各球団、現在は来季に向けて補強を具体的に検討している最中だろう。数ある補強チャンネルの中でも今年はFA市場に注目が集まる。権利行使可能な選手の陣容が例年以上に豪華であるためだ。先日は、それら選手たちにどの程度の価値があるのかを客観的に測る
“FA選手ランキング”を作成した。
ただこれはあくまでフラットな視点での評価。当然ながら球団によって状況は異なる。本企画では各球団の状況を踏まえた上で、どの選手の獲得に動くべきか検討を行っていく。そしてその検討も2パターンを用意した。1つは無制限に資金があることを前提とした「理想的なシナリオ」、もう1つは各球団の予算を踏まえた「現実的なシナリオ」である。今回は西武編だ。
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オリックス、ソフトバンク、西武、楽天、ロッテ、日本ハム
野手のニーズを確認
まず総合指標WAR(Wins Above Replacement)をポジション別に見ることで、野手の現状戦力を確認しよう。WARは2.0がリーグ平均という目安で見てほしい。0.0がリプレイスメント・レベル(代替可能選手)だ。
今季野手で弱点となっていたのは、三塁、そして外野3ポジションだ。指名打者についても、値が保たれているのは一塁・山川穂高の指名打者出場時の活躍によるものだ。他のポジション同様、弱点と言えるかもしれない。
さらに今オフは森友哉、外崎修汰の2名がFA宣言可能な状況となっていた。このうち既に外崎は残留を表明しているが、森はFA宣言を行った。これにより前述したポジションに加え、捕手も弱点となっている。非常に穴が多い構成と言える。
まずは3ポジションともに弱点となっている外野から見ていこう。外野は秋山翔吾(現広島)退団以降、致命的な弱点となり続けている。2021年は愛斗が台頭、2022年はブライアン・オグレディが加わったが、なお3ポジションとも十分なレベルにはない。ファームには有望な若手外野手がいるものの、弱点を全て埋めるほどのブレイクを来季期待するのは難しいだろう。選手を獲得できれば、目玉レベルでなくても戦力の向上が見込めそうだ。
ただその3ポジションと同レベルで大きな問題となりそうなのが捕手だ。リーグ最高の選手の1人が抜けると戦力ダウンが起こるのは当然だが、より問題を大きくするのがチームに代替選手がいないことだ。今季森以外で最も多く捕手出場した柘植世那は42試合118打席でWAR-0.5、次に多かった古賀悠斗は26試合71打席でWAR-0.2と、ともにリプレイスメント・レベルにも到達していない。若手有望選手が多い外野以上に問題が大きいと考えるべきかもしれない。
ほかの三塁や指名打者も弱点だが、捕手、外野に比べると優先度は落ちるのではないだろうか。限られた中からリソースを割くなら他のポジションを優先したい。
野手まとめ:最優先で捕手、外野。三塁、指名打者の優先度は下げるべき
今季リーグ最高の防御率2.75を記録した西武投手陣。しかしセイバーメトリクスの観点から見た場合、かなり好運に恵まれた部分も多かった。客観的に見ると投手陣の力はまだリーグ平均レベルという評価が妥当である。ただかつてを考えると、平均レベルというだけでも大きく改善していると考えられる。
2022年パ・リーグ投手WAR
球団 |
先発 |
救援 |
投手全体 |
オリックス |
22.0 |
5.8 |
27.8 |
ソフトバンク |
14.5 |
6.3 |
20.8 |
西武 |
14.5 |
5.6 |
20.2 |
日本ハム |
16.1 |
3.4 |
19.9 |
ロッテ |
16.2 |
3.7 |
19.9 |
楽天 |
12.0 |
6.0 |
18.2 |
補強の必要があるかどうか、具体的に来季の予測をベースにした以下の表で、先発の陣容を確認しよう。こうして見ると、西武は突出した先発こそいないものの、ローテーション下位まで平均に近いレベルの投手を揃えることができている。ディートリック・エンスの残留に成功すれば、先発に大きな弱点は生まれなさそうだ。先発補強の優先度はそれほど高くない。
救援についても優秀な投手はおり、1人の加入が劇的にチームを変える状況ではない。野手編で挙げたポジションに比べると、投手はいずれも優先度を落として考えるべきだ。
投手まとめ:野手に比べ優先度は低めて考えるべき
ここまでチームのニーズを確認してきたが、それに当てはまる選手が市場にいるかどうかはまた別の話だ。今オフ市場に出る可能性がある選手で、西武のニーズに応えられる選手はいるだろうか。まずは予算を気にせず考えてみよう。
言うまでもなく優先したいのは森の残留交渉だ。前述したとおりチームの捕手戦力は極めて厳しい。森が退団した場合出場することになる控えとのレベル差を考えると、12球団で最も森を必要としているのは、現所属の西武であるようにも思える。もし森の残留に失敗した場合も捕手獲得には動きたいところだが、先日は候補の1人である田村龍弘(ロッテ)に残留報道が出た。残る有力候補は伏見寅威(オリックス)か。選択肢は少ない。
捕手と同時にもう一つの大きな弱点である外野手も狙いたい。近藤健介(日本ハム)が獲得できれば、外野の弱点はかなり小さくなりそうだ。また近藤の獲得がならなかった場合、西川遥輝(楽天)の獲得も視野に入れたいところだ。森や近藤ほどのインパクトには感じないかもしれないが、現状の外野陣から考えると大きなレベルアップとなるはずだ。
2022年オフにおける西武のFA補強(理想)
- 1.森友哉
- 2.近藤健介
- 3.(森の残留に失敗した場合)伏見寅威
- 4.(近藤が獲得できなかった場合)西川遥輝
現実的なシナリオ
ただこれまで述べたのはあくまでも理想的なシナリオ。予算の都合から全選手の獲得は難しいだろう。今オフの西武にはどれほど予算の余裕があるだろうか。DELTA独自の年俸予測システムから、西武の2023年総年俸がどれほどになるかを推定してみよう。
これで見ると西武の総年俸予想は30.9億円。ただこれは森の年俸を含んだ値であるため、ここから森の推定年俸2億1000万円を引くことで予算を推定できる。空き予算はちょうどその2億1000万円となる。森や近藤といった目玉選手を獲得するには、戦力整理や他選手の減俸、あるいは予算アップが必須となる。かなり厳しい戦いになりそうだ。
予算を作ることができなかった場合、捕手、外野は伏見、西川といった第二候補を当たることになるだろう。ただ西川についてはそもそも宣言を行うかどうかも見えていない。少ない選択肢、少ない予算の中からシビアな選択を迫られるオフになりそうだ。
2022年オフにおける西武の現実的なFA補強
- 1.西川遥輝 or 伏見寅威
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- ヤクルト、DeNA、阪神、読売、広島、中日
オリックス、ソフトバンク、西武、楽天、ロッテ、日本ハム