球審の判定がボールカウントにより影響を受けることは先行研究からも明らかである。しかしそれ以外の要素にも球審は影響を受けているのではないだろうか。このシリーズでは何が球審に影響を与えるのかについて検証を行っている。Part4ではホーム・ビジターをより詳細に場面分けし判定の状況を確認する。

第1回 カウントと内外角の広さの関係編
第2回 得点差・イニング編
第3回 打順編

ホームアドバンテージは重要な場面で強く出る?


MLBを対象にした研究では、すでに球審がホームチームに有利な判定を行うという結果がでている。こうした傾向がNPBでも存在するのか今年の2月に筆者が確かめたところ、NPBではそうした傾向は見いだせなかった。

もっとも、MLBでの先行研究によれば、ホームチームに有利な判定がなされる傾向は、勝敗の可能性が大きく動く場面で強くなるようだ。こうした場面の重要度はレバレッジと呼ばれる。NPBではこのレバレッジが高くなることでホームアドバンテージにどのような影響が出るかは検証がなされていない。全体的な傾向として、ホームチームに有利な判定がなされていない以上、レバレッジの高い場面だけホームチーム有利になっている可能性はそれほど高くないと思われるが、この点について改めて検証を行った。

検証にはこれまでと同じように、投球をストライクゾーンの中心からどれだけ離れていたかで5つの投球ゾーンに分けた図1を使用する。


table

まずは2016年から2018年までの見逃された全投球を対象に、図1の区分でホーム・ビジターのストライク判定率を見てみる(表1)。


table

いずれのゾーンでもその差は1%に満たない。また、ゾーンごとに100球当たりのストライク判定数の差も計算してみた。正の値となっている場合、ホームチームにストライク判定が多いことを意味する。各ゾーンでの差はいずれも100球当たりで1球の差にも満たない。1試合平均で見逃される投球はおよそ80球から85球程度(各ゾーンではなく合計)であることから考えると、その差は無視できる程度に小さいことがわかるだろう。


得点圏、3点差以内、7回以降


ではこれらがレバレッジの高い場面ではどのように変わっていくか。まずは得点圏に走者がいる場面でのストライク判定率の差を見てみる。


table

やはり得点圏でもホーム・ビジターでそれほどの差は生まれていない。境界付近のストライクのゾーンではホームチームに不利な傾向が強まっているように思われるが、中心に近いストライクのゾーンではこれとは反対にホームチームに有利な傾向が強まっているように見える。

一貫してホームチームに有利または不利な判定がなされる傾向があるとすれば、こうした結果にはならないはずだ。表1と比べて差が大きくなっているのは、サンプルサイズが小さくなったことにより、数字がぶれたに過ぎないのではないだろうか。なお、仮にそうでないとしても、その差は100球当たりでも1球に満たず、1試合の中で得点圏の場面が少ないことからしても、その影響は無視できる程度であるといえる。

続いて、得点差が3点以内の僅差である場面について見てみる(表3)。


table

3点差以内でも表1の全投球と比べて大きな変化は見られない。僅差の状況でもホームチームに有利な判定がなされる傾向は確認できない。得点圏の場合と比べても変化に乏しいのは、サンプルサイズの違いと思われる。得点圏での見逃された投球はすべての見逃された投球の25%程度に過ぎないのに対し、3点差以内の場面でのそれらは80%を超えている。

次に7回以降のストライク判定率の差を見てみる。


table

ホームチームのストライク判定率が高いゾーンと低いゾーンの双方がある。ただし、その差はいずれも1%に満たない。試合終盤になったとしても、ホームチームに有利な判定がされる傾向は確認できない。


超ハイレバレッジ状況下でのストライク判定率


では、これまでに見てきた条件が重複するかなりのハイレバレッジの状況下では傾向に変化は見られるだろうか。7回以降3点差以内の得点圏(表5)、7回以降同点の得点圏(表6)でのストライク判定率の差を見てみる。


table
table

いずれも中心に近いストライクのゾーンでホームチームのストライク判定率が3%ほど高くなっている。これはこれまで見てきた中では比較的大きな差とはいえる。これらの結果から極限定的な場面ではあるが、ホームチームに有利な判定がなされる傾向があると考えて良いだろうか、私はそのようには考えない。

1つめの理由としては、すべてのゾーンでホームチームのストライク判定率がビジターチームのストライク判定率と比べて高くなっているわけではないからだ。仮に球審がホームチームに有利な判定をする傾向があるとすれば、特定のゾーンについてのみそうした傾向が現れるのは不自然である。

2つめの理由としては、仮にホームチームに有利な判定がされるのであれば、境界付近のストライク・ボールゾーンで、そのような傾向が現れると思われるからだ。これまでの検証からも、状況や打順によるストライク判定率の変化が生じやすいのは境界付近のゾーンであることがわかっている。この場面での結果のみ、そうした結果と変化が生じるということはおよそ考えがたい。

このような理由から、比較的大きな差が生まれているように見えるのは、サンプルサイズの減少によって誤差が大きくなったことに起因すると考えるのが相当と思われる。

これまでの先行研究の結果とも合わせて言えることは、NPBの球審はホームチームの歓声にさらされようとも、ホームチームに有利な判定をする傾向は確認できないということである。球審が様々な要素にさらされて、判定を変化させる傾向は存在するが、対戦チームのどちらかに肩入れするということはない。球審は正確ではないかもしれないが、中立を保っているといえるであろう。


Part1 カウントと内外角の広さの関係編
Part2 得点差・イニング編
Part3 打順編

市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート2』にも寄稿。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る