されていない場合にバントを試みると有効であるという見解の裏付けとはなり得ても、守備側がバントを警戒しているとヒッティングが有効になるということの裏付けにはなり得ない。

もしも、バントがあるかもしれないと警戒させることに意味があるというのであれば、バント企図率が高い場面とそうでない場面とで、ヒッティング時の打撃成績がどのように変わっているか、打者の能力や投手の能力に関する補正をした上で調べれば良いだろう。その上でバントを警戒させることによってもたらされる価値がバントを試みることによって失われる価値より大きいことを裏付けられたときに初めて、戦術的には無意味なバントも戦略的には意味があるといえる。

「戦略的には意味があるかもしれない」などと抽象的な可能性で免罪符を与えるようなことは生産的な議論につながらないため、すべきでないと考える。


[1]この方法は、実際の試合では1点だけ得点できればよい(そのイニングの得点が1点でも2点以上でも勝利期待値に変化がない局面。完全にこの条件を満たす局面は同点の9回以降の裏しかない。)という局面はほとんどないため、2点以上入った場合のことを一切考慮しないという点では不完全ではある。1点が入る確率が上がっても、2点以上入る確率が下がったために、かえって勝利から遠ざかる局面というのは大量に存在する。
[2]もっとも、ここまでの結果は、無死一塁からの投手以外の打者によるバントに関する結果であって、無死二塁や無死一・二塁からのバント、投手のバントについて検証した結果ではない。これらの場合では、バントが効果的な場面があることまでは否定されない。

市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』にも寄稿。
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