各球団、現在は来季に向けて補強を具体的に検討している最中だろう。数ある補強チャンネルの中でも今年はFA市場に注目が集まる。権利行使可能な選手の陣容が例年以上に豪華であるためだ。先日は、それら選手たちにどの程度の価値があるのかを客観的に測る“FA選手ランキング”を作成した。

ただこれはあくまでフラットな視点での評価。当然ながら球団によって状況は異なる。本企画では各球団の状況を踏まえた上で、どの選手の獲得に動くべきか検討を行っていく。そしてその検討も2パターンを用意した。1つは無制限に資金があることを前提とした「理想的なシナリオ」、もう1つは各球団の予算を踏まえた「現実的なシナリオ」である。今回は楽天編だ。
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ヤクルトDeNA阪神読売広島中日
オリックスソフトバンク西武楽天ロッテ日本ハム


野手のニーズを確認

まず総合指標WAR(Wins Above Replacement)をポジション別に見ることで、野手の現状戦力を確認しよう。WARは2.0がリーグ平均という目安で見てほしい。0.0がリプレイスメント・レベル(代替可能選手)だ。

ポジション別WARの観点で見ると、今季の楽天は一塁が弱点になっていた。一塁は今季、新外国人選手のホセ・マルモレホスクリス・ギッテンスの起用が想定されていたが、不振により鈴木大地を起用。しかしその鈴木も不振に苦しみ、弱点が拡大してしまった。

ただこの一塁に補強が必要かというとそうとは限らない。球団は既に二塁手・浅村栄斗残留に成功。浅村を一塁に移し、二塁手に小深田大翔、三塁に茂木栄五郎、遊撃に山﨑剛といった布陣をとることで一塁をカバーすることも可能だ。ただ指名打者のWARが1.2と一定の値を維持できているのも、浅村が二塁と指名打者で兼用されたおかげ。指名打者も弱点と認識すべきだ。こうした状況を考えると、一塁に限らず、とにかく打てる選手の補強が求められる。

またもう一点、補強ポイントとして捕手を挙げたい。楽天は長年捕手の攻撃力不足に苦しんでいるチームだ。今季は主に太田光炭谷銀仁朗が起用されたが、チームの捕手OPSは.596とやはり苦しんだ。捕手に上積みの余地は大きい。

外野手ではレギュラー西川遥輝にFA移籍の可能性がある。ただ外野は島内宏明辰己涼介に加え、若手の武藤敦貴が一定の成績を残す予測が出ている。優先度を特別引き上げる必要はないだろう。それよりも打てる打者が優先だ。

野手まとめ:とにかく打てる打者、捕手が補強ポイント

投手のニーズを確認

今季楽天の投手WARは18.2。強力な先発スタッフを多く揃えたが、不振に苦しむ投手もおり、成績は伸び悩んでしまった。補強が必要な状況に思える。

2022年パ・リーグ投手WAR
球団 先発 救援 投手全体
オリックス 22.0 5.8 27.8
ソフトバンク 14.5 6.3 20.8
西武 14.5 5.6 20.2
日本ハム 16.1 3.4 19.9
ロッテ 16.2 3.7 19.9
楽天 12.0 6.0 18.2

しかし投手、特に先発投手についての補強の余地は、WARのみで状況を判断すべきではない。補強効果はどれだけチームに上積みを作れるかで測られるべきだ。例えば先発1番手から5番手までエース級を揃えた投手力に秀でたチームでも、6番手が貧弱であれば先発の補強効果は大きい。逆にそれほど優れていないチームでも6番手にも一定の質があれば、補強効果は大きくない。

それを把握するため、具体的に来季の予測をベースにした以下の表で、先発の陣容を確認しよう。こうして見ると、まず楽天は今オフの動向が不明な投手が非常に多い。辛島航残留は決定したが、田中将大岸孝之涌井秀章の去就は決まっていない。また全員が残ったとしても、これまでのようなパフォーマンスを期待するのは難しいだろう。先発補強の優先度は極めて高いと見るべきだ。

救援については当然、優先度は先発の後回しになる。松井裕樹を先発起用するなどがあれば優先度を高める必要もあるかもしれないが、とにかく投手陣は先発補強が最優先だ。

投手まとめ:先発は危機的状況。補強優先度は極めて高い

理想的なシナリオ

ここまでチームのニーズを確認してきたが、それに当てはまる選手が市場にいるかどうかはまた別の話だ。今オフ市場に出る可能性がある中で、楽天のニーズに応えられる選手はいるだろうか。ここではまず今オフにFA移籍可能な田中将、岸、涌井、西川らを対象から除いたうえで、まずは予算を気にせず考えてみよう。

最優先で取り組みたいのはやはり先発補強だ。千賀滉大獲得の可能性があるのなら是非とも取り組みたい。しかし千賀はMLB挑戦を熱望しており、獲得にそれほどの現実味はないかもしれない。ただここは理想を語る場であるため、リストに加えておきたい。また先発であれば、岩貞祐太(阪神)も有力な候補になるだろう。Cランクであれば、より積極的に動きたい。

先発補強と同じくらい優先したいのが森友哉(西武)の獲得だ。球団はドラフト上位で度々捕手を獲得するなど、問題に取り組んできたが、いまだ解決には至っていない。市場にこれほどの捕手が出るチャンスはなかなかない。これを逃す手はないだろう。

また外野はそれほど補強ポイントとして重要ではない。ただとにかく打てる選手を加えるという点で近藤健介(日本ハム)もニーズに合う補強になるのではないだろうか。指名打者のほか、一塁で起用するという選択肢もある。

    2022年オフにおける楽天理想のFA補強優先度(自チーム選手除く)
  • 1.千賀滉大
  • 2.森友哉
  • 3.(上記2名のうち1名の獲得に失敗するなら)近藤健介
  • 4.岩貞祐太

このリストにFA権を取得している楽天所属選手を加えた場合、以下のような優先度となる。田中将や岸や涌井は優れた投手だが、年齢を重ねているため今後これまでどおりの活躍を期待するのは難しそうだ。やはりより若いFA選手に比べると優先度は低くなるだろう。

    2022年オフにおける楽天理想のFA補強優先度
  • 1.千賀滉大
  • 2.森友哉
  • 3.(上記2名のうち1名の獲得に失敗するなら)近藤健介
  • 4.田中将大
  • 5.西川遥輝
  • 6.岩貞祐太
  • 7.岸孝之
  • 8.涌井秀章

現実的なシナリオ

ただこれまで述べたのはあくまでも理想的なシナリオ。予算の都合から全選手の獲得は難しいだろう。今オフの楽天にはどれほど予算の余裕があるだろうか。DELTA独自の年俸予測システムから、楽天の2023年総年俸がどれほどになるかを推定してみよう。

これで見ると楽天の総年俸予想は42.9億円。既に過去数年と同規模の大きな予算となっている。予算の引き上げがなければ補強費の確保は難しいかもしれない。ただこれは田中将や岸、また外国人選手の高額年俸も含んだ予測値だ。彼らと再契約しないのであれば、補強に動くことができるだろう。

そういった状況を想定しないとなると使える予算はわずかになる。現実的にはFA選手を残留させたうえで、低コストの岩貞を獲得する動きが見せられるか、というくらいだろうか。ただ現所属FA選手の年俸は併せて10億円を超える。この予算を使えば、千賀や森の獲得にも動く余裕ができるはずだ。現所属選手の残留よりも、新たなFA選手の獲得を優先する方針があってもよいのではないだろうか。

今オフ、石井一久GM兼監督からはFA選手の獲得に消極的な姿勢であることが報じられている。積極的に動いてきたここ数年を考えると意外にも思える。ただ市場にどういった選手が出ているかを考慮すると、本当に動くべきタイミングは今オフではないだろうか。MLBを熱望する千賀は難しいとしても、森を獲得できればリーグ内で中長期的に有利な立場に立てるだろう。

    2022年オフにおける楽天の現実的なFA補強
  • 1.千賀滉大
  • 2.森友哉
  • 3.岩貞祐太

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ヤクルトDeNA阪神読売広島中日
オリックスソフトバンク西武楽天ロッテ日本ハム
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