1.FA権有資格者一覧
23日に発表されたFA権有資格者は111名。このうち既に退団を表明している選手、あるいは複数年契約により今オフの宣言が不可能な選手を除いたリストが以下の66名だ。契約状況や年俸、FAランクについては公式情報ではないため、誤っている可能性がある点に注意してほしい。今回はこの選手たちを格付けしていく。
格付けは成績予測システム“D-CAST”により行う。MLBで活用される機械的な成績予測をNPBに対応させたDELTA独自のシステムだ。FA市場において、球団が買うのは過去の実績ではない。これからの活躍だ。過去の実績を見ているだけでは選手の価値を見誤ることになる。そういった点で選手の未来を推定する成績予測システムは、FA選手の価値を見極めるのにうってつけのツールと言える。もちろんどの選手が求められるかはチーム事情によるが、その前段階のフラットな選手評価として見てほしい。
今回は今後5シーズンで、総合指標WAR(Wins Above Replacement)をどれだけ積み上げられるか、その合計値でランキングを作成した[1]。簡単に言うと今後5シーズンでどれだけ活躍するかだ。今回は注目選手に絞って紹介していく。それでは早速見ていこう。
2.FA選手ランキング2024
2024年FAランキング1位は今宮健太となった。今季はWAR3.6を記録。守備面でもここ数年の不安を払拭するパフォーマンスを見せ、復調を印象づけた。来季はWAR2.1、今後5年で合計WAR5.8を記録すると予測されている。
現時点で移籍の噂もなく、ましてや現所属は最も資金力のあるソフトバンクだ。チームが今宮の退団を積極的に望む理由もなく、退団は現実的ではないかもしれない。ただその中でもあえて補強効果が大きい球団を挙げると、オリックス、DeNA、阪神あたりになるだろうか。これら球団は遊撃手のWARが今季0.0前後と振るっていなかった。中長期的な需要を満たせるわけではないが、短期的な戦力アップを望むなら獲得は効果的になるだろう。
2位は坂本勇人となった。今季は打撃面の不調が響き、WARは0.9にまで落ち込んだ。これを受けて昨季から予測WARもかなり落ち込んでいる。来季は1.9まで回復させるが、その後は加齢の影響もあって1.4→1.0→0.7→0.5とWARを落としていく予測だ。それでも今後5年間の合計予測WARは5.5で2位にランクインしている。数年であればチームの大きな弱点とならず稼働できる見込みだ。
坂本についても移籍は現実的ではないかもしれない。それでもあえて坂本がフィットする球団を考えてみよう。戦力的に最もフィットするのはオリックスではないだろうか。まずオリックスは現在の坂本のポジションである三塁に弱点を抱えている。今季の三塁手WARは-0.2でNPB10位の数字。宗佑磨が振るっていないのが原因である。
またオリックスは遊撃についてもWAR0.5と弱点となっている。坂本は読売では三塁にコンバートされているものの、遊撃手として起用する手も残っているはずだ。三塁・遊撃両方をカバーできる人材として、もし市場に出るならば有効な補強になりうる。
3位は菅野智之となった。ここ数年は思うような成績が残せないシーズンが続いていたが、今季は復調。WAR2.9を残す活躍を見せた。かつては6近いWARを続けて記録していただけにキャリアのピークには及ばないが、リーグ上位の投手であることには違いない。今後5シーズン合計でWAR5.5を稼ぐと予測されている。
ただこの菅野については今宮、坂本以上に国内移籍が現実的ではないかもしれない。菅野はすでに今オフのMLB挑戦を表明している。国内の市場に出るのはMLB球団との契約がうまくまとまらなかった時くらいだろうか。
菅野のように優れた先発投手となると、どの球団に加わっても上積みをもたらすことができそうだ。今季先発投手のWARが低かった球団を見ると、中日やヤクルト、楽天が下位に沈んでいる。この中でも中日、ヤクルトはフィットする球団と言えるかもしれない。中日は若手に有望株が揃い、ヤクルトは来季が村上宗隆のラストシーズンと想定されている。ともに今後中長期というよりは近い将来に優勝を狙いに行きたい球団だ。長期的に稼働できるわけではないが確実に上積みをもたらせる菅野がフィットすると考えられる。
4位にきてようやく国内移籍が現実的な選手の登場となったかもしれない。4位は読売の大城卓三だ。来季の予測WARは2.1、今後5年で5.3WARを稼ぐとD-CASTは予想している。だがこの大城、ランキングは4位にとどまったが、実質的な今市場のNo.1選手と見てもいいかもしれない。
2024年の大城は思うようなシーズンを過ごせたわけではない。シーズン序盤の不調からレギュラーから外れることが増え、その間にチームの捕手は岸田行倫と小林誠司で回すかたちで定着した。大城は打撃復調以降も一塁での出場が多くなっている。序盤の不調と捕手から慣れない一塁へのコンバート、出場機会の減少も重なりWARの伸びは停滞。結果的に今季のWARは0.1にとどまっている。リプレイスメント・レベル、つまり一軍半レベルの貢献だ。
ただ本来大城はこのレベルの選手ではない。2023年にはWAR4.8を記録。これはこの年のNPB全体、投手・野手あわせて9位の数字であった。例年通りのシーズンを送れれば現状のNPBでは森友哉に次ぐレベルの捕手と考えるのが自然だ。D-CASTでは今季の成績低下が起用法の変化による部分が大きいという前提がなく算出されているため、普通に捕手で起用すれば予測を上回ってくる見込みが大きい。もし読売が捕手として評価できていないのであれば、他球団にとっては球界最高レベルの捕手を獲得できるチャンスだ。
大城の獲得を狙うべきはどの球団だろうか。最も効果が大きそうなのは昨季捕手のWARが1に満たなかった西武、阪神だろうか。どちらの球団にもフィットしそうだが、阪神には中川勇斗という有望株がいる。有望株を欠く西武のほうがよりフィットするかもしれない。今季他球団に大きな差をつけられた野手力で大きな上積みをもたらせるポテンシャルのある補強と言える。
またソフトバンクが仮に甲斐拓也をこの市場で失うなら、大城はこれ以上ない代替選手となるだろう。
5位は大山悠輔が入った。今季はMVP級の活躍でWAR6.5を記録した昨季から一転、WAR0.2と不振に陥った。それでも今後5年間のWARは5.3で5位に入っている。今季例年どおりの活躍を見せられていれば、最上位にきていた可能性が高い選手だ。
大山にフィットする球団はどこだろうか。一塁手のWARランキングを見てみると、下位で大きなマイナスを作っている広島や西武はフィットする移籍先となりそうだ。もしこれら球団に加入し、2023年レベルの状態を取り戻せば、リーグバランスを変えるほどの凄まじい上積みとなる。
また現所属の阪神も積極的に残留に努めたい。というのも、大山が退団となった場合阪神の一塁はリプレイスメント・レベルの選手、あるいはリスクの高い外国人選手に頼るかたちになりそうだからだ。それを考えると広島や西武同様に阪神も大山がフィットする球団と考えることができる。
6位は甲斐拓也となった。今季はWAR2.9と安定した働きを見せた。D-CASTによる来季以降の予測WARは1.6→1.4→0.8→0.4→0.3。今後5年間でWAR4.6を記録することが予想されている。
甲斐もほかのFA捕手同様、それほど若い選手ではない。2027年以降はWARが1.0を割る見込みだ。そうなると比較的近い将来に優勝を狙う球団が勝負を賭ける補強としてチョイスするのが望ましいように思える。
そしてそれが最も当てはまるのは現所属のソフトバンクではないだろうか。ソフトバンクは今季NPB2位の捕手WAR3.5を記録したが、これは当然甲斐の貢献によるところが大きい。甲斐がいなくなり代わりの捕手が出場するとなると、このランキングでも大きく落ち込む見込みが高い。
また常勝球団であるソフトバンクは毎年優勝を狙う目標を持っているはずだ。数年後に優勝を狙うような再建チームではない。そんな球団にとって直近2年間に集中する甲斐の予測WARもフィットする根拠となる。
7位は中村悠平となった。今後5年間のWARは4.6と予測されている。すでに34歳と市場に出ている同じ捕手の大城や甲斐に比べても高齢だが、予測WARは2025年から1.6→1.0→0.8→0.7→0.5となだらかに推移していく見込みだ。
中村についてはすでにFA権を行使せず残留することが報道されている。ただ仮に市場に出た場合、どの球団がフィットしていただろうか。甲斐が退団した場合のソフトバンクは有力な候補となりそうだ。中村の予測WARは年齢のわりにはなだらかに推移するが、それでもやはり高齢とあってレギュラーとして稼働できるのはあと数年だろう。甲斐が抜けて捕手が弱点となるならば、中村を獲得して一時的な手当てを行うというのは現実的で効果的な選択であるように思える。
8位は九里亜蓮となった。今後5年間の予測WARは4.3。来季以降は最高で1.3と天井は高くないが、その後も1.0→0.8→0.6→0.6と安定した稼働は続く見込みだ。主戦投手というよりはローテーションで弱点が生まれないよう穴を埋めるイニングイーターとしての働きを期待するのが現実的だろう。
九里がフィットするのはどの球団だろうか。ローテーション6番手まで先発でのWAR1.0以上の投手を揃えられているのはオリックスと阪神だけ。他の球団はすべて九里加入の恩恵を受けることになるだろう。
中でもフィットしそうなのが中日、楽天の2球団だ。この2球団は先発2番手の時点でWARが1.0を切っている。予期せぬ若手の台頭などがあったとしても、間違いなく九里の加入は効果的にはたらくだろう。特に中日は小笠原慎之介(今季WAR0.5)のMLB挑戦が有力とされており、先発の層はさらに薄くなりそうだ。また中日は若手有望株が揃い、今後数年の間に勝負を賭けられそうだ。九里の予測WARを見ると急激にWARが落ち込むわけではないため、そのタイミングにも寄与できそうだ。現状の弱点、また今後のチームのピークを考えても中日はフィットしそうに思える。
9位は大瀬良大地となった。今後5年間の予測WARは4.3。8位の九里とは同年齢で予測WARもWARの推移も極めて似通っている。順位は大瀬良が下となったが同格の投手と見るべきだ。
似通った成績なだけにフィットしそうな球団も九里と変わらない。6番手まで一定レベルの先発で埋められている球団でなければ確実に上積みが期待できるだろう。九里同様、中日と楽天は特に補強効果が大きい移籍先となるだろう。
10位は西野勇士。今後5年間の予測WARは4.2と推測されている。この西野も九里・大瀬良と非常に近いプロフィールを持った選手だ。学年こそ異なるものの、2024年終了時点で33歳。予測の面でもほとんど相違はなく、ほぼ同じ期待値の選手が8、9、10位と続いた。
やはりフィットしそうな球団は九里、大瀬良と大きくは変わらない。中日や楽天は有力な候補となるだろう。また巷で噂される佐々木朗希のMLB挑戦が今オフに実現した場合、現所属のロッテも西野がいることの効果は非常に大きくなりそうだ。
トップ10から漏れた注目選手
11位は野間峻祥。外野手の中では最高順位だ。野間は来季WAR1.4。今後5年間で3.3のWARを稼ぐことが予測されている。
野間がフィットするのはどの球団だろうか。外野3ポジションの中に1つでも弱点がある球団は確実に上積みを見込めそうだ。そう考えるとまず間違いなくフィットするのは西武だろう。西武は昨季外野3ポジションの合計WARが-2.6と大きな弱点となっていた。補強効果は最も大きくなるだろう。ただ再建中の西武にとって、優勝を狙いたい数年後の戦力になるかどうか疑わしい選手への投資はもしかすると効率的とは言えないかもしれない。
FA市場では毎年補償が必要ないCランクの選手が注目を集める。今市場でその代表となりそうなのが石川柊太だ。高年俸選手が集まるソフトバンクに所属していることもあり、1億円超えの年俸(推定)ながらCランクと予想されている。予測WARでは今後5年間で2.5を記録する見込みだ。
石川もやはり九里、大瀬良ら同様に中日、楽天といった球団の有力候補となるだろう。もしかすると補償の必要がないという点で前述の投手以上の人気銘柄になるかもしれない。現状先発ローテーションが弱点になっている球団にとって、その弱みを削ることができる投手であることは間違いない。
今FA市場で注目の1人、佐野恵太は43位という結果に終わっている。2025-26年で稼ぐWARはわずか0.1にとどまる見込みだ。意外な低順位に驚いた人もいるのではないだろうか。
実はこの佐野、一般的な見方とセイバーメトリクスの見方で大きく評価が分かれる選手の1人だ。まず守備力が劣る選手が集まる左翼の中で後れをとる守備。また打撃でも打撃型の選手にしては長打力が不足しているのが問題だ。四球もそれほど多くはない。こういった事情もあって予測WAR以前に、そもそものWARがそれほど高くないのだ。昨季のWARは-1.3、今季も0.3に終わっている。
こうした事情もあり、FA市場の目玉の1人ではあるが獲得には慎重になるべき選手かもしれない。例えば外野や指名打者に大きな弱点を抱える西武であれば、佐野を活かしやすい環境ではありそうだ。また指名打者起用で守備負担が小さくなれば、他球団であっても上積みを見込めるようになる可能性はある。
[1]今回はWAR0を割ったタイミングで引退する想定で、合計WARを算出している