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賭博場開帳図利ほう助=胴元側の人間?


4月29日に笠原将生氏(以下、「笠原氏」という。)が賭博場開帳図利ほう助罪で逮捕されてから3週間が経とうとし、検察官による処分決定の日が近づきつつある。検察官による処分がどのようなものとなるかは明らかでないが、仮に起訴となれば笠原氏がどのような経緯で野球賭博に手を染め、どのようにして野球賭博の参加者を増やしていったか、その一部でも法廷で明らかになるだろう。


賭博場開帳図利罪の法定刑は単純賭博罪の法定刑が50万円以下の罰金又は科料、常習賭博罪の法定刑が1月以上3年以下の懲役であるのに対し、3月以上5年以下の懲役と重い罪となっている。ほう助罪は正犯の刑の半分(この場合は1月15日以上2年6月以下)となるものの、それでも単純賭博罪より重い。このように、単に賭博を行う行為よりも賭博を行う場所を設ける行為は重く処罰されている。笠原氏が単純賭博や常習賭博で逮捕されたのではなく、賭博場開帳図利のほう助で逮捕されたのは、野球賭博開催の手助けをした、つまり胴元側の人間として動いたと疑われたためだろう。このため、同じく野球賭博で失格処分となった他の3選手とは異なり、逮捕にまで至ったのではないだろうか。


このように、刑法においては、笠原氏と他の3選手とでは罪が異なってくるが、野球協約上は4名とも同じく第180条第1項(2)により処分されている。法的には違法性の程度は異なるが、野球協約上は高木京介氏を除く3選手とも無期限失格の処分を下されている。すでに述べたように、報道されている内容が真実だとすれば、笠原氏と福田聡氏(以下、「福田氏」という。)、松本竜也氏(以下、「松本氏」という。)の罪の重さは異なる。


それにもかかわらず、福田氏と松本氏にも笠原氏と同様に重い処分が下されているのは、野球協約が守ろうとしているものと刑法の守ろうとしているものが異なるためだろう。刑法は違法な行為を抑止することで人々の権利や社会の秩序を守ることを目的としているように、野球協約にもそのような目的があるのだろう。


そこで、野球協約が野球賭博、その他の不正行為を取り締まることでどのようなものを守ろうとしているか、野球協約の条文から考えてみた。なお、NPBは野球協約の解釈について統一的な見解を示したことはなく、最終的な野球協約の解釈についての権限はコミッショナーに与えられている(野球協約第10条)ため、以下に述べる内容はいずれも筆者の私見である。




177条で禁止される行為−−−敗退行為・敗退行為の通謀・所属球団の試合での賭け


まずは、最も重い永久失格処分の対象となっている第177条から見ていく。敗退行為及びこれに関連する行為を禁止している。これらの行為が禁止される理由は何だろうか。試合においてわざと負けに繋がる行為に及ぶことは、公営競技等を除いては法律により処罰されることはない。法的に見れば、八百長よりも野球賭博の方が重いが、野球協約上はこの関係が逆転している。


敗退行為が法的には処罰されなくとも、野球協約により最も厳しい処分の対象となっているのは、わざと負けに繋がる行為に及ぶことが、対戦相手がお互いに勝利に向け最善の努力を尽くすという競技の前提を破壊する行為であるためと考えられる。野球の試合を見ているファンは、どちらのチームも勝利に向け全力を尽くしていることを当然の前提としているはずである。もし仮に試合の勝敗がチーム同士の力と力のぶつかり合いではなく、事前の約束によって決められているとしたら、あるいは意図的に敗退に繋がる行為を行う選手がいたとしたら、試合を見ている観客はどう思うだろうか。目の前で見ていた「筋書きのないドラマ」に脚本家がいると知れば、見る価値を失ってしまうだろう。また、こうした敗退行為が蔓延すれば、プレーに対する真剣さを失ってしまう選手も増え、プレーの水準が低下することにも繋がりかねない。そうなれば、試合の価値はどんどん低下していき、観客は離れていってしまうだろう。


敗退行為は単にヤラセや不正であるだけでなく、NPBに対して深刻な害をもたらすものであり、それ故に重く処分されるのも当然と言える。このため、野球協約第177条第1項(1)では敗退行為が、(2)では敗退行為を通謀することが禁止されている。


それだけでなく、実際に敗退行為が行われているいないにかかわらず、相手チームの選手等に対して報酬を渡す行為やその申込をする行為、相手チームに対して選手等が報酬の要求をする行為、審判に対して報酬を渡す行為やその申入れをする行為も(3)(4)(5)で禁止されている。このように敗退行為そのものだけでなくそれに関連する行為まで重く処分されるのは、敗退行為が重大な違反であるため、敗退行為の企てが成功せずとも、また準備段階であったとしても処分する必要があるという考えがその理由の一つと考えられる。また、こうした敗退行為に関連する行為があれば、ファンはNPBの試合で敗退が行われているとの疑いを抱くことになり、試合の価値が下がってしまうことも理由ではないかと考えられる。公務員が職務に関連して金品を受け取れば、実際には不正が行われなかったとしても、公務員の職務に対する信頼が失われてしまうため、不正な行為を行わなかったとしても収賄罪となることと同じように。


同様に第177条第1項(6)が、所属球団が直接関与する試合について賭けをすることを禁止しているのも、このようなファンの信頼が損なわれるという理由で説明ができると思われる。仮に選手が敗退行為をしていないとしても、所属球団の試合について賭けをしているとしたら、掛け金惜しさに選手が全力で試合に臨まないのではないかとの疑念をファンに生んでしまうだろう。所属球団の試合について賭けをすることが、他のギャンブルと決定的に違うのはこの点だ。永久失格処分という重い処分が下されるのはこのような理由からだろう。


ただし、ここで疑問も出てくる。一つは仮に上記のような理由で所属球団が直接関与する試合について賭けをすることが禁止されるとすれば、所属球団が勝つ方に賭ける行為は、選手が真剣に試合に臨むことがあったとしても、敗退行為に及ぶメリットがないことから、禁止される理由がないことになってしまう。


もう一つは「賭け」という形式を取らない場合でも、ファンに対して同様の疑念を生んでしまう行為が禁止されていないことである。所属球団が勝利することで金銭を支払わなければならない選手が生じてしまうような場合、例えば、所属球団が勝利した場合、選手が一人いくらかの金銭を出し、その金銭をプールしておいて、シーズン終了後に裏方に分配するような行為は、賭けには当たらないが、所属球団が勝利することにより金銭的な負担が発生するため、ファンにしてみれば、賭けと同様の疑念を生じかねない。もちろん、支払う金額が選手の年俸と比べて極めて低額であれば、そのような疑念は生じないとも考えられるが、それならば賭けの場合でも同様のことが言えるはずである。


このように、野球協約第177条第1項(6)やこの後に述べる野球協約第180条第1項により禁止されている行為には、疑問が生じてくるものも含まれている。そのことが野球賭博に関連して各球団の調査で判明した行為に対する処分がなされなかった理由が判然としないことの理由とも思われる。




野球協約第180条第1項で禁止される行為−−−野球賭博


野球協約第180条第1項では、主に野球賭博に関連する行為が禁止されている。このような行為が禁止されている理由について、敗退行為に繋がるという説明がされることがあるが、少し大雑把な説明だと思われる。というのも、野球協約第177条第1項(6)の場合とは異なり、所属球団が直接関与しないまたは出場しない試合について賭けを行ったとしても、それだけでは自身の所属する球団の試合で敗退行為をするメリットは存在しないため、ダイレクトに敗退行為に繋がるとは言いづらいためである。


おそらくは次のような説明がよりわかりやすいと思われる。野球協約第180条第1項(1)では野球賭博常習者との交際が禁じられている。このように野球賭博常習者との交際が禁じられているのは、それらの賭博常習者がしばしば賭けの胴元として利益を得るために敗退行為の勧誘を行うため、そうした交際から選手が敗退行為に手を染めてしまう危険性を避けるためであると考えられる。黒い霧事件の例や他のスポーツでの賭博事件を見るまでもなく、こうした賭博常習者が選手の買収を行うことが常態化していることは明らかであろう。


野球協約第180条第1項(2)についても、野球賭博を行うためには、選手同士で賭けを行う場合など特殊な事例を除けば、必ず胴元が必要になる。この胴元は賭博常習者が務めることがほとんどであるから、所属球団が直接関与しないまたは出場しない試合についての賭けであったとしても、賭博常習者との接点を持つ恐れが極めて強い。このような接点があれば、野球協約第180条第1項(1)について述べたと同様の危険性が生まれることになる。


このような理由から、野球協約第180条第1項(1)(2)で禁止される行為に及ぶことは直接的ではないにしろ敗退行為に繋がる恐れが強いと言える。このため、敗退行為そのものではないにしても、処分されることになる。また、敗退行為そのものと比べれば、やや処分が軽いということも説明しやすい。




野球協約が野球賭博を禁じる理由


以上のように考えると、野球協約は野球賭博及びこれに関連する行為を禁じることによって、


① NPBの試合において、対戦チーム同士が勝利のために全力を尽くすこと

② ①に対するファンの信頼


を守ろうとしていると考えられる。これらのものはNPBの存立に不可欠のものであるから、守る価値が十分にあると認められるし、それに対する処分が極めて重いことにも納得がいく。


ただ、処分の対象を敗退行為やそれと密接に関連する行為と野球賭博に関連する行為に限定していることについては疑問がある。賭博という方法によらなかったとしても、賭博と同じ程度に敗退行為に繋がりうる行為は存在する。その意味で予測を含むか否かといった要素で処分の対象を限定する方法は妥当な方法ではないように思う(むしろ、金額が選手の年俸と比べて低額でその程度の金額では敗退行為に及ぶことは通常考えられないという説明の方がまだ説得的だと思う)。


NPBとしても、野球協約が何のために野球賭博を禁じているのか、本質的な議論を重ね、規定を整備すべきだと考える。



参考 野球協約(プロ野球選手会ウェブサイト)



文・市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士

学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも考察を開始。5月25日発売『セイバーメトリクス・リポート5』にも寄稿。

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