野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2021年の日本プロ野球での野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する“DELTA FIELDING AWARDS 2021”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。

対象捕手に対する9人のアナリストの採点


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捕手部門は大城卓三(読売)が受賞者となりました。

捕手については、2018年よりDELTA取得の投球データを使ったフレーミング(捕手がより多くのストライクを奪うための捕球)もアナリストによっては評価の対象としています。DELTA取得の投球データは目視により入力されたものであり、機械的に取得したデータと比べた際には精度の部分で課題を抱えています。しかしこれまでのFIELDING AWARDS、またほかの研究においても一定の成果を得られているため、データ入力におけるルールの厳格化、分析時のデータの扱いにおいて注意を払うことを徹底したうえで、評価を解禁しています。

しかしどのような分析を行いこうした評価に至ったかはアナリストごとに異なります。捕手をどのように分析したか、宮下博志氏の分析を参考として掲載します。2021年捕手の守備成績はこちらから。




捕手参考分析 分析担当者:宮下博志



捕手を評価することについて


捕手の守備評価はセイバーメトリクス最後の砦である。UZRなどである程度評価手法が確立された内野手・外野手に比べ、捕手評価は現在でも確立されているとは言い難い。投球のキャッチ、ブロック、盗塁阻止、配球など、他の野手より守備プレーが複雑で、捕手単体で完結しにくいプレーも多いためだ。今回は、例年同様にフレーミング、ブロッキング、盗塁抑止・阻止の観点で、捕手の守備評価を行った。以降それぞれの項目について、分析手法、結果について解説していく。


フレーミング評価のこれまで


現代野球における捕手の守備評価で、最も重視されているのがフレーミングというプレーだ。フレーミングとはストライク確率を上昇させる捕球技術のことを指している。PITCH f/x等のトラッキングシステム導入で本格的に計測されはじめた捕手の守備評価である。

フレーミングは平均的な捕手に比べてどれだけストライクを増やしたか、投球コースの情報から評価を行うのが基本となる。ただ投球コース以外にもストライクコール率に影響を与える要因はある。昨年までは以下の要素について補正を行ったフレーミング評価を行っていた。

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これらの要素を加味したストライク確率をそれぞれの投球について計算し、以下の計算式でフレーミングにより増減したストライク数(CSAA)、またそこからフレーミングにより防いだ失点(CRAA)を算出していた。

・見逃しストライク判定時
 CSAA=1-ストライクコール確率
・見逃しボール判定時
 CSAA=0-ストライクコール確率
・ストライクで防いだ失点(CRAA)
 CRAA=CSAA×カウント別のストライク判定得点価値

今回もフレーミング評価の大枠に変更はないが、補正要因を2つ追加している。投手の左右、および球種である。


今季取り入れたフレーミング評価の解説(投手の左右、球種の影響)


投球コースや打者の左右が同じでも、ゾーンの外から中に入る投球はストライク判定されやすく、ゾーンの中から外へ逃げるボールはストライク判定されにくい。以下の図に示すように、例えば高めから入るカーブはストライク判定されやすく、低めに落ちるフォークはストライク判定されにくい。さらに、右投手のカーブであれば右打者の肩口、左投手のカーブであれば左打者の肩口から入るとストライク判定されやすい。他の球種も同様に、投手の左右によって投球コース別のストライク確率が異なる。

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根本的には、球種よりも変化量や投球コースへの入射角が影響していると考えられる。しかし、現時点のNPBでは両パラメータの取得が困難なので、ここでは投手の左右および球種でフレーミング補正を行った。

この補正を行わない場合、極論だが低めのフォークをまったく要求せず、高めのカーブを要求し続ける捕手のフレーミング評価が高めに出る可能性がある。現実的には、球種の選択は捕手だけでなく、試合前や試合中に投手やバッテリーコーチ等と協議しているはずだ。つまり配球は捕手だけの責任ではない。今回の補正はフレーミング評価から配球の影響を極力排除する狙いもある。


2021年捕手フレーミング評価


このようにバージョンアップを行ったフレーミング評価の結果を紹介する(表2)。まず増やしたストライク(CSAA)では大城が1位となった。ただ野球の試合にとって重要なのはストライク数ではなく、得点・失点としてどれほどの影響をもっているかだ。増やしたストライク(CSAA)を防いだ失点(CRAA)に換算すると、梅野隆太郎(阪神)が1位という結果になった。

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ストライクから得点の単位への換算でなぜ順位が入れ替わるかというと、同じストライクでもどのようなカウントでストライクを奪うかによってその価値が変化するためだ。大城のほうが増やしたストライクは多かったが、3ボール2ストライクなど、打席を左右する場面で優れたフレーミングを見せていた梅野が防いだ失点(CRAA)では逆転している。とはいえかなり僅差のトップ争いとなった。

また参考までに各球種に対してどの捕手が多くのストライクを獲得していたかも掲載しておく(表3)。

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CSAA(ストライク獲得状況)から見る捕手別のフレーミング傾向


ここでは対象全捕手について、2021年のフレーミング結果を個別に解説していく。


梅野隆太郎(阪神)

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フレーミング評価1位となった梅野は、左打者のアウトハイを除き概ね全般的にストライクを増加させている。特に左打席側にあたる、右打者のアウトローや左打者のインローでアドバンテージを築いていた。


大城卓三(読売)

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大城のフレーミングは、高低よりも左右で強みを発揮している。特に対右打者時の両サイドで非常に多くのストライクを獲得し、ストライクゾーンを左右に広げていたようだ。


中村悠平(ヤクルト)

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中村は打者の左右を問わず、アウトコースでストライクを増加させ、インローを苦手としている。内角は打者が立っているサイドにあたる。フレーミング時に打者の存在を意識してしまっているのかもしれない。


森友哉(西武)

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2021年の森は高めのフレーミングでストライクを獲得していた。低めでややストライクを減らす傾向は昨季同様だが、一方で左打者の高めで左右に広くストライクを獲得しており、トータルでプラス評価となった。


木下拓哉(中日)

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昨年、フレーミング評価で圧倒的なプラスを叩き出した木下だが、2021年はプラス幅が小さくなっている。低めのフレーミングでは上位陣を上回っているが、インコースや左打者のアウトハイでプラスを作れず、全体の評価が伸び悩んだ格好だ。


伏見寅威(オリックス)

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伏見は対左打者のフレーミングに苦戦し、トータルではマイナス評価となった。対右打者ではアウトコースでプラスを記録しており、マイナス幅が抑えられている。


太田光(楽天)

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太田はベース上のフレーミングに優れる一方、両サイドではネガティブな傾向を見せていた。フレーミング観点に絞れば、横変化の大きいボールで左右を広く使う投手よりも、縦変化主体の投手と相性が良さそうだ。


清水優心(日本ハム)

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清水は低めで大きなマイナスを記録した一方、ベルトの高さでは12球団上位のプラスを記録した。また、球種別ではストレートやスライダーでのマイナスが大きく、ツーシームやカットボールなどの動く速球で多くストライクを獲得している。


甲斐拓也(ソフトバンク)

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甲斐は全体的にマイナス値を記録していた、特に低めのマイナスが大きく、フレーミング評価を大きく押し下げている。低めのマイナス傾向は例年一貫しており、明確な課題となっている。




ブロッキング


フレーミングの次はブロッキング評価について解説する。ブロッキングとは捕逸や暴投を防ぐプレーのことを指す。

昨年までは投球コースやワンバウンドの有無、ミットの移動距離などをベースにブロッキング評価を構築していた。各要因を考慮した上で(暴投+捕逸)の平均発生率を算出し、ブロッキングに成功すれば発生率だけ暴投+捕逸を減らし、ブロッキングに失敗すれば1-(暴投+捕逸)の平均発生率だけ暴投+捕逸を増やしたと評価している。

今回、2021年のブロッキング評価ではフレーミングと同様に球種を考慮した。球種別にブロッキングで防いだ捕逸・暴投数(BlockingAA)を算出すると、カーブの値が突出して高いことがわかる(表4)。2000球あたりのBlockingAA/2000ではツーシーム・シンカー・スライダーなど、横変化が大きい球種のマイナス値が大きい。

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球種を考慮したBlockingAAに暴投・捕逸の得点価値を掛け合わせたBlockingRunsをブロッキングの最終評価とした。1位の甲斐は昨年もトップ評価で、安定したブロッキング技術が垣間見える。ただし、2000球あたりのブロッキング評価上位は非常に拮抗しており、2021年のブロッキング評価は出場機会で差がついた格好だ。

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盗塁抑止/阻止評価


次は盗塁についての評価だ。捕手が盗塁を防ぐ手段は、大きく分けて2つある。ひとつは走者に盗塁させないこと(盗塁抑止)、もうひとつは盗塁企図した走者をアウトにすること(盗塁阻止)である。一般的には盗塁阻止率など、後者についての評価が一般的だが、ここでは抑止についても評価を行う。

盗塁抑止、盗塁阻止評価については、昨年と同様、以下の計算で算出した。盗塁抑止は盗塁企図率の高い走者に盗塁企図させなければプラス評価、盗塁阻止は盗塁成功率の高い走者をアウトにすればプラス評価となる。

・盗塁抑止評価
1.見逃しや空振りなど、盗塁可能な投球を盗塁可能機会とする。
2.塁状況別に、走者の盗塁企図数/盗塁可能機会、および盗塁得点価値/盗塁可能機会を計算する。
3.盗塁を企図されなかった場合、(1-盗塁企図数/盗塁可能機会)を盗塁抑止数Aとする。
4.盗塁を企図された場合、(0-盗塁企図数/盗塁可能機会)を盗塁抑止数Bとする。
5.(盗塁抑止数A+B)×(盗塁得点価値/盗塁可能機会)を盗塁抑止得点とする。

盗塁抑止評価は大城が1位となった(表6)。木下、太田も近い水準だが、4位以下と比較して抑止数が多いわけではない。これは盗塁成功率の高い走者に企図させなかったことが影響している。分の悪い勝負を回避し、リスクを未然に防いだ結果といえる。抑止数上位の甲斐や梅野は抑止得点が伸びなかったが、これは盗塁に自信を持っていない走者が盗塁を諦めていた結果と考えられる。

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・盗塁阻止評価
1.盗塁を企図した走者について、塁状況別の盗塁成功率を計算する。
2.各捕手について、盗塁を企図された走者の盗塁成功率平均値を計算する。
3.(1-走者の盗塁成功率平均値)を盗塁阻止率の期待値とする。
4.盗塁企図数×(盗塁阻止率-盗塁阻止率の期待値)×得点価値を盗塁阻止で防いだ失点として評価する。

盗塁阻止評価は甲斐が1位となった(表7)。走者の影響を加味した二盗阻止率期待値と比較して10%以上も高い割合で阻止に成功しており。強肩がいかんなく発揮されていた。2位の伏見も阻止率期待値より10%以上高い阻止率を記録しており、出場機会あたりの阻止得点は甲斐と同等である。

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抑止得点と阻止得点をあわせた総合的な評価では、圧倒的な阻止得点を記録した甲斐が1位となった(表8)。ブロッキング評価とともに甲斐は捕手評価項目で2つトップを獲得した。

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また上位陣は抑止、阻止ともに優れた数値の捕手が多く、対象選手の多くが総合的にプラス評価となった。今回対象となっていない控え捕手が多くマイナスを記録していたようだ。正捕手として出場するためには、盗塁を防ぐスキルが重要視されていることが示唆されている。

もちろん、盗塁抑止および盗塁阻止はバッテリーの共同作業であり、投手の影響も大きい。今回は便宜的に捕手評価として算出したが、責任範囲の切り分けは今後の課題である。


総評


ここまで解説したフレーミング、ブロッキング、盗塁抑止、盗塁阻止で防いだ失点の合計値を最終評価とした(表9)。結果、2021年は全項目で上位にランクインした大城が1位となっている。2位以下は中村、木下、梅野と続き、1位から4位までセ・リーグの捕手が上位を独占する結果となった。

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また今回変更を行った手法がどう影響したかに目を向けると、球種を考慮したことによって、例年行っている分析よりもフレーミングによる差が出にくくなっていたようだ。今後も手法のアップデートについては継続的に行っていきたい。




2021年受賞者一覧

過去のFIELDING AWARDS捕手分析はこちら
2020年(木下拓哉)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53669
2019年(梅野隆太郎)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53587
2018年(小林誠司)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53468
2016年(若月健矢)
https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_09.html

宮下 博志@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。2021年からアナリスト兼エンジニアとしてDELTAに合流
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