10月3日、巨人の高橋由伸監督が辞任を表明。次期監督は原辰徳氏に決まり、すでにチームは動きはじめている。会見で高橋監督は優勝争いができなかったことを辞任の理由として挙げた。しかし、優勝争いができなかったことの責任すべてが高橋監督にあったわけではないはずだ。今回は高橋監督が指揮をとった3年間を振り返り、どのような編成状況で監督を務めていたのかを確認していく。

2015年監督就任時点の状況


2015年、チームは前年の首位から2位に転落。この年の終了後に高橋は選手を引退し、以後の3年間監督としてチームの指揮を執ることになる。選手・高橋の引退がその後の戦力の低下につながったと見る向きもあるが、この年はすでにより重要な変化が起こっていた。それまで捕手として、長年に渡りチームに大きな貢献をもたらしてきた阿部慎之助が一塁にコンバートされたのだ。シーズン途中、一時的に捕手に戻ることはあったものの、この年のほとんどを一塁手として出場。そしてこの年を最後に阿部が捕手として出場することはなくなった。年齢を重ね、あちこちに故障を抱えた阿部がマスクをかぶり続けるのは難しかったのだろう。

ただこうした高齢化は阿部に限ったことではない。他の野手を見渡しても、2015年に300打席以上に立った選手の中で30歳未満の選手は坂本勇人と立岡宗一郎のみ。多くの選手がいつ衰えはじめてもおかしくない年齢を迎えており、世代交代が必要な状況であった。

投手では、先発に菅野智之、高木勇人、マイルズ・マイコラス、アーロン・ポレダ、杉内俊哉と質・量ともに十分なスタッフを抱えていた。勝ちパターンの固定に苦しんだ救援を考慮しても、投手陣は盤石に近い状態であった。ただし、こちらも野手ほど緊急性は高くないものの杉内、大竹寛、内海哲也といったかつての主力投手からの世代交代が求められる状況は同様である。こうした状況で高橋監督は原監督からチームを引き継いだ。



2016年の結果


高橋監督の1年目である2016年は首位・広島から17.5ゲーム差をつけられ2位に終わった。順位こそ1つしか違わないものの、得失点差でも200点以上の差をつけられており、順位のイメージ以上に戦力の差は大きかった。

大きな差をつけられた原因としては得点力不足が挙げられる。打撃・投球・守備成績を集計し、ポジションごとにどれだけリーグ平均に対して差をつくったかを得点の単位で表した、ポジション別得失点のグラフを見てみよう。



打撃面では、この年絶好調だった村田修一が守る三塁が28.3点、坂本勇の遊撃が40.6点と大きな貢献を見せている以外は、すべてでリーグのポジション平均を下回っている。また300打席以上に立った30歳未満の選手は坂本勇と小林誠司のみ。阿部が退くことが決まっており、世代交代が必然となっていた捕手以外のポジションで世代交代は進められなかった。

特に外野手はかつて主力であった長野久義、亀井善行の加齢に伴う成績の低下もあり、3ポジションとも弱点に。この弱点は高橋監督が辞任するまでの3年間で改善が見られなかった。ちなみに広島はこの年に右翼・鈴木誠也が台頭。中堅の丸佳浩とあわせて、他球団の中堅・右翼に取り返しのつかない攻撃力の差をつけはじめる。 また、二塁についても、この年に補強したルイス・クルーズを筆頭に複数の選手が起用されるが、いずれも満足のいく成果を残せず弱点となってしまった。


2015年は首位チームに野手の力で大きな差はつけられていなかったものの、世代交代は差し迫っているという状況だったが、この年は首位の広島に圧倒的な差をつけられているうえ、世代交代も進んでいないという状況になった。

投手陣では菅野が前年から成績を伸ばし、リーグの投手で最高の成績を残すようになる。ほかには田口麗斗が2番手に台頭。内海や大竹といった前年に振るわなかったベテランもそれなりの成績を残したことで、高木勇やマイコラスが登板を減らし、杉内の登板がない中でもリーグトップクラスの先発陣を維持することに成功した。一方で救援はマシソンこそ安定して活躍したものの、それ以外の投手は勝ちパターンを含め成績が安定せず、弱点となっていた。

なお、以上の2015年、2016年の状況については、「巨人の敗因と大補強を行った今季の展望」においてより詳細な分析を行っている。





2017年の結果


2017年は首位広島から16.5ゲーム差をつけられ、前年の2位から4位へさらに順位を落とした。得失点差では+32点と、前年の-24から改善が見られたものの、首位・広島の+187点からは大きく離されており、前年と状況はほとんど変わっていない。



このシーズン前にはFAで陽岱鋼、山口俊、森福允彦、新外国人としてケーシー・マギー、ドラフトで吉川尚輝らを獲得した。しかし、こうした積極的な補強にもかかわらず、広島との差を縮めることはできなかった。

総合指標WAR(Wins Above Replacement)で見てみると、広島は投手・野手ともにリーグトップのWARを記録。特に野手のWAR 37.0は、他球団の追随を許さない数字で、広島圧勝の最大の要因となっている。



巨人に目を移すと、投手はリーグでも上位の貢献で広島とさほど差はなかったが、野手は広島に大きく差をつけられているだけでなく、それ以外の4球団と比べても低い。積極的な補強にもかかわらず野手に大きな問題を抱えているという前年までの状況は改善されなかった。

ポジション別に見てみると、野手では打撃・守備の合計でプラスとなっているポジションが二塁、三塁、遊撃の3つ。このうち、主に坂本勇が守った遊撃は前年に引き続いて攻守で大きなプラスとなっている。前年に比べて攻撃面でのプラスが小さくなってはいるものの、依然として貢献は大きい。



前年の大幅なマイナスからプラスに転じた二塁は、前半戦は主に中井大介、後半戦はマギーが守った。二塁手としては高い打撃力のマギーが守備面で大きな弱点となることなく守り続けられたことがプラスにつながった。マギーが本来守るはずであった三塁は村田がカバー。村田自体はそれほどプラスをつくれなかったものの、マギーが三塁に入った場合に代わりに二塁に入る選手が攻撃力不足だったことを考えると、この起用は悪くない判断だった。 外野は前年から多少の改善が見られるものの全ポジションでマイナスと弱点のままであった。FAで獲得した陽がシーズン前半に出場できなかったこと、高齢化するかつての主力に代わる選手が出てこなかったことがその原因である。

投手は全体的に見れば強みとなっている。ただし、先発は非常に優秀であるものの、リリーフがリーグ平均に比べて20点以上失点を増やしており、前年と比較してさらに悪化している。


選手別に見ていくと、野手では坂本勇がWAR 6.0でトップ。これに続くマギー、陽は十分な貢献があった。2人の獲得に対しては年齢やポジションの関係から疑問を投げかける意見もあったが、少なくとも短期的には意味のある補強だったといえる。その他の野手はいずれもWARが1.0前後かそれに満たない程度にとどまっており(リーグ平均レベルの選手がフル出場した場合の目安が2.0程度)、この年も世代交代を進めることはできなかった。



投手では菅野、マイコラスがリーグでもトップクラスの成績を残し、質・量ともに十分すぎる活躍をした。また、これに続く田口も昨年に続く好成績を残したほか畠世周も台頭。こうした点から、先発投手については少しずつ世代交代を進めることができていたと言えるだろう。



一方の救援では澤村拓一が離脱。アルキメデス・カミネロの成績も勝ちパターンとしては今ひとつだったことで、質・量ともに不安が残った。前年と比べて投球イニングが分散していることからも、僅差のリード時に投げさせる救援に苦労していた様子がうかがえる。長年にわたって勝ちパターンで稼働しているマシソン以外に年をまたいで安定して活躍できる救援投手を見つけることができていない。

このように、2017年の巨人は依然として世代交代(とりわけ野手の)が進められていない。力の衰えてきたかつての主力に代わる選手を見つけることができず、補強によって弱点を補うことも一部を除いては効果が限定的だったことから、優勝した広島との差を埋めることができなかった。





2018年の結果


2018年は首位・広島から13.5ゲーム差離された3位に終わり、高橋監督の3年間は終了する。得失点差は+50点と前年の+32点からは改善が見られるものの、広島には及ばなかった。巨人の状況はあまり変わっていないものの、広島が前年までに比べれば力を落としたことにより、首位との得失点差は前年までと比べると大きくなかった。



総合指標WARにもそれは表れており、今季の広島の投手WARと野手WARの合計は46.9。リーグトップではあるものの、前年までのように2位に10勝分以上の差をつけるほどの大きな差ではない。巨人は野手WARを前年よりも伸ばし、投手WARとの合計で42.9と3年間で最も広島に肉薄したシーズンとなっている。



ポジションごとに見てみると、前年に引き続き遊撃が攻守両面で大きなプラスとなっている。レギュラーであった坂本勇が打撃面で好調であったことが大きいが、坂本勇の離脱時に吉川尚、山本泰寛がその穴を埋めることにも成功した。



前年にプラスに転じた二塁は再びマイナスになってしまっているが、これは山田哲人(ヤクルト)が前年の絶不調から一転して2016年の水準まで成績を戻したことが大きい。ほか、二塁のレギュラーである吉川尚らが坂本勇の離脱時に遊撃にまわったことにより貢献を落としたことも関係している。そのため二塁手だけの問題として語ることはできない。問題が大きいのはむしろ外野であろう。結局、高橋監督が指揮をとった3年間で弱点となっていた外野手がリーグ平均レベルまでになることは一度もなかった。

投手陣ではマイコラスが流出し、田口も不調となったことで、先発は菅野の貢献に大きく依存。他球団に対する優位性を失ってしまった。リリーフは度重なる離脱者が出たわりにはリーグ平均程度の成績にとどめることができた。もっとも、先発要員を何名かリリーフにまわすなどなりふり構わぬ手段を取っており、これが先発陣の弱体化につながった可能性は否定できない。


個々の野手を見てみると、離脱がありながらも坂本勇が前年同様に高い貢献を見せている。また、主に一塁を守った岡本和真が打力を大きく伸ばし主軸に成長。二塁を守った吉川尚、田中俊太は守備面での貢献が大きく、これまで進まなかった内野手の世代交代をようやく進めることができた。一方、昨季は貢献の大きかったマギー、陽は成績を落とし、外野手の穴を埋めるべく獲得したアレックス・ゲレーロは振るわなかった。



投手では、菅野のほか、質的には今ひとつながら、150イニング以上投げた山口俊の貢献が大きかった。前年まで活躍してきた田口は不調でこの年は振るわず。リリーフは故障による離脱が続いた上、不調による入れ替えも頻繁に行われたためか、40試合以上登板した投手が澤村1人のみ。30試合前後に登板した投手の数が多い結果になった。また、ほとんどのリリーフ投手でtRA(true Runs Average)が4点台となっており、安心して起用できるリリーフを終始手探りでいるような状態であったことがうかがえる。



2018年は阿部のコンバート以降、長年の懸念事項であった野手の貢献がわずかながら改善しているものの、投手陣が大きく崩れてしまい全体としては前年とほぼ変わらない結果になった。もっとも巨人の戦力にさほどの変化がないものの、首位・広島の戦力が低下したことで高橋巨人の3年間では唯一優勝の望みがあったシーズンだったともいえる。





逆転の目はあったのか


以上のような、分析からすれば、高橋監督が指揮をとった3年間はいずれも戦力で首位・広島に大きく劣っていた。特に2016年、2017年は得失点差で150点以上、WARでも15勝分以上の差をつけられており、これを監督の采配によってひっくり返すことはおよそ不可能であった。そうした状況からすると、非常に困難な時期に監督に就任したといえる。高橋監督は優勝争いができなかったことを辞任の理由としていたが、監督にその責任を全て負わせるのはあまりに酷であろう。

高橋監督が乏しい戦力で勝負に臨まなければならなかったのは、これまでに見てきたように長年にわたって弱点であったポジションの補強がうまくいかなかったという面が否定できない。クルーズ、マギー、陽、ゲレーロなど弱点となっているポジションへの補強は行ってきたが、必ずしもうまくいかなかった。唯一優勝の目があったとすれば、それは広島が力を落とした今季だっただろう。


戦力を整備するという面に関して、つまりペナントレースに臨むに際して、少しでも広島との戦力差を抑えるために高橋監督にどのようなことができただろう。2018年以前から力を落としていたかつての主力選手である長野や亀井の出場機会を減らし、新戦力へと切り替えを図るという手段は考えられた。これらの選手は2016年頃からリーグ平均レベルの選手と同等の貢献ができなくなっていた。年齢的にも成績を落としていく可能性が高かったため、出場機会を減らしていくという決断をする材料はあった。

ただ、その時点で代わりに出場することになったはずの若い選手の実力も十分ではなかった可能性が高い。事実そういった立ち位置で2017年に250打席以上に立った中井、石川慎吾らが十分な貢献を果たすことができたとは言えない。また外野のうち中堅と右翼に関してはリーグ平均より劣るレベルではあるものの、とてつもなく大きい弱点というわけではなかった。そのためその時点で出場していた長野や亀井の出場機会を減らすリスクも大きかった。

巨人が3年間優勝を逃したことについて、高橋監督に責任がなかったとは言えないが、その要因は広島に挑むのにはあまりにも戦力が整備されていなかったことにある。辞任は本人の意思であり、尊重されるべきであろうが、優勝争いができなかったことの責任は編成が負うべき部分が大きいのではないだろうか。



市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート2』にも寄稿。
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