過去3年の加重移動平均を用い、2017年現在の“No.1守備者”を選出


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中堅手は丸佳浩(広島東洋)、桑原将志(横浜DeNA)、秋山翔吾(埼玉西武)、陽岱鋼(読売)の順となった。選考方法は過去3年のUZR(Ultimate Zone Rating)の加重移動平均を用いた。これは例えば2年前の数字を1倍、昨年の数字を2倍、今年の数字を3倍して平均するような手法である。さかのぼって評価を行う際、守備イニングの基準である500イニングに達していないシーズンのUZRは原則評価の対象としていないが、僅差の選手に順位をつける際には考慮した。

“1.02 FIELDING AWARDS ”の本来の趣旨からすれば、あくまで今季のパフォーマンスに限り評価すべきである。それを承知の上でそうしなかった理由は、守備指標は打撃指標などに比べ、特に短いスパンにおいてどうしても数字の振幅が大きくなりやすいことが挙げられる。私は1年間の好成績での守備力の認定は難しいと考えている。

もちろん3年間、5年間と長いスパンを取れば本人のパフォーマンスの質が変わってしまう危険はあるものの、多年にわたって好守備を披露してこそ名手の世評がふさわしい(3年間という期間に明白な根拠は与えられないし、加重についても正しい数字が見出せるとは限らないが)。

代表的な例で、遊撃手の安達了一(オリックス)や坂本勇人(読売)などは、当然あり得る数字のブレを凌駕した上で、毎年大きなプラスの数値を長く継続している。彼らは今季の守備貢献No.1ではなく、2017年時点、現行の“No.1守備者”といったニュアンスである。そういった選手を探り出すべくこのような評価手法をとったが、投票者各個人での独自の基準に得票が分かれなくては投票の意味がないはずだ。結果として、今回つけた順位と、2017年のUZRの数値とでは丸と桑原、秋山と陽の順位が逆転している。


ヤクルト・坂口、読売・陽の復活、 中日・大島の数値低下に注目


今季の中堅手の特徴としては復活組の活躍が挙げられる。中堅手としてはかなり高齢に分類されるであろう33歳の坂口智隆(東京ヤクルト)が好値をマークした。また、2年前に一塁にヘッドスライディングを敢行して骨折、その後長く故障、守備力低迷に苦しむこととなった30歳の陽も、名手揃いの中堅にあって復活を思わせる数値をマークした。故障を重ね貢献を減少させてきた負の連鎖を終了させることができるかは、非常に興味深く見ている。

対照的に、以前はNPBで最も優れた中堅手であった32歳の大島(中日)が大きく数字を悪化させマイナスを記録した。一昨年はNPB最高の、昨年は2位の数値を記録するなどして、近年を代表する中堅手と見ていただけに、これは私にとって相当な事件であり、またこの後の推移によっては貴重なケーススタディとなりそうだ。

大島ほぼ全試合に出場していることは変わっていないものの、今シーズンは外部の人間からはわからない程度の負傷を抱えていた可能性もある。守備が打撃よりも全身運動の要素が大きい以上当然だが、負傷により、1シーズンだけ守備指標の数値を落とした例は多い。

もしそうでないのなら、守備能力の総体的な減衰が懸念される。アスリートとしての寿命が延びた昨今、目にしやすい打撃の数値などを見ていると思いもよらないことなのかもしれないが、守備の全盛期は一般に思われているより早くやってきて早く終わる。31歳で衰えが見えたとしても、それほど不思議なことではない。名手としての世評と、実際の貢献の間にはほとんどの場合タイムラグがある。


ソフトバンク・柳田が中堅を守り続けることの意義


柳田悠岐(福岡ソフトバンク)は、今季もマイナスの数値を計上してしまった。世評とは異なり、他球団の中堅手に比較して守備的貢献は大きなものではない。

しかしである。外野で守備の名手が集中するのはやはり中堅だ。柳田が中堅を受け持つことにより、他球団の名手と競合することの少ない中村晃や上林誠知らは、それぞれ大きな守備的利得を稼ぎ出し、その数値は柳田が出したマイナスよりもはるかに大きい(私の選出では両翼の最優秀守備者は両者であった)。また、両翼いずれかに守備の苦手な強打者を配備するという選択も場合によっては可能である。ただでさえ守備面の負担が大きく、打撃にまで優れた人材を配備することの難しい中堅を、強打者の柳田が支え続けることで生まれている戦術的優位は、ホークスが勝ち続ける上で極めて大きなものがある。

ここ数年は相対的に中堅手の顔ぶれが安定していた時期ではあるが、本来は身体能力の高い若手の突き上げ圧力が常にあるポジションである。各球団の判断によっては、来季あたりから後世のファンから交代期と見なされる時代が始まってもおかしくないだろう。


8人のアナリストによる採点と選出


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道作氏を含めた8人のアナリストが、それぞれの手法で500イニング以上を守った中堅手11人を評価した結果がこちらになります。1位票ではDeNA・桑原選手が4票、広島・丸選手が2票と桑原選手がリードしましたが、2位票を4票集めた丸選手が、合計でわずかに上回る結果となりました。“1.02 FIELDING AWARDS 2017”の中堅手部門には、丸佳浩選手(広島東洋)を選出します。


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道作
1980年代後半より分析活動に取り組む日本でのセイバーメトリクス分析の草分け的存在。2005年にウェブサイト『日本プロ野球記録統計解析試案『Total Baseballのすすめ』』を立ち上げ、自身の分析結果を発表。セイバーメトリクスに関する様々な話題を提供している。
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