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MLBのFA市場に異変が起きている。NPBの各球団はキャンプインから約3週間が経過、MLBでもバッテリー組に続き野手組もキャンプ地に集合したというのに、いまだに有力FA選手の多くがマーケットに残っているのだ。こういった現象がなぜ起こっているのだろうか。そしてこれらはNPBにどういった影響を与えるだろうか。

球団がコストパフォーマンスを重視し「中間層」との契約を見送る


2月15日の時点で、米最大の移籍情報サイト・MLB Trade RumorsのFAトップ50ランキング中、2018年の所属先が決まっているのは29人、トップ10ではわずか4人(これにはオプトアウト権を行使せずに残留した田中将大も含まれる)。米データサイト・FanGraphsのランキングでもトップ50人のうち所属先が決まっているのは30 人、トップ10では5人と、多くの有力選手の所属先が決まっていない異常なスローペースだ。実際にFanGraphsによるリサーチでは、1月末までにサインしたFA選手の割合は過去最低、契約総額も18年ぶりの低水準という結果が出ている。

マーケットが停滞している要因としては


1)フロントがセイバーメトリクスに精通したアナリストを多く雇用しており、以前に比べて長期のFA契約に対してリスクを避ける傾向にある(これは多くの球団関係者が実際に語っている)

2)ドジャース、ヤンキースといった金満球団がラグジュアリー・タックス(ぜいたく税)の支払いを避けるために節約している

3)そもそも今オフはFA選手のレベルそのものが例年に比べて低い

などが挙げられる。

実はこの傾向は今オフに限ったことではない。昨オフは1月23日時点でFanGraphsのFAランキング21位から50位のうち14人の所属先が決まっていなかった。2年前の冬は、MLB Trade Rumorsのトップ10にランクされていたヨエニス・セスペデスジャスティン・アップトンクリス・デービスがサインしたのは1月後半になってから。イアン・デズモンドに至っては2月29日にようやくレンジャーズと1年契約で落ち着くというありさまだった。このようにFA選手の所属先がキャンプイン後、下手をすると3月になっても決まらないという現象はここ数年、徐々に増加傾向にある。

『ビッグデータ・ベースボール』の著者で、現在はFanGraphsのスタッフライターとして活動しているトラヴィス・ソーチックが昨年1月に投稿した記事によれば、メジャーリーガーのうちいわゆる中間層の占める割合がここ20年間で大きく減少しているようだ。ここでいう中間層とは、リーグの最低年俸の1.1倍以上かつ3倍以下のサラリーを受け取っている選手のことを指す。彼らは1995年にはリーグ全体の68%を占めていたが、2016年には52%にまで減少している。これは各球団が平均レベルのベテランレギュラー選手と契約するより、多少力は劣っても年俸を抑えることのできるFA権取得前の選手をマイナーから昇格させ起用するほうが、コストパフォーマンスにおいてはるかに優れていることに気が付いたことに起因している。特にMLB在籍3年以内の選手は調停権がなく、基本的にはMLB最低保障年俸で契約することができるため、年俸総額を抑えたい球団はこういった選手を選ぶのだ。


今後数年間、MLBレギュラークラス選手の来日も


2011年ワールドシリーズMVPのデイビッド・フリーズは2016年の春先、オープン戦が始まってもなかなか所属先を見つけることができず、3月11日になってようやくパイレーツとの契約に至った。中間層リストラの影響を受けた1人だ。ここで注目したいのは、この前年(2015)のフリーズの数字である。この年フリーズは470打席に立ち、打率/出塁率/長打率が.257/.323/.420でwRC+(weighted Runs Created plus)は108、三塁守備でもUZR(Ulatimate Zone Rating) 0.3と攻守ともに平均以上の成績を残し、FanGraphsのWAR(Wins Above Replacement)では2.1という貢献度をたたき出している。そんな当時32歳のバリバリのレギュラーが、3月になっても売れ残っていたのだ。フリーズはYahooのティム・ブラウンによる記事の中で、FAとして契約を待ち続ける不安感を吐露している。

この不安感は何もフリーズに限ったことではないだろう。今後このような空前絶後のFA不況が続けば、オフシーズン早々に日本行きを決める一線級のレギュラー選手が出てきても不思議ではない。現に今オフ日本ハムが獲得したニック・マルティネスは、複数のMLB契約のオファーを蹴ってまで日本でプレーすることを選んだという報道もあった。

キャンプイン直前に青木宣親がヤクルトに復帰したのも好例だろう。もちろん青木の場合は純粋な外国人選手とはさまざまな意味で状況が違う。しかしトータルで見ればまだまだMLBでロールプレイヤーとして活躍できるだけの力を持った選手がNPB球団との契約を選択したことからも、ここ数年のFA市場の傾向を垣間見ることができる。

来オフはブライス・ハーパーマニー・マチャードのほか、クレイトン・カーショウも現在の契約をオプトアウトすることが確実視されるなど、MLBを代表するスーパースターが多数FA市場にでる豊作年になりそうだ。しかしそんな市場でもトップの15人以降はインパクトに欠ける中間層がメインだ。そして、中間層に対する冷遇は少なくともMLBの労使協定が次に改定される2020年シーズン終了後まで続くことが予想される。

今季、NPBの球団はすでに外国人の陣容をほぼ固めているため、今後大物外国人が来日するとすればシーズン開幕後に故障者が出て外国人枠が空いた場合に限られそうだ。だが来オフ、フロントはこのMLBのFA市場の状況を頭に置いたうえで補強を行ったほうがいいだろう。 1980年代、オーナー側の密約によりMLBでは多数のFA選手が冷遇されるという、表面上は今オフと同じような状況が起きた。その影響で、ウォーレン・クロマティやボブ・ホーナーといった押しも押されぬレギュラー選手が来日している。今後数年間、我々はまた同様の現象を目の当たりにすることになるかもしれない。


山崎 和音@Kazuto_Yamazaki

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