これまで筆者は無死一塁無死二塁、そして無死一二塁と各状況におけるバント企図率、成功率、そして有効性について検証を行ってきた。バント戦術について客観的にデータを示せたのではないだろうか。一方、NPBではどうやらここ数年バント戦術が減少しているようだ。今回はこの原因に迫ってみたい。

無死一塁からのバント企図数の推移

この記事で「バントを試みた」「バント企図」といった場合、特に断りのない限りは、バントの構えをして投球がバットに当たりインプレーとなるか、3バント失敗で三振となった場合のみを指し、バントの構えをしていたがバットを引いた場合、バントの構えをしていたが空振りした場合、0ストライクまたは1ストライクでバントをしてファウルとなった場合は含まれていない。

また「バントの機会」といった場合、特に断りのない限りは、打者がその打席を終了する直前の状態が無死一塁であった場合を指す。打席の途中で、走者が盗塁、暴投等で二塁に進塁したり、牽制でアウトになった場合は含めない。

最初にNPBにおいて無死一塁からのバント企図数がどのように推移しているのかを見ていく(表1)。

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打者が投手以外の無死一塁の打席数は、年度ごとに変動しているものの、バント企図数は一貫して減少傾向にある。また、バント企図率も2016年から2017年はほぼ横ばいだが、以後は減少傾向だ。MLBとの比較でNPBはいまだにバント数が多く、非合理的な戦術がはびこっているかのように言われることもあるが、状況は確実に変わりつつある。

次に、打順ごとのバント企図数を見ていく(表2)。

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投手を除くと全体のバント数のおよそ3分の1程度は2番打者に集中している。そして、その企図数が顕著に減少していることがわかる。ほかの打順と2番打者のバント数の変化を整理してみた(表3)。

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こうして見ると、2番打者でもそれ以外の打順でもバント企図数は減少しているが、2番打者は2016年から2019年までにおよそ40%もバント企図数が減少している。バント企図数の減少の大部分は2番打者がバントを試みる機会が減ったことが占めている。

2番打者のバント企図数が減少した原因

では、どうして2番打者のバント企図数が減少したのだろうか。まずは、そもそも2番打者に無死一塁からのバント企図が集中していた理由を考えてみる。このようなバント企図の集中は、2番打者はほかの打順と比べて、無死一塁という状況で打席が回ることが極めて多いことが理由として考えられる。初回は必ず1番打者から攻撃が始まるため、他の打順と比べても無死一塁で打席が回ることが多いのだ。実際の無死一塁で回った打席の数は表4のとおりだ。

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このように2番打者は無死一塁で打席が回ることが、他の打順と比べて2倍ほど多い。当然ながら、無死一塁でのバント企図数もほかの打順と比べれば多くなるはずだ。しかし、これだけでは全体のバント企図数の3分の1程度が2番打者となっている理由は説明できない。単純に機会の差だけで見れば、全体の20%程度にとどまるはずだ。そこで、バント企図率についてもほかの打順よりも高いと考えられる。実際のバント企図率は表5のとおりだ。

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2番打者は8番、9番の次に高いバント企図率となっている。4年間の平均ではその割合は32.1%と、およそ3回に1回はバントをしていることになる。

しかし、推移を見てみると変化に気がつく。2016年には38.5%だった2番打者のバント企図率は2019年には22.0%にまで低下してきている。2番打者とそれ以外の打順とでバント企図率の推移を比較すると表6のようになる。

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こうしてみるとその他の打順では減少傾向とはいえ、バント企図率の変化はわずかなものにとどまっているが、2番打者については減少率が大きいということがわかる。では、どうして2番打者のバント企図率は2016年には38.5%と極めて高い割合だったのか。それは、監督がどのような打者を2番打者に起用していたかとも深く関係してくると思われる。

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この表7は、打順別の平均wOBA(weighted On Base Average)の推移をまとめたものだ。2016年や2017年の2番打者の平均wOBAは8番打者や9番打者には勝るものの、7番打者と同程度の水準にとどまっており、さながら上位打線に深くあいた谷のような状況になっている。この数値は、少しずつ上昇していき2019年には全体の平均wOBAを上回るようになった。

バントは一般的には打席に入っている打者の打力が低く、次の打者の打力が高い状況の方が有効になりやすい作戦だ(もっとも、そうしたことを加味しても、ほとんどのケースではバントは有効たり得ないことはこれまでの記事で検証したとおりだ。)。2016年や2017年(あるいはそれ以前)の2番打者のバント企図率が高いのは、2番打者に打力の低い打者をあえて入れることで、バントが有効になりやすい状況を自ら作り出す、いわば自作自演的な起用が影響していたと考えられる。

実際に2番打者の打力をwOBAに基づいて3グループに分けて、それぞれのグループで無死一塁の打席数を比較すると表8のようになった。

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このように2016年や2017年はwOBAが.310以下の打力に劣る打者③が2番に起用されることが多く、全体の打席の半数以上を占めていた。それが2018年には減少し、2019年にはwOBAが.350を上回る打力の高い打者①が占める割合が最も大きくなった。ただし、それまでと同様に打力の低い打者を2番に起用しているケースも相当数あるようであり、2番打者の打力については二極化が進んでいるようだ。

さらに、表9に示すとおり、2番打者の打力は2番打者のバント企図率とも関連している。

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wOBAが高い打者ほどバント企図率が低くなることはこれまでの検証で明らかになったことだが、その傾向は2番打者であっても同様だ。2016年や2017年ですらwOBAが高い打者を2番打者して起用した場合には、それ以外の場合と比べてバント企図率は低い。2番打者にどのような打者を起用するかといった傾向の変化が、2番打者のバント企図数の変化に影響を与えていたことがわかる。

また、同じ程度の打力であっても、年々バント企図率は低下してきており、このような相乗効果で2番打者のバント企図数が減ってきていたようだ。こうしたことからも2番打者に対する意識の変化がうかがえる。

最後に初回無死一塁に限定して、2番打者のバント企図率についても推移を見てみる(表10)。

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一般に初回におけるバントはほとんどすべての場合で有効でないと考えられるが、全イニングを対象としたバント企図率(表9)と比べると低い値となっている。もっとも、2016年や2017年は1番打者が一塁に出塁した場合、3回に1回は送りバントを選択していたようであり、それでも高い数値ではあった。それが2019年には半分以下の15.3%まで低下してきている。とりわけ、wOBAが.350を超える打者①を2番に起用した場合には6.2%と、よりヒッティングを選択する傾向が強まっている。

このように、NPBでの2番打者のバント企図数の減少は、強打の打者を起用することが増えたこと(打力の低い打者を2番に起用することが減ったこと)、2番打者の打力にかかわらず、バント企図率が下がったことの2点が原因と考えられる。

変わりゆく2番打者像、残っている2番打者像

以上のように、NPBにおけるバント企図数の減少は、2番打者の起用法やバント企図率の変化によるところが大きい。以前は「2番はつなぎの打順」などと称して、打力に劣る打者を2番に起用することが常態化し、そのような2番打者に対してバントを指示することが多かった。現在は、上位打線を構成する打者として十分な打力を備えた打者を2番に起用することが多くなってきており、変化の途上にあるといえる。このようにして、従来のNPBで支配的だった2番打者像は変化しつつあるといえるだろう。

しかし、一方では従来の2番打者像はいまだに残っていると言うこともできる。確かに2番打者のバント企図率は低下してきているが、依然として高い数値を保っている。これまでが異様なほどに高かったに過ぎない。それは同じ程度の打力だったとしても、2番打者として起用されると、それ以外の打順と比較してバント企図率が高くなっていることからもわかる。落ち着いて考えてみれば、wOBAが.350を超えているのに、バント企図率が10%を超えてくる(表9)のは高い数値だ(2019年のwOBAが.350を超えた打者のバント企図率は6.0%。)。そうすると、従来の2番打者像はいまだに残っているともいえる。

とはいえ、NPBにも変化の兆しは確実にある。今後も実証的な検証に基づかない従来の2番打者像に基づいた起用が着実に減っていくことを望むばかりだ。

市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。
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