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日本時間8日未明、マーリンズからFAとなっていたイチローとシアトル・マリナーズが正式契約をかわした。この古巣復帰にはどのような経緯があったのだろうか。またイチローは今季マリナーズでどの程度の出場機会を得て、どれくらいの活躍を見せるだろうか。

外野の故障者続出で巡ってきたチャンス


2012年7月、花巻東高校に在籍していた細身の投手が高校野球史上初めて時速160キロを計測した数日後、1人のスーパースターがマリナーズからヤンキースへ衝撃的な移籍をした。5年半後の2018年の春、その高校生が二刀流で注目をあつめる選手に成長しアメリカでのキャリアの第一歩を踏み出そうとする中、スーパースターは再びティールグリーンのユニフォームに袖を通すべく、古巣と1年契約を結ぶことになった。

マリナーズのジェリー・ディポートGM本人がホストを務めるポッドキャスト「The Wheelhouse」の最新エピソード内(余談だが、このポッドキャストは球界の裏側やキャンプ地アリゾナのおすすめレストランなど興味深い情報が満載なため、英語が堪能な方は聴いてみてはいかがだろうか)で明かした内容によれば、イチローの代理人ジョン・ボッグスはオフシーズンのかなり早い段階でディポートに連絡を取り、イチローが2018年のチームの展望にフィットするかを尋ねたという。ただ、その時点では一塁のレギュラーがいないことが最大の課題で、全体のプランが不透明だったため話は立ち消えになったそうだ。

4か月後、キャンプイン時点でマリナーズは左翼にベン・ガメル (昨年550打席で99wRC+)、中堅には新加入のディー・ゴードン (653打席、92wRC+)、右翼にはミッチ・ハニガー(410打席、129wRC+)という外野の布陣を構想していた。しかし、ハニガーは手の腱鞘炎で打撃練習再開の目途が立たず、ガメルもわき腹の肉離れで4~6週間の離脱とレギュラー3人中2人を欠くことになってしまった。また控え外野手のギレルモ・ヘレディア(426打席、80wRC+)も昨年10月に受けた肩の手術から復帰途中で、完全な健康体とはいいがたい。40人ロースターに登録されている外野手は他にキャメロン・パーキンス(97打席、 32wRC+)だけで、チームは明らかに外野手の層の厚みに欠けていた。そこでディポートはボッグスに連絡を入れて、経験豊富な大ベテランであり、フランチャイズ史上最大の英雄の1人であるイチローを呼び戻すことにした。ディポート本人の言葉を借りるなら、「短期的な問題に対して中期的な解決策を用意した」そうだ。


今季の活躍を予測。故障者の復帰で出場機会を失う可能性は高い


さて、マリナーズ復帰の背景を説明したところで、イチローがどのくらい出場機会を得られるのか、また実際にどの程度の数字を残せるのかを見てみよう。

FanGraphsによるとイチローの昨季のコンタクト率(スイングした際ボールにバットを当てた割合)は83.4%で、自身のキャリアで最低の数字となっている。ただそれでも投手を除いた全打者の平均値77.7%を大きく上回っているのはさすがだ。

またStatcastによるスプリント(全力疾走)スピードの計測では、2015年と2016年はそれぞれ秒速27.6、27.4フィート(約8.4メートル)だったが、昨季は26.5フィート(約8メートル)にまで低下。これは全力疾走の機会が10回以上あった全451選手中324位と、スピードが売りの選手としては物足りない数字だ。常に鍛錬を怠らず、身体の状態をパーフェクトに保つことで知られるイチローだが、さすがに44歳ともなると衰えに打ち勝つことは難しいようだ。

Baseball Prospectusの成績予測システムPECOTAは3月7日時点で、チームの全イニング中、右翼で10%、中堅で5%、計15%の出場機会を得ると予測している(ここでの分母は外野の3ポジションそれぞれ100%=300%なので注意してほしい)。 

打撃に関してPECOTAは最もありえそうなシナリオとして、105打席で打率/出塁率/長打率が.260/.314/.344、1本塁打、7四球、16三振という成績を予測している。昨季が215打席で.255/.318/.332だったため妥当な予測だろう。

ただ、先にも述べたように現状マリナーズの外野の戦力層は非常に薄い。開幕後数週間、少なくともガメルが復帰するまではイチローがスタメンで出場し、打席数を伸ばす可能性が高い。実際にディポートも「5月か6月ごろまではイチローを週に5~6回スタメンで起用することになるだろう」と語っている。

その後はどうだろうか。もしガメル、ゴードン、ハニガー、ヘレディアが全員揃ったとしたら、イチローの役回りは第5の外野手ということになる。ディポートは外野の両翼を中堅のゴードンを除く4人でローテーションする構想を練っているようだが、先発ローテーションもマイク・リーク以外は故障や経験不足で計算できない状況にあるため、ロースターに外野手を5人登録する余裕はないはずだ。となると誰かをマイナーに落とさなければならないのだが、MLBでの登録日数が5年以上の選手を40人枠に入れたままマイナーに降格させることができないため、イチローをマイナーには落とせない。そうなると最悪の場合、6月を迎えるころにはDFAされる(40人ロースターから外される)ことも考えられる。

ただどれだけフィールド上での数字が悪化しようと、ベンチの隅に追いやられて出場機会を減らそうとも、イチローにはそれ以上の価値がある。それは大ベテランとしてチームの精神的支柱になるという役割だ。若手選手は、イチローの常に鍛錬を怠らない姿勢から学ぶことも多いはずだ。実際にディポートはゴードン、ロビンソン・カノー、フェリックス・ヘルナンデス、打撃コーチのエドガー・マルティネスといった、過去にイチローとプレーした経験のある人物に話を聞いて、彼がチームにとってメンタル面でポジティブな存在となることを確認したそうだ。特にゴードンはイチローを「マイケル・ジョーダンよりもすごい」と手放しで絶賛したようだ。そんな経緯もあり、イチローをロースターから外すことはそう簡単にはできないだろう。

果たして決断を迫られたとき、ディポートはどのような行動に出るのか。フィールド上だけではなく、ロースター構成を巡る動向も含めて、2018年のイチローに注目していきたい。


山崎 和音@Kazuto_Yamazaki



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