NPBの若手有望株“プロスペクト”をランキングする本企画、
今季3月以来3回目の更新となる。今季の一・二軍での成績、成長を踏まえ、前回までの選考委員を務めた高多氏、DELTAビデオ班に加え、新たにアナリストの山崎和音氏が参加し、選考を行った。NPBの将来を背負って立つトップ・プロスペクトと評価されたのは誰だろうか。
対象となる選手と評価について
【対象となる選手】
- ・2017年中で24歳以下
- ・投手は一軍通算100イニング未満もしくは50試合登板未満
- ・野手は一軍通算300打席未満
- ・外国人枠の対象となる選手は除く
このランキングでは25歳以下という基準を設けていますが、秋の更新は来春にも対象として残る、今年24歳以下、2018年末時点で25歳以下の選手が対象です。イニング数や登板数、打席数の基準設定については、すでに新人王を獲得したような実績ある選手が入ってこない基準でありながら、若手の能力を見極めるに足るものをという趣旨で設定しています。
【評価について】
打者評価:長打力、コンタクト、選球眼、スピードなど
投手評価:速球、変化球、コマンド、打球管理など
守備評価:守備範囲、アーム、併殺など
新人王の予想とは違い、「各選手のキャリアのピーク時をイメージした評価」が前提となります。また選手の持っているツールに注目し、セールスポイントを「優(オレンジ)」「良(ブルー)」と二段階で表記しています。
12球団最高の有望株は西武期待の若手スラッガー 1~10位まで
今回のランキングでトップ評価を得たのは愛斗(西武)。高卒2年目の今季はイースタン・リーグでの打撃成績が急上昇。規定打席未満ながら打率.358、出塁率.395、長打率.615という好成績を残しています。シーズンを通じて調子の波も少なく、8月にはファームの月間MVPを獲得。6月には初の一軍昇格も経験しました。フルスイングから放つ打球は非常に力強く、身体能力にも長けていることもあり、さらなる伸びしろを感じさせる素材といえます。難点があるとすれば故障の多さで、今季は8月24日を最後に公式戦での出場がなくシーズンが終了。これまでにも、故障により成長が阻まれた若手は少なくありませんが、そのマイナス分を差し引いてもランク1位に相当するツールを持っている選手でしょう。
2位の坂倉将吾(広島)は、プロ1年目の今季ウエスタン・リーグ2位となる打率.298をマーク。才能は早くから首脳陣に認められていましたが、今月行われたファーム日本選手権で決勝3ラン、9月後半から一軍入りを果たしプロ初安打、初打点も記録しています。ランキングの際の協議では「打撃センスが高く、捕手の守備面での破綻も現状見られない(ビデオ班)」という評価もありました。3位のオコエ瑠偉(楽天)は、今季キャンプから出遅れ一時的に評価を下げましたが、シーズンではファーム、一軍ともに打撃成績が向上。さらに、一軍で記録した39安打のうち半数の20本が長打で、二塁打の多さは持ち前のスピードが存分に生かされた形です。山崎氏は「伸びしろはこのリスト内で最高。オールスターの常連候補になるであろう」との評価を与えています。
4位の山本由伸(オリックス)は、ファームで防御率0.27、120人の打者に対しわずか2四球という驚異的な数字を残し、すでに一軍でも戦力となりました。「制球だけなくMAX152km/hと速球も強み(ビデオ班)」と力強さも備えており、高卒新人としては非常に完成度の高い投手です。5位は7月から一軍のローテーション入りを果たした畠世周(読売)。「一軍で見せた奪三振能力、奪空振り能力は特筆すべきものがあった(山崎氏)」という評価もありました。速球の威力だけではなく、変化球で打ちとる技もすでに身につけており、投球テンポの早さも打者に余裕を与えない効果を生んでいるようです。6位の西川龍馬(広島)には、前回も高評価を与えましたが、プロ2年目の今季は一軍で貴重な戦力となり、数々の場面でチームに貢献しました。7位は藤平尚真(楽天)。高卒プロ1年目にしてファーム先発陣の柱となり、一軍でも防御率2.28と申し分ない結果を残しています。一方で「ポテンシャルは絶大だが、小さくまとまったピッチングに走ろうとする点が気がかり(山崎氏)」という声もあります。
8位の田中正義(ソフトバンク)は、昨年のドラフトで5球団が1位競合した逸材。プロ1年目の今季は、残念ながら投球フォーム修正や故障が長引き実戦での雄姿を見る機会はほとんどありませんでした。今後についても判断が難しくなってしまいましたが、入団前の評価を考えると簡単にランクを落とせる素材ではありません。2年目の奮起に期待したいところです。9位の岡本和真(読売)も前回からランクを落としましたが、ファームでは9月に打率.379、18打点と挽回。チームでは村田修一の退団が決まり、一軍定着の道も開けて来ました。選考委員の中では打撃に関しての評価は高かったものの、センターラインを守ることができない守備の面で評価を下げています。10位に入った廣岡大志(ヤクルト)は、このランキングでは3期連続で順位がアップ。今季はイースタン・リーグ3位となる18本塁打を放ち、盗塁も17と昨季から一気に増加。プロの技術をどんどん身につけています。
平沢、寺島、今井など今季振るわなかった選手の評価がダウン。11~20位まで
11位の柳裕也(中日)はプロ1年目の今季、故障により期待通りの働きとはいきませんでしたが、11試合に登板した一軍の舞台では50 1/3イニングを投げ45奪三振を記録。「落差の大きいカーブ以上にスライダーに強み(ビデオ班)」と変化球の評価が高くなりました。コンディションが万全となればかなり安定した活躍が期待できそうです。12位の平沢大河(ロッテ)は「一軍で結果は出ていないが、年齢を考えるとまだ伸びしろは十分(山崎)」という評価。今季は一軍定着のチャンスを逃がしたものの、遊撃手として打撃開花したときのリターンが非常に大きい選手です。13位と14位はチームメイトの堀瑞輝と淺間大基(日本ハム)。堀は稼働実績こそ少ないですが、実戦向きとの評価が高く、早ければ来季から一軍の戦力となる可能性もあります。淺間は怪我に泣くことが多い選手ですが、今季ファームではOPS.900を残しました。選考委員の中でも「故障さえなければトップクラスのプロスペクト(ビデオ班)」という声があがるなど、一にも二に健康状態が鍵となりそうです。
15位に入った大山悠輔(阪神)は、早くも一軍で中軸を打つ存在となり、クライマックスシリーズ(CS)でも成長した姿を見せました。傑出した成績ではありませんが、後半戦常時一軍に帯同したことでかなりのスピードで成長を見せており、球団も大山を大きく育てようとしています。17位は新人の鈴木将平(西武)。高卒1年目の野手としては、ファームで坂倉に次ぐ成績を残しています。特に三振の少なさ、四球の多さは他のルーキーたちと一線を画すものでした。16位の寺島成輝(ヤクルト)と18位の今井達也(西武)は、他のドラフト1位組と同じく故障でプロ1年目のシーズンは我慢の年となり、ポテンシャルを発揮するのは安定してマウンドに立てるようになってからでしょう。
19位の横尾俊建(日本ハム)は、8月下旬から一軍に昇格すると31試合で7本塁打をマーク。長打力が開花しました。守備でも、遊撃以外の内野全ポジションをこなし、「二塁手として守備が破綻していない点もプラス評価(ビデオ班)」とユーティリティ性を評価する声もありました。20位の佐々木千隼(ロッテ)は、不振のため7月上旬にファーム落ちしましたが、再昇格した9月以降は別人のような成績を残し、ドラフト1位入団の面目を保ちました。来季以降は、大学時代に記録した150km/h台の球速を再び取り戻せるかが活躍できるかのポイントとなりそうです。
鮮烈デビューのDeNA・細川は21位にランクイン。21~30位まで
21位の細川成也(DeNA)は、10月3日の中日戦でプロ初打席初本塁打を記録。CSロースターにも入り、現在最も注目を浴びているルーキーの1人です。今季ファームでは182三振、率にして41.8%を記録したのはマイナス材料でしたが、球団の大きく育てる方針もあってか成長のスピードも速いように感じられます。22位には成田翔(ロッテ)がランクイン。伸びのある速球が特徴で、短いイニングなら一軍ですぐに通用するとも言われていますが、ファームでもう少し時間をかけ先発としての適性も見てみたいところです。23位の石川直也(日本ハム)は、今季開幕一軍メンバーに選ばれリリーフとして34試合、先発では3試合に登板。落差のあるフォークボールを活かし、将来的にはクローザー候補にもなりそうですが、球団は先発、救援両方の可能性を模索しているようです。「21歳という年齢を考えると将来性は十分で、トップクラスの先発投手に成長する可能性も(山崎氏)」という評価もありました。
24位に入った九鬼隆平(ソフトバンク)は、今季三軍での出場が多数を占めましたが、ウエスタン・リーグで21試合の出場ながら3本塁打を記録するなど、長打力のポテンシャルに大きな魅力を感じさせる選手です。捕手として強肩も売り物で、1つ上のステージで十分な結果を残せば、今後10位以内に喰い込む可能性も大きいでしょう。25位の田中和基(楽天)も魅力的な素材ですが、粗削りな部分が多く、今季後半戦で一軍定着を果たしたものの代走、守備固めでの出番がほとんどでした。26位の高橋昂也(広島)は、チームの育成方針から実戦では夏場以降に登場。高校時代から定評のあった速球に陰りは見られず、2年目の成長も大いに期待できそうです。27位の熊原健人(DeNA)は、イースタン・リーグで2ケタ奪三振を2度記録。同期入団の今永昇太に負けられない意地もあるでしょう。
28位の才木浩人(阪神)は、高校時代は無名ながら150km/h台の速球に対する評価が高く、プロ1年目の今季は6月下旬からファームのローテーションに定着。シーズン終了間際には一軍も経験し、MAX151km/hの球威抜群のストレートを披露しました。29位に入った宇佐見真吾(読売)は、打撃面の成長により一軍定着を果たし、来季は小林誠司との正捕手争いが期待されています。ただ、打席数の少なさから成績そのものを信用するにはもう少し時間を掛ける必要があるかもしれません。山崎氏も「一軍でのOPS 1.072よりも二軍でのOPS .677のほうが実力に近い」という評価を下しています。30位の高橋純平(ソフトバンク)は、一軍でも二軍でもアピールすることができず、3年目以降の奮起を期待したいところです。
阪神の将来を担うバッテリーが立て続けにランクイン。31~40位まで
31位から33位までは小野泰己、坂本誠志郎、望月惇志の阪神勢。小野はプロ1年目の今季、2勝7敗という結果に終わりましたが、マウンドに立つごとに投球が安定し、ローテーションの一員として機能しました。坂本はビデオ班で評価の高かった捕球技術に加え、打撃面でも成長。故障が重なり一軍での出場数はそれほど増えませんでしたが、正捕手候補に挙げる声も少なくありません。前回11位にランクインした望月は、故障の影響により登板機会が減少。球速が故障前のレベルに戻っていることが実証されれば、ランキング回復も十分ありえるでしょう。
34位は真砂勇介(ソフトバンク)。前回の10位から大きくダウンしたのはファーム成績の低下が原因でしたが、今季は一軍でのプレーも経験し、プロ初本塁打もマーク。依然として有望株であることに変わりはありません。35位の清水優心(日本ハム)は、一軍でマスクを被る機会が一気に増加。公式戦が終了した後のフェニックスリーグでは打撃も好調なようで、チーム内の若手捕手ではレギュラー候補の1番手でしょう。36位には宗佑磨(オリックス)が入りました。今季ファームでは3安打以上を記録した試合が11度もあり、打ち出したら止まらないタイプのようです。一軍でもプロ初安打をマーク、全体的なスケールアップは必要ですが、順調に伸びてきた選手ともいえるでしょう。
37位に入ったのは梅野雄吾(ヤクルト)。プロ1年目の今季は、成績面で傑出していたわけではありませんが、「カットボールの質が非常に高い(ビデオ班)」と素材に対する評価がありました。38位の柴田竜拓(DeNA)は、守備に定評のある選手で、二塁手としては476 1/3回の守備イニングでUZRは3.3と優秀な数字。レンジの広い守りで、チームを何度も救いました。39位の吉田凌(オリックス)は、今季ウエスタン・リーグで防御率2.37と優秀な成績を残し、一軍でもプロ初先発を経験。速球のスピードを増せばさらに大きく成長するでしょう。40位は森山恵佑(日本ハム)がランクイン。プロ1年目ながら、今季はイースタン・リーグで本塁打王を獲得。長打力を活かし、来季は一軍定着を目指します。
まとめ
前回ランキングから顔ぶれが大幅に変わったのは、年齢や打席数で基準を超える選手が多数いたためです。吉田正尚(オリックス)や上林誠知(ソフトバンク)、外崎修汰(西武)、京田陽太(中日)といった選手たちはプロスペクトを立派に卒業。特に上林は、ファームの情報に精通していない人にとっては、彗星の如くデビューした若手に映ったことでしょう。
今回も、ランキング外となるのが残念な選手は何人もいました。一軍でローテーションの一角にもなった中村祐太(広島)、イースタン・リーグで首位打者を獲得した高濱祐仁(日本ハム)、今季支配下登録を果たした八百板卓丸(楽天)、高卒新人投手ではファーム最多イニングを記録した京山将弥(DeNA)、吉川尚輝(読売)も、夏場から秋に掛け、かなり成長したようです。こういった選手たちは、今後の成長次第ではランキング入りした選手たちを抜くことも十分可能です。
来春の更新では、ドラフト会議で指名された選手たちも加わることになり、さらに対象選手が増えます。プロ注目の清宮幸太郎選手(早稲田実)ら有望なアマチュア選手たちが、どこまでランク入りを果たすでしょうか。既存の選手たちも、現在行われているフェニックスリーグから秋季キャンプ、中にはウィンターリーグに参加することで成長する選手もいるでしょう。来春のキャンプで成長した姿が見られれば、評価を再び変える可能性があるかもしれません。
高多 薪吾 @hausmlb
個人サイトにて独自で考案したスタッツなどを紹介するほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。
投手の運用に関する考察を積極的に行っている。ファンタジーベースボールフリーク。
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