• 1.02 Column


夏場に投手が大量失点した際、その原因はしばしば暑さに求められる。これは「猛暑で投手が疲労するから夏場は失点が増える」という仮説が前提にあるわけだが、こうしたバイアスが本当に存在するかどうか、定量的に検証された形跡はあまりない。本稿ではデータを元に、季節が成績に与えるバイアスが実在するかを見ていきたい。

夏の打高化が起こる日本プロ野球


はじめに、夏場に投手の失点が本当に増えるのか検証したい。防御率と失点率(9回あたりの失点数)が時期によりどのように変化するかを調べた。全投手の成績から、各月の防御率と失点率を計算したのが図1である。対象は交流戦が導入されてシーズンの全日程が現在の形に定まった2005年以降とした。3月と10月はシーズン毎に試合数が異なるため集計対象外としている。

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結論から言うと「夏場は失点が増える」のは事実である。失点率は開幕から上昇していき、8月にピークを付けると以降は低下する。4月・9月と比べると8月は失点が5%程多く、春先や秋に差し掛かった時期と比べて夏場は失点が増えるようだ。


なぜ失点が増えるか


失点が増えるということは、打者目線で言えば得点が増えるということだ。この得点増加の原因を考察するために、時期によって打席結果の内訳がどう変化するかを見ていきたい。なぜ打席結果の内訳に着目するかというと、得点がどれだけ記録されるかは、打者と投手がどのような打席結果を記録したかでほぼ決まるからだ。これは打席結果から得点を推定する指標(wOBA)が上手く機能することがその証拠だ。

まずは打席を三振、四死球、打球(打球が発生した打席[1])の3つに分解し、それぞれの割合がどのように変化したかを調べた。4月に記録された全打席結果の内訳は、三振が17.8%、四死球が9.1%、打球が70.4%となっている。この数値からどれだけ割合が増減したかを月単位で調べたのが図2だ。6月の値を例に説明すると、6月は4月と比べて全打席に占める三振の割合が0.6ポイント多く(18.4%)、四死球の割合は0.6ポイント少なく(8.5%)、打球の割合はほぼ変わっていない(70.4%)ことを示す。

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5月以降は打球と四死球が減って三振が増えている。得点を生み出す源泉となる打球と四死球が、得点を生まない三振に置き換わっているから、これは得点減少を引き起こす変化だ。図1の得点増加と矛盾しているように思えるが、このグラフでは「打球」が一括りになっている点に注意すべきだ。5月以降は打球の割合は減少しているが、打球の内訳に変化があるとすれば、それで得点増加を説明できるかもしれない。

次に打球を単打、二塁打、三塁打、本塁打、アウト[2] の5つに分解し、それぞれの割合がどのように変化したかを調べた。4月に記録された全打球の内訳は、単打が22.9%、二塁打が5.4%、三塁打が0.6%、本塁打が2.9%、アウトが68.3%となっている。この数値からどれだけ割合が増減したかを月単位で調べたのが下記の図3だ。8月を例に説明すると、8月は4月と比べて全打球に占める単打の割合が0.8ポイント多く(23.7%)、二塁打の割合は0.3ポイント多く(5.7%)、三塁打の割合は0.1ポイント少なく(0.5%)、本塁打の割合は0.3ポイント多く(3.2%)、アウトの割合は1.4ポイント少なく(66.9%)なっていることを示す。

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5月以降はアウトが減り、単打・二塁打・本塁打が増えている。得点を生まないアウトが得点を生み出す源泉である安打に置き換わっているわけだから、得点増加の原因は打球にありそうだ。打球1本あたりの「得点を増やす効果(得点価値)」が上昇することで、得点が増加していると考えられないだろうか。

打球の得点価値はwOBAを使うことで定量化できる。wOBAは打席あたりの得点生産力を定量化する指標なので、打球が発生した打席におけるwOBAの平均値を調べれば、打球1本あたりの得点価値が分かる。この数値はwOBAconと呼ばれており、MLBのStatcastデータの解析などでよく使われている。これを用いて、打球の得点価値が時期によってどのように推移するか見てみよう。

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打球の得点価値は開幕から上昇していき、8月にピークを付けると以降は下がる。これは図1で示した失点率と酷似した推移である。失点率と打球の得点価値の相関係数はR=0.89と非常に高く、得点の入りやすさは打球の得点価値に強く連動している。夏になると得点が入りやすくなる現象は、打球の得点価値の上昇により引き起こされているように見える。


なぜ打球の得点価値が上昇するか


それでは、なぜ夏に打球の得点価値が上昇するのだろう。原因として考えられるのは気温だ。気温の変化は選手のプレーに対して様々な影響を与えることが予想されるが、プレーを物理現象として見ると、気温が「空気抵抗(抗力)」に与える影響は無視できない[3]。

気温と空気抵抗が結び付かない方もいるかもしれないが、両者には物理的な関係がある。空気抵抗は空気密度に比例する。空気密度が大きいほど空気抵抗が大きくなるのはイメージしやすいだろう。そして空気密度は気圧が低くなるほど、気温が高くなるほどに小さくなる[4]。すなわち、気圧が低くなるほど、気温が高くなるほど空気抵抗は減少する。

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気圧と空気抵抗の関係は、コロラド・ロッキーズの本拠地であるクアーズ・フィールドでおなじみかもしれない。標高1600mにあるクアーズ・フィールドは気圧が低いため、海抜0m地点と比べて空気密度は82%しかない[5]。その分だけ空気抵抗は小さくなるので、打球速度が減速せず飛距離が伸びる。この効果によってこの球場では本塁打も本塁打以外の安打も出やすい[6]。

このように気圧低下と空気抵抗の関係はよく知られているが、実は気温が上昇した時もこれと同じ現象が発生する。日本の気候では4月から8月にかけての気温上昇によって、空気密度が5%低下する。平地とクアーズ・フィールドの差(18%)と比べれば1/3程度だが、日本の球場でも夏にかけて「クアーズ・フィールド化」が発生するのだ。

これに関連する先行研究がある。イリノイ大のAlan Nathanは「気温が本塁打の増減に与える影響」の定量化を試みており[7]、「1℉(≒0.56℃)の気温上昇で本塁打が1%増える」と結論付けている。これを踏まえた上で、12球団本拠地が存在する都市の平均気温の月別推移を見てみよう(表1)[8]。

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どの都市も4月から8月にかけて平均気温は13℃、14℃程度上昇する。Nathanの示した「1℉(≒0.56℃)の気温上昇で本塁打が1%増える」という関係が日本プロ野球でも成り立つのなら、本塁打は25%も増加する計算になる。この先行研究がMLBの環境を前提にしていることは注意すべきだが、日本プロ野球でも同じ傾向の影響が出ていると考えるのが自然だろう。打球の得点価値が上昇する原因として、こうした気温の物理的な影響が考えられそうだ。

しかし、このデータを見るうえで注意しなければならないポイントがある。これは外気温を示しているに過ぎないが、日本プロ野球にはグラウンドが外気から遮断された屋内球場が存在するからだ。屋内球場には空調設備があるため、球場内の気温は外気温とは一致せず、シーズンを通してほぼ一定に保たれている。つまり、気温上昇で打球の得点価値が向上するのなら、屋外球場と屋内球場では異なる現象が起こるはずだ。


屋外球場では夏に何が起こるか


屋外球場での「時期による得点の入りやすさの変化」はどうなっているだろうか。打球の得点価値が気温に連動しているとすれば、屋外球場では夏に得点が入りやすくなるはずだ。これを調べるために集計対象を屋外球場に絞り、全投手の成績から各月の防御率と失点率を計算したのが図6である。ここではグラウンドが外気から遮断されていない球場を屋外球場と定義した。つまりメットライフドームは屋外扱いとしている。

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屋外球場はやはり夏に得点が入りやすいようだ。失点率は開幕から上昇していき、8月にピークを付けると以降は低下する。4月と比べて8月は失点が約10%多くなっているが、全球場の失点率カーブ(図1)ではこの幅は約5%だったので、屋外球場では夏の打高化が「より過激に」起こることが分かる。なぜこのような傾向を示すのだろう。さきほどと同じ手順で打席結果の内訳の変化を見てみよう(図7)。

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6月以降は四死球が減り、三振と打球が増えている。全打席の1%を占める四死球が三振と打球に半分ずつ置き換わると、理論上は5%程度の失点率低下が見込まれる[9]。これでは失点率・防御率の上昇(図6)を説明できないので、こちらも打球の中身まで調べる必要がありそうだ。同じ手順で打球の内訳を調べたものが図8だ。

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シーズンの進行につれてアウトが減り、単打・二塁打・本塁打が増えている。例によって打球の得点価値が上昇して、得点増加を引き起こしている可能性が高い。同じように打球の得点価値を定量的に確認してみよう(図9)。

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打球の得点価値はやはり失点率のカーブ(図6)によく似た形状となった。打球のwOBAが.010上昇すると、理論上は6%の失点率の上昇が見込まれる[10]。四死球減少による得点減少を打ち消して余りある効果だ。屋外ではこの効果が支配的に作用して、夏の得点増加を引き起こしているようだ。

次に、打球の得点価値と気温の関係性を考えてみよう。屋外球場の場合、プレーが行われるグラウンドの気温は外気温に等しいとみなしてよいだろう。表1の各球団本拠地の平均気温データを元に計算すると、月別平均気温と打球の得点価値の相関係数はR=0.85となる[11]。気温が上昇すると打球の得点価値も上昇する、という関係性が見て取れる。

屋外球場において、4月から8月にかけて打球が本塁打になる割合は20%上昇する。これはNathanの先行研究による空気抵抗による推定変化量(25%上昇)に近い数値だ。MLB球とNPB球の空力特性の違いも調べなければ断定はできないものの、打球の得点価値と気温が連動するのは、空気抵抗の変化による影響が大きそうだ。


屋外球場において季節が与える影響のまとめ


  • 得点の入りやすさは8月をピークとした逆U字型カーブとなる。
  • 得点の入りやすさは打球の得点価値に連動している。
  • 打球の得点価値は気温上昇による空気抵抗減少によって変動していると考えられる。

次回は屋内球場における季節と成績の関係について考察する。屋外球場では気温変化が大きなファクターとなっているようだが、気温変化の乏しい屋内球場ではどのような推移となるか見ていきたい。


※本稿で使用した2005-19年のプロ野球データは日本プロ野球記録様から引用させていただきました。

[1] 今回は犠打を除外するために「打数-三振」を「打球が発生して完了した打席」と定義した。犠飛も加えるのが好ましいと思われるが、データが手に入らなかったため計算に含めていない。
[2] 今回は打球が発生して完了した打席のうち、安打ではない打席をアウトと見なした。性質が安打に近い失策出塁は区別するのが好ましいと思われるが、データが手に入らなかったため計算に含めていない。
[3] 厳密に言えば後述のマグヌス力にも影響が出る。打球は一般的にバックスピンがかかっており、これにより発生するマグヌス力は打球をホップさせる方向に作用するため飛距離を伸ばす効果がある。マグヌス力も空気密度に比例するので、気温が上昇するとマグヌス力は弱くなり飛距離は短くなる。しかし、Nathan[5]によるとマグヌス力よりも空気抵抗の影響の方が大きいため、空気密度が低下すると打球の飛距離は伸びるようだ。
[4] この関係は高校物理でおなじみの理想気体の状態方程式から導出できる。
[5] Alan Nathan, Baseball At High Altitude, The Physics of Baseball
http://baseball.physics.illinois.edu/Denver.html
[6] Guts!, FanGraphs Baseball
https://www.fangraphs.com/guts.aspx?type=pf&teamid=0&season=2018
[7] Alan Nathan, Effect of Temperature on Home Run Production 
http://baseball.physics.illinois.edu/Effect%20of%20Temperature%20on%20Home%20Run%20Production.pdf
[8] データは気象庁HP(http://www.jma.go.jp/jma/index.html)から引用した。阪神は本拠地を構える西宮市に観測所がなかったため、直線距離で最も近い大阪市のデータで代替した。
[9] wOBAを使った理論値。計算過程は以下の通り。wOBAは四死球がおよそ.700、打球が.340、三振がゼロであるため、全打席の1%を占める四死球が三振と打球に半分ずつ置き換わると、全打席のwOBAは0.005下がる。これは打席あたりの得点生産を0.005点減らす。打者は1打席に0.1点の得点を生産するため、打席あたりの得点生産は4.3%減少することになる。一方、四死球はアウトにならないが打球は67%がアウトになり、三振は100%アウトになるため、打席あたりのアウトは0.008個増加する。打者は1打席に0.67個のアウトを生産するため、打席あたりのアウトは1.2%増加することになる。打席あたりの得点が4.3%減少し、打席あたりのアウトは1.2%増加するので、失点率(アウトあたりの得点)は5.3%低下する。
[10] wOBAを使った理論値。計算過程は以下の通り。打球は全打席の70%を占めるため、打球のwOBAが.010上昇すると全打席のwOBAは.007上昇する。これは打席あたりの得点生産を0.0056点増やす。打者は1打席に0.1点の得点を生産するため、打席あたりの得点生産は5.6%増加することになる。一方、打球のwOBAと打球がアウトになる割合は極めて強い負の相関関係(R=-0.99)にあり、打球のwOBAが.010上昇すると打球がアウトになる割合は0.76%低下する。打球は全打席の70%を占めるため、打席あたりのアウトは0.0053個減少する。打者は1打席に0.67個のアウトを生産するため、打席あたりのアウトは0.8%減少することになる。打席あたりの得点が5.6%増加し、打席あたりのアウトは0.8%減少するので、失点率(アウトあたりの得点)は6.5%上昇する。
[11] ここでは屋外球場における月別平均気温を、屋外球場である7本拠地の平均値として計算した。

竹下 弘道(たけした・ひろみち)@RCAA_PRblog
古典的ボックスコアから選手とチームの通史的な分析に取り組む。https://ranzankeikoku.blog.fc2.com/
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